腐った林檎たち  39







        白い肌に無数に広がる紅い痣。




        殴られて出来た物もあれば、所有印として付けられた物もある。




        その一つ一つを指でなぞっていく。




        「はっんん…」
        「ここですか…?大佐…」



        なぞる指に反応した場所を覚えていく。
        そこに舌をはわし、強く吸い付いていく。


        ぴくぴくと身体が反応し、ハボックの首に腕が回された。




        「大佐…そんなに欲しいんですか…そんなに足りないんですか…」




        誇り高いあなたが俺なんかに媚を売らないで下さいよ…
        あんたはいつもの様に高飛車な猫でいて欲しいっす…


        ロイの髪をかき上げ、額にそっとキスをする。



        たったそれだけなのに、ロイは何故だか満足げに眼を閉じた。



        鼻筋を通り、わななく唇へ到着すると、どちらともなく舌を絡め合い深いキスをかわす。
        まだし足りなさそうなロイの唇から何とか離れ、首筋、胸へと降りていく。
        その突起をぺろりと舐めると、ビクビクと身体が震えだす。



        「感じやすいんすね。それとも薬のせい…?ま、いいや。今度薬が切れた時に確認しますから。」


        これで終わりなんてのはごめんっすよ。
        正気のあんたをこの手で抱くのが俺の夢なんだから。


        胸を弄るのを早々に切り上げ、ハボックの舌は更に下腹部に降りていく。



        最終目的に到達した時にはそこはすでに濡れており、ハボックの愛撫を待ち構えるかの様にドクンと脈打っていた。

        ハボックはそれをぐっと掴み、親指で液が滲み出ているその先端をギュッと押さえ込んだ。



        「ひっんんん!!」
        「俺じゃ、到底満足できないかもしれませんが…ほんの一瞬でもあんたの疼きが解消されるなら…」


        何度でも…命枯れるまであんたの望みを叶えてあげます…



        先走りの液でべとべとになったその指をロイの秘部に擦り付ける。
        絶え間なく快楽を受け入れていたロイのそこは、ハボックが慣らさなくても十分な湿りと収縮感が備わっていた。




        ハボックは仰向けのロイの両足を抱え、一気に前進する。
        甲高い悲鳴を上げながらロイは身体を震わせハボックを受け入れた。


        背を反らせ、シーツを握り締め、与えられる快楽に没頭していく。
        その手をハボックはそっと取ると、自分の背中に回させた。


        「辛いなら、俺に頼って下さい。俺に委ねて下さい。俺は全身全霊であんたを守りますから…」
        俺を信じて一緒にセントラルへ連れてきてくれたあの時の様に…


        今度こそあんたを離しはしない。一人にはさせない。



        地獄の底までお供します…大佐…



        ロイはハボックをギュッと抱きしめ、「もっと…」とせがむ。
        ハボックは苦笑しながら更に奥まで突き上げた。


        「はっあああ!!ハボ…いいから!!」
        「まだまだっすよ。大総統閣下やヒューズ中佐と比べりゃ俺は体力だけが自慢ですからね。」




        枯れ果てるまで…抱き続けますよ…



        だがそれが尽きてしまった後、ロイは満足を得られるのだろうか…
        満足感が得られない時はロイは抱いた相手を殺そうと暴れだす…



        ブラッドレイもヒューズもすでにロイにとっては満足な快楽を与えられない者と認識されていた。
        だから顔を見るなり暴れ出す。

 
        ロイにとって目の前に来る人間は、快楽を与えられるか否かでしか見る事ができなくなっていた。




        「ハボックが…少しでもロイの正気を取り戻せればいいのですが…」
        「私やお前を快楽の対象でしか見ておらんからな。与えられない人間と判断すればハボックと言えど襲い掛かるぞ。」


        「悲鳴が聞こえたら…すぐに引き離さなければ…」


        ドアの向こうを見つめながらヒューズはコーヒーをごくりと飲み干した。



        ブラッドレイはソファに浮かぶかと座り、小さくため息をつく。


        「どうかしましたか…?閣下…」
        「いや、いささかショックでね。」


        「あれだけ可愛がってやったのに、マスタングは私を見て何の躊躇もなく銃を撃った。」
        「戸惑う事無く焔を放ち、そして今は性の対象でしか見ておらん。」


        マスタングの中で私はその程度しか占めておらんのか…


        「そう思うとショックが隠しきれんのだよ。」
        クスッと笑いながらブラッドレイは新たにコーヒーを入れ直した。


        私はこんなにもあやつを愛しているのにな…


        ヒューズはあっけに取られながら、心の中で呆れていた。
        何を言っている?ロイはあなたを愛しているわけないだろう??


        散々弄んでおいて…いまさら「何故愛していない」だと?



        ロイがもし正気でクーデターに参加していたとしても、きっと同じ行動をしたでしょうよ。



        所詮、あんたとロイは相容れない存在なのだから…



        お互い下らぬ話を続けながら、どれだけの時間が経っただろうか…



        ヒューズは今までの疲労も重なり、ソファの上で転寝をしていた。
        ブラッドレイは静かに瞑想をしている様に目を閉じていた。




        『うぅわああああ!!』




        「!!ロイ!?」
        「やはり駄目だったか!?」


        いきなりドアの向こうからロイの叫び声が聞こえ、ヒューズとブラッドレイは飛び起きた。
        慌ててドアを押し開け、部屋に踏み込むと、ロイがハボックの上に馬乗りになっていた。



        「止めろ!ロイ!!」
        「はっあああ!!ハァハァ…」

        ロイのその手はハボックの首にかかり、きつく締め上げ、ハボックが必死でその腕を掴み抵抗していた。


        ブラッドレイがロイの両手を掴み離そうと試みる。
        だがその力は常人の域を超えていた。薬の禁断症状が潜在意識の力を最大限に引き出してしまっていたのだ。
 


        「くっ、ヒュ−ズ!手伝え!」
        「ロイ!止めろ!離すんだ!!」


        だがロイは恐ろしい形相でハボックの首を締め上げていく。
        ハボックの抵抗もだんだん弱まっていく。




        「…構わないっすよ…大佐…あんたがそう望むなら俺を殺して下さい…」
        「ハボック!!!何を言ってる!早く逃げろ!」

       
        だがハボックは掴んでいた手をロイから離し、ロイのなすがままにさせてしまった。


        「ハボック!!」
        「やっぱり…俺じゃ満足…できなかったっすか…なら俺は用済みです…」

        「あんたの足手…まといには…なりたくないから…だから…」


        殺して下さい…それであんたが満足するなら…俺はそれでも構いません…



        薄れ行く意識の中、ハボックは両手をロイの頬に添え、にっこり笑った…



        ブラッドレイとヒューズが必死でロイを引き離しにかかるがびくともしない。
        ロイの力は増すばかりで、ハボックの顔の血の気が見る見る引いていった…



        「止めろ!!ロイ!!ハボックを殺す気か!!」




        ポツッ…



        冷て……何だ…雨か…?
        馬鹿だな…ここは部屋の中じゃないか…雨が降るわけない…

        死の間際に感覚までおかしくなったかな…?


        ポッ、ポツッ…




        ???何だ…?本当に雨でも降ってるのか…?



        「…ハ…ボッ…ク…」




        名前を呼ばれて、ハボックはうっすらと目を開けた。



        「大佐…?」


        ロイの顔を見上げた時、ハボックの目に驚きの色が浮かんでいた。


        泣いてんっすか?大佐…でもなんで…?




        ハボックの首を絞めながら、ロイの眼からは大粒の涙が零れていた。
        と同時にロイの腕が震えだし、絞めていた手が弱まっていく。


        「うっあっ…ああああ…」


        うめき声を上げながら絞めようとする腕とそれを阻止しようとする意思とがぶつかり合い、
        ロイの顔に苦悩の表情が浮かんでいた。



        「ロイ!お前!」
        「戦っているのか。お前の中で…薬に支配されている自分と本来の自分との意思が…」

 

        薬漬けのロイならハボックは無駄な人間。目の前から消し去る為に首を絞める。
        本来のロイならハボックは大切な部下。殺すなんて到底出来ない。


        相反する思いがぶつかり合い、ロイの中で戦っていた。       

        力を強めようとするその腕を震えながら離そうとする。




        「に…げろ…ハボ…ック…」


        涙を流しながら自分と戦うロイはハボックに向かって声を絞り出すように囁いた。





        うぅ…と呻きながらまた絞める力が強まっていく。
        目を細めその力に内側から対抗する。


        ヒューズとブラッドレイが両脇からそっと手を取り、ハボックの首の手を離していった。




        「ハボック、今のうちにそこから逃げろ…マスタングの前に出るな。」
        ブラッドレイにせかされ、ハボックはゆっくり刺激させないようにそこから移動した。



        ヒューズはロイの両手を掴み自分の胸に抱き寄せた。



        「ロイ、ロイ…よく我慢した…よくハボックを助けてくれた…もう一息だ…」
        「もう一息で元に戻る。頑張ってくれ…ロイ…」



        優しく髪をなでながらそっと口付けをかわす。
        ぼんやりとヒューズを見つめていたロイは、その顔を認識すると、突然また暴れだした。



        「わあぁああ!!触るな!!私に触るな!!!」
        「ロイ!!落ち着け!ロイ!!」


        ハボックも慌てて駆けつけ取り押さえようとしたが、一度暴走のスイッチが入ってしまうとそう簡単には収まらない。
        差し出される手をすべて払いのけ、目の前にある触れるものすべてを引き裂く。


        ヒューズの服もブラッドレイのシャツもまたロイによって引き裂かれボロボロになっていく。



        悲鳴を上げながら離せと叫び続ける。
        3人がかりで押さえつけようとしてもロイは構わず暴れ続けた。







        「大佐…」




        ポツリと聞こえたその声に、一番反応したのはロイだった…




        ぴたっと動きを止めその声の方に目を向ける…
        漆黒の瞳に映ったその姿に、ロイは封印していた記憶が一気にあふれ出してきた。



        私は…手紙を受け取って…セントラルに来て…地下室に監禁され…陵辱され…


        私は何をした…?友に部下に焔を向け、大総統に銃口を向け、多くの兵士を焔で沈め…




        薬欲しさに…靴を舐め…床に這い蹲り…そして…そして…





        愛しい人の名前を呼んだ…






        「エド…ワード…」



        「大佐…よかった…まだ俺の事覚えててくれた…」




        優しく微笑む金色の瞳にロイの瞳が吸い込まれていく。






        エドワード…



        もう一度エドの名前を呼びながらロイはふらふらと歩き出した。






        To be continues.



  
   




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