理想家族  5



学園を後にし、乾は海堂を連れて街へと繰り出した。


「まず、学校生活に必要な物を買わなきゃね。」
デパートの地下に車を置き、エレベーターで上階へ向う。


「あ、文房具は5階ですけど…」
「ン?あぁ、大丈夫。このまま9階に行く。」

9階??そんな階には何もないぞ?
あるのはレストラン街とそれから…


サロン会特別室…?


エレベーターが9階に着くと、乾はそのまま真直ぐその特別室に向って歩き出した。

「い、乾さん、この先は何か特別室って…」
「うん。そうだよ?」
「乾様!!ようこそおいで下さいました!!!」

特別室から年配の男と中年の男が大慌てで飛び出してきた。
乾の前でぺこぺこと頭を下げ、そして誘い込むように特別室へと連れて行く。


重厚なソファーに誘導され、冷たいアイスコーヒーが出された。
海堂が一口飲んでみると、ほんのり苦くて…でも今までに飲んだ事ないくらい口当たりが良くて…

「美味しい…」
と、思わず声に出して感心してしまった。


「ブラジルコーヒーの最高級の豆を使っておりますからな。お褒めに預かり恐縮です。」
先程の二人とは品格が違うのだろうか…紳士的な雰囲気をかもし出す男がソファの向かい側に腰を下ろした。
乾と海堂に軽く会釈をすると、傍らからカタログを広げだした。

それは万年筆やら筆箱やら、定期入れやらお財布やら…

乾と海堂が買おうとしていた物ばかりのカタログだった。


「乾さん…これは…」
「さ、この中から好きなの選んで。」
海堂がカタログを見ると、どれも自分が想像していた物より一桁多い。

さすが柳財閥の会長の恋人だけある…日用品まで高級ブランドかよ…

海堂は半ば呆れながらも、気に入った物に印をつけていった。


「じゃ、これ、今日の夕方までに頼むよ。」
「はっ、かしこまりました。」

男は立ち上がって一礼すると、すぐに奥へと下がって行った。


「じゃ、行こうか。」
「え?まだどこかに行くんですか…?」
「そ。もうする事ないからぶらぶらしよう。どこか行きたい所あるかい?」

にっこり笑いながら海堂の顔を覗き込む。
海堂はちょっと照れくさそうに俯いて、「別にないっす」と答えた。

乾はそんな海堂を愛おしく思いながらも、自制心でそれを押さえ、肩を叩くだけに押し留めた。


本当だったら今この場で押し倒している…


「じゃ、俺に付き合って。」
「あ、はい…何処でも…」

すくっと乾が立ち上がると、海堂もそれに続く。
奥から先程の格の低そうな男二人がまた慌てて出てきて、二人を見送った。


「さっきカタログを持ってきた人はどういう人なんですか?」
「あぁ、このデパートのオーナーだよ。蓮二の会社はこのデパートの得意先なんだ。」
だからあんなに優遇されてるって訳か…にしてもオーナー自ら注文を取るなんて…


一体柳さんと乾さんの会社はどれだけ大きいんだろう…


ぼんやりとそう思いながら、海堂は乾の運転する車に乗り込む。
それから乾は色んな所に海堂を連れて行った。

映画を見たり、ちょっと高級な店に行って服をオーダーしたり、
そうかと思えば誰でも行くファーストフードでお昼を食べたり…

海堂にとってはとても心が和む時間を過ごしていった。




夕方…いやもう既に日は沈み夜に近かった頃、二人はやっと家路に着いた。



「いや〜楽しかった。薫君は?」
車を車庫に入れ、助手席の海堂に声をかける。
「はい、とっても楽しかったです。」
偽りではない。本心で海堂は楽しかったと答えた。

こんな風に街で買い物に出かけたのは両親が生きていた頃以来だ。
孤児院では学校か仕事先以外外出禁止だった。

「本当に…楽しかったです、乾さん。」
乾の方を向いてにっこり笑う海堂に、乾の自制心がぷつっと切れ掛かった。

すっと手を出し、海堂の頬に触れる。
そのまま唇の方に指をずらすと、ぷっくりとした厚めの唇の感触が、指から伝わってきた。


「薫…」
そっと囁きながら顎を上げ、触れるようなキスを落とす。
海堂は驚きと戸惑いで身体が動かず、ただ乾のキスを受け入れていた。

抵抗しない海堂をちょっと不審に思い、乾は唇を話海堂に問いかける。

「…どうかしたか…?薫…顔が驚いているよ…?」
「…だ、だっていきなりキス…」
それ以上言えずに真赤になりながら俯いた。
乾はクスッと笑いながら海堂の顎に手を添え、再び持ち上げる。


「家族なんだから…お父さんが子供にキスをするのは当然だろう?」
「で、でも俺のお父さんはそんな事しなかった…」
「それにキスは恋人同士がするもんじゃ…」

乾は眼鏡の奥で黒い笑みを浮かべ、海堂の顎をぐっと掴み自分に引き寄せた。


「さっきのはお父さんのキス。恋人同士のキスはこういうもんだよ…」


そのまま海堂の後頭部を押さえ、乾は驚く海堂の唇を塞いだ。
先程とは違う濃厚なキス…
抵抗して歯を噛み締める海堂の歯列を乾の舌がなぞる。
感触の悪さに思わず口を開けてしまい、そこからするりと舌が割り込んできた。

必死でその舌から逃げようとするが、乾が執拗に追いかける。
その行為が更に海堂の頭を痺れさせた。

長い長いキスが終わる頃、海堂の腰はすっかり砕け状態になってしまっていた。


「はぁ、はぁ…い、乾さん…」
「あはは、ゴメン。薫にはまだ早かったかな。」
海堂の頭をポンと叩きながら屈託のない笑顔を浮かべていた。

「今のが恋人同士のキス。薫はどっちのキスがいいかな?」
「………お父さんのキス………」

真赤になりながらそう答える海堂に、乾は心からの笑みを浮かべていた。



コンコン…

車のボンネットを叩く音。
慌てて眼を向けると、そこに柳が立っていた。

「や、柳さん!?」
「やぁ、お帰り。早かったね。」
乾は別に気にも留めないような素振りで車を降り、目の前の恋人にキスをする。


それは先程海堂にして見せた恋人同士のキスと同じそれ。
海堂は濃厚なキスをかわす二人から眼を離す事が出来なかった。


長いキスが終わると、柳が不思議そうに囁いた。
『どういう風の吹き回しだ?』
『しっ、我慢できなくてキスしちゃった…』
『あぁ、成る程…』

それであんなに反応している訳だ…

これは思ったより早く仕込めるかもな…


「薫君、そんな所にいないで早く降りてきなさい。」
優しい言葉に海堂は慌てて車から降り、軽く挨拶をするとそそくさと家に入っていった。
少し前屈みだったのを柳も乾も見逃さなかった。


「トイレで処理するが80%」
「自分の部屋が60%」

お互い顔を見合わせ、クスッと笑いあう。
さぁ、今夜も理想家族へのレッスン開始だ。


乾の背後から抱きかかえる様に腕を回し、乾もそれに応えて顔を柳の方に向けた。
クチュクチュと音を立てながらキスを交わし、互いの気持ちを盛り上げていく。


「今夜も…いいだろう…?」
「勿論だ、貞治。思いっきり聞かせてあげよう。」


自分もその中に入りたいと思う様になるまで…




きっとその日はすぐ訪れるだろう。


To be continues.








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