理想家族 6
「何だ?海堂。元気ねーな。」 コートの隅でうずくまる様に座っていた海堂に、同級生の桃城が話しかけてきた。 このテニス部に入ってから出来た最初の友達だ。 既に制服に着替えていた。部活動が終わって随分経っていたのを海堂は気がついていなかった。 高校に通うようになってからもう2週間が過ぎ、海堂も大分学校生活に慣れてきた。 薦められ仕方なく入ったテニス部にも親しい友人もでき、何よりテニスが楽しくて仕方がない。 休日に一度柳と乾にテニスをしに連れて行って貰ったが、二人の腕前に舌を巻いたほどだった。 あの二人と同レベルで打ち合ってみたい… 足を引っ張るようなテニスはしたくない… そういう意識が海堂をテニスへと引き込んでいっていた。 「別に…何でもない…」 ポツリと言い放つ海堂に、少し苛立ちながらその隣に座る。 「なぁ、何かあったのか?俺に話してみろよ。少しは楽になるぜ?」 「何もねーよ。もう帰るんだ。邪魔だ、あっちいってろ!」 腕を振り回して桃城を避けるように立ち上がり、そのまま部室へと向った。 随分とあの場所で考え込んでいたらしく、もう残っているのは海堂ぐらいだった。 早く帰らなければ乾さんと柳さんが心配する… でも帰りたくない… でも帰りたい… ガタンと音を立てて崩れる様に部室のベンチに座り込む。 深い溜め息を立てて頭を抱え込むようにうずくまった。 「どうかした…?」 ふと放たれた声に思わず頭を上げ入り口を見る。 「不二…コーチ…」 「先輩。そう呼んでって言っただろ?」 クスクス笑いながら海堂の隣に腰を下ろし、その肩をポンと叩く。 「いえ、何でも…」 「乾から頼まれてるんだ。よく見てやってくれって。何かあったのなら僕に話してくれないか?」 「…本当に何でもないですから…」 不二の手をも振り払い、立ち上がってユニホームを脱ぐ。 ロッカーから自分の制服を取り出し着替えようとした時… 「なっ、何するんすか!」 いきなり腕をつかまれ、背中にグッと回される。 不二の顔が海堂のすぐ傍まで近づいてきた。 その吐息が耳元に感じてくる。 「乾か柳に何かされたの…?」 その言葉尻は楽しそうだった。 「な、にも!柳さんも乾さんも毎晩仲いいだけです!」 「ふ〜ん…まだ何もしてないのか。随分と時間をかけているんだな、今度の子は。」 訳の分からない事を言いながら、不二は海堂の腕を放し拘束を解く。 腕をさすりながら海堂は不二と距離を置き、きっと睨みつけた。 「いきなり何すんすか!先輩だって怒りますよ!」 「あはは、ゴメンゴメン。てっきり君が二人と夜を過ごしたと思ったから。」 「…?何…言ってんすか…そんな訳…」 夜を過ごす…?柳さんと乾さんと一緒に…? そんな事…できる訳……ない… 「…して欲しいの?二人に。」 ふっと笑う不二の顔は、海堂から見ればまるで妖魔の微笑みの様でもあった。 ゆっくり近づき、海堂を部屋の隅に追い詰めていく。 隅に追いやられた海堂は何も出来ずにただ怯えるだけ。 不二に逆らう事なんで絶対に出来ないだろう… 怯える海堂の両脇に不二は逃げられない様に両手を突く。 「二人にして欲しいなら、それなりの勉強をしておいた方がいいよ。」 「な、に言ってんすか!勉強って…」 「全くの経験無しじゃ、あの二人の相手は務まらないって事。それではすぐに捨てられてしまうよ。」 この人は何を言っているんだ…? 俺はそんな理由で引き取られた訳じゃない… その筈だ…でなければこんなにも… こんなにも苦しんだりしない… 「不二…先輩…俺…」 「…やっぱり疎外感を感じていたんだね…」 つっと涙が頬を伝い、海堂はガクッとその場にしゃがみ込んでしまった。 不二も一緒に跪き、海堂の肩を抱え、髪をなでた。 「柳さんも…乾さんも…とっても優しくて。俺の事大事にしてくれて…」 「二人ともすっごく仲良くて…時々困るくらいに。それが凄く羨ましくて…」 その二人の間にはとても入れない。 そして乾さんからのキス… あれから何度もお父さんのキスをして貰った。 挨拶代わりの軽いキス。 そして恋人の柳には恋人にする熱いキス。 まるで見せ付けるかの様に海堂の目の前で繰り拡げられる二人の仲睦まじい仕草。 俺は何の為にこの人達に引き取られたのだろう… 所詮俺は他人なんだ… そういった疎外感が沸々と海堂の心を支配するようになっていった。 「海堂にも恋人のキスをして欲しいのかい?」 「…分かりません…でも、俺も柳さんと乾さんの家族の中に入りたい…」 「俺も二人の家族の一員として認めて貰いたい…」 「愛して貰いたいんです…」 一気に話す海堂に、不二がにやりと笑ったのを当の本人は勿論気づいていなかった。 流石だよ、乾に柳は。 僅かな時間でこんな純粋な子にここまで思わせるなんて。 では、僕は今夜の為の下準備をさせて貰おうかな… 力なく俯く海堂の方をグッと引き寄せ、その顎をくいっと持ち上げた。 驚く海堂のその唇にそっとキスを落とす。 それは乾がしたのと同じお父さんの優しいキス。 「不二…先輩…?」 「二人に本当の家族と認めて貰うにはどうすればいいか…分かるかい?」 僅かに目を細め、静かに首を振る。 その頭を引き寄せ、胸に抱き寄せる。 しなやかで絹のようにさらりとしたその髪を優しくなでながらそっと囁いた。 「簡単な事。君から誘えばいい。」 カッと眼を見張り、みるみる顔も赤らんでくる。 肩もかすかに震えている。 ふふっ…ここまで純粋な子も珍しい。成る程。二人が手を出せなかった訳だ。 それをそう仕向けるのが僕の役目。 「教えてあげるよ。どうすればいいのか。」 「不二先輩…俺…」 「大丈夫。僕に全てを任せて。」 チュッと瞼にキスをすると、海堂の肩を掴み壁際に立たせた。 微かに震えてる海堂の首筋に唇を落としていく。 その感触にぎゅっと眼を閉じ耐えている姿に不二の微笑みはどんどん黒くなっていく。 「まず、乾か柳にキスを強請る…勿論、お父さんのキスだよ…」 「はっぁぁ…な…ぜ…?」 「ほら、こんな風に。」 わななく唇に自分のそれでそっと塞ぐ。 触れるだけのお父さんのキス。のはずが… 「んっんん!!!」 ぐっと後頭部を掴み口をこじ開け舌を滑り込ませる。 焦って離れようとする海堂を押さえつけ、逃げる舌を絡ませ弄ぶ。 ぴちゃぴちゃとワザとらしく音を立て、海堂の耳から刺激を与えていった。 つぅっと唾液の糸が流れる程のディープキスを終えると、海堂は立っている事も出来ないくらい腰砕けになっていた。 「分かる?お父さんのキスから、自分で恋人のキスに変えるんだ。」 「乾と柳なら、海堂が舌を入れるだけで後はリードしてくれるだろうね。」 クスクス笑いながら手を差し出し、海堂の手を取り立ち上がらせる。 真赤になって不二を見つめている海堂にすっと顔を近づけた。 ビクッと身体を震わせ警戒している。 ホント…純粋で面白い… 「次に何をされるか、想像つく…?」 「アッ…不二…先輩…」 すっと右手を伸ばした先には、薄らと盛り上がった海堂自身。 その感度の良さに不二も思わず笑みがこぼれる。 「まず身体中にキスを浴びせられる。首筋から…胸…腹筋…内股…そして…」 言葉に合わせて不二が指をなぞらせていく。 そして既に半分以上起ち上がっている海堂自身にパンツの上から布越しに握り締めた。 「やっぁあ…」 「乾は口でするのが上手だから、きっと優しく舐めてくれるだろうね。」 そう言いながら下着の中に手を入れ、直にしごいて弄ぶ。 海堂はもう立っていられないほど腰が抜け、両足はガクガクと震え不二の肩にしがみ付いて辛うじて立っている状態だった。」 今まで感じた事のない快楽にどうしていいのか分からない。 ハァ、と大きく息を着いて不二の肩に顔を埋めその快楽に耐える。 「我慢する事はないよ。気持ちいいならそう感じればいい。僕よりあの二人の方がもっと気持ちよくしてくれるから。」 くいっと亀頭に爪を立て、軽い刺激を与え続ける。 その度に海堂の腰は淫らに動き、しがみ付く指に力が加わっていく。 涙目で不二を見つめ、半開きの口からは絶え間ない喘ぎ声が洩れていた。 …へ、ぇ…これはこれは… 純粋純潔かと思ったけど、相当な素質を持っていそうだ… 磨けば光る…成る程ね… 流石は乾。ちゃんとその辺を見抜いてこの子を選んだって訳か。 「その後、ここに快楽が集中する。大丈夫、柳はその辺のフォローはしっかりしてるからそんなには痛くしないよ。」 ずるっと海堂のパンツをずらし、露になった蕾につっと指をあてがった。 「やッ!不二先輩!そこは!」 「うん、ここで皆と一つになる。これを受け入れれば海堂はあの二人の家族になる。」 ぐっと中指を第一間接まで挿入すると、海堂の眼から涙が零れ、不二の肩をぎゅっと掴む。 「今は僕はしないよ。ここを最初に訪れるは乾と柳の二人だけ。ただこの感触は覚えておいた方がいい。」 息を吐いて、すって…痛みをなるたけ和らげる為に。 ジュクジュクと出し入れを始めると、海堂はもう我慢できなくなって構わず声をあげて快楽を味わった。 「うあっあああ!先輩!!もう…ダメ…」 「くす、指一本で降参?前途多難だな。」 不二の指が海堂の肉壁をジュッと擦ると、海堂は堪らず悲鳴に似た声を上げイッてしまった。 不二のジャージに白い液を飛ばし、海堂はへなへなと床に座り込む。 何が起きたのがまだ理解できず、ボーっとした眼で不二を見つめていた。 「あ〜あ、汚れちゃった…まさかあれでイクとは思わなかった…」 「あ…す、すみません…」 「べつに構わないよ。それよりどうだい?よく分かった?」 海堂は不二の問いかけに答えられず、ただ真赤になりながら俯くだけだった。 愛して貰うって…こういう事…? 柳さんと乾さんはいつもこうやって愛し合ってる… 俺も…その中に入っていけるんだろうか… 「後は君の決意次第だ…本当の家族の一員となるか、単なるごっこ遊びで終わるか…」 「相談に乗って欲しい事があればいつでも聞くよ。その為に僕はいるんだから。」 クスクス笑いながら海堂の額にチュッとキスをして、早く帰る様注意しながら不二は部室を後にした。 「俺の…決意…?」 そんな事言われても… 誘って拒絶されたらどうしよう? 相手にもされなかったら… それより養子縁組を解消されたら… 一人残った部室で海堂は長い間考え込んでいた。 そして何か意を決したように立ち上がり、制服に着替えて部室を後にした。 門まで来た時、見慣れた車が止まっていた。 「!?乾さん!」 「やぁ、随分遅かったね、待ってたんだよ。」 慌てて乾の車の傍まで走っていく。 優しく微笑む乾の顔がそこにあった。 「仕事が速く終わったからね。一緒に帰ろうと門の所で待ってたんだ。」 「すみません…大分待たせたようですね。」 「別に。可愛い薫を待つのは苦じゃないよ。」 大きな手で海堂の頭を優しくなでる。 その手の感触が気持ち良くて…思わず乾の肩に頭を付ける。 「??どうかした?」 「…何でもないっす…」 足早に車に乗り込むと、乾も苦笑しながら運転席に座リ、一路My Homeへと向う。 ずっと黙っている海堂に、乾も声をかけづらく、車内を沈黙が支配していた。 意を決したように海堂が乾に話しかける。 「…乾さん…聞いていいっすか?」 「何?何かあるの?何でも聞いていいよ。」 ぎゅっと拳を握り、決して乾の方は見ずに話を続けた。 「…どうして俺を引き取ったんですか…?」 いきなりの質問に乾が思わずハンドルを切ってしまい、危うく崖にぶつかる所だった。 「って!危ないなぁ!乾さん!」 「いきなりそんな質問するからだよ。あぁ、ビックリした。」 重苦しい雰囲気が一気に弾け飛び自然に笑い声がこみ上げてきた。 「あぁ、やっぱりいいね。薫は笑った方がずっと素敵だ。」 「あの孤児院の前を偶然通りかかった時、薫が楽しそうに笑っているのを見たんだ。」 楽しそう?俺はあそこで楽しいと思った事はない… まして笑うだなんて… 「海堂によく似た男の子と話していたっけな。その時の笑顔が忘れられなかった。」 「君を引き取った理由はそれ。俺の一目惚れだ。」 その話を聞くや否や、海堂は静かに眼を閉じ、そして俯きながら話し始めた。 「葉末…弟といた時…そうだ…あいつが引き取られて行く時、泣き止まないあいつを慰めようと楽しい話をいっぱいしていたんだ…」 「乾さんが見たのはその時です…でも俺は心から笑ってなどいませんでした…」 「本当は泣きたかった…泣いて葉末を取り戻したかった…でも弟の事を考えたら泣いちゃいけない…笑わなきゃって…」 葉末…今どうしているんだろう…もう何年も会っていない… あれ…?って事は…? 「乾さん、何年も前から俺の事見てたんですか?」 「まぁ、そうなるかな。その時はまだ引き取ろうなんて思っていなかったから。」 時が経つにつれてその笑顔が忘れられなくなり… 久々に訪れてみれば随分と綺麗に成長していた。 「あの時見た笑顔はなく、どこか愁いな表情だった。すぐにあの孤児院の事を調べたよ。」 そして即決した。薫を引き取ろうって。 蓮二の説得は必要なかった。写真を見た途端蓮二もすぐにOKを出してくれた。 「そして俺達は手続きをとり、君を引き取った。どう?納得したかい?」 すっと右手を助手席の海堂に伸ばし、その頬に触れる。 海堂は俯きながら小さく「はい」と答えた。 よく…分かりました…乾さん。 そこまで俺を必要としてくれたんですね… なら俺もそれに応えなきゃいけないっすね。 「乾さん…俺、乾さんと柳さんの本当の家族になりたいです…」 「もう家族だよ…薫…」 にっこり笑って前を見て運転に集中する。 海堂も静かに俯き背もたれにもたれかかりながら眼を閉じた。 部活の疲れもあったのか、そのままスヤスヤと眠ってしまっていた。 その寝顔は何年ぶりかの安らいだものだった。 To be continues.
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