理想家族 7
乾と海堂の乗った車は家へと到着し、そこにはすでに柳も帰宅していた。 「お帰り。随分遅かったな。」 「すみません…俺がちょっとぐずぐずしてて…」 「まぁ、無事帰ったんだから何も言う事なし、だろう?」 海堂の肩を抱き寄せ、柳の肩をぽんと叩く。 柳はため息交じりで苦笑し、二人を迎え入れた。 「夕飯は作っておいたぞ。」 「あぁ、すまない。今日は俺の当番だったのに…」 「でも乾さんの食事より柳さんの方が美味しいですから。」 にっこり笑って柳の腕にすりより、柳もそんな仕草の海堂を愛しく思い抱き寄せる。 「言ったな!後でお仕置きしてやるぞ!」 「事実を言ったまでなのに〜柳さん、助けて!」 「安心しなさい、薫。指一本でも触れさせはしないよ。」 柳は自分の後ろに海堂を隠すと、乾に意地悪く微笑んで見せる。 乾もそんな二人のやり取りが楽しくて、思わず笑みがこぼれた。 さ、食事にしよう… 和やかな雰囲気の中、三人はダイニングへと向かい、そして楽しいひと時を迎える。 この時間が永遠に続くといい… 乾さんと柳さんと俺と…ずっとずっと一緒に過ごせたら… 『本当の家族になるか、ただのごっこ遊びになるかは君次第だよ…』 不二の言った言葉が海堂に重く圧し掛かる… 「どうしたの薫。食事があまり進んでないようだけど…」 乾が心配そうに海堂を見つめる。 海堂はビクッとなって首を振り、なんでもないと微笑みながら箸を進めた。 食事が終わって、海堂は後片付けの為に台所に立つ。 『そんな事はしなくてもいい』と二人に言われていたが、家族になるからには自分も家事を手伝う、と自ら断言した。 お皿を洗っている時もどうしてもあの部室での出来事が頭をよぎり、集中できない。 「薫??」 「はっ!?」 ガシャーン!!! 「薫!」「どうした!」 「す、すみません…俺…」 何て事だ!やってしまった! 海堂の足元に割れたグラスの破片が飛び散っている。 「動くなよ!すぐ掃除機で吸い取らなきゃ。」 「薫、こっちにおいで。」 柳が手を差し出し、海堂もそれを取り、柳がふわりと海堂を抱き寄せた。 ぎゅっと力強く抱きしめられ、思わず柳の顔を見つめてしまう。 「…薫?」 柳の背中に両手を回し更に強く抱きしめると、柳の目が僅かに開く。 ほぉ…何があったか知らないが、俺を誘っているのか…? 「貞治、後頼むよ。俺は薫とシャワー浴びてくる。」 「え?何で!?」 「お、れと?一緒に入るんですか?」 「嫌か?部活で汗かいたんだろう?ガラスの処理はお父さんに任せて、俺とお風呂に入ろう。」 にっこりと微笑む柳に、海堂は戸惑いながらもこくんと頷き、柳は海堂の手を引いてバスルームに向かってしまった。 後に残された乾はきょとんとして、訳が分からない様子だった。 …??ちょっと待て!? 一緒にお風呂だ?? 「それってめちゃくちゃ美味しいじゃないか!蓮二!待て!俺も一緒に!」 慌ててガラスを片付け、バスルームへ向かうと柳も海堂も既に入浴中で、中から鍵をかけていた。 「こら!蓮二!自分ばっかりずるいぞ!俺も入らせろ!」 『駄目だ。お前は俺よりも薫と一緒にいる時間が多い。こういう時でないと二人でゆっくり話せんからな。』 『乾さん、スミマセン。柳さんがそう言ってますので。』 中から楽しそうな声が聞こえてくる。 くっそ〜蓮二の奴!一番美味しい所を取りやがって! 「蓮二!さっさと上がって来いよ!」 『アァ、貞治。先に部屋で待っててくれ。』 「何で!俺だって風呂浴びて…」 『部屋にあるだろう。そこで準備しておけ。後で連れて行くから。』 は〜ん…成る程ね。 いよいよって訳…? ますます持って羨ましい。本来薫をほだすのは俺の役目だったはず… 「それでも早く上がれよ!」 『判っている。早く行け。』 気配が遠ざかっていくのを感じると、柳は海堂の方に眼を向ける。 海堂はきょとんとした顔で柳を見つめていた。 「どうかした?薫…」 「え…?あ、いや…さっき連れて行くって…」 「ん。薫もそのつもりで俺を誘ったんだろう?」 「俺、誘ってなど!?」 「誘っているよ…薫…その訴える様な眼が…」 すっとつぶらな瞳に指を這わす。海堂は思わず眼を閉じてしまうが、構わず瞼に触れていく。 「そのわななく唇とか…」 薄っすらと開いている厚めの唇を親指でそっと撫でていく。 くいっと顎をあげるとその唇に静かにキスを落とした。 『理想家族になりたいのなら自分から誘えばいい。』 不二の言葉が頭をよぎる。 「あっ…柳…さん…」 小さく呟くと、自ら腕を柳の首に回し、その咥内に舌を滑り込ませる。 慣れない行為に戸惑いながらも、柳が上手くリードしてくれた。 「んっんん…」 どう動いていいのか判らない海堂の舌を柳が絡ませ、逃げようとすれば後を追いかけ海堂の咥内で追いかけっこが始まる。 たかが舌を絡ませるだけなのに、海堂の体の中はジンジンと熱を欲し、身体の中心が疼いてくる。 ようやくキスを終えた頃、海堂は風呂場でしゃがみ込んでしまうほど腰砕け状態になっていた。 「や…柳さん…」 「キスだけでそんなんじゃ、これからどうするんだい?」 ニコニコ笑いながら海堂の身体を抱えあげ、シャワーをサァッとかけた。 身体にかかった泡を洗い流し、身体の隅々まで綺麗にしていく。 水圧が海堂の陰茎を刺激し、段々膨れ上がっていく。 次第に頭を持ち上げるのが感じられ、海堂は恥ずかしくて頬を真赤に染めている。 柳はそんな海堂の額にキスを落としながら、そっと陰茎に手を添えた。 「はっ、やぁ…」 「一体どういう風の吹き回しだ?薫。今日はとっても扇情的だ。」 「あぁんんん…」 「凄く綺麗だよ…薫…」 「柳…さん…」 両手を柳の首に回し、再びキスを強請る。 今度は自ら舌を絡ませ、柳にリードされる事なく快楽を引き出していく。 やはり貞治が見込んだだけはある…純粋で…しかし一歩踏み込めば高級娼婦にも勝る妖艶さ。 「柳さん…俺…柳さんと乾さんの本当の家族になりたい…」 「もう家族だよ。薫。お前は俺達の大切な家族だ。」 「違うんです…今のままじゃごっこ遊びの延長でしかない。俺は二人の本当の家族になりたいんです。」 それが何を意味しているのかは…もう判っています…だから… 「俺を…抱いて下さい…二人で…俺を愛して下さい…」 海堂の身体が小刻みに震えているのが柳にはよく判る。 相当な覚悟で出たこの言葉。勿論無視する理由はない。 この為にお前を引き取った様なものなんだから… 「その決意が本当かどうか、確かめないとな。」 「俺!本気です!でなければこんな事…」 真剣な眼差しで柳を見つめる海堂の頬にそっと手を添え、柳は海堂を降ろしすっと立ち上がった。 「俺は先に出て、二階の部屋に戻る。その決意が本当なら俺達の部屋をノックするといい。」 「まだ勇気がないのなら、そのまま自分の部屋に行きなさい。」 「もし薫が自分の部屋に行ったからと言って、俺達は薫の事を嫌いになったりしなから。」 冷静に…自分の気持ちをもう一度見直すといい。 柳は優しく微笑むと、そのままバスルームを出て行ってしまった。 後に残された海堂は、身体の疼きが止まらず両肩を抱きしめ震えていた。 俺の…決意は…変わらない… 柳さんと乾さんに愛して貰いたい… 海堂はシャワーのコックを捻ると頭から熱いお湯をかぶり気持ちを引き締める。 そしてバスルームを出て身体を綺麗に拭き、髪を整えバスローブを羽織った。 ゆっくりと二階へ続く階段を上がり、柳と乾の寝室のドアの前に立つ。 大きく息を吸って拳を握り締めドアを叩いた。 コンコン… 「おいで…薫…」 「待ってたよ…さぁ…」 薄暗い部屋の中…大きなベッドの上で柳と乾が手を差し伸べている。 俺は…今夜この二人の本当の家族になるんだ… To be continues.
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