ゲームを征する者〜Second stage〜  12        




       グリエルが指を鳴らしながらハボックに近づいてきた。

       当然ハボックも拳銃を構え、巨漢の男を威嚇する。

       銃を持つハボックを警戒しているのかハボックの周りをウロウロするだけだった。

       「銃と素手じゃ勝負にならんな。」
       「武士道を唱えるつもりなら無駄っすよ。」

       俺は数々の修羅場を生きてきた。それは戦場だけではない。


       掃き溜めの中で生き抜く為に色んな事をしてきた。そう、それこそ命がけの事を。


       大佐が拾ってくれなかったら、俺はまだあのスラムで馬鹿みたいにお山の大将やってたかもしれない。



       「生き残る為なら俺はどんな事でもしますよ。」
       それはさっきの試合でもよく判っているでしょう?

       ガシャッと銃のトリガーを構えると、グリエルの額に銃口を向けた。

       そこに一発当てればゲームオーバー。


       「仕方ないな。じゃ、俺もハンデを使わせて貰うよ。」


       ザッと土煙が上がり、足元に薄い線が繋がった。



       「!!!錬成陣!?」
       「人間を錬成したら禁忌を犯す事になるからね。狙いはその銃!」

       ばっと両手を地面に叩きつけ、青白い光が立ち上がるとハボックはその光に包まれた。


       「!!!」
       「ハボック!?」

       両手と腰、背中に忍ばせていた銃がことごとく砂に変わり、地面にさらりと舞い落ちる。


       「銃がっ!!」
       「へへ、これでハンデ無しだ。」

       だがグリエルには錬金術の力がある。
       エドの様にとっさに出来るわけではないので錬成陣を描く必要があるが、ハボックにとってはかなり不利な相手。


       「ちっ、容赦無しって事っすか。」
       「体術もいける様だしな。ここからが本当の勝負!」



       あの美しい焔を手に入れる、その為には眼の前の敵をなぎ倒す。
       それは俺も同じ事。どんな手段をも厭わない。

       互いがニヤリと笑い、闘技場は二人の欲望の意識で覆われていく。


       その雰囲気にブラッドレイは心から酔いしれていた。



       そうだ…美しき焔を巡って欲望をぶつけ合うがいい。

       闘え!闘え!闘え!

       その血で美しき焔を汚すがよい。
       己の為に流された血に顔を歪めるこやつの姿。


       「それが見たくてこのゲームを開いたようなもの。」
       私が弄ぶだけでは見せなくなった美しいその姿。

       ゾクゾクする様なこの高揚感。
       屈辱にうち震えるその赤き唇。
       貪欲に欲情を誘う潤んだ瞳。


       「もっともっと見せよ!その乱れた姿を。」
       仲間に、親友に、部下に、恋人にその身体を曝け出せ。

       ゲームを制した者に這い蹲り、屈辱の瞳を映し出せ!


       ブラッドレイはサーベルをすっと引き抜き、その剣先をロイの背中にそっとかざす。
       ハボックの試合を心配そうに見守るロイは、その背後の気配に気がつかない。


       「私に逆らう事など許さない…その事をよく身に染み込ませるがいい。」 

       お前の野望、お前の夢。全ては私の前では泡と消える。


       「下らぬ野望に策を巡らせるより、私の足元に這い蹲るのがお前は似合いだ。」
       私の意のままに動き、その身を捧げておれば良い。
       

       何て楽しい、心躍るこのひととき!


       ブラッドレイは眼を細め、それを見たらロイは恐らく唇を噛み締め怒りを露にするだろう、
       満面の笑みを浮かべてサーベルを鞘に収めた。




       一方エドは、戦いを終え、疲れた表情で控え室へと向かっていた。


       「エド!大丈夫か?」
       背後から聞こえて来た人懐こそうな声に、エドは振り向きもせずに前に進む。

       「くくっ、つれねーなぁ。振り向いて返事ぐらいしてくれよ。」
       「何であんたなんかに。騒動の発端が。」

       足を止め振り向いたそこには水の入った瓶を持ったヒューズが立っていた。


       「助太刀してやったお礼を聞いてないぞ?」
       「余計な事しやがって。」
       「あはは、やっぱりお前らしい。無事なようで安心したよ。」

       くしゃくしゃと頭を撫で、その無事を祝う。
       エドはパッと手で振り払い、きっと睨みつけた。

       「まぁ、さっきので浮気の件は無しにしてくれ。」
       「…それで俺の受けた傷が癒されるとでも?」

       シュッとマッチをすり、タバコに火をつけると余裕を見せるかのようにフーっと煙を吐き出した。

       「思わんよ。ロイがイシュバールで受けた傷を癒すのに5年はかかった。」
       「中佐?」
       「いや、お前さんと出会うまで癒されてなかったのかもしれない。俺の前では笑っていたが…」
       心の底から笑わなくなったあいつ。
       お前といた時に見せたあの安心しきったような表情は久しく見てなかった。

       「お前と言うパートナーを得た事で、ロイの精神は大分安定してきたんだぞ。」
       「…その割には出世の為に身体売ったりしてたけどね。あんたともやったし。」
       「お前と出会う前はそれこそ毎日の様に上官の相手をしていたんだぞ。」

       まるで何かから逃れるように。

       「俺とあのホテルで朝まで過ごしたのは確かだが、俺はあいつと寝ちゃいないぜ?」
       「嘘だ!!だってあんたと大佐は恋人だって…」
       「元、だ。俺は抱く気満々だったが、ロイは最後まで拒否したよ。『お前に悪い』って。」

       まぁ、イかせてやったりはしたが。俺は最後まではやってない。ロイからその話は聞かなかったのか?

       エドは呆然とした表情でヒューズを見つめ、自分が問答無用でロイを凝らしめてしまった事に気がついた。
       そうだ…ちゃんと話し合えばよかったんだ…
       あの人を信じて…ちゃんと話を聞けばよかったんだ…

       「解ったんなら今からでも遅くはない、このゲームを中止させろ。」
       「…それは出来ない…」
       「エド!!」
       「今更大総統を止める事なんて出来ないよ。そうでしょ?中佐。」

       それに…俺も止める気はないね。

       エドは右手の機械鎧を撫でながら、口端をくいっとあげてヒューズの向かって笑いかけた。


       その眼は…明らかに欲情に潤んだ瞳…


       「大佐が大人しく俺の仕置きに耐えてたって事は、自分にやましい事があるからでしょ?」
       「エド!それは誤解だと…」
       「別にどうでもいいや。俺も大総統も今このゲームを心から楽しんでるから。」

       大佐を巡る死のゲーム。これ程の高揚感はめったに味わえない。


       参加者が勝つ度に見せたあの淫らな姿。
       身体中を弄ばれる度に屈辱的な瞳で俺を見る。


       「面白すぎて堪んないよ。きっと大総統も今頃充分満足してんじゃない?」
       そんな中に中止しろなんて言ったらいくら俺でも一刀両断されちゃう。

       エドは子供とは思えない様な黒い笑みを浮かべ、ポケットからオレンジを取り出した。
       がぶっとかぶりつき、その皮を乱暴に剥ぎ取ると、中の実をズズッとすすった。

       「ウ〜ン、いい香り。それにとっても甘い汁。知ってる?大佐のアレもこんな香りと味がするんだぜ?」
       「エド…お前すっかり大総統閣下に感化されちまったんだな…」
       がっくりと肩を落とし、深い深い溜め息をつく。



       ヒューズは手にしていた瓶をエドに渡すと、手にしていたオレンジを取り上げた。

       「何すんだよ!!大総統が用意してくれた、凄く美味しいオレンジなのに。」
       「ここで用意された物は手をつけない方がいい。これは街で買ってきた水だ。これを飲め。」
     
       エドは手渡された瓶を見ると、そのまま床に叩き落した。
       ガシャンと割れた瓶から零れた水が、みるみる床に沁み込んでいく。



       「あんたから貰う物にも手をつけるつもりはないね。」
       ポケットに手を入れながらエドはヒューズの元を離れ、控え室のソファにドサッと座ると足を投げ出し横になった。

       やれやれと両手を上げながら、ヒューズは観客席へと戻っていく。

       ハボックはどうしたかな?もう勝負を決めたかな??


       月明かりの下に出た時、その光景に一瞬眼を疑った。




       「ハボック!?」


       金髪の青年はグリエルの足元に這い蹲り、その両手は滴り落ちる血で真赤に染まっていた。



       「ハァ、ハァ…くっそっ…」
       「どうした、もう降参か?」
        
       四つん這いになって荒く息を吐くハボックの顎に、グリエルがつま先を当てグッと持ち上げる。
       屈辱的に顔を歪め、その足を掴もうとした時、グリエルの足がハボックの顎を蹴り上げた。

       「グフッ!」

       口の中を切ったのか、血を吐き出しながら地面を転がり、震える身体を必死で起こす。


       冗談じゃねえぞ!こんな所で負けて堪るか!

       膝に手をあて、何とか立ち上がると血を含んだ唾をペッと吐き捨てた。



       「降参はしませんよ。する時は死ぬ時っす。」

       あの焔の為に死ぬんなら本望って事っすかね。
       眼を細め、ロイの方を見つめると、ロイが鎖を揺らしながら身を乗り出し何かを言っている。



       止めろ!ハボック、死ぬな!Give Upしろ!!



       「へぇ…少しは俺の心配をしてくれるんですね。」
       でもGive Upなんてしませんよ…して堪るものか!


       「大佐っ!!!俺はあんたが好きでしたよ!」

       にっこり笑って手を振る。まるで最後の別れの様に。


       「ハボック!!駄目だ!私より先に逝く事は許さん!上官命令だ!Give Upするんだ!」
       「愚か者め。今は階級は関係ないぞ。」

       クスクス笑いながら成り行きを見守るブラッドレイにロイは振り向いて睨みつける。

       そして唇を噛み締め、懇願した。


       「閣下…どうかお願いです…私の…部下を助けて下さい…」
       その為ならどんな命令も聞きます…だから…  

       あなたから勝敗を決定させて下さい…

       

       ブラッドレイは苦笑しながらロイに近づき、背後から抱きすくめた。

       両手が胸に回り、その突起をつまみながら耳の後ろに舌を這わせる。

       ピクンと身体を震わせ、だが身体をブラッドレイに預け、されるがままにその愛撫を受け止めた。
       右手をすっと下腹部に伸ばし、リングによって締め付けられ揺れている陰茎を優しく撫でる。


       「んっあああ…」
       「随分と庇うのだな。それ程部下が大事か。」
 
       ハァハァと息を着きながら首を縦に振り、拳を握り締め鎖を揺らす。

       「お願いです…試合を…止めさせて…」
       「それは無理だな。見なさい、あの青年はまだまだやる気でいる。それを止めるような野暮な事は出来んよ。」
       
       闘技場の方に顎をしゃくって、ロイに見る様諭す。



       ロイは恐る恐る眼を向けると、ハボックがまだファイティングポーズを取りながら立っていた。

       
       大人しく成り行きを見守るがいい。
       そう言うとブラッドレイはロイからすっと離れ、再び椅子へと戻ってしまった。



       ロイは身を乗り出しハボックを見続けた…
       エド同様、必ず勝つと信じて。
       


       ハボックは口端の血を拭い取ると拳を握り締め、グリエル向かって走り出す。


       「うわあああ!!」
       「フン、無駄な事を。」
       グリエルは空気に錬成陣を描くように指を動かすと、そこに両手を合わせた。

       パァッと何もない空気が光ると、ハボックがドン、と後ろの方に飛ばされる。


       「ハァ、ハァ、ちきしょう!何だって近づけない!」
       
       肩を押さえながらグリエルを睨みつける。
       闘っている時からハボックはどうしてもグリエルに近づく事が出来なかった。

       勢いをつけて突進しても、空気の壁のような物に遮られ、躊躇していると今度は空気の槍のような物がハボックを襲う。


       眼に見えない物が身体中にぶつかってきて、ハボックはなす術もなく傷ついていく。


       錬金術の成せる業…か。


       「空気を圧縮させ壁を作り、またそれを移動させる事により相手にダメージを与える。」
       描かねばならない錬成陣を風を切る事により空気上に描き、錬成させる。


       「惜しいのう。何故ちゃんと国家試験を受けなかったのだ?」

       さぞかし素晴らしい人間兵器となり得ただろうに。

       ブラッドレイがさも楽しそうに呟くと、ロイの両腕が怒りで震える。



       勝て!ハボック!ここで死ぬのは許さない…



       そう心で呟きながら、ロイははっとある事に気がついた。



       ここでハボックが勝ってしまったら、決勝戦はエドと対戦する事になる…



       「気がついたか。愚か者め。」
       クスクス笑いながらロイの背中をサーベルで突いた。

       さぁどうする?


       恋人か部下か。どちらがお前を手に入れるか。


       「いや、その前にお前の大切な部下は勝てるかな?」




       闘技場の方を指差したブラッドレイに、ロイは慌ててハボックに眼を向ける。




       「ハボック!!!」



       動けない身体を忘れ、ロイは思わず駆け寄ろうと身を乗り出した。





       ハボックの左肩を空気の槍が深々と突き刺さり、左腕からは血が滴り落ち、地面を赤く染めていた……
     

 
       
        To be continues.




裏小説TOPに戻る  Back Next    



PC用眼鏡【管理人も使ってますがマジで疲れません】 解約手数料0円【あしたでんき】 Yahoo 楽天 NTT-X Store

無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 ふるさと納税 海外旅行保険が無料! 海外ホテル