ゲームを征する者〜Second stage〜  13        




        ポタッ、ポタッと滴り落ちる水音が闘技場内を包み込む。



        ハボックが左肩に手を当てても、突き刺さっていた場所にはもう何もない。


        「空気の槍…か。」
        真赤に染まる右手を舐めながらニヤリと笑う。

        その血を口にした事で、ハボックの闘争心と欲情が更なる高まりを見せていく。


        さて、どうしますかね…


        銃もない、腕は負傷。実の所立っているのも辛い。

        どうあがいても奴の所に近づく事が出来ない。
        素早く動けばどうにかなるかもしれないが、今の俺ではそれは無理だ。



        

        Give Upか…?


        それだけは絶対に嫌だ。するくらいなら死んでもいい。

        大佐の為に命を落とせば、あの人の記憶の片隅に留まる事は出来るだろうか。
        一生覚えておいて貰えるだろうか…


        「はっはは。こんな愛情表現もあるもんですかね。」

        流れ出す血の量が増えてきたのか、目の前がゆらりと揺らいでくる。
        やばいな。早く決めるか何かしないと。

        ハァと深く息を吸い、キッとグリエルを睨みつける。


        だがハボックの戦意が落ち始めているのを敏感に感じ取ったグリエルは、勝利を確信し不敵に笑っていた。

 

        「もうボロボロじゃないか。いい加減Give Upしたらどうだ?」
        「俺はしませんよ。1%の可能性でも俺はそれに賭けます。」
        そうやって今まで生きてきた。死ぬかと思った時も、俺はその運に助けられてきた。


        そう、俺の女運が悪いのは最高の女神を恋人にしているから。

        「幸運の女神。こいつが俺の恋人さ。」
        そう吐き捨てると、再びグリエル向かって走り出した。

        「ちっ、無駄な事を!」
        空を切って錬成陣を書き始めると、ハボックがその円の中心に小石を投げつけた。



        シュッ!!


        小さく風が起こり、グリエルの顔を掠めていく。

        「うおおおお!!」
        と、唸りながらグリエルの顔目掛けて拳を振り上げる。


        「ばかめ!何度やっても同じ事だ!」
        両手を空気にあて錬成をしようとするが、光を発せず、当然の如く錬成も出来ない。



        ガッ!!

        ハボックの拳がグリエルの顎に見事にHITし、グリエルは後ろにずさっと投げ飛ばされた。


        訳も解らない表情で顎をさすり、荒い息をしながら立っているハボックを見上げて自分の両手を見つめていた。


        「何故だ?何故錬成が出来なかった!?」

        「ヒントはさっきの大将とキンブリーの試合ですね。」


        掌に中佐のタガーが刺さり錬成陣が崩れ爆発が出来なかった。
        錬成陣は少しでもずれれば錬成は成し得ない。

        「あんたの錬成陣は空を切る事によって生まれる微妙な風圧で描かれていた。」
        ならそこに別の風を発生させれば錬成陣は崩れていく。


        これでハンデなし…ですかね。


        ふっと笑った拍子に足の力が抜け、ガクンと地面に膝を着く。
       
        もう限界だった。出血が酷く、意識が朦朧としてくる。

        
        「ふっ、俺の自慢の錬成を破っても、もう体力が限界だな。」

        地面に転がっている石に錬成陣を書き、石槍を錬成してハボックの方へと近づいていった。
        剣先をハボックの額に向け、己の優位を示す。



        「Give Upすれば命は助けてやる。」
        「それだけはゴメンですね。」
        「では死ね。心配するな。お前の分も大佐を可愛がってやるさ。」


        冗談…あの人があんた如きになびく筈がない。

        静かに眼を閉じその時を待つ。


        ハボック!!


        愛しい人の声が聞こえる。まぁ、こんな最後もまた一興だな。
        俺はゴミ捨て場で死んでもおかしくない人生を送る筈だったんだ…


        あの人の為に闘って死ぬのは本望かもしれない…






        
        「ぐっふっ!!?」



        石槍がハボックの額目掛けて振り下ろされると同時に、グリエルが口から真赤な血を吐き出す。

        その反動で石槍の方向がずれ、ハボックには刺さらずに顔を掠めて地面に突き刺さった。



        グリエルはハボックに倒れこみ、二人はそのまま地面に倒れこんでしまった。



        「何だ?一体何が!?」
        上に乗っかったまま動かないグリエルを何とか押し上げ、仰向けに寝かせる。
        その表情にハボックが思わず凍りついた。


        顔の色は真っ青で口から泡と血を吹き、眼はカッと見開いたまま。


        「…死んだのか…?でも何で…」



        「ほぉ。こやつは運が悪かったようだな。」
         

        ブラッドレイがVIP席から身を乗り出し、倒れているグリエルに向かって残念そうに呟いた。
        観客席に残っていた参加者が一斉にVIP席へと眼を向ける。

        ヒューズはさっと身を翻してハボックのいる闘技場へと舞い降りた。


        よろよろと立ち上がるハボックに「すぐに止血を」とハンカチを渡し、グリエルの傍らに跪いた。
        首筋に指をあて、脈を測る。暫くして立ち上がり小さく首を振った。



        「死んでるんですか…」
        「あぁ。恐らく毒物だ。」

        一瞬で命を奪う強烈な毒…一体何処で…?
 

        はっと表情を曇らせ、ヒューズはVIP席のブラッドレイの方を見つめた。



        「やっぱりな…ここで出された食べ物の中に忍ばせてあったのか!!」

        それもきっとホンの僅か。殆どの者は口にせずに済む位の量。
        どの料理に仕込まれていたのかは、誰も判らない。

        しかも食べてすぐ効くのではなく、後からじわじわと体を蝕み、一気に死に至らしめる。
        ロシアンルーレットのように参加者はブラッドレイの悪趣味なゲームの的にされていたのだ。

        そしてグリエルは不運にも毒の入った食べ物を口にしてしまった…



        フフ…誰も当たらぬと思っていたが…運の悪い奴がいたのだな。
        ブラッドレイはニヤリと微笑むとすっと立ち上がりVIP席の端のロイの傍までやってきた。



        「勝負あり!ハボックの勝ちと認めるぞ。」
        高らかに笑いながらハボックの勝利宣言をし、グリエルの死体を片付ける様に命令する。


        ヒューズとハボックが嫌悪感で顔を歪ませ、運ばれるグリエルに少し同情した。


        「中佐のお蔭で死なずにすみましたよ。」
        「お前はホンと運がいいな。」
        「幸運の女神が恋人ですからね。」

        
        ほっと溜め息をつきながらも、右肩の傷はかなり深く、出血も中々止まらない。


        「どうするかね?ハボック。このまま決勝戦は闘えそうか?」

        言葉じりはさも楽しそうに質問するブラッドレイに、ハボックは闘争心丸出して睨みつけた。


        「しますよ。これに勝てば焔は俺の物になるんすよね。だったら戦いますよ。」

        それがエドの大将だろうと、大佐の恋人だろうと関係ない。


        「ふふっ、その意気、高く評価しよう。それより褒美はいるかね?」
        ブラッドレイはロイの傍に近寄り、その肌に触れていく。


        顔を歪ませるロイの表情は、傷を負っているハボックもそれを忘れるくらい妖艶で扇情的だった。


        一歩前に進もうとすると、ヒューズがハボックを止める。
        「よせ、それよりも傷の手当てが先だ。」
        「…今を逃せばもう大佐に触れられなくなるかもしれない。離して下さい。俺は褒美を貰いに行きます。」  

        よろよろと重たい足を引きずりハボックは賞品のあるVIP席へと向かっていく。


        ぽたぽたと血を滴り落としながらロイの傍らまで辿り着くと、ハボックは倒れる様に跪いた。



        「ハボック??」
        ロイがジャラリと鎖を揺らし、ハボックを心配そうに見つめている。


        「ふっ…なんて眼をしているんです…おれはあんたを犯そうとしているのに…」

        他の男達の精液で汚れたその頬を血だらけの手でそっと撫でる。
        白くこびり付いた頬に赤い色が着き、それだけでも艶っぽく見えて、下半身が疼いてきた。

        
        「お前を拾ったのは私だし、それなりに投資もしてきた。それらが無駄になるのは得策ではないからな…」
        小さく微笑むとロイ自ら身を乗り出し、ハボックの唇を塞ぐ。

        軽く触れるキスから舌を絡めるキスへ…


        夢中でロイを抱き寄せその舌を弄び、白い肌を撫で回す。


        すっとハボックの耳元にロイが囁くと、ハボックが驚いてロイの顔を見つめていた。


        『口でイかせてやるから…』


        ロイはそう囁いたのだ…


        何故?そんなに積極的に奉仕するんです?
        苦笑交じりで、それでもその好条件を不意にする理由もなく。ハボックは立ち上がってズボンのジッパーを下ろした。

  
        眼の前に差し出された赤黒い凶器を、ロイは静かに口づけし咥内へと含ませた。

        「んっ…」
        
        上手く舌を使いながら、括れを突き心地よい刺激を与えていく。
        ハボックの体力が限界に近づいているのか、足元がふらつき咥内への抽挿が上手く出来ない。

        ロイを括り付けているアーチ上の柱に右手を置き、身体を支えながらロイの顎に左手を添えた。

        「んっはぁ、大佐、やっぱ上手いっすね。」

        傷により熱も上がってきたのか…ロイの咥内に納められているその棒は今までの男どもよりは熱く感じられる。
        

        ハボックはもっと快楽を引き出そうと身体を前に進ませロイの喉奥に押し込んだ。
        ロイはその大きさにむせかいりながらも必死で奉仕を続けていく。


        ジャラリと鎖を鳴らし、ハボックの逞しい胸に鎖に繋がれた両手でロイがそっと触れた。   


        「大佐…?」
        左肩の傷跡に指をはわし、ハボックが痛みで顔をしかめた。

        何を?と思った瞬間、下腹部の刺激がきゅっと響き、意識がそっちへ集中する。

        「っあ、んんっ!大佐…!すご…い…気持ちいい…っす…」
        腰を前後に動かし、そのリズムに合わせてロイの舌もハボック自身を受け入れ、二人の動きが調和し、
        ハボックに堪え様のない快楽を生み出していた。
   
        ハッ、ハッと息遣いが荒くなり、ハボックの限界が近づいてくる。

        ロイの手もハボックの肌を撫で回し、余計に快楽を助長させていた。


        「あっんん!もう…駄目っす。」

        ブルッと身体が震え腰の動きが止まると、ハボックはロイの咥内へと欲望を放出させる。
        ロイは喉を鳴らしながらそれらを全て飲み干した。


        「はっぁ…大佐…」
       
        恍惚とした表情でロイを見下ろすと、そのまま口付けをしようと身を屈める。
        すると、左肩を触っていたロイの手に力が入り、ハボックの動きを押さえ込んだ。


        「?大佐?何スか…?」
        「じっとしてろ。動くなよ。」

        口端から白い筋を垂らしながらにやっと笑うその姿は、ハボックの全身を痺れさせる。


        構わず身を屈めようとした時、ハボックの左肩から青白い光が放たれた。

        と、同時に鋭い痛みがハボックを襲う。


        「うぁああ!!!」

        肩を押さえながら後ろに倒れる様に尻餅を着くと、訳の解らない表情でロイを見つめていた。




        「応急手当だ。治療は専門じゃないから後でちゃんと見てもらえよ。」

         
        その言葉に驚きながらハボックウは自分の肩に眼を向けた。


        シュゥゥと煙を吐きながら傷口は塞がり、流れ出ていた血も止まっている。
        その傷跡には普段見慣れない錬成陣が、ハボックの血で書かれていた。        


        「錬金術…?」
        「エドは容赦なくお前を倒しに来る。危険だと判断した時はGive Upしろ。」
     
        お前にはまだまだ働いて貰わないと困る。ここで簡単に死ぬなよ。
     
        ふっと笑うその表情は、こんな状況下に置かれてもその誇りと輝きを失っていない事を物語っている。


        アァ…あんたやっぱり凄いわ…何処までも着いて行きたくなる。



        「上官命令ですか?」
        「そうだと言ったら聞くか?」
        「まさか。俺が素直じゃないのは知ってるでしょう?」
        「では友人としての頼みだ。」


        死ぬな。



        ハボックはその言葉を聞き、苦笑交じりで立ち上がった。


        「友人…すか。出来れば恋人と言って欲しかったですけどね。」
        「私が愛しているのはエドワードだけだ。それは何があっても変わらない。」

        だからできればこんな無駄なゲームは止めて貰いたいのだがね。

        そう微笑むロイに、ハボックは少し悲しそうな眼をしながらそっと口付けをした。




        「それは勝ってあんたを独占してみないと判りませんよ。」



        1週間で人の心を変えられるかどうかは判らない。

        でも出来ないとは限らない。





        「さて、エドの大将と決着をつけましょうかね。」




        月の女神が西に傾き始め、ゲームも終盤を迎える。
        女神のキスを受ける事が出来るのは、二人の内どちらか一人。





        「決勝戦はエドワードとハボック。」

        ブラッドレイの号令でエドが控え室から闘技場内へと姿を現す。
        ハボックもVIP席から下にゆっくりと降りていく。



        「よう、大将。絶対あんたとやると思ってたよ。」
        「傷は?すぐ始めてもいいのか?」

        少しぐらいハンデやってもいいけど。

        クスクスと小ばかにした様に笑うエドに、ハボックは肩をすくめて溜め息をつく。


        「こんな餓鬼の何処に惚れたんでしょうかね。うちの上司は。」


        その言葉にエドは即座に反応する。


        「言ったなっ!ハンデ無しでズタズタにしてやるよ。」
        「大人を舐めると痛い目に見る事を教えて上げますよ。」





        「ゲーム開始!」





        最後の戦いの火蓋が切って落とされた…


 
       
        To be continues.




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