ゲームを征する者〜Second stage〜 19
「それで?ゲームの結果はどうだったのさ。」
薄暗い地下空間で黒髪の少年がくすくす笑いながら独裁者に問いかける。
「中々有意義なものだったよ。見込みのある錬金術師を見つけたんだがね。」
愚かにも敵が用意した食べ物を食してしまい、命果てたよ。
くっとワイングラスの中身を飲み干すと、数日前のあの死闘を思い出すかの様に
満足げに微笑んだ。
エンヴィーはブラッドレイの首にじゃれ付くようにしがみ付き、左側の耳朶にそっと噛み付いた。
「この左眼に適う者はいなかったんだ。」
ぱちんと眼帯を弾くと、すっとそれを取り除いた。
傷を帯びた左眼は光を発しず、だが常人の視力とは比べ物にならない力を秘めている。
薄っすらと左眼を明けると、赤い刺青がホンの少し顔を出した。
「居たよ。と言うより、予想通りだったがね。」
どんな逆境にも負けない強い意志。裏切った者への冷徹までの仕打ち。
美しく燃え続ける焔を我が手に入れたいと改めて思い、決意する。
「なんだ。結局は焔の大佐の良さを再認識しただけじゃないか。」
既に人柱候補として筆頭に上げられている美しき焔の錬金術師。
大事な遺跡を破壊して、一晩中死闘を繰り広げさせ、まるで実験動物のように命を弄んだ。
そこまでしてやるほどの成果を得られたの?
エンヴィーがくすくす笑いながらグッとブラッドレイの首を締め上げる。
一瞬眉を細めると、素早い動きで背後のエンビーの襟首を掴み、眼の前に組み敷いた。
驚いた表情から、すぐに不敵な笑いに変る。
伸ばした両手をブラッドレイの首に回し、自分の方へと引き寄せた。
自然と合わさる唇に甘美な香りはしなかった。
「んっ…」
地下空間に響き渡るほどの淫猥な音を立てて、互いの舌を貪り喰う。
暫く楽しむとすっと唇を離し、穏やかな表情でエンヴィーの髪を優しく撫でた。
「成果はあったさ。鋼の坊やは既に私の手の中にある。」
アレは私の闇に染まった。さぞかし焔を美しく燃えさせてくれるだろうよ。
そしていずれ、我らの為に役に立つ存在となる。
「それに、マスタングの周りの者への結束力は高まり、彼らはマスタングの為に命を捧げる覚悟が
出来たであろう。」
その忠義に彼は必ず応えようとする。
そして自分の為に命を捨てた者を助けようと必ずや扉を開けるだろう。
優しいが故の強さと弱さ。果たしでどう転ぶかな…
「人柱候補を見つける為のゲームが、いい結果をもたらしたって訳か。」
「そういう事だ。ま、私も充分楽しませて貰ったよ。可愛い焔の悲鳴をあれほど沢山聞けるのは
滅多にないからね。」
濡れた唇を親指で拭いながら、ブラッドレイは立ち上がり乱れた衣服を整えた。
「…そういや、タキシードなんか来てどっか行くの?」
「ん…?あぁ。パーティーに招待されていてね。」
面白そうな催しあるそうだから顔を出しても良いかと思ってね。
ニヤリと笑うブラッドレイにエンヴィーも同じ様に微笑んだ。
まーた悪い癖が出てきたな。
はたして今度の生贄は誰なのかな。
黒髪をばさっとかき上げ、ふっとある事を思い出す。
部屋を出かけたブラッドレイに問いかけた。
「ねぇ、あのゲームで使った毒ってさ、焔の大佐のアレが原料なんでしょ?」
「ゲームの準備は前々からしていたとはいえ、大佐を捕まえたのは3日前。
良くそんな短期間で毒を精製出来たね。」
ピタッと足を止めゆっくりとエンヴィーの方に振り向くと、ブラッドレイは小さく囁いた。
「薬を錬成するのが得意な古い友人がいてね。彼に頼んで錬成して貰った。」
その言葉を語る時のブラッドレイの顔は、エンヴィーが今まで見た事のない優しく、情愛に満ちた笑顔だった。
「大佐!!!!!」
別荘の門から駆け上がってくる小さな人影を見つけ、ロイは気だるい身体を起こして
散らばった衣服を手に取った。
小高い丘に建っている別荘は、門から長い階段を上がらなければ行けない。
だがそのお蔭でバルコニーや窓から見える風景は絶品で、それを一日眺めているだけでも
心休まるところだった。
今はこの長い階段がいい時間稼ぎになってくれる…
ロイはバルコニーで散々はボックに抱かれ、中に精欲を注ぎ込まれ、腰がだるくすぐにでも
横になりたいほどだった。
一週間はあいつの性奴隷と成り下がっているのだから文句の一つも言う事は出来ない。
少しでも命令に背けば躾と称され、首輪のスイッチが押される。
抱かれたまま気を失い、そのまま放って置かれたらしい。脱ぎ散らかした衣服がそのままだった。
「エドが到着するまでにせめてズボンぐらいははかなきゃな…」
苦笑しながらバルコニーに身を乗り出すと、エドはもう半分以上の所にいて、左手を振りながら
残りの階段を駆け上がっている。
ロイも片手を挙げ、エド…と声をかけようとした時…
ビリビリ!!
「うわっ!!」
下半身に鋭い痛みが発し、バルコニーの手すりに倒れこむ様に足が崩れていく。
苦痛の表情で振り向くと、ハボックがスイッチを持ったまま部屋の窓からにっこりと微笑んでいた。
「ハボ…」
「俺の名前以外呼ぶの禁止。まだ明日の朝までは俺のものです。あんたは。」
エド、じゃなくて鋼の、ですからね。
震える足に何とか力を入れようと試みるが、刺激が尾を引いていて言う事を聞かない。
そうこうしているうちにエドは階段を昇りきり、うずくまっているロイの目の前に立っていた。
「…大佐…?」
どうしたの、と続けようとして、その表情を見て思わず声を押し殺した。
「や、ぁ…鋼の。」
冷や汗を流し、気遣いも荒いロイをすぐに介抱してあげたい。
だが窓から近づいてくる気配を感じ、それをする事は躊躇した。
「いらっしゃい、大将。少し早くありませんっすかね。」
少し勝ち誇ったように話しかけるハボックに、エドは余裕を持って答える。
「今日が最終日だ。黒豹は飼い猫になったのか?」
グッと唇を噛みしめ、拳を握り締め、この鋼の挑発に耐える。
判っている。俺は負けたんだ。野生の黒猫は俺の足元には懐かなかった。
抱いている間中、あの人は俺の名前は呼ばなかった。
イク寸前に「エド」って何度も叫んでいたが。
だから最後の足掻き。あんたの名前は明日の朝まで呼ばせない。
俺の名前だけを…あんたは呼ぶんだ。
「ま、来ちまったモンは仕方ない。どうぞこちらに。」
「ちぇっ!あんたが呼んだのに。」
「俺は夜って言いましたけど。」
「夜まで待てない。」
エドが上唇をぺろりと舐め、妖艶な笑みを浮かべてロイに視線を向ける。
ハボックはしゃがみ込むロイの肩を抱き寄せ、そのまま抱え込みながら立ち上がらせた。
「パーティーは夜からです。それまで適当に寛いでいて下さい。」
「ハボ!?パーティーって…」
二人だけでやるんじゃなかったのか?
「まさか。皆に俺の大佐を見せ付けなきゃね。」
懐かないまでも…今夜までは俺のペットだった事を。
見る見る青ざめた顔をするロイにハボックはふっと笑って耳たぶに噛み付いた。
「ゲームはまだ終わっちゃいませんよ…」
エドに眼をやると無邪気に笑っている。
バルコニーの下から車が止まる音が聞こえた。
「黒塗りの…車…」
あの方も呼んだって訳か。
「親友も、忠実な部下も来ますよ。」
さぁ、最後のゲームの始まりです。
覚悟はいいですか…?
ロイはグッと拳を握り締め、エドに向かって小さく微笑むとハボックの首に腕を回し、
自ら濃厚なキスを交わしてきた。
銀色の糸を繋げながら、ハボックに向かって怪しく微笑みかける。
「来るがいい。私は負けはしない。」
美しく光り輝く焔を手に入れたくば、己の全てを賭けてかかってくるがいい。
月の女神が勝利者を照らす時、全てのゲームが終わる。
勝利するのはただ一人。
To be continues.