ゲームを征する者〜Second stage〜  2          



        セントラルから少し北に行った小さな街。



        観光で何とか成り立っているこの街に、異様な風景が広がっていた。
        その町にただ一つの駅に、大勢の屈強な男達が集まっていたのだ。


        身体つきを見ればその力の強さが分かるような男達や、見るからに華奢な身体だが、手に錬成陣のついた手袋や
        甲当てを身に纏う者達。


        駅を管理する駅長が眼を丸くしてその光景を見つめていた。

        「何なんだ…これは一体…」
        続々と集まってくる人だかりを捌き切れず、あちこちでちょっとした衝突も起き始めた。


        「やれやれ…軍の中にも頭のいいやつが結構居たんだな。」
        「中佐殿…ここで一体何が始まろうとしているのですか?」
        「ま、それは現場に行けば分かるよ。っと、多分あいつも来ている筈だが…あ、やっぱりいたか。」


        人だかりの中、金髪の背の高い男を目ざとく見つけ、人込みをかき分け近づいていく。


        「ハボック少尉!」
        呼ばれて振り向き、あからさまに嫌悪感を秘めた表情を見せた。

        「ご無沙汰してます、ヒューズ中佐。と、アームストロング少佐。」
        一応形だけの敬礼をかざし、その場を立ち去ろうとするハボックをヒューズはガシッと捕まえ自分に引き寄せた。

        「逃げるなよ!お前もあの掲示板見てきたんだろ??腕駄目しか?焔目当てか?」
        「そういう中佐は何がお目当てなんスか?」
        「俺か?俺は焔目当て。当然だろう?俺がおかしな連中から守ってやらなきゃ!」

        ニヤニヤ笑いながら眼鏡を直し、そのままハボックを引きずって駅構内から外へと出て行った。


        ハボックは諦めた様にヒューズと行動を共にした。


        「に、しても結構な数ですね。」
        「あのメッセージに気づいた輩がこうもいたとはな。ハボ、お前も気づいたからこそ来たんだろう?」
    
        「当然ですよ。焔を手に入れられるとなればこんなチャンス滅多にないですからね。」
        「やっぱり焔目当てか。ま、頑張れよ!」

        パンと背中を叩かれハボックは咥えていたタバコを思わず落としてしまった。
        冗談じゃないっすよ…全く…

        この人だかりは単なる腕試しなのか…

        それとも大佐目当てなのか…


        「こんなメッセージに乗るのは俺ぐらいかと思ってたんすけどね…」
        あの人も罪な人だ…行く先々で勘違いの邪な輩を増やしていく。  
        何度か危険な目に遇ったって笑っていたけれど…


        あの人の身体を求める上官は後を絶たない…何でだ…?


        上を目指す為に大佐は黙って命令に従う。決して逆らわない。
        エドの大将は黙認しているらしいけど…俺には耐えられないっすよ…

        だから俺は最後まで立って、焔を手に入れる。
        俺の物になれば…決して他の人には触れさせない。


        エドの大将にだって…親友のヒューズ中佐にだって…


        ブラッドレイ大総統にだって触らせるモンか!!


        「ところで…この先どう行けばいいのかな…?」
        「ここから例の所まではまだ大分ありますからね。」
        ヒューズとアームストロングの言葉にハボックははっとなりながら辺りを見回した。

        観光の街だから何かしら馬車や車があるんじゃないか?
        だがそんな物は見当たらず、もしあったとしてもこれだけの人数を運ぶには相当な台数と時間がかかる。

        月の女神が勝者を照らす…すなわち満月の夜。今夜だ。
        それまでに始められるのか??


        ヒューズ達が戸惑っていると、街の方から数台のトラックがやってきて、駅のそばで停車した。
        中から軍人らしき人が降りてきて、人だかりに向って叫びだした。


        「力を征する者は我と思わんものよ!戦士の眠る墓へとお連れする。勇気ある者だけが乗り込むが良い。」


        人々は争ってそのトラックの荷台へと乗り込んでいった。
        ハボックも乗り込もうとしたが、ヒューズによって止められた。
         
        「何すんスか?中佐。早く行かないと始まっちゃいますよ?」
        「まぁ待て。どうも上手く行き過ぎる。大総統の思う壺にはまりそうだ…」
        「大総統閣下??何故あの方が関わっていると?」

        アームストロングが驚いてヒューズの方を見つめている。
        ヒューズは頭をかきながらポケットからメモを取り出し、あのメッセージを読み出した。


        「海より参りし獅子の名の下に…海の獅子と言えばシーライオン。大総統府の紋章だ。」
        あっと、手をポンと叩き、すべてを納得したように頷く。

        「ハボックは気づいていたのか?」
        「まぁ、こんな事するのはあの人ぐらいしかいないっしょ…」

        大佐をこんな馬鹿なゲームに巻き込む事が出来るただ一人の独裁者。
        3日前から大佐は中央司令部に出張している。

        巻き込まれて拘束されてもおかしくはない。


        「勇気ある者、を悪く取れば勇気しかない者とも取れる。用意された物に頼らず、自分達で行った方が良さそうだ。」
        「戦場では勇気だけでは生き残れませんからな。ほら、中佐と同じ考えの輩も数人残っておりますぞ。」

        周りに眼を向けると、確かに数人の男達がトラックには乗らずに街の方へ歩いていく。
        ハボック達も目的の場所に向うべく街に行き、馬車か車を拾う事となった。



        目的の場所…戦士の魂が眠る墓へ…



        


        「ここって一応重要文化財なんじゃないの??こんな事に使っちゃって大丈夫?」
        「まぁそうだが…別にかまわんだろう。私からして見ればただの石の塊に過ぎんからな。」


        ブラッドレイが黒塗りの車を降り、後からエドが続き…その後ろから着いて来た小さめのトラックからは大きめの箱が
        運び出された。
        「準備はいいかな?エドワード…」
        「うん。ばっちり!昨日散々大佐を犯ったから気分は爽快だ。」
        
        見ててね!必ず優勝して見せるから…


        「一つ、約束してくれるかな?エドワード。」
        「?なに??」
        「君が優勝出来なかったら、ルールに従い他の優勝者に焔を授けなければならない。」
        「………分かってる…だから俺が出るんだ!絶対大佐を渡さない!」

        ブラッドレイの言葉すら耳を傾けようとしないエドを、優しく宥めながら諭すように話していく。

        勝てばよし。だが負ければ素直に認め、引き下がる事。
        誰の物になってもそれを認める事。

        「たかが1週間の間だ。それぐらいは我慢できるな。」
        「…その間に大佐が心変わりしたら…?」
        「それはお前たち二人の問題だな。期限が過ぎれば私はもう関係ない。」


        期限が過ぎて、やはりエドの方がいいと感じるか。それとも共に過ごしたご主人様の元に下るか…
        これは大きな賭けだな…クスッ…


        「…やっぱりゲームなんかしなきゃ良かった…」
        「お仕置きをしたいといったのはエドワードだよ?だから私はそれを更に面白く演出してあげただけだ。」
        「あの3日間だけで充分だった様な気がする…」


        結局俺も大総統に遊ばれてる??
        今更気づいても遅い…か。

        仕方がない。要は俺が優勝すれば済む事だ。


        「何人集まるかな…」
        エドは舌で上唇をぺろりと舐める。気持ちが高ぶってきている証拠だ。


        勇気と…そして用心深さを秘めた屈強な男達相手に何処までやれるかな…?
        久しぶりに腕がなる…



        エドとブラッドレイが踏み入れたその場所は、400年ほど前に立てられた闘技場だった。
        当時の権力者が己の欲望を満たす為に、飼っていた猛獣と奴隷を戦わせたり、奴隷同士で死ぬまで戦わせると言う
        行為を行っていた場所だ。

        多くの有能な戦士が誕生し、そして命を落としていった。


        故にここは「戦士の魂が眠る墓」とも言われている。



        エドとブラッドレイは一足早く現場に到着し、そしてメッセージによって集まってくる戦士達を迎える準備をしていた。


        先程の大きめな箱も運び込まれ、ブラッドレイがその蓋を開ける。


        「うっ…」
        突然の光にまぶしそうに眼を遅め、ロイがゆっくりと顔を上げた。

        「お早う、大佐。気分はどうかね?」
        「…ここは一体…」
        「さて…君の準備も始めようか?」


        ブラッドレイが一歩下がり、サーベルを抜き取るとロイの入っている箱目掛けて一文字に切り裂いた。
        スパッと切れ目が走ると、箱の木は二つに裂かれ、ガラガラと崩れ落ちる。

        中から全裸のロイが小さく蹲りながら現れ、その両手足には手錠がかけられていた。
        3日間の凌辱にすっかり体力を奪われ、起き上がる事もままならない状態だ。 

        ブラッドレイはぐったりしているロイを横抱きにして、そのまま観覧席へと連れて行く。


        入り口のすぐ傍でエドがニコニコ笑って待っていた。
        「見て見て!凄いところだよ!!なんだかワクワクしてきた!」

        観覧席へと出ると、夕暮れの赤い光に包まれた広い闘技場が目に飛び込んできた。
        さすが歴史が刻まれた場所、とでも言うのか…

        そう光景はこれから広げられるだろう邪な戦いには似つかわしくない幻想的な美しい景色だった。



        暫しその光景に見とれた後、ブラッドレイは徐に観覧席の横の壁に眼を向けた。


        「エドワード…この柱を使ってマスタングを拘束出来るよう作り直せるか?」
        「これを…?」
        「そうだ。皆にマスタングが見えるようにな。賞品を見せなければ闘志は湧かんだろう。」

        その光景を思い浮かべただけでロイは身が震え、エドとブラッドレイは歓喜の表情を浮かべていた。
        

        「わかった!!任せておいて!大総統も早く仕度しなよ。」


        早く大佐をその気にさせてきて…




        「ふふっ…それは任せなさい…見ているだけで本能が刺激される様仕込んでおく。」




        横抱き抱かれたまま逃げようにも逃げられないロイは、ただ黙ってその運命を受け入れるしかなかった。






        そして夜が更け…ゲームは始まる…




        美しき焔を手に入れる為の死のゲームが…
        


        
        To be continues.




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