ゲームを征する者〜Second stage〜  4          





        月明かりの元、アームストロングとデリマの格闘が始まった。







        「どっちが勝つと思う?」

        「まぁ、少佐殿じゃないっすか?」

        「お前もか。それじゃ賭けにもならんな…」





        大方の予想はアームストロング少佐だろうな。果たしてあのデリマと言う奴が何処までやるか…





        「折角お前の様な素晴らしい賞品があるのに、つまらん試合は見たくないのう?」

        くすっと笑いながら、腰のサーベルを鞘ごと取り出し、斜め前のロイの腰をつん、と突く。



        ジャラリと鎖の音を立て、屈辱の眼を潤ませながらブラッドレイを睨みつける。

        その眼が心地よいのか、満足げな笑みを浮かべてワインを飲み干した。



     



        その頃、下方のフィールドでは今まさに戦いが始まろうとしていた。





        「ルールは何でもあり、だそうだな。」

        「殺してもいいんでしたよね。恨みっこ無しですぜ、少佐。」

        「その言葉、そっくり返すとしよう!」



        ふん、と拳をあわせ、倒れている柱を持ち上げ殴りかかる。

        たちまち甲の錬成陣が反応し、無数の岩の支柱がデリマに襲い掛かった。



        「けっ、攻撃がワンパターンですぜ!少佐!」

        フットワークがいいのか、降り注ぐ支柱をかわしながらアームストロングの懐へと突進していく。



        「むぅ!?」

        驚くアームストロングに、デリマの拳が一発ボディに喰らいついた。

        拳に回転を効かせ、鳩尾深くめり込んでいく。



        「んっぐぅう」

        低い呻き声とともに、アームストロングが膝を折って倒れこむ。

        デリマがにやりと笑って更に顎を目掛けて拳を振り上げた。



        バキッ!!





        大きな身体が宙を舞い、瓦礫の中へと吹き飛ばされる。



        「早く立ちなよ!少佐。これぐらいでやられるなんて事はないっすよね。」

        にたにた笑いながら、ボクシング流のフットワークを見せ、攻撃態勢を整える。



        瓦礫がガタン、と崩れたかと思うと、その岩がまた宙を舞い無数の支柱となってデリマに突き刺さっていった。





        「だから、攻撃がワンパターンだって言ったでしょ!?」

        雨の様な支柱を軽くかわしながら、再びアームストロングのいる瓦礫へと突進していく。

        その身体に鉄拳を喰らわせようとしたその時、



        「はっ??」



        目の前にいたのはアームストロングではなく、彼の美しい(?)身体を形どった人型だった。







        「これぞ我が代々伝わるアームストロング家特有の変わり身の術!」





        そう言いながらデリムの背後に立ち、頬を目掛けて殴りつけた。





        たちまちデリムは吹き飛ばされ、闘技場の壁に叩きつけられた。

        瓦礫が崩れる音と土煙で辺りが騒然となっていく。



        「今ので勝負あったかな?」

        「これで決まっちゃったら面白くないでしょう。」

        身を乗り出して様子を伺うハボックに、ヒューズは何事もなかった様に水を飲む。



        これも自分で用意してきた物。ヒューズやハボックは、大総統が用意したものを決して口に入れようとはしなかった。





        「勝負あったか?たとえ無事でいたとしても相当なダメージだろう。潔くGive upした方がいい。」

        ゆっくりと壁に向って歩き、様子を伺う。



        ゆらりと動く人影にアームストロングがさっと身構えた。



        バチッ!!



        青白い光と共に、石柱が砕けてアームストロング目掛けて物凄い勢いで飛んできた。

       



        「なっ!!」

        とっさに両腕でそれを防ぎ、だがその勢いに両足の踏ん張りは効かず、そのまま柱と共に吹き飛ばされる。

        地面に叩きつけられるように打ち付けられ、その衝撃で地面にくぼみが出来る。



        ハァハァと息をつきながら顔をあげると、デリムが口から血を流しながらにやっと笑っていた。





        「貴様、錬金術を…」

        「かじっただけでさぁ。少佐殿の様に国家錬金術師にはなれませんでしたけどね。」



        少し大きめの石の欠片を持ち上げ、両手をあてる。



        たちまち錬成反応を示し、その石は小さなナイフの様に形取り、そして勢いよく飛び出していく。

        石の中にある熱を原動力に、まるでロケットの様に飛び出していく。



        腕を掲げてそれを防ぐがその勢いは強く服の上から腕に突き刺さっていった。



        グッと苦痛で顔を歪ませた瞬間、デリムの拳が目の前に迫ってきた。

        

        「おのれ!小癪な真似を!!」

        「貰った!!!」



        デリムの拳はアームストロングの右頬を捉え、同じくアームストロングの拳はデリムの左頬を捉えていた。

 

        ドッ…



        鈍い音と共に二人の拳はそれぞれの頬を軋ませ、その勢いに互いが吹き飛ばされる。

        アームストロングが倒れ際に右手を突き、体勢を整えようと身体を捻らせたその時…



        「てぃやぁああ!!!」

        「むっぅぅ!!!」



        デリムが空中から飛び込み、落下の勢いを利用して、全ての力をアームストロングに向け解き放った。



        余りにも迅速な攻撃だった為、アームストロングは受身を取ることが出来ずその拳を全て受けてしまった。







        「おぉぉ!!!」

        「まさか!少佐が!?」





        ばったりと倒れたその傍に、デリムが最後の一撃を加えるべく、瓦礫に錬成陣を描いて両手を合わせようとした時…





        「勝負あり!デリムの勝ちだ。それ以上の攻撃は許さん。引け!」



        ブラッドレイのその一喝に流石のデリムも我に返り、思わず瓦礫を地面に落としてしまった。

        ゆっくりと身体を起こすアームストロングの顔は、赤く腫れ上がって痛々しそうだった。



        だがその表情は晴れ晴れとして、目の前の敵に敬意を示す眼差しで見つめていた。





        「我輩の一瞬の隙を良くぞ見抜いた。その腕前、感じ入ったぞ。」

        すっと右手を差し出し、握手を求める。

        デリムもその手を受け入れ、格闘家同士の固い握手を交わしていった。



        見ていた他の参加者が一斉に歓声を上げる。

        邪な戦いだと言う事を忘れ、目の前の試合に感動していた。





        勿論、ブラッドレイは面白くない…

        

        欲望を曝け出した戦いでなければ、ゲームを開催した意味がないのだ…





        「アームストロングにデリム、よくやった。よい戦いを見せて貰ったぞ?」



        VIP席から立ち上がって拍手をし、二人を自分の席へと招き入れた。

        デリムはロイを眼にすると、清々しい表情から途端に欲望の眼差しを浮かべていく。

        アームストロングは目線を反らし、ただブラッドレイにだけ眼に移していた。



        「よい試合だった。褒めて遣わす。デリムはそのままここに残れ。アームストロングはこの階級章を返す。」

        「はっ!ありがたき幸せ!」

        「ご期待に添えられず、面目次第もございません…」



        すくっと立ち上がると、デリムとアームストロングの両肩に手を置き、その功を労った。

        そして二人の耳元に顔を近づけ、悪魔の声で囁いた。





        「その功績を称え、特別に賞品に触れる事を許す。」





        ただし、キスと…ほんの少しだけ喘がせるだけだぞ?



        その言葉にデリムは驚喜し、アームストロングは困惑する。



        そしてロイは…ただ黙ってうな垂れているだけ…





        「ありがたい事で!では早速…」

        そう言ってデリムはロイの傍に跪き、その顔をぐっと自分の方に向けさせた。

        虚ろな瞳はデリムの欲望を助長させる。

        舌舐めずりをしながらロイの唇を指で撫でる…



        半開きの唇が扇情的で、デリムの喉がゴクリとなった。



        「大佐…あんたを東方司令部出張で見かけた時から、俺はあんたを…」

        震える唇に自分のそれを重ねていく…

        余韻を味わう事無く、デリムは性急に舌を入れ込み、その中を犯していく。



        「ふっぅんん……」

        ぴちゃぴちゃとワザと音を立てて、今自分がこの焔を所有している事を知らしめる。

        左手で後頭部を押さえてディープキスを交わしながら、右手はロイ自身に回された。



        「んっんんん!!」

        唇を犯されている為、声も出せず、その右手の動きに身体をくねらせ反応する。

        ようやくキスから開放されると、途端に濃艶な声を上げ始めた。



        「はっあぁぁぁあ!!」

        「へぇ、いい声上げるんですね…益々俺の物にしたくなった…」



        右手の動きを更に過激にし、その反応を楽しんでいる。





        「ではこの後も勝ち続ける事だ…」



        そう冷ややかに言い放ち、いつの間にか抜いたサーベルの剣先でデリムの右手をツン、と突いた。



        たちまちデリムは右手を離し、ロイの傍から飛び上がる様に離れて行く。

        ゲームの主催者から放たれたその威圧感は、デリムを心から恐れさせた。



        大佐を手に入れるには勝つしかない…

        デリムの心に闘志が再び燃え出し、邪な心が身体を支配していく…



        先程の試合の清々しさなど、どこかに吹き飛んでしまっていた。

        美しき焔を手に入れる為なら、どんな事をしてでも勝ち進む!





        欲望に満ちた眼の輝きをブラッドレイが確認すると、さも満足げに微笑んでいた。





        「次はアームストロング少佐だな。さ、賞品に触れるといい。」

      

        顎をしゃくってアームストロングをロイの方へと促す。

        しかし、アームストロングは首を振ってその場から動こうとはしなかった。



        「お言葉ですが、我輩、力試しに参加したまでで、賞品に興味はございません…」

        直立不動でブラッドレイだけを見つめ、ロイの方に眼を向けようともしない。



        ブラッドレイは苦笑を浮かべながら、ロイの背後に回りこみ、その顎を掴みアームストロングの方へと向けさせた。

        ジャラリと鎖が鳴り響き、邪な心を持つものは、それだけで脳が快感に囚われていく…



        「上官を手にすることが出来るのは今だけだぞ?遠慮せずともよい。触れてみよ。」





        ブラッドレイの左手がロイの身体のラインを撫でていく。

        時折強く押すのは、そこがロイの性感帯だという事を知っているのは今はエドだけだった。



        その手動きに合わせる様に、ロイの息遣いが荒くなっていく…



        アームストロングの目が一瞬眼を見張るが、すぐに目線を反らし顔を背けた。





        やれやれ…マスタングの色香でも、この潔癖な軍人は効果無しか…

        だが、触れてしまえばアームストロングとて、マスタングの媚薬に酔い痴れるだろう…





        あやつを触れされる方法はただ一つ…





        「では、私の命令だ。アームストロング少佐。マスタング大佐に触れなさい。」



        階級章を渡し、その立場を認識させる。

        軍属、と言う大総統に逆らえない立場を…





        グッと拳を握り締め、硬く閉じた眼をうっすら開き、意を決した様に敬礼をかざした。



        「…はっ…大総統閣下…ご命令に従います…」





        ゆっくりとロイに近づき、跪いてその瞳を見つめる。

        漆黒の瞳に自分が映し出されると、アームストロングは目を細め躊躇った。



        「どうした…?少佐。次の試合が控えている。早くしなさい。」

        ロイとアームストロングの脇に立ち、威圧する様にサーベルをドン、と床に響かせた。

        アームストロングは俯いて、ただ一言、ロイに向って囁いた。





        申し訳ありません…と…





        そのままロイの顔に近づき、その頬を両手で支えると、わななく唇に己のそれを重ねた。

        触れる様にそっと口付けをし、そのまま離れようとすると、ブラッドレイのサーベルがアームストロングの

                後頭部にピタッとあてられた。



        「そんなキスではマスタングは満足せんよ。マスタング、お前の舌技を見せてやるがよい。」

        サーベルに促され、アームストロングが再び顔を近づけると、ロイは重なった唇から自ら舌を滑り込ませていった。



        ジャラリと鎖の音を立てながら、逃げ腰のアームストロングの舌を絡め取る。

        その舌捌きにアームストロングの思考が崩れていく…





        変わりに浮き出てくるのはどうしようもない快楽と欲望…





        いつしかアームストロングの両手はロイの頭を押さえ込み、そのキスに没頭し始めていた。



        そして、ふっと差し出された右手がロイの身体をなぞっていく…





        「ふっぁああ…」

        重なっている唇から、洩れる様に聞こえてくる官能的な喘ぎ声。

        ロイ自身に右手が到着した時、アームストロングは我を忘れその先端を弄り密を吐き出させた。



        「やっ…ハァああ…少…佐…」

        ロイのその声にはっと我に返り、眼を見張りながら後ずさりをしてロイから離れる。





        自分は…今…何を…





        その狼狽振りにブラッドレイは満足げに頷き、アームストロングの脇にしゃがみ込んだ。





        「どうだ…よかったであろう…あれは魔薬だ…一度でも触れてしまったらもう忘れることは出来ない…」

        次に会った時…お前の理性がどれほど耐えられるか楽しみだ…





        黒い笑みを浮かべながら、ブラッドレイはすくっと立ち上がり、そしてアームストロングに宣言した。





        「敗者に用はない。立ち去るがいい…」

        ブラッドレイはそのまま自分の席へと戻り、手にしたワインを飲み干した。





        ゆらりと立ち上がるアームストロングは、今、自分の中にどす黒い欲望が生まれた事を受け入れる事が出来なかった。





        マスタング大佐を犯したい…





        その欲望を抑えるのに必死だった…



        早くこの場から立ち去らねば…大佐の傍から離れなければ…

        アームストロングは敬礼もそこそこにその場から離れ、一度も振り返る事無く闘技場を後にした。







        その様子をブラッドレイは事の他喜んでいた。



        そう!それでなくては面白くない…

        ゲーム終了後もマスタングにとってはゲームは続く様なもの。



        一度植えつけられた邪な心はマスタングを執拗に攻め立てるだろう。

        さてさて、マスタングは逃げ切れるかな?

        エドワードは守りきれるかな…?







        にやりと笑いながら、新たな試合を始めるべく、箱の中に手を入れる。





        参加者が固唾を呑んでその発表を待っていた。







        『いい試合をすれば賞品に触れることが出来るかもしれない』

        『いや、勝ちさえすればきっと触れさせて貰える…』





        そういった思惑が参加者の戦意を高めていた。











        「次の対戦相手はハボックとグリエル!」







        「次は俺ですか。」

        「頑張れよ。あの少佐が負けたんだ。レベルは高いぞ?」



        ガチャっと銃に弾を込めるハボックに、ヒューズがポンと肩を叩き声をかける。

        その応援に別段気にもしない様に、ハボックは両肩のホルダーに銃をしまい、ズボンの後ろにも三丁めをしまった。



        「あの焔を手に入れるゲームですよ?レベルが高くて当然っすよ。」





        皮の手袋をはめ、徐々に戦意を高めていく。







        待っていて下さい…必ず勝ってみせますよ、大佐…







        観覧席の壁をさっと乗り越え、戦いの場へと降り立つ。

        グリエルは奥の控え室からぬっっと現れた。







        「なっ…」





        その姿にハボックを始めヒューズも皆が驚愕する







        その体格は2メートルを超えアームストロングをも凌ぐ筋肉の持ち主だった。





        「紙屑同様に捨ててやるよ、坊主。」

        「へっ、そう言っていられるのも今の内…」







        だがハボックのその声は少し頼りない…

        果たして錬金術も使えない俺に勝機はあるのか…?







        美しき焔を奪い合うにはそれなりのリスクあり…か。







        ハボックは苦笑しながら、戦いの中へ身を投じていった。        





        

        To be continues.





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