ゲームを征する者〜Second stage〜 6
「やぁ、ヒューズ中佐。」
「元気そうで何より、だな。鋼の。」
にやりと笑いあってお互いの健康を称えあう。
そんな和やかな雰囲気の口調とは場違いの凄まじいまでの殺気。
エドは両手を合わせ、右腕の機械鎧を剣に変えていく。
同じ様にヒューズもタガーを取り出し、エドに照準を合わせた。
「鋼の!ヒューズ!!」
二人が放つ殺気をロイも感じ、思わず声をあげてしまった。
ピクリと肩を震わせ反応するエドに、ヒューズは思わず苦笑した。
「ほら、お前さんの大事な恋人が呼んでるぞ。振り向いて手を振ってやれよ。」
「そして背中からそのタガーで俺を突き刺す?そんな馬鹿な事に乗るわけないじゃん。」
「そっか?じゃ、俺が手を振ってやるよ。おーい!ロイ〜!元気か〜〜」
あまりにも緊張感の無いヒューズの態度にエドは自分が馬鹿にされた様に思い、怒りで肩が震えだした。
「ふざけるな!とっとと始めようぜ!中佐。」
「まぁ、待て。お前、何でこんなゲームに参加してる?と、いうより、何でこんなゲームが開催される事になった?」
きらりと光る眼鏡の奥の瞳がエドには見えない。
本当に分かっていないのか…?
大佐のあんたとの浮気が原因なんだぞ…?
イライラする…あんたの顔を見ていると。
何もかも悟った様なその微笑。
大佐と過ごした年月が俺より長いからって全て知った風な顔をするな!
「俺が勝って大佐は俺のもんだと言う事を知らしめる為!」
エドがそう叫びながらヒューズの方へと突進した。
ヒューズもタガーを身構えて応戦する。
正確に切り込んでくるエドの刃を、これまた正確に打ち返すヒューズのタガー。
刃が小さい分、ヒューズの方が不利なのだが…
「てっ!!」
ピッと赤い線がエドの腕に走る。
つつっと血が流れ、エドの顔が険しくなった。
「こっちの刃が短い分、お前さんの懐深く入っていかなきゃなんねーからな。」
互いの剣の長さが違う為、間合いを計るのが難しいと言う訳だ。
特に長い方のエドは懐深く入られる為、切りつける間合いを完全に外されていた。
ただのデスクワークの親馬鹿かと思っていたが…
「そう簡単には勝たせてくれないのかな…中佐…」
「今のお前じゃロイは渡せない。俺が勝ってロイを救出する。」
ヒューズはロイの方に目を向けて、ぱちんとウィンクをして見せた。
ロイがジャラリと鎖の音を立てて身を乗り出し二人の戦いを見つめていた。
「ヒューズ…」
「気になるか…二人の戦いの行方が。」
にやりと笑いながら話しかける主催者に、ロイはきっと睨みつけ「当たり前です」と答えた。
生死をかけた戦い…どちらも自分にとっては大事な人物。
傷一つですら負って欲しくないのに。
どちらも負けて欲しくない。だがどちらも勝って欲しくもない。
どうすればこんな馬鹿げたゲームを止めさせられるだろうか…
どうすればエドに私の想いを分かって貰えるだろうか…
どうすれば俺の想いを分かって貰える…?
こんなにも愛しているのに…
こんなにもあんたを独り占めをしたいのに…
「戦って…勝って…それでこそあの人を俺だけ物に出来るんだ!」
だから中佐も躊躇なく倒す。
誰よりもあの人を理解しているあんたを倒す。
「ぐおぉぉぉ!!」
気合を入れながらエドがヒューズに切り込んでいく。
ヒューズは紙一重でそれをかわし、隙あらばタガーを突きつける。
ザクッ!!
パラパラと金色の髪が地面に落ちていく。
「エド!!」
ロイが身を乗り出し叫び、その度にジャラリと鎖の音を辺りに響かせる。
「たまんねぇ…全く…」
ハボックがヒューズとエドの戦いを眼に映し、耳から欲望を沸き立たせる音に支配されていく。
二人が相打ちでもしてくれりゃぁ、早いんだがな。
親友も、現恋人もいなくなれば、あの人は俺を見つめてくれるだろうか…
ハボックは苦笑いしながらロイの方に眼を向けた。
白い裸体は鎖の音を響かせながら目の前で繰り広げられている無益な戦いを苦悩の表情で見つめていた。
その表情を見ながらワインを飲むブラッドレイの顔はまた、この上なく上機嫌だった。
「頭くるな。生死をかけた戦いがそんなに面白いのかね。」
「誰?あぁ、大総統の事?あの人は俺達の事より大佐が苦しむ姿が見たいだけだ。」
しらっと言い放つエドに、ヒューズの顔が僅かに歪む。
こいつ…本当にロイの事愛しているのかね?
「…じゃ、俺は降りる。」
ポツリと言ったヒューズの言葉に会場にいた誰もが驚きの声をあげた。
降りる…?どういう事だ…?Give Upするって事か!?
「Give Upだ。俺の負けだ。」
そう言ってタガーを地面に置き、両手を上げる。
ろくに戦ってもいないのに…何を考えて…
「…何でだよ!まだ全然戦ってないじゃないか!」
「別にいいじゃないか。お前の勝ちは勝ちなんだから。」
「でも!」
釈然としない。それどころか物足りなさでイライラする。
俺に情けをかけたとでも言うのか!?冗談じゃない!俺は実力で中佐に勝てる!
「俺は納得なんてしない!武器を取れ!互いの命が尽きるまで戦え!」
「冗談。俺には可愛い奥さんと娘がいるんだ。こんな事で命張っていられっか!」
「やりたきゃお前一人でやれ。俺は降りる。納得行かないのなら俺の背中を刺して終わりにすればいい。」
くるりとエドに背を向け、観客席へと向うヒューズに、エドは肩を震わせながら剣を構えた。
ふざけるな!ふざけるな!ふざけるな!
「ふざけるな!!!」
エドは大声で叫びながらヒューズに向って走り出した。
ヒューズは後ろを振り向こうともせず、黙って前を歩いていくだけ。
俺はロイを助ける為にゲームに参加した。
だがそれがロイを苦しめるだけではなく、あの悪魔を喜ばせると知った以上、もう参加は出来ない。
俺が剣でお前の恋人を傷つける度、お前は悲しそうな顔をして俺を見つめていた。
「そんな眼を見るくらいならここでGive Upしてもいいさ。」
死をかけたゲーム。それくらいの覚悟はできている…
「エド!!駄目だ!!止めてくれ!」
とっさに叫んだ愛しい人の悲痛な声。
場内に響き渡る叫び声にエドも動きをピタッと止めた。
その剣先はヒューズの背中まで後ほんの数ミリの所だった。
エドはぎゅっと眼を閉じ、腕を震わせ、そしてその腕を静かに下ろした。
分かったよ…あんたがそんなにまでもこの人を大切に思うなら、俺ももう何もしない。
「Give Upなんだよな、中佐。」
「そうだ。お前の勝ちだ。エド。」
必ず勝ち進んでロイを手に入れろ。これはお前の義務だ。
振り返ってエドの頭を鷲づかみにするとそのままくしゃくしゃに撫で回した。
「分かってる!必ず大佐を手に入れる。」
ヒューズの腕を振り払うとエドは不敵に笑い返す。
だがブラッドレイはこの成り行きに納得などしていなかった。
「つまらぬ!何て面白みのない試合だ!」
親友と恋人が血と血で争い、マスタングを奪い合う。
どちらかが傷つき倒れるまでの戦いを見せつけられたマスタングのその表情こそが美しいのに。
「エドワード!お前はそれで納得するのか!」
威圧感で押しつぶされそうな怒号に、会場の誰もがブラッドレイが怒っている事を悟っていた。
先程のグリエルを情け容赦なく一刀両断した独裁者。
今の試合の成り行きに納得などするはずもなく、このままでは双方失格もありえる。
いや、二人とも制裁を加えられるかもしれない…
焔を手に入れる為の試合のはずが…これでは単に大総統を悦ばせるだけの試合と化してしまう。
試合を控えていた兵士達の間に動揺と戦意喪失が広がってきた時…
小さな悪魔が口火を切る…
「じゃぁ、大総統が面白くしてよ。」
俺達の戦意が向上するように。
にやりと笑うエドの表情は限りなく黒い…
ロイでさえ背筋が冷たく感じるほどだった。
「私が?お前と戦うと言うのか?」
「ううん、大総統とやったら勝てるわけないじゃん。そうじゃなくてさ、」
パタパタとVIP席に駆け上がり、ブラッドレイの傍にやって来た。
そのままブラッドレイの耳元で何やら囁き、ブラッドレイはたちまち上機嫌になっていく。
「お前は構わないのだな。」
「いいよ。俺も見てみたいモン。」
横目でロイを見て、クスッと笑い合う。
二人のその表情を見て、ロイは何をしようとしているのか何となく想像がついた…
つかつかとロイの傍まで近づくと、エドはその黒髪をグッと掴み震えるその唇を塞いだ。
「んっふんんん…」
だらりと糸がのびる程濃密なキスを交わすと、額にチュッとキスを落として、
エドは観客席へと戻って行ってしまった。
救いを求める様な眼でエドを追いかけていると、グイッと背後から顔を引き寄せられた。
「勝利者のエドがお前に触れる権利を私に託したが、さて、何処まで触れてよいものかな。」
その言葉にロイの眼がカッと開き、漆黒の瞳に絶望感が漂い始めた。
こんな…大勢の人の前でこんな格好をしているだけで身体から火が噴出すほど恥ずかしいと言うのに…
この悪魔に触れられたら、人目も憚らず喘がされ、醜態を晒される…
「エ…ド…」
声を絞り出して愛しい恋人に救いを求める。
だがエドはにっこり笑いながら観客席で高みの見物を決め込んでいた。
ヒューズ!
親友の名前を叫びたくても声を出す事も出来ない。
ブラッドレイが背後から指をロイの中に突き入れ、その舌を2本の指で挟みながら弄んでいたからだ。
半開きの口から時々見える赤い舌が、見ている全ての参加者の下半身を刺激し始めた。
ただ一人、ヒューズだけはその光景に眉をひそめる。
思わずVIP席へ一歩足を進めた時、ブラッドレイが怒涛の如く叫びだした。
「敗者に用はない!去れ!」
ヒューズの足元にばさっと布切れが投げ渡される。
それを拾い上げた時、ヒューズは自分ではどうにも出来ない立場へと追いやられる。
「大佐の醜態、見るんなら観客席に残れば?ヒューズ中佐。」
エドがヒューズの階級をワザと強調する様に語尾を強めた。
軍属…そこに戻れば最高権力者に逆らう事は許されない。
月明かりに照らされたロイは、背後からの愛撫に堪えきれず淫猥な喘ぎ声をあげ始めた。
その声に誰もが魅了され、そして欲望が助長されていく。
ヒューズは拳を握り締めながら観客席へと足を向けた。
「へぇ!やっぱり中佐も大佐の乱れるとこ、見たいの?」
エドがクスクス笑いながらヒューズに絡む。
ヒューズは相手にせず、そのまま席に腰を下ろした。
俺はお前の闇も全て受け入れると約束した。だから決して背を向けたりはしない。
「お前さんにロイを託したのは間違っていたのかもな。」
ポツリと呟いたヒューズに、エドがむっと振り返る。
先に裏切ったのはあんた達じゃないか!
そう言おうとした時、甲高い悲鳴に似た喘ぎ声が場内に響き渡った。
驚いて振り向くと、そこには眼を見張る光景が繰る拡げられていた。
背後から犯されているのは変わらない。
眼にすべきはロイの体位。
両足を膝裏から持ち上げられ左右に押し広げられ、恥ずかしい場所が丸見えになっている。
両脇にブラッドレイのSPが立ち、ロイの膝を押さえていた。
恥ずかしさと快感とが織り交ざりあい、ロイの先からは露が滴り落ちている。
背後のブラッドレイがそれを指で拾い上げると、ロイの秘所に塗りつけ、そのまま指を押し込んでいく。
「やっああああ…」
「早くここに入れて欲しいのかね?まぁ、待ちなさい。もうじき勝利者が決まる。」
「そうしたら存分に虐めて貰うといい。」
ブラッドレイが秘所に指を出し入れし弄んでいると、両脇のSPも空いている手を伸ばし、ロイの陰茎をこすり始めた。
「ひっあああ!」
ガクガクと身体を痙攣させ、3人の愛撫に悲鳴をあげた。
イキたい!そう思いながら背後のブラッドレイに身体を摺り寄せた。
中に挿れては貰えない。ならせめて…
「ダメだ。お前がイク時は勝利者の手で…だ。」
だから寸前まで高めてあげよう…ククク…
根元のリングがロイ自身をきつく締め上げ、それが最後の壁を越えさせない様立ちはだかっていた。
耐え様がない快楽と、イキたくてもイケない苦痛にロイの眼から涙が流れる。
ハァハァと言う荒い息遣いと、3人の腕がロイの身体を撫で回す度に上げる喘ぎ声。
そして苦痛に歪むその美しい表情…
戦意を失っていた多くの参加者がこの焔を奪うべく、己の欲望を奮い立たせる。
その邪な思いがVIP席にもヒシヒシと伝わってきて、ブラッドレイはこの上なく満足していた。
ほら…お前の醜態を見せただけで、参加者の戦意を奮い立たせる。
何て淫乱な奴だ…クスクス…
さぁ、この美しき焔を廻ってその命を賭けて戦うがいい。
そしてこの焔に見惚れる様な表情を映し出させて見せよ!
ぐったりしているロイをそのままにし、ブラッドレイはVIP席に戻り箱に手を入れた。
欲望の塊と化した参加者が固唾を呑んで見守る…
「次の対戦者は…」
二つの階級章と名前を見るなり、ブラッドレイは益々満足げな表情を見せた。
「マルコムと…そして私の名代として参加させる男だ。」
一瞬場内がざわめいた。
大総統の名代…?閣下は参加しないのでは…?
「名代?何すか?それ。大将、何か聞いてます?」
「ううん、俺も初めて聞いた。でも大総統の名代ならそれなりに強いんじゃない?」
別に関係ないや、と言う様にフィールドに眼を向ける。
マルコムと言うそれなりの体格をした者が戦意満々で待機している。
控え室の入り口から両手に枷を着けられた長髪の男が、両脇にSPに抱えられながら入ってきた。
その姿を見るや否や、ロイを初めとする参加者全員の表情が引きつった。
爆弾魔キンブリー…?どうしてここに…
イシュバールでの敵味方関係なくの無差別爆破で終身刑になった男が…何故…?
「本当は最後まで取っておきたかったのだがね。これでまた試合が楽しくなりそうだ。」
くっとワインを飲み、そして高らかに宣言する。
ゲームを開始せよ!
誰もが最悪のゲームを予想した…
To be continues.