ゲームを征する者〜Second stage〜 7
手枷を外され、髪を束ねるゴムも渡され後ろに一つに束ねる。
キンブリーは向かい合う相手に笑って一礼をする。
「大総統閣下からの直々のご命令でしてね。悪く思わないで下さいよ。」
あなたの命を奪っても…
そう不敵に笑いながら囚人服の袖をまくる。
馬鹿にされた様に捕らえたマルコムが顔を真っ赤にしながら右腰の大振りの剣を取り出した。
「命を奪うのは何もあんたとは限らねえ!」
うぉぉぉ!!と言いながらキンブリーに突進していく。
錬金術師だろうがなんだろうが、その腕を切り落としてしまえば後は!!
身体の大きさの割には素早い動きをするマルコムは、その剣先をキンブリーに向け、一刀両断に振り下ろした。
かわしたとしても剣の大きさからいって何らかの風圧でダメージを受けるだろう。
当然の如くその剣をかわし、逃げると同時に剣を両手で掴む。
「なっ!!」
剣の切れ味は良いのか、両手から血が滴り落ちる。
こいつ、自らの手を犠牲にして剣を掴む事で動きを封じたつもりか!?
「このまま手首ごと切り殺してやる!」
「まぁまぁ…もう少しゲームを続けましょう。」
でなければ隻眼の独裁者が満足しませんからね…
真赤に染まる剣先に一瞬青白い光が放たれると、マルコムはいきなり爆風に飛ばされ、壁に叩きつけられた。
自慢の長剣は粉々に砕け、その破片がマルコムの右腕に無数に突き刺さっていた。
「うわぁ、あれは痛いぞ。」
「一体何がどうなって…」
エドとハボックが同時に身を乗り出し、事態を把握しようをした。
ゆらりと立ち上がる影に、ゆっくりとキンブリーが近づいていく。
表情はとても楽しそうだ。
「ちっ、昔と代わってないですね!あいつは。」
「変わらんだろう。あの悪魔は。」
ヒューズがどっかりと腰を下ろしたまま試合を見ようともせずに持ってきた食べ物を口にしていた。
「中佐はキンブリーのイシュバールでの出来事知ってんすか?」
「あいつはロイと同じ部隊だったんだ。イシュバールでの掃討作戦の第一部隊。」
最前線でイシュバール人の兵士を撲滅させる。
焔と紅蓮の二人の錬金術師がいたその部隊は目まぐるしい成果を挙げ、戦況は一気に軍へと傾いた。
「だがある時部隊からの連絡が途絶え、1週間後に別部隊が救出に向かった時、
ロイとあのキンブリーだけが生き残っていたんだ。」
その時に受けた心の傷が、ロイを一時狂わせた。
「あいつは何があったのか一切話さなかった。後の調査でキンブリーが敵味方関係なく爆破した事が分かってな。」
その責めを負ってあいつは逮捕され、無期懲役。ロイはそれを阻止すべくキンブリーと戦ったと言う事で中佐に昇進。
「その古傷を出場させるとはな。大総統閣下は余程ロイを苛めるのがお好きらしい。」
ふっとヒューズはロイに眼を向ける。
ロイは身体を震わせながら下方の戦いを見つめていた。
どうして!!何故あの男が!
もう二度と会う事はないと思っていたのに!
「気に入って貰えたかね?マスタング大佐。」
ロイの心情を敏感に察したのか、VIP席でワインを片手に楽しんでいたブラッドレイが声をかけた。
キッと睨め付ける様に振り返り、唇を噛み締める。
その姿にブラッドレイは心底悦び、汗で一際輝いているその漆黒の髪にそっと指を絡ませた。
「イシュバールであの男と同じ部隊だったそうじゃないか。戦友の応援をしないのかね?」
そう耳元で囁くと、ロイの顔をグッと掴み、視線をキンブリーに合わせた。
その先に…あの日々の事を知る人物がいる…
あそこに…忘れられない愛しい人がいる…
キンブリーも目線をマルコムではなくロイに向けていた。
刑務所で過ごした日々…一日たりとも忘れなかったあの美しい顔。
今、手の届く所にあの人がいる。
「待っていて下さい、ロイ・マスタング。美しき焔よ。今あなたの傍に。」
にやりと微笑み、マルコムの方へと目線を変える。
右腕からは大量の出血。さらには吹き飛ばされた衝撃で全身打撲を負っていた。
既に戦意は失われている。後はマルコムがGIVE UPをすれば全てが終わる。
ゆっくり近づくキンブリーに本能が危険を察知したのか、マルコムはろくに戦う事無くGIVE UPを宣言した。
両手を上げ、ふらつきながら立ち上がる。
キンブリーは歩く事を止めず、マルコムのすぐ傍まで近づいた。
「ギ、GIVE UPだ!俺の負けだ!」
血だらけになりながら後ずさりをするマルコムに、キンブリーは優しく微笑んだ。
「GIVE UP?何ですか?それは。」
両手を伸ばし、マルコムの胸に押し当てる。
「!?キンブリー!!」
「止めろ!!」
ヒューズとロイがほぼ同時に声をあげた。
イシュバール戦線に出向いた者だけがキンブリーが何をしようとしていたのか即座に理解した。
「ひっ!!!」
小さな悲鳴と共に放たれる青白い光。
後に鳴り響く爆発音。
飛び散る血飛沫に流石のエドも眼を細めた。
「あいつ…相手が白旗あげてんのに…」
「それが爆弾魔キンブリーって男だ。」
ロイと同じ焔を扱う錬金術師。
だがその焔はロイとは違って不浄の紅蓮。
見てみろ、あいつの顔を。とても嬉しそうに笑ってやがる。
ヒューズが唾を吐くように言い捨てると、エドもハボックもキンブリーの表情に不快感を覚えた。
敵味方、男女、子供も老人も関係なく、目の前に現れた者をただ爆破し、焔に飲み込ませた男。
今度はこいつと戦わなくてはならないかもしれない…
参加者の中に言い様のない恐怖の空気が流れ始めていた。
ただ一人、ブラッドレイだけがその空気を堪能していた。
「素晴らしい!この恐怖と緊張感!これこそが死をかけたゲームと言えよう!」
立ち上がってキンブリーを褒め称え、自分の傍へと向かわせた。
勿論傍に銃を持った警官が控え、ちょっとでもおかしな素振りをすると撃ち殺す手筈となっていた。
「これは大総統閣下。ご満足頂けましたでしょうか?」
丁寧な口調で一礼をする。すぐ脇にはロイが繋がれている。
ちらりと目線を向け、その白い肌に欲情を覚える。
「大満足だ!流石私の名代だけあって素晴らしい試合の展開だ。」
「よって賞品に触れる事を許す!私が良いと言うまでこやつを鳴かせて見せよ。」
ありがとうございます、大総統閣下。
そう言うと、ロイの背後に膝をついた。
「お久しぶりですね…少佐。おっと、今は大佐でしたね。」
ふっとロイの首筋に指を這わす。
顔が見えない分、ロイは恐怖に慄き、身体を震わせ小さく悲鳴をあげた。
何だ…?マスタングの様子がおかしい……
たかが元部隊の男に触れられたからと言ってこれ程までに怯えるだろうか…
私の鬼畜な行為の時でもここまで怯えはしなかった。
過去にこやつと何かあったのか…?
キンブリーの指はそのまま背中へと移動し、肩甲骨をつつっと撫でていく。
顔を近づけ、ロイの耳元にはかつての同僚の吐息がかかる…
「あの時のように私を呼んで下さい…ロイ・マスタング…」
右手を背中から回し、恐怖で半分萎えてしまっているロイ自身をぎゅっと掴んだ。
「ひっあああ!!」
「ほら、思い出しますよ。あの素晴らしかった日々。」
あなたはこうやって甲高い声をあげ、身体を揺らして愛撫を懇願した。
ロイへの悪戯に楽しんでいるキンブリーを見て、ブラッドレイは益々疑問を覚えていた。
キンブリーと身体の関係があったのか?それだけでここまで怯えるものだろうか…
何が…あの焔をここまで恐怖に陥らせる…?
「やっ…もう…止め…」
「おや、もう根を上げてしまうのですか?あの時は一日中でも悶えてくれたじゃないですか。」
キンブリーの一言一言が参加者の脳天を刺激していく。
イシュバールでの語られる事のなかった第一部隊の事件。
エドもヒューズもハボックも、当然ブラッドレイもその真相に興味があった。
背後から胸を弄り、小さな突起を掌で転がして刺激を与える。
グッと顎を掴み、自分の方へと向かせてその戦慄く唇を吸い上げる。
「んぅんん…」
ぴちゃぴちゃと音をワザと立ててロイの羞恥心と恐怖心を煽っていく。
ああ、綺麗ですよ…マスタング大佐。あなたは以前と何ら変わっていない。
ロイの陰茎を絶妙なテクニックで扱き、快感を高めていくキンブリー。
次第にロイの中から恐怖は失われ、代わりに快楽が支配されていく。
「はっああ…」
「ほぉ…大分素直になってきましたね。それでこそ私の…」
「私のペットだ。」
強い口調で言い放ったその言葉に、一番驚いたのはブラッドレイだったのかもしれない。
To be continues.