5万打HITゲッター 桜月雪華さんからのリクエスト

「迫り来る氷帝」外伝で 不二と乾の話






満月の夜 2 〜迫り来る氷帝 外伝〜        



「今日は満月だね、乾。」
「そうだな。満月の夜は星が良く見えないんだよね…」

微笑む僕に、乾も同じ様に微笑んだ。

月に一度行われる定例会議。
今回は満月と言う事で夜、中庭で月を愛でながら行われる事になった。

風流な事を言い出したのはたかさん。
乾と同じ様に僕の世話を焼いてくれる。


武器を持つと人が変わってしまうと言うので、菊丸英二が見せてくれた。
そのギャップが面白くて僕はふっと微笑んだ。

「あぁ!笑った!良かった〜」
「??笑っちゃいけなかったのか…?」
「違うよ!不二はここに来てから全然笑わなかったからさ!みんな心配してたんだぞ?」

屈託の無い笑顔を見せながら僕にしがみ付いてきた。
あぁ、そうか…僕の事を心配してくれていたんだ…

ここ何年も笑う事などしなかったから…

「俺の事は英二、でいいからね!こっちは大石!俺の恋人!」
「え、英二!!」
「いいじゃんか〜〜事実なんだし!」

大石が顔を真っ赤にして俯いている。
英二は本当に裏表の無い素直ないい奴だ。

「少しはこの国にも慣れたか?」
「うん。皆良くしてくれるからね。」
手塚がさりげなく僕に聞いてきた。
一応心配はしてくれるみたいだ。良かった。

「不二…少し聞いてもいいか…?」
「うん?何?」
「乾の事何だが…」

他の人には聞こえないような小さな声で、手塚は話を続け出した。

「乾…ちょっとおかしいところは無いか…?」
「おかしいところ…って?」
「ん…最近の乾は何だかちょっと気になってな。いつも一緒の不二なら何か知っているかと思って。」
「別に無いよ。いつも通り、僕に良くしてくれる。」

流石だね…手塚。
乾の変化をいち早く見抜いた。

僕は嘘をついた。手塚に話しておくべきだったかもしれない。
でも僕には判る。この件はなるべくなら知る人は少ない方がいい。
いつかは話す時が来るかもしれない。だが今は僕の胸の奥にしまっておいたほうが良い。



中庭のテーブルに女王が座り、ついで手塚、大石、隣に英二。手塚の隣はたかさん。
そしてたかさんの隣は僕が座り、その向かいに乾が座る。
あえて隣に座らなかったのは、乾の行動全てを監視するため。

隣にいては見逃してしまうかも知れない。
僕の視界の中に常に入れないと。

「今日の満月は綺麗だね〜」
「そうですね。たまにはこういう会議も宜しいかと。」
「会議と言うよりお食事会みたいだにゃ〜」
「今日は議題になるような問題が余り無いですね。」
パラパラと書類を見つめる乾。普段と変わりない様に見える。

「いや、今朝ちょっとした国境でのいざこざがあってね。先程連絡が来たところだ。」
女王が紅茶を飲みながら話し始める。
手塚も驚いている。聞くのは初めてだったらしい。

「国境って、どっち?」
この青学は二つの大国に国境を接している。
南に氷帝帝国。北に立海大王国。どちらも強大な国だ。

「立海大の方だ。きっかけは酒に酔った立海大側の国境警備の兵士が、青学に向けて発砲した事だ。」
「それで?どうなりました?」
「うちの兵士達は何もしなかったから事なきを得たんだけどな。詳しい状況を聞いて、立海大には正式に抗議する予定なんだが…」
「向こうの参謀がどう出るか、なんだがね。」

参謀…確か名前は…

「柳蓮二、とか言ったっけ?相当優秀な参謀らしい。国王自ら引き抜いたと聞くが…」
「知ってる!自分の国すらも滅ぼした冷徹な奴だにゃ!」
「計算高いだけだよ、英二。あの国は既に末期状態だったそうじゃないか。」
「それでも利益にならないと判断すれば、容赦ない行動を示す。油断ならない男だ。」
「大丈夫にゃ!こっちにだって優秀な参謀が居るもん!」

英二が乾の腕を引っ張りしがみ付く。みんなの眼が一斉に乾に向かった。

「…?乾…?」
「乾、どうした?」

乾の顔が真っ青だ。どうした…?

「乾、どうしたんじゃ?顔色が悪いぞ?」
「スミマセン…少し気分が…」

英二の腕をそっと払い、乾がガタンと立ち上がる。
右手で口元を押さえ、表情は苦しそうに歪んでいる。

「しかたないのう。少し休んでおいで。」
「いや、今日はもう部屋に戻るといい。立海大の件は俺と女王で協議する。」
「方向が決まったらお前に意見を聞く。それでいいか?」

乾は小さく微笑むとこくんと頷き、女王に一礼して中庭を去って行った。


僕も同行したかったんだが、余り傍にいると皆に不審がられるので、それは止めた。
だが気になるのは事実。あの表情…態度。いつもの乾ではないのは明らかだ。

「不二、乾がちゃんと休むか見てきてくれないか?」

不意に発せられた手塚の言葉。僕は驚いて彼の顔を見る。

「そうじゃな。あやつは休めと言っても何だかんだとデータを取ってしまう悪い癖があってな。」
「ちゃんとベットに入るまでお前が見張っていてくれないか?」

女王も手塚同様、乾の変化に気づいていたのかもしれない。
他の皆には判らない様にさりげなく乾の後を追わせる。

「判った。ちょっと見てくる。後は宜しく。」
「頼んだぞ…不二。」

手塚が心配そうに僕を見る。大丈夫。きっと僕らの思い過ごしさ。

僕は足早に乾の部屋へと向かっていった。
城の廊下からは月明かりがもれて幻想的だ。

「満月…か…」
満月の夜は要注意。その魅力が魔力に変わる。
月の魔力に魅入られて、その夜は事故や殺人、自殺が多い。
僕のように「殺し」を生業としていた人間は満月の夜を嫌う。その明かりが身を隠す闇を消し去ってしまうから。

その魅力に引き込まれて、仕事が出来なくなってしまうから。

乾が中庭を去ってから大分経つ。すぐにでも後を追えばよかった。
僅かな時間差が運命を決めてしまう時もある。急がなきゃ…

乾の部屋の前に着き、僕はドアをそっとノックした。

「乾…?居る?開けるよ…?」

ドアノブに手をかける。鍵は掛かっていない。
僕の心臓がドキドキ鳴っている…この不安感…

部屋に入ると電気はついておらず、月明かりが部屋の中を照らしているだけだった。
僕は乾の姿を探して部屋の中を見回した。

「乾…?居ないの?もう寝ちゃったの?」

寝室のドアが開いている…
そっと開けてみると、乾の姿は何処にもなかった。

「乾…?何処に行った…?」
不安に刈られた僕は、乾の部屋を飛び出し、城中を探し回る。
何処だ?乾!馬鹿な真似はするなよ!

城の一番北にある塔に続く廊下に差し掛かった時、際奥の窓際に人影が見えた。

まさか…乾…?こんな所で…

月明かりをバックに窓際に腰掛けている影は、ゆらりと動いて窓の外を見つめていた。
その瞬間、きらりと光るものが僕の視界にはっきりと映る。


「乾!!!」

僕はとっさに叫んで光る物目掛けて銃を撃った。



カシャーン…



弾は見事に命中。乾の手からナイフが弾き飛ばされた。

「乾!何をしていたんだ!」
「不…二…」

驚いた表情で僕を見つめ返す乾。その眼から涙が一筋零れ落ちた。


左手からはドクドクと流れ出る赤い血。


「乾!あんた…手首切ったのか!?」
「不二…蓮二は…蓮二はそんな奴じゃない!」
「とにかく早く止血しなきゃ!動くな!じっとしてて…」
「蓮二は…俺を見捨てたりしない…俺は…信じて…」
信じて、信じて、信じて…愛しい人をただ信じて待ち続けた…


「蓮二…?柳蓮二の事か?」
「どうして会いに来てくれない…?どうして何も言ってくれないんだ?」
「蓮二…俺は蓮二を愛しているのに!蓮二は俺を見捨てたのか?」


乾は僕の腕を掴んで僕の胸に頭をつけて泣きじゃくる。
僕を蓮二と勘違いしているのか…?

「銃声がしたぞ?」
「まさか、刺客か?」

衛兵の声がする。まずい、ここから逃げなきゃ…

「乾、立てる?こっちに…」
ぼろぼろの乾の方を支え、奥の北の塔へと誘導する。
血の付いたナイフは勿論持って行ったさ。刺客だった時の癖。証拠は残さない。
薬莢も撃った瞬間拾い上げる。長年の染み付いた行動が役に立つ。


北の塔には鍵が掛かっているが銃のグリップで叩き壊し、中に入る。
塔は北の国境側の見張り番の役目もかねている。
有事の際、泊りがけで塔で監視を続けたそうだ。

立海大とは過去何度がいざこざがあったと聞く。
今の女王の時代になってから友好条約を結び、事実上終結した。


「乾…大丈夫か…?」
常設されていたベッドのシーツを破り、乾の手首に巻きつける。
切ってすぐにナイフを撃ち落としたから、それ程深く切れていなかったようだ。
包帯を巻いている間中、乾は泣いていて、ぼんやりと北を見つめていた。


「蓮二は…俺を見捨てたのか…」
ポツリと呟くその言葉に、僕はどう答えていいのか迷った。

噂を聞く限りでは、柳参謀は故郷を捨て立海大に組した。
自国を完膚なきまでに叩き潰し、その力と冷徹さを見せ付けた。


立海大に仇成すものはたとえ自分の故郷でも叩き潰す…


柳蓮二の恐ろしさを国々に知らしめたのだ。



「乾はまだ柳の事が好きなの…?」
「……蓮二はまだ俺の事を愛してくれているのか…?だったら何故俺に会いに来てくれないんだ!」
俺はここにいるのに…蓮二!


「……死なせてくれ…」
「…駄目だ。」
「蓮二がいないのに生きていても仕方がない!!」
「駄目だ!」

僕の強い口調に乾は俯いていた顔を上げ、物凄い形相で僕の腰にある拳銃を奪おうと襲い掛かってきた。
普通だったら僕は押し倒され拳銃を奪われていただろう。
乾と僕の身長差を考えればね。

でも僕は死と隣り合わせに生きてきた。
僕より大きい男をターゲットにした事なんて何百回とある。

乾をさっと交わし、その首筋に軽く活を入れる。

そのまま乾は床に倒れ、動きを止めてしまった。
全く。困るよ、君は大きくて重いんだ。ベッドに運ぶ僕の身にもなってくれ。


乾をベッドに戻し、そのまま僕は乾の肩を抑えて乾を覆いかぶさるように跨った。
まだ涙を流す乾の額にそっとキスを落とす。
乾はそのまま静かに眼を閉じている。


「死なせる訳にはいかない。君たち青学の皆は僕を生かしてくれた。」
「僕に…生きる場所を与えてくれたんだ…」

だから僕も与えてあげる…乾の生きる場所を…


コレは恋…?愛情…?


違う…これは互いの傷の舐め合いに過ぎない……



それでも僕は君を抱くよ。




それで君の笑顔を取り戻す事が出来るなら…


To be continues.
  









裏キリリクTOPに戻る Back Next



楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] ECナビでポインと Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!


無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 解約手数料0円【あしたでんき】 海外旅行保険が無料! 海外ホテル