光と闇と   12                  


腰周りに手を添えられ、そのまま引き寄せられる。


濃密なキスを交わすとアテムは右手をセトの服の腰紐を解く。
露になる肌に、アテムはそっと触れていく。

エジプト人にしては肌が白い方のセトは、スラムでも人気の娼婦だった。
客につくものは皆、その肌に赤い跡を着けるのを楽しんだ。

こいつもその節か。


そう頭で思いながら、セトはアテムの髪に指を絡めた。
客の髪に指を絡ませ、その気があるように見せる。
スラムで身に付けたテクニックの一つ。そうすると客は気があると思い喜ぶ。


バンッ!

アテムはその手を掴み、壁に思いっきり押し付けた。

「何をっ!」
「我が髪に触れる事は許さぬ。」
お前はただ黙って俺に犯されればいい。

互いが対等なSEXではない。
お前は我にとってただの奴隷に過ぎない。


言葉も出ないセトに、アテムは無表情でセト自身に手を伸ばした。

「うっあ!」
思わず出た声に、セトは唇を噛み締めた。

声なんか出してやるモンか!
あんたを喜ばせてたまるものか!


客を喜ばせる為のテクニックなど、決して使わないぞ!


アテムの手つきも、決してセトを喜ばせるものではなかった。
自らの欲望を満たすだけの性交渉。

だからセトの秘部も充分に湿らせる事無く、アテムは猛り狂った己を突き刺した。

「ひっああ!」
声を殺そうと思っても、激しい突き上げに押さえる事が出来ずに首を振って悲鳴をあげる。
側を通り過ぎた何人かの兵士がこちらを見つけたが、アテムの姿を認識すると、
声もかけられずにその場を立ち去っていった。

誰も…このおぞましい行為を止めようとしないのか!


誰も…この王子を咎めたり出来ないのか…



ハァハァと息遣いだけが聞こえる中、アテムの腰の動きが早くなる。
最後の瞬間が近づいてきているのだろうか。セトはアテムの背中に腕を回した。

「んっあ…」
「くっ…」

頂点に達したアテムはセトの中に放出する。
ぶるっと震え、身体の中に注がれる物を感じ、唇を噛み締めその感触に耐えていた。

アテム自身をずるっと抜かれ、支えを失ったセトはそのまま地面に崩れ落ちた。
立つ力も失われ、屈辱に満ちた目でアテムを見上げた。

どうせ…勝ち誇ったような目で俺を見下ろしているんだろう。
今まで俺を買ってきた貴族どものように。
王子だろうと所詮同じ。薄汚い貴族である事に違いはない。


だが、アテムのその顔を見て、セトは一瞬戸惑ってしまった。
その眼は自分のほうを見ていなかったからだ。


セトを見下ろす事もなく、真っ直ぐに眼の前の壁を見つめていた。
セトに触れる事もなく、その壁に手をつき、そして悲しそうに微笑んだ。


俺がこんな事をしていても、お前は沈黙を守るか。
嫉妬でもして、飛び出すかと思ったが。

「いや、その嫉妬心はまだ知らないんだったな。」
「何を…?」
「何でもない。大儀だった。下がれ。」

大儀…だと…?


「俺は貴様に奉仕するためにここに来たわけじゃない!」
「俺もだ。貴様を犯すためにここに来たわけではない。」
去れ。ここはお前の来る所ではない。そして二度と我に姿を見せるな。

振り返る事も泣く、アテムはその場を去っていく。
残されたセトはよろよろしながら立ち上がり、水場を探す。
中に放たれた物を処理しなければ、それが流れ出さないようにずっと
下腹部に力を入れていなければならない。

「アクナディン様に見せられない…何とかしなくちゃ…」
こんな所を見られたら、二度と城へは来させて貰えないかもしれない。

何より自分に軽蔑し、「娼婦」と罵られ追い出されるかもしれない。


どんな奴に何を言われても構わない。
アクナディン様にだけは軽蔑されたくない。


暫く歩くが水場は見つからず、気が緩むと太股から流れ出す精に、セトは苛立ちと焦りを感じていた。



「セト、どこへ行っていた!散々探したのだぞ?」


ふと背後から呼び止められ、セトは恐る恐る振り向いた。

「ア、アクナディン様…」
「王への謁見が控えておるのだぞ?私の元を離れてはならぬ。」
「は、はい…すみません…」
「まぁよい。さ、こちらへ来るのだ。王がお待ちだぞ。」

成す術もなく、セトはアクナディンの後に続くしかなかった。
身体を緊張させ、セトは大広間に足を踏み入れる…



「ファラオ…今度神学校に入学するセトでございます。」
アクナディンが一礼し、背後のセトを前に出す。

セトはゆっくり前に進み、大広間の奥の中央に座っている男に視線を移す。


神々しいと言うほどの威厳に、セトは圧倒され、そのまま崩れるように跪く。


「セ、セトでございます…縁あってアクナディン様の元で神に仕える術を学ばせていただいております。」
「うむ。中々優秀だそうだな。神学校で更なる知恵を身に付け、神と我が王家に仕えよ。」
ファラオに直接声をかけて貰うその光栄さに、セトは歓喜の思いでいっぱいだった。

娼婦にまで落ちた俺が、今まさにファラオに近い所にいる。


もうすぐだ…
もうすぐ俺は力を手に入れ、母さまたちを殺した盗賊を必ず捕らえてやる。


「時にセト、お前に頼みがあるのだ。」
「わ、私にですか?」


驚いて顔を上げると、ファラオが神妙な表情で見つめていた。

何だろう…?こんな俺に頼み事だなんて…

「うむ…実は我が…」
「失礼します!アテム王子がお越しでございます!」

ファラオの声を遮る様に、兵士が大声でアテムの登場を伝えてきた。
その声のすぐ後に、アテムが紫色のマントを翻しながら大広間に入ってきた。


「おお、息子よ。今頃の登場か。」
「………」
ファラオの問いかけにも無言で、アテムはアクナディンの真横を通り過ぎていく。
セトは身体が震えるのを押さえるので必死だった。


アテムを見ないよう、顔を下げ、奥歯を噛み締め感情を殺す。
スラム時代、屈辱な時間をすごす為の知恵だ。

すっとファラオの横に椅子に座り、そしてやっと声を発した。


「具合はどうだ?まだ中のモノの処理は出来てないのだろう?」


誰に発したのか、本人が一番よく判っていた。


「どうした。王子の俺が聞いているのだ。顔を上げて答えよ。」


セトは俯いたまま、拳を握り、身体中を振るわせ耐えていた。


「セト、どうした?王子の問いに答えぬか?」
「ほぉ。セトと申すのか。やっとお前の名を知った。」
「どういう事じゃ?セトとお前はもうすでに会っていたのか?」
「ええ、父上。先程、あの結界の部屋の前で。」


ファラオとシモン、そしてアクナディンがはっと息をのみ、セトがキッと顔を上げた。
アテムはただ、軽く鼻で笑い、そして王座から立ち上がりセトの前に立った。


「汚れた体でよくファラオの前に来れたな。」

そう上から告げると、アテムはいきなりセトの腕をつかみ、ぐっと立ち上がらせた。
そして身体を引き寄せ、唇を塞ぎ、そのまま下腹部へと腕を伸ばしていった。


「ふっん!!」
ビクンと身体を震わせ、セトは逃げようと必死にアテムの胸を押し返した。
だが後孔に指が回り、そこにずぶずぶと挿れられ、セトの力は一気に抜けていった。


内股から白い筋が流れ出す。

それが何かは、アクナディンもシモンもすぐに見極めた。



「跪け、娼婦め。ここはお前が来るような所ではない。」
そう蔑み、アテムはセトを突き放す。

その凄まじいほどの威圧感に、普通の人間なら恐れ戦き、跪いただろう。
だが、セトは顔を下げる事はなく、流れ出す精をも気にせずにすっと立ち上がった。



「確かに。俺はスラムで娼婦だった男だ。だが、自分より価値の低い人間に跪く魂は持っておらぬ。」
青き瞳はアテムを見据え、はっきりとそう言い放った。

驚いたのはアテム以外の人たちだった。

「セ、セト!何て事を!すぐに謝罪を!」
「早く跪き許しを請うのだ!セト!」

アクナディンもシモンも慌ててセトの腕を引っ張った。
だが、セトはその腕を振り払い、ぐっと胸を張ってアテムの前に立ちはだかった。

「断る。俺は忠誠心を持てぬ者へは頭は垂れぬ。」

睨み付ける様に見つめるセトに、アテムは苦笑交じりで笑うだけだった。
怒るわけでもなく、悔しがるわけでもなく。

どうでもいい事の様に感じているのだろうか。


ぴりぴりとした雰囲気が流れる中、玉座で静視していたファラオがすっと立ち上がった。

アクナディンとシモンはセトの腕を取り、必死に下がらせようと試みた。
だが、セトはびくともせず、やはり腕を振り払ってファラオの前でもその膝を折る事はしなかった。


アテムのすぐ横に立ち、セトに腕を伸ばす。
セトは眼を閉じ、その運命をファラオに委ねた。


王家の者に無礼を働いたんだ。
このまま殺されても仕方がない。

母さまの敵を討てずに死を迎えるのは心残りがあるが。
だが悔いはない。この王子に跪くくらいなら、死を迎えたほうがいい。


我が誇りは何人たりとも犯す事はできない。



「うむ。そちなら我が願いを果たしてくれるやもしれぬ。」


柔らかいブラウンの髪をそっと撫で、ファラオはアテムに視線を移した。


「アテムよ。このセトを見事跪かせて見せよ。」
「父上?」「ファラオ!?何をおっしゃいます?」


突然のファラオの言葉に、皆驚きの表情を隠せなかった。


「力ではなく、権威ではなく。この者に心から崇拝され、そして跪かせて見せよ。」
「それが出来れば、そなたの願いを何でも叶えよう。」
「父上!何でもと言うのは…」

ファラオは大きく頷き、アテムの肩を優しくたたく。

「マハードをそなたに返してもよい。いや、神官の地位は覆す事はできない。だから…」



「王としての地位をそなたに譲ろう。さすれば、マハードを始め、すべての神官はそなたの者。」
すべての民、神官はファラオにひれ伏し、ファラオの為に働く。

「例え六神官と言えど、その身はファラオと神の恩為に捧げられる。」
「さすれば、マハードはそなたの元に返る。後はどう扱おうとファラオの思うがままじゃ。」

六神官として国を守る神官として扱うか。
愛しき者としてその尊い情けを与えるか。


「どうじゃ。受けてるか?アテムよ。」
そなたを価値の低い者と断言したこの若者を跪かせるのは容易な事ではないぞ?

くすくす笑いながらセトを見つめるファラオに、セトは初めて顔を下に向けた。
己のした行動に、改めて恐れ戦き、身震いがしてきたのだ。


「いいいでしょう、父上。このセトを必ず我が足元に跪かせて見せます。」
「貴様などに、俺は決して跪きなどせん!」
「ははは。よい魂を持っておる。セト、暫くアテムに付き合ってやってくれ。」


だがその誇りを忘れるでない。
真意を持って、我が息子と付き合ってやってくれ。


ファラオはそう告げると、マントを翻し玉座へと戻っていく。
そして皆に下がるよう命じ、シモンを残し皆下がらせた。



アクナディンがセトと共に広場から去ろうとした時、
アテムはセトの腕を掴み、その唇を奪った。


「んっ!!」
「アテム様!?」
「明日から神官学校に来るそうだな。」

力で振り払って、アテムから逃れると、ぬれた唇を拭ってキッと睨み付けた。

「学校が終わったら我が部屋に来い。」
「断る。俺は貴様の命など受けぬ。」
「ふっ。確かに容易ではないな。」
「身体で俺を支配しようと考えているようだが、それは無駄な事だ。」


「俺はスラムで娼婦をしていたんだ。そういうのには慣れている。」
多くの貴族どもが俺を支配しようと何度も犯した。
だが俺は誰のものにもならなかった。


「貴様はスラムの娼婦以下だ。」
いや、スラムの娼婦は生きていく為にその身を削る。
だがその魂は、のうのうと暮らす貴族たちより遥かに尊いもの。


「何不自由なく暮らす貴様なんかに、我が魂は汚されはせぬ。」
「そうだ。何不自由なく俺は生きていける。」
すべてが我にひれ伏し、手に入らぬ物などなにもない。

「この地位の辛さなど、貴様に分かってなるものか。」

そう呟いた時のアテムの表情を見て、セトは思わずハッとなった。


今にも泣き出しそうな目で。
顔を俯かせ、アテムは身体を翻しこの場を去っていった。


セトは、その表情がいつまでも頭から離れなかった。







「もう一つの星が動き出した…」
「アテム様を巡る二つの星のうちの一つ…それがあのセト、だと?」
「恐らくな。」


アテムに完全なまでに忠実なマハード。
そして全く正反対の敵対するセト。


「運命の星は光に染まるか、闇に染まるか。神のみぞ知る。」



願わくば…この先の運命に幸あらん事を。


ファラオとシモンは、天を仰ぎ、その星々の光にアテム達の運命を祈っていた…




To be continues.








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