光と闇と 7
マハードを部屋に連れて行き自分の褥に寝かせると、アテムは二人だけにするよう命令した。
召使も兵士も皆、アテムの部屋から下がり、そこにはマハードとアテムだけとなる。
すやすやと眠るマハードの顔を覗き込むように、アテムはベッドの脇に腰を下ろした。
「何て安らかな顔してるんだ…初めて見たよマハード。」
絹の様な栗色の髪にそっと指を絡ませ、アテムはその額に唇を落とした。
「んん…」
「…起こしてしまったか…?」
うっすらと瞳を開け、周りの状況を理解しようと腕を上げる。
アテムは無意識にその腕を掴んで、自分の頬にそっと添えた。
「俺はここに居る。安心しろマハード。どこにも行きはしない。」
「王子…」
「誰もお前から俺を奪ったりはしない。俺も誰にもお前を奪わせはしない。」
頬に添えた腕をそのまま唇に持っていき、手の甲にキスをする。
マハードはもう片方の腕もアテムに伸ばし、そのまま首にしがみ付いた。
「王子…私は…あなたの傍に…」
「判っている。ずっと傍にいさせる、父上も納得した。」
どちらともなく唇を合わせ、互いの思いを確かめ合う。
いつも触れるだけで、アテムの一方通行だったキス。
だが今回は違っていた。
知らず知らずのうちにマハード自身も舌を絡ませ、その感触をアテムと共感した。
「ふっあ、王子…」
「感情を手に入れたんだ、マハード。お前は人間に戻れたんだ。」
だからキスも気持ちいいと感じるはずだ。
アテムはそのままマハードをベッドに寝かせ、髪をかき上げながらその額や頬、首筋にキスを落としていった。
「ハァ…」
「感じるか?マハード。俺を感じるか?」
アテムの問いに、マハードは小さく頷き、自ら腕を伸ばしてアテムの頬に手を添えた。
「判りません…王子…私は…」
マハードの眼から涙がこぼれ、マハードは静かに眼を閉じる。
判りません…この気持ちが何なのか…
判りません…何故にこうも気持ちがいいのに涙が出てくるのか…
「マハード…今からお前は人を愛する心を学ぶんだ。」
「王子…」
「俺を信じて…マハード。愛している。」
アテムはそう囁くと、マハードの首筋に唇を落とし、そのまま強く吸い付いた。
「あっ、んん…」
「何も感じなかった時よりやっぱり反応がいいな。」
アテムはマハードの心を取り戻す為に、彼を抱く事を決意していた。
だが何も感じない時に抱いてしまっては意味がない。
少しでも感情を得る事が出来れば、心の奥に仕舞い込んだ人間としてのあらゆる感覚を引き出させられる。
肌と肌を合わせれば、俺の鼓動や熱き思いを分け合う事が出来る。
俺がお前を愛しいと思う心を感じさせる事が出来る…
泣いて笑って、苦しんで、そして幸せを噛み締める。
これから生きていくのに、お前とその心を分かち合いたい、マハード。
「マハード…感じるままに…」
アテムはマハードの肩の飾りをそっと外し、露になった胸に軽くキスを落としていった。
小さな突起に到達した時、マハードの身体がぴくんと痙攣する。
「んっああ、王子…」
「そう…その調子だよ。奥に秘めたる感情を開放するんだ。」
そのまま腹筋をなぞり、おへその辺りを丁寧に舐めると、マハードの腕がアテムの頭をぐっと掴み上げた。
「だ、駄目…です…王子。感情を出したらまた…」
「大丈夫だ。さっきとは違う。お前の中に眠る正の感情を解き放つんだ。」
負の感情がマハードの魔力を暴走させるのなら、正の感情はそれを抑える事が出来る筈。
喜び、笑い、愛する事、愛される事。
「心が穏やかなら、力も暴走する事はない。マハード。」
負の感情には必ず、正の感情もあるんだ。
それを学べ…俺がその感情で常にお前の心をいっぱいにしてやるから。
マハードの腕の力が弱まったのを知ると、アテムは腰布にも手をかけ、その奥へと腕を伸ばして行った。
「はっああっ!」
「お前は初めてだろう。ここをこんな風にされるともう何も考えられなくなる。」
マハードは身体を震わせ、アテムの胸に顔を埋めてしがみ付く。
アテムはマハードが怖がらない様に優しく抱きしめ、髪をそっと撫で続けた。
「大丈夫。大丈夫。俺を信じて。」
すべての衣服を剥ぎ取り、アテムはまだ力なく萎えているマハード自身を口に含める。
舌で丁寧に筋を舐めながら先端に移動すると、すでに先走りが流れ出ている。
透明の液がキラキラ光って、褐色の肌を美しく引立てていた。
アテムはにっこりと微笑んでその液を舐め取ると、すっぽりとそれを咥えて前後に顎を動かしていく。
途端にマハードの体がしなり、甘い声と共に自身がドクンと肥大していった。
あと少しでイク、と言うところでアテムはマハード自身を咥内から放し、潤んだ瞳で見つめているマハードの顔を覗き込んだ。
「感じているのか?まさか、『生理現象』なんて言うんじゃないだろうな。」
意地悪く笑いながら、アテムはマハード自身を手に添えぎゅっと握ると、器用に上下に擦り始めた。
「あっ、あっ、王…子…!」
今まで感じた事のない感覚がマハードの身体を駆け巡っていく。
だが先程とは違い、体の中に潜む魔力は暴走するどころか、次第に安定した波動を送り続けていた。
同時にマハードの中に充実感と幸福感が満ち溢れていく。
「うっあああ!!」
甲高い悲鳴と共にマハード自身は絶頂を向かえ、アテムの手の中に開放した。
ハァハァと息も荒く、だが満ち足りた気分でアテムを見つめている。
「どうだ?どんな感じだ?」
「…どう…言えばよいのか…」
こんな気持ちは初めてだ。
泣く事も笑う事も知らなかった自分。綺麗な物を見ても何も感じなかった昨日までの自分。
なのに、今目の前にいるこの微笑む顔が愛しくてたまらない。
優しく見つめるその赤き瞳がこんなにも美しいものだったとは。
「綺麗…です…王子。あなたのその瞳が。」
綺麗…そう、綺麗だ。
ただの人間の目。眼球。物を映す為のレンズ。
それなのになんて綺麗なんだろう…
「今ならあの泉に行っても『綺麗だ』って感動してくれそうだ。」
アテムはそっとマハードの頬にキスをすると、手についていた精液をマハードの秘部に塗りつけた。
「あ…」
ビクンと身体を震わせ、アテムの方にぎゅとしがみ付く。
アテムは構わず指を動かし、そのままズブズブと中へと押し込んでいった。
「マハード、もっと繋がろう。もっと俺を感じて欲しい。」
丁寧にそこを解し、充分に湿り気を与えた後、アテムはマハードの両足を抱えた。
「マハード、少し痛いが我慢してくれ。すぐに気持ちよくしてやるから…」
そういいながら、不安そうに見つめるマハードの髪をそっと撫でる。
それだけでマハードの表情が穏やかになっていく。
アテムはその表情を見て小さく頷き、一気にマハードの中へと進入した。
「ひっはぁああ!!」
「ん、マハード、力を入れるな。」
マハードの肩を押さえながら、アテムはそのままずんずんと奥へと進んでいく。
全てを納めた後、マハードの顔を覗き込むと、眼をぎゅっと瞑り、唇を噛み締めその痛みに耐えていた。
アテムは一つになる瞬間、魔力の暴走を覚悟していた。
未知なる感覚を味あわせるのだ。恐怖と言う負の感情が湧き上がってもおかしくはない。
だが震えてこそいるが、その表情に恐怖は感じられなかった。
「マハード…大丈夫か…?」
涙を流すマハードの頬をそっと撫でると、マハードは薄っすらと瞳を開けてアテムの方へと手を伸ばした。
そして生まれて初めて満面の笑顔で微笑んだ。
解ります…王子…今、私は笑ってる…心から…幸せと感じている…
私は愛されている…愛している。王子…あなたを…
アテムを自分の方に引き寄せ、その唇を重ねていく。
深い深いキスをかわしながら、アテムは腰を前後に動かし、マハードに快楽を注ぎ込んでいく。
その律動さえも、今のマハードにとって喜びのリズムとなって体中を駆け巡っていた。
「はぁ、あああ!王子!」
「マハード、愛してるよ。俺を感じて…」
俺だけを感じて…
何度も何度もマハードの中を突き上げ、その度にマハードは絶頂を迎えていく。
アテムも己の思いをマハードの中にたっぷりと注ぎ込み、互いの熱を感じ取る。
どのくらいの時間が過ぎていっただろうか…
いつしかアテムもマハードもベッドの中で互いを抱き寄せ合いながら眠りについていた。
その寝顔は満ち足りていて、身体中が幸せで溢れているようだった。
運命の星は引き寄せあい、三つの内の二つは一つとなる。
そしてもう一つの星も二つの星に引き寄せられて、新たな動きを見せ始めた。
「セトは明日から神官校へ行くのだな。」
「はい、アクナディン様。」
「そうか。では一度ファラオにご挨拶しておくか。」
そう言われてセトは突然の事で驚いた。
「な、私如きの神官見習いがファラオに謁見など…」
「普通はな。だがお前は私が後見人となるのだ。ファラオに挨拶も無しに神官を目指すのは私の立場もある。」
セトは不安そうにアクナディンを見上げ、小さく頷いた。
こんな自分が偉大なファラオに会ってもいいのだろうか…
生きる為に何でもしてきた穢れている身体の自分が…
アクナディンは全てを見透かした様にセトの肩をポンと叩き、そのまま自分に引き寄せ抱きしめた。
「あ、アクナディン様!?」
「安心しなさい。お前は汚れてなどおらぬ。むしろその純粋な心にファラオも感服致す事であろう。」
自信を持ってファラオに謁見するといい。
髪を撫でられ、セトの不安は一気に解消され、安心感が身体中を包み込む。
「では2〜3日後に設定しよう。私と一緒に王宮に登城するのだ。」
「はい。アクナディン様。」
にっこりと微笑むセトに、アクナディンの心も穏やかになっていく。
本来なら王族として住むべきだった王宮。
お前の願いを叶えるべく、私はどんなチャンスも与えよう。
それを掴み取れるかどうかはお前の運命次第…
そしてその3日後…
マハードは千年リングの所有者となる事を承諾した。
To be continues.
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