光と闇と 8
「ん…」
「目が覚めたか…マハード。」
優しい朝日が差し込む中、マハードは眼を覚ます。
いつもと変わらない朝。なのに何故だか昨日とまったく違う様に見えるのは何故だろう…
「王子…私はあのまま眠ってしまったのですか…」
「ああ。とても安らかな寝顔だったぜ?俺の理性を保つのに必死だった。」
クスッと笑いながらマハードの額にキスを落とし、部屋の隅に控えている召使に湯の用意をさせる。
「起きれるか?」
「はい…何とか…」
アテムはマハードの背中を支え起き上がらせると、そのままひょいと抱えあげた。
「お、王子!何をなさいます!」
「何って…お前きっと歩くの辛いだろ?だから抱いて行ってあげるのさ。」
「どちらに!?とにかく降ろして…」
「駄目だ。身体を洗わなきゃ。昨日あのまま眠っちゃったんだから綺麗にしないとな。」
そういわれ、昨日の夜の事を思い出すとマハードの顔はみるみる赤くなっていく。
これが昨日まで感情を持たなかったマハードなのか…?
驚き、恥ずかしがり、そして俺に微笑んでいる。
「綺麗だ…マハード。本当に綺麗だ。」
「…お戯れも程ほどにして下さい…」
困った様に微笑むとマハードはアテムの首に腕を回し、そのまま身を委ねる。
アテムはマハードの鼻先にチュッとキスをすると、隣室の浴室へと連れて行った。
マハードを覆っていたシーツを落とし、アテムも腰布をとり湯殿に浸かる。
昨日の情事の跡を綺麗に洗い流すと、アテムはマハードにそっと唇を合わせた。
「恐がるな…ちゃんとしないと後が大変だから…俺を信じて。」
「…?何を…?」
わけが判らないような顔をしているマハー祖を抱きしめると、アテムは右手を下腹部へと伸ばした。
「あ…っん…王子?」
「大丈夫。何もしない。だから恐れるな。」
そのまま下方へと伸ばし後孔へと辿り着くと、アテムはぐっとそこへ指を挿入した。
「ひっああ…」
ビクンと身体を震わせ、アテムの肩にしがみ付く。
もう片方の腕をマハードの腰に当て、逃げようとするマハードをぐっと引き寄せた。
「やっ…」
何かを言おうとするマハードの口を、アテムは己のそれで塞ぐ。
舌を絡ませあいながら、指は中を掻き回していく。
どろりとした液体がマハードの中から掻き出された時、アテムはマハードの唇を開放した。
「ハァハァ…王…子…」
「大丈夫か…?昨日中に思いっきり出しちゃったから…」
ちゃんと掻き出さないとお前が身体を壊す。許せ。
涙目になっているマハードに戸惑いながら、アテムはマハードを抱き寄せ髪を撫でる。
マハードは震えながらもその両腕をアテムの背中に回し、同じ様に抱きしめた。
「アテム…様…私は…どこかおかしくなってしまたのでは…」
「どうした?どこか痛いのか?苦しいのか?」
「いえ…判りません…この感情は一体何なのか…」
あなたが欲しくて…欲しくて…
潤んだ瞳で見つめられ、アテムは思わず苦笑した。
これは…思った以上の効果が出たな。
人間としての感情を取り戻したとはいえ、まだそれをどう扱っていいのか判っていない。
むしろ赤ん坊のように、自分の感情に素直になっている。
だから「欲」と言う感情に素直に反応し、俺が欲しいと恥じる事無く言ってのける。
マハードに感情を教えた後は、それを「理性」でコントロールする術を教えなければならない。
…ま、それは後だ。今は芽生えた感情を大切にしないとな。
「俺が欲しいか…?」
「欲しい…です。アテム様。」
顔を赤らめる事無くストレートに言われると、流石のアテムも苦笑せざるを得なかった。
「いいぜ。お前の望むままに。」
伸ばした両腕を首に絡ませ、アテムはマハードの首筋に唇を落とす。
チュッと軽く吸い付くだけで、マハードの身体は小刻みに痙攣し、甘い声を惜しげもなく放つ。
周りで控えていた召使達が困ったように立っているのを見て、アテムは片手で「下がれ」の合図を送った。
湯船に浸っているので湿らせて慣らす必要はない。
だが性欲の捌け口に娼婦や男娼を抱くのではない。愛情と信頼を持って肌を合わせるのだ。
故に「前戯」は互いの思いを高める大切な儀式でもある。
アテムは既に硬く反り立っているマハード自身をぎゅっと握り、指先で先端をちょんとつついた。
「うっあ…」
「もうこんなにして。そんなに俺を感じているのか?」
「アテム…様…」
首を小刻みに縦に振りながら、アテムの肩をぎゅっと掴む。
アテムはにっこり微笑みながらマハードの後孔に指を入れ、中の肉壁を擦りあげた。
「ひあああ!!」
ビクビクと身体を震わせ、マハードは頂点に一気に上り詰め、そして果ててしまった。
アテムとマハードの間の湯が白く濁っていく。
アテムは優しくマハードの髪を撫でながら自分の方へと引き寄せ、くるりと向きを変えさせた。
アテムが下に、マハードが上に。
マハードは突然の事に驚き、そして慌ててアテムの上から逃げようと試みる。
だがアテムはマハードの腰をぐっと掴み、そのまま自分自身の上にあてがった。
「はっあ、だ、めです!王子!あなたが下になるのは…」
首を振って抵抗するが、意味は無く、そのままズブズブと奥まで押し込まれていく。
そのアテム自身の質感と、押し込まれていく肉壁への刺激が、マハードの感覚をどんどん豊かにしていった。
マハードは感情が無かったとはいえ、王と神官との立場は父親によって教え込まれていた。
王とその血を引く者には常に敬意を表すように。
常に一歩下がり、決して超えてはならない。
感情の無かったマハードには「敬意」と言う言葉の意味が判らなかった。
だが今はそれが充分理解できていた。
アテムには通常の兵士や神官には無い何か神々しいオーラを感じたのだ。
感情が無かった頃にはわからなかったのに。
今は王子は金色に輝いて見える。
こうして傍にいる事がとても恐れ多い事だと初めて理解した。
何故皆が王や王子に平伏して敬意を払うのかやっと理解した。
この方は…偉大なファラオの血を引く者なのだ…
「あっあっ…王子…」
「気持ちいいだろう?快楽を共に分かち合っている時に身分なんて関係ない。」
お前が上になる事で感じる快楽もあるんだ。勿論、俺も同じ様に感じている。
アテムは腰をズンと動かし、マハードを快楽の渦へといざなって行く。
水飛沫を大きくあげながらマハードはアテムを感じようと腰を揺らす。
マハードの中でドクンと大きくなっていくアテム自身を、マハードの肉襞が逃すまいと引き締めていく。
アテムはマハードの背中に腕を回し、繋がったままそっと抱える様にマハードを下側に移動させた。
そして身体を捻らせ、手を湯船の淵に掴まらせるとそのままぐりっとマハードの身体を回転させた。
「あぁぁ!!」
「もっと気持ちよくさせてやるからな。マハード。」
後ろからパンパンと腰を打ちつけると、マハードは恥じる事無く喘ぎ声をあげる。
アテムは手を伸ばしてマハード自身を掴むと、上下にリズミカルに擦りあげた。
「あっ!!いい!!もっと!!」
ばしゃばしゃと水音を響かせ、アテムは求めに応じ、激しく挿入を繰り返す。
マハードはもう限界に近い。早く開放してあげなくては。
「マハード…イきたいか?」
耳元でそっと囁けば、マハードは悩ましい喘ぎ声と共に首を大きく縦に振る。
「イきたい!!イかせて下さい!アテム様!」
ストレートな台詞にアテムは満面の笑みを浮かべながら、ぐんと最奥のポイントを攻め立てる。
同時にマハード自身への刺激も繰り返し、前後から容赦なく攻め立てた。
「うああああ!!」
悲鳴に近い喘ぎ声をあげ、マハードはアテムの手の中に思いの全てを放出させる。
アテムも低く唸りながらマハードの中に注ぎ込んだ。
ハァハァと言う息遣いが湯殿を響かせる。
「あぁ、すまぬな・・・また汚してしまった。」
ずるっと己を抜き出すと、アテムはマハードの髪にキスを落とす。
そして湯の中に溢れて流れ出ている後孔に再び指を差し入れた。
「あぁ…」
ぐったりしているマハードは、敏感になっている内側に指で擦られて、思わず声をあげてしまう。
掻き出されていく精の塊に、再び身体が疼いてくる。
「アテム様…もっと…あなたが欲しいです…」
真剣な眼差しで見つめられ、アテムは一瞬固まってしまった。
参ったな…こうも自分の中の欲望に素直なのは。
「駄目だ。今日はこれから父上にも会わなければ行けないし、お前の父親の神官長にも会って話さないとな。」
「アテム様…私は…あなたが欲しいです…」
「心配するな。また抱いてやるから。今日はもう我慢しろ。」
「我慢…?」
潤んだ瞳で首を傾げるその姿に、アテムもまた下半身が疼いてくる。
駄目だ、駄目だ。俺まで素直になるのは!!
「そうだ。感情に素直になるのも大切だが、我慢する事も大切だ。」
「我慢…の意味がよく判りません…王子。」
アテムは小さく溜め息をつくと、きょとんとしているマハードの唇にそっとキスを落とした。
「何かをしたい、と言う感情を抑える。それが『我慢』だ。今お前は何がしたい?」
「アテム様に今と同じ事をして欲しいです。」
躊躇もなく言ってのけるマハードに、アテムは思わず噴出してしまった。
「??何がおかしいのですか?」
「あはは、いや、何でもない。ではその感情を抑えろ。して欲しいだろうが『我慢』するんだ。」
マハードの目がじっとアテムを見つめている。
意味を理解しようと頭の中で情報を整理しているのか…
途端に悲しそうな顔をして、マハードは下を向いてしまった。
「どうした?マハード。」
「…理解…出来ました。今はアテム様は私を気持ちよくする事は出来ないのですね…」
「そして、私は今、この感情を抑えなければいけないのですね…」
ずっと傍にいて欲しいけれど…『我慢』しなければいけないのですね…
マハードの何とも愛らしい言葉に、アテムは理性を保つのに必死だった。
押し倒して突っ込みたい衝動を何とか押し殺し、震える笑顔でマハードの髪に指を絡ませた。
「お前はまだ暫く俺の褥で眠っていろ。俺は必ず戻るから。」
「はい…王子。お帰りをお待ちしております。」
優しく微笑むマハードに、アテムは満足感でいっぱいになっていく。
そうだ…俺はお前のその笑顔が見たかったんだ…マハード。
泣いて笑って愛し合って。ありのままのお前が見たかったんだ。
「おいで、マハード。」
アテムはマハードに向かって手を差し伸べ、マハードなそれをそっと受取る。
そのままマハードを抱きかかえ、アテムは自分のベッドへと連れて行った。
召使達に服を着せるよう命令し、アテムはマハードの額にキスをして部屋を後にした。
「マハード様、服を…」
「あぁ、すまないが暫く一人にしてはくれないか…」
召使達が服を手に傍によってきたが、マハードはそれらを下がらせ、部屋から見えるナイルを見つめていた。
マハードの中で色んな感情が生まれてきている。
そしてアテムへの思い、父親への思いが交錯していく。
私がアテム様に出来る事はなんだろう…
何故私はこの世に生まれてきたのだろう・・・
回りの者を皆不幸にしてきたこの強大な魔力を何故自分は持って生まれたのだろう。
15年分の思考が頭の中を駆け巡り、マハードは眼を閉じ静かに瞑想にふける。
そして暫くして…マハードは衣服を整え、召使達が止めるのを聞かずにアテムの部屋を後にした。
To be continues.
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