牙が赤く染まる時 10
ロイが連れて行かれた所は、やはり囚人の休憩する広場。
また公開尋問でもするのか…と苦笑交じりで広場に居るブラッドレイを見る。
「ロイ!」
思いがけない声に、ロイの表情が強張った。
「ヒュー…ズ…」
何故?と言う顔で立ち尽くす。
「ロイ!噂を聞いて心配していたんだ!」
「ヒューズ…どうして…」
どうしてここに、と言う言葉を言いかけて押し戻す。
ブラッドレイの満面の笑みが眼に入り、独裁者の思惑を感じ取る。
あの男が呼んだのか…
親友を使えば私が白状すると思ってか?
それとも、親友にこの屈辱的な尋問を見せ付けるためか?
どちらにせよ、私は耐えねばならない。
ヒューズ…お前ならわかってくれるだろう…
「ヒューズ、元気そうでなによりだな。」
「何馬鹿な事言ってる!お前、3日後に何が起こるか知っているんだろ?」
ヒューズはロイの方をがしっと掴むと、手錠で拘束された両手首に眼を向けた。
「ロイ!今からでも間に合う!コード番号を言うんだ!」
「私は何も知らない。無実だ。」
「お前が何も知らないはずはない。ハボックを始め、お前の部下が皆姿を消したんだ。」
消えた…?ホークアイ中尉や他の皆も?
…皆ハボックに続いたと言う訳だな。
ホークアイ中尉もそれに従ったのなら、私の判断は間違ってはいない!
「ほぉ…マスタングは部下が行方不明になっても心配はせん様だな。」
椅子に深々と座っていたブラッドレイが、ロイの微笑んだ表情を見て薄笑いを浮かべている。
ブラッドレイの後ろには数人の上層部の人間が同じ様に座っていた。
皆「大総統の狗」と呼ばれ、その忠誠心は厚く、そしてロイとも関係を持った人物ばかりだった。
「ここにいる将軍達は、日頃の私への忠誠心に敬意を表し、この尋問に招待したのだよ。」
「皆、お前とも浅からぬ関係だそうじゃないか。喜んで参加してくれたよ。」
ロイが居並ぶ将軍の顔を見回すと、将軍達は皆一様に欲望に満ちた笑みを浮かべていた。
「ロイ!今ここでコードを言えば、すぐにでも開放してやる!だから…」
「ヒューズ…私は何も知らない。知らない物をどう言えと…」
「ロイ!!」
「ヒューズ中佐。言った通りだったであろう?マスタングはお前では白状しないと。」
背後からグラン准将が現れ、ロイの前に立つヒューズをその腕で払いよけた。
その手に太い鞭を持ち、ロイを上から下まで舐める様に見つめていた。
「後ろを向け、マスタング。わしが白状させてやる。」
ロイは両手を鉄格子に繋がれ、ブラッドレイ達を背にする形で拘束された。
目の前には囚人達が、やはり興味深そうに視姦している。
ジャラリと鎖の音を鳴らしながら、ロイは拳を握り締めその責め苦に耐える準備をした。
「もう一度聞くぞ。コード座標は何だ。」
「私は何も聞いておりません。」
ビシッ!!
肉を裂く音が鳴り響き、その鈍い痛みに思わずロイの身体がしなる様に反り返る。
「うっああ…」
「コード番号を言え!マスタング!」
ビシッ!ビシッ!
2、3度と打たれ、ロイの着ていた囚人服は裂け、背中にミミズ腫れが数本浮かび上がってきた。
ブラッドレイを初めとする将軍達は、その姿に酔いしれている。
ヒューズは顔をそらし、眼を閉じてその場から離れようと後ろに下がっていった。
「ん?ヒューズ中佐、もう帰るのかね?親友の尋問に付き合わんのか?」
「もう少し見ていたらどうだ?マスタングも親友に去られては寂しかろう。」
ニヤニヤと笑いながら語る将軍達に、ヒューズはきっと睨みつけた。
そしてロイの方へと眼を向けると、グランがもう一度ロイに鞭を振るおうと腕を高く上げていた。
「ロイ!」
叫び声と同時に鞭が振り下ろされ、ヒューズの声とロイの悲鳴が混ざり合って響き渡る。
力なくぐったりするロイに、ヒューズは駆け寄り声をかけた。
「ロイ!ロイ!しっかりしろ!!」
「ヒューズ…」
「中佐、どきたまえ!尋問はまだ終わっておらん!」
グランが威圧的にヒューズを牽制する。
この中で唯一の味方であるヒューズ中佐は、この尋問には厄介な存在だ。
自分になら話してくれるかもしれないと言うので同行を許したが…
「ロイ!頼むから全部話してくれ…お前のこんな姿見るに耐えん。」
「…だったらもうここから立ち去ってくれ…ヒューズ…」
私は何も知らない。ただそれだけだ。
ロイはヒューズにそう告げ小さく微笑むと、顔をうなだれ息を整える。
ヒューズはロイの手首に繋がれている手錠にそっと触れると、顔を歪ませてその場を離れた。
何もかも諦めたような表情で、ヒューズはブラッドレイら将軍達に敬礼をかざしてくるりと背を向けた。
「ヒューズ!!」
突然の声にヒューズははっと振り返った。
「今度来る時は手土産持ってこい!牢名主のクワンに貢物をやらんと俺の身体が持たん。」
そうにっこり笑うロイに、ヒューズは苦悩の表情で見つめ返した。
「何を余裕ぶっておる!!マスタングめ!」
グランが怒りを鞭に乗せて、ロイの背中を引き裂いていく。
ビシッという音が響き渡る度に、ロイの身体は痛みでしなり、それがまた妖艶さを増していく。
「閣下、もう我慢できません。手錠を外しても宜しいでしょうか?」
「まぁ待ちたまえ。もう少しこの音楽を愉しもうではないか。」
グランが鞭を振るう中、ヒューズは居た堪れずに足早にそこを離れていった。
「ハァハァ…どうだ、マスタング。話す気になったか?」
息も荒く、顔中に汗を光らせるグランが、同じ様に息の荒いロイの髪を掴んで引っ張り上げた。
背中の痛みと、引っ張られる髪からの痛みで、自然と顔が歪んでいく。
「無線コードと表した座標。それを言えばここから開放し、また功労者として昇進も考えてやるぞ?」
「3日後には銃殺刑になる!さぁ、考えよ!マスタング!」
耳元で怒鳴り上げるグランに、ロイは嫌気の表情をしてため息をついた。
「先程から何度も申し上げておりますが…」
「コードなど知りません。知らないものをどうやってお答えしたら良いのか教えて頂けませんか?」
そう微笑みながら答えるロイに、グランの堪忍袋の緒が切れ、そのまま鉄格子にロイの頭を殴りつけた。
「ぐっゴホッ…」
唇を切ったのか、ロイの口端から赤い血がつぅと流れ出した。
「おのれ!!わしを愚弄しおって!」
「やれやれ、グランの責め苦でも駄目か。全くもって頑固者だのう、マスタングよ。」
ブラッドレイが苦笑しながら椅子から立ち上がり、ゆっくりとロイの傍に近づいてきた。
その威圧感に、ロイはおろか、グランデすらも背筋がぞっとなっていく。
シュッとサーベルを抜き、その剣先をロイの顎にあてて、グイッと顔を上げさせる。
刃先は喉に向けられ、その気になればそのまま喉を掻き切る事も可能だろう。
ロイは唾を飲み込むのにも息をするのも緊張を強いられた。
「最後の質問だ。これに答えなければこのまま死、あるのみ。」
「アイザックがお前に伝えたのは何だ…」
凄まじいほどの威圧感に押しつぶされそうになりながら、ロイは唇をかみ締め、
ブラッドレイを真っ直ぐに見つめる。
それでも…私は信念の為にこう言い続けるしかない。
「私は何も知りません…」…と。
ブラッドレイは満足げに微笑むと、サーベルを引き下げ、そのままロイの手錠を切り裂いた。
どさっと床に倒れるロイに、将軍達の邪な眼が突き刺さる。
「閣下…」
「致しかたあるまい。3日後の銃殺刑まで好きに弄ぶが良い。」
「諸君らも、思い残す事の無い様、十分に愉しむ事だ。」
ブラッドレイの言葉が終わらないうちに、将軍達はロイに群がり、切り裂かれた服を剥ぎ取った。
両手を押さえつけ、背後から腰を掴んで慣らす事無く挿入する。
「っああああ!」
「相変わらずいい絞め具合だ、マスタング。」
「殺すのは惜しい。このまま我らのペットとして闇で飼おうかね。」
「ほら、私のも大きくしておくれ。」
髪を掴まれ、その口に狂った凶器を押し込んでいく。
他の将軍が我慢できなくなったのか己を取り出し、真っ赤晴れ上がっているロイの背中めがけて
早々に白濁液を放出させた。
塩気を帯びた液が、その傷を更に犯していく。
「ひぃああああ!」
「おぉ、傷が痛くて気持ちいいのかね?お前はマゾだからね。」
ほら、よく効く様に擦り込んであげよう。
背中にこびりつく精液を、傷に塗り込む様に広げていく。
背中の痛みと、後孔の快楽と、咥内の圧迫から来る息苦しさで、ロイの目尻に涙が浮かんできた。
ブラッドレイがすっと傍に跪き、その涙を指でそっと拭う。
「綺麗だよ、マスタング。お前は死を目の前にしても何故そうも輝いていられるのか?」
ロイは答えず、ただ静かに眼を閉じた。
将軍達は代わる代わるロイを犯し、その孔に己の分身を注ぎ込んだ。
最奥を突き上げられ、何度も精液を飲まされ、そしてロイ自身も弄ばれイかされる。
大体が満足し終わった頃、ロイは力尽きたようにぐったりと床に倒れていた。
身体中に白濁の液をこびりつかせ、後孔からは溢れんばかりの精液が流れ落ちていた。
「閣下…如何致しましょう。マスタングは到底話すとは思えません。」
「構わん。話さない事は想定内だ。肝心なのはアイザックの行動だ。」
横たわるロイを見つめ、ブラッドレイは厳しい顔でグランに命令を告げる。
「3日後の銃殺刑は、赤い牙をおびき寄せる罠。必ずあやつを救出すべく何かしら行動を起こす。」
「そこを狙え。しくじるな。可愛い黒猫をここまで痛めつけた事を無駄にする事は許さぬぞ。」
そう言いながらも楽しそうにロイを見つめるブラッドレイに、グランは小さくため息を着く。
では、と敬礼をかざし、グランを始めとする将軍達はその場を後にした。
ブラッドレイは一人ロイの傍に跪き、その黒髪にそっと触れる。
ロイは完全に意識を飛ばしているようだった。
「私への忠誠心よりも、部下への信頼を選んだか…」
その部下が果たしてお前の期待通りに動くかな?
もしかしたらお前を見捨てるかもしれない。
そうしたら私がお前が死ぬまで可愛がってあげるとしよう。
表に出る事はなく、闇の中で私だけを見ていればいい存在に。
「ククク、楽しみだよ、マスタング。お前はいつも私を楽しませてくれる。」
さあ、来るなら来い!赤い牙よ。見事マスタングを取り戻せるかな…?
お手並み拝見といこうか…
背中の傷から流れ出す血を指で絡み取る。
それをぺろりと舐めながら、ブラッドレイは広場を後にした。
第3中央刑務所から駆け足で出て来たヒューズを、大きな影が待ち伏せていた。
「中佐…マスタング大佐は…」
「…最悪の方向だ。急がなくては…」
ヒューズはその影に近づくと、こつんとその胸を叩いた。
かつんと鋼の音が鳴り響く。
「あいつ、頑としてもコードの事を話さなかった。お前の兄さん同様頑固で困ったぜ。アル。」
「兄さん以上の頑固者は大佐ぐらいでしょうね、ヒューズ中佐。」
はは、と笑いながらヒューズは停めてあった車に乗り込み、アルもその後部座席に乗り込んだ。
「ロイの居場所は突き止められなかったが、あいつがヒントをくれた。すぐに司令部にいって調べるぞ。」
「大佐は何て…」
「牢名主のクワンに貢物を持て来いってさ。て事は、クワンという囚人と同じ棟に居るって事だ。」
ハッとなるアルにヒューズが不適に微笑んだ。
「おい、アルフォンスの中に居るヤロー。よく聞け。」
「協力する代わりに俺の家族の安全を保障しろ。今すぐにだ。」
暫くの沈黙の後、アルの中からアルとは違う声が響き渡った。
「判りました。司令部にいく前に家に寄って下さい。そのまま奥様と娘さんをお連れします。」
「OK。車はこれを使ってくれ。俺は歩いて司令部に行くから。」
「場所がわかったらどう連絡取ればいいんだ?」
「548yf45h880red」
「何だ??それ。」
「座標コードです。そこに直接来て下さい。あ、英語部分は無視して、5が区切りを意味しています。暗号文は…」
ヒューズは急ブレーキを踏み、慌てて後ろを振り返った。
「お前…何考えてる?このコードを俺が軍に言えば、ロイは助かるんだぞ?」
「あなたは決して言いませんよ。ヒューズ中佐。」
穏やかな声が車中を包み込む。
「…はっ、そこまで調査済か。しかたねぇな。」
ロイが命をかけて守ろうとしている部下達。
俺がそれを裏切って言える筈もなく。
「…妻と娘を頼んだぞ。」
「お任せ下さい。安全は必ず保障します。」
ヒューズの家によりグレイシアとエリシアを乗せて、アイザックは二人を連れて去っていく。
それを見届けた後、ヒューズは小さくため息を着き、アルの背中をぽんと叩いた。
「さ、行くぞ。クワンの居る棟を調べよう。」
「はい、中佐。」
アルとヒューズは司令部に向かい、その後行方は不明となる。
それから1日経った夜明け前。
エドがバンと机を叩いて不適に笑っていた。
「今から我らのリーダー、ロイ・マスタング救出作戦を実行する。」
狙うは第3中央刑務所、C棟。
待ってろ…今助けてやるからな…
命がけで俺達を守ったんだ。俺たちはそれに最大限に応えなければならない。
エドを始めとする十数人が、セントラルに向かうべく、闇の中へと消えていった。
To be continues.