牙が赤く染まる時 8
ロイが投獄されてから3日が経っていた。
テロリスト達がいる棟の広場の隅に、ロイは壁に背をもたれかかる様に座っている。
散々犯して飽きたのかロイに触れる囚人もなく、他の囚人達と僅かに与えられた自由時間を楽しんでいた。
「何しけた顔してんだ…?あ?」
クスクス笑いながらクワンが林檎をかじり、ロイの目の前に立っていた。
「…何か用か…」
「けっ、俺らのペットに用なんてねぇよ。」
しゃがみ込んでロイの髪を掴み、唇を塞ぐ。
林檎の甘い香りが口の中に伝わり、ロイは思わず喉を鳴らしてしまった。
「あぁ、そういや、ろくに飯喰ってないんだよな。」
執拗な口付けを終えると、クワンはロイの隣に腰を落とし、自分の傍に引き寄せた。
身体を弄りながら林檎をかじり、そのかじりかけをロイに手渡す。
「喰え。よろよろのてめぇを犯してもつまんねぇからな。」
渡された林檎を暫く見つめながら、ロイは眼を閉じそれをかじる。
今は生きる事が先決。そう自分に言い聞かせて…
「…テロリスト同志で交流はあるのか?」
「は?何を言ってやがる?」
「…アイザック・ボーグと言う男を知っているか…?」
カシッと林檎をかじる音だけが二人の間を包み込む。
「…あいつは…あんまり信用しねぇ方がいいぞ。」
敵か味方かよく解らない。
軍政府を震撼させる「赤い牙」の幹部。解っているのはそれだけ。
「俺達の間でも味方の時もあり、敵の時もある。俺達は余り関わりをもたねぇな。」
クワンはロイの林檎を取り上げ、一口かじるとまたロイに渡す。
あと3日…月が変われば私は銃殺刑にされる。
ここから出るにはどうすればいい…?
あのコードを言うか、それとも…
「自由時間は終わりだ!さっさと房に戻れ!」
看守の声が響き渡り、警棒で壁を叩きながら囚人達を集めだす。
「もう終わりか?自由時間になって30分もないぞ?」
「そんなモンさ。ここでは看守が全てなんだ。奴らの機嫌を損なう事があれば、自由時間もなくなっちまう。」
よいしょと言いながらクワンは立ち上がり、ロイの腕を掴んで引き上げた。
看守が警棒をかざしながら、ロイとクワンの傍によってきて出口の方へ行けと促す。
クワンがロイを抱き寄せながら連れて行こうとした時、ロイがその手を振り払った。
「おい、貴様…」
「法律では、囚人の自由時間は最低でも2時間は与える筈だが…?」
「こいつらは凶悪犯だからな。そんなに時間を与えていたら何を仕出かすかわからん。」
そんな事よりさっさと歩け!
どんと背中を押して歩かせようとするが、ロイは再び振り返って異を唱えた。
「この3日間ここで過ごしたが、囚人が得られる筈の最低の権利さえも損なわれている。」
「自由時間もそうだが、食事の内容、シャワー時間、看守の気分次第であったりなかったりだ。」
「貴様!囚人のくせに俺達に逆らうのか!?」
「私は正論を述べているだけだ。私がここを出たらお前たち看守をまず粛清しないといけないな。」
ロイがそういった直後、看守はロイの胸座を掴んで床に叩きつけた。
クワンが駆け寄ろうとしたが、看守に睨まれそれも出来なかった。
物音に他の看守が駆け寄ってきて、ロイの周りを取り囲む。
「どうした?」
「いや、こいつが面白い事を言いやがるんでな。」
にやっと笑いながら床に這い蹲っているロイの腹に、更に蹴りを加えた。
ドカッと言う音と共に、ロイの低い呻き声が聞こえてくる。
「何て言ったんだ?こいつ。」
「ここを出たら俺達看守を粛清するって言いやがってな。」
「はぁ?銃殺刑が決まった囚人がここを出られるとでも思っているのか?」
けらけらと笑う看守達は、ロイの腹を数回蹴り上げ、呻くロイの髪を掴んで引き上げた。
きっと睨みつけるロイの瞳を見て、邪な心が動き出す。
「俺達に逆らった見せしめだ。」
そういうと、看守の一人はロイの腕を取り、もう一人が足を掴む。
仰向けに押し付けられ、囚人服は剥ぎ取られ、両足の間に男が割り込んできた。
ガシッと頬を掴みその唇を塞ぐと、強引に歯列を割って舌を差し込んでいく。
暴れて抵抗するロイの四肢を看守数人がかりで押さえつけた。
覆いかぶさる看守がズボンのチャックに手を伸ばすと、既に興奮しきっている己を取り出し無理やり
ロイの中へと進入させた。
「んっぐぅんん!!」
ビクンと身体を反らし、男の陰茎を受け入れていく。
逃げたくても四肢を押さえこまれているのでどうにもならない。
最後に犯されてから半日は経っていたので、すでにロイの肉壁は湿り気を失っていて、男が動く度に
擦り切れる鈍い痛みがロイの身体を駆け巡っていた。
看守が前後に腰を動かす度に、ロイの身体は痙攣し、悲鳴に似た喘ぎ声を放つ。
絡み付く肉壁もいつしか愛液で潤い、ジュッジュッと音を立てて看守の耳から欲望を助長させていた。
「ふっああああ」
大きく仰け反り、ビクンと身体が反応すると、ロイの中心から精がほとばしった。
同時のロイの中にも欲望が注がれる。
「次は俺だ。」
「俺も我慢できねぇ。」
「次は獣みたいに犯そうぜ。」
まるで玩具を取り合うかのようにロイの後孔をめぐって我先に入れようとする看守達。
今度は四つん這いにさせられ、腰を掴まれ一気に差し込まれる。
もう一人が前に回って、いきり起った男根をロイの口に無理やり押し込んだ。
「ふぅんんん…」
「ほら、ちゃんと奉仕しろ!貴様ら囚人に権利なんてないんだよ!」
他の看守達もロイに陰茎を擦り合わせ、その身体を白く汚していく。
その場にいた5〜6人の看守全てがロイに精を吐き出し、満足げに笑っていた。
「何だ?囚人達の間じゃ満足できずに看守にまで足ひらいてんのか?」
鉄格子の向こうから鍵束をちゃらちゃら鳴らしながら、看守長が近づいてきた。
ロイの周りを取り囲んでいた看守が、さっと道を開ける。
床に這い蹲るように倒れているロイの眼の前まで来ると、上から蔑む様に見下ろした。
「ここでは看守が全てなんだ。逆らえばそれなりの罰も与えなければならない。」
「残り3日の命なんだ。大人しくして貰いたいのだがねぇ。」
そう言うと、看守長は自分の靴先をロイの眼の前に差し出した。
ロイは荒い息を着きながら、それをぼんやりと見つめていた。
「舐めろ。俺に服従を誓え。そうすればシャワー室を使わせてやる。」
中出しされてたから、後処理しないと腹壊すぞ?
看守達がクスクス笑う声がロイの耳の中に突き刺さる。
ぎゅっと拳を握り締めながらも、ロイは身を乗り出し、看守長の靴先に唇を落とした。
「キスじゃねぇよ、舌出して舐めろ。看守長たるもの、靴は常に綺麗にしておかなきゃいけねぇからな。」
後頭部から突き刺さるような怒号に、ロイはただ黙って言われた通りに舐める。
数人の看守が「けっ」と侮辱した様に舌打ちをし、看守長は満足げな表情でロイを見下ろしていた。
どかっ、といきなりロイを蹴り上げ、ロイは仰向けに飛ばされた。
腹や下腹部にこびり付いている白っぽい汚物に、看守長は唾を飛ばす。
厳しい表情で見つめていたクワンに「シャワー室へ連れて行け。」と命令してその場を去っていった。
ぞろぞろと看守達が去り、他の囚人も後に続き、広場にはロイとクワンだけが残されていた。
「立てるか…」
「…何とかな…」
ゴホゴホと咳き込むロイに手を差し伸べ、ロイも何の戸惑いもなくそれを受取った。
ロイの身体を支えながら、クワンはシャワー室へと連れて行く。
シャワーに向かって立たせ、両手を壁に着かせてクワンはコックを捻った。
流れ落ちるお湯が、ロイの身体中に付けられた痣を癒していく。
「ここに来て初めてのシャワーだ…」
「3日…ぶりか。まだいい方だ。新参者は一週間は入れねぇよ。」
身体にこびり付いている精液をクワンは丁寧に落としていった。
ごつごつした手がロイの下腹部に伸びていった時、ロイの体がビクンと震える。
「反応いいな。」
「おかげ様で。」
これだけ屈辱を受けても変わらぬその強い意志に、クワンは静かな感嘆を覚えていた。
ぐっと後孔に指を突き入れ、その奥をかき乱す。
だがそれは愛撫ではなく、中に注がれた物を掻き出す行為だった。
ロイの太腿にドロッとしたものが流れ出していく。
その感触が気持ち悪くて、ロイの表情が自然と険しいものになっていた。
「んっ…」
「けっ、いい声出すな。俺の理性が抑えられなくなるぜ。」
「散々犯した奴に理性があったとはな。」
中を掻き出しながら、クワンはロイの腰の辺りをさする様に撫でていた。
ロイはじっと動かず、クワンのされるがままに身を預ける。
「…テロ行為は…」
「何だ?」
「テロ行為は自分達の言い分を無理やり押し通す為の行為であって、許されるものではない。」
「自分達の主張を認めさせる為に何の罪もない人達を巻き添えにする愚かで野蛮な行為だ。」
静かに語り始めるロイの言葉に、クワンは何も答えず黙って聞いていた。
「私はテロはいかなる理由があろうとも許す事はしない。その犯人を捕まえる為なら,どんな事でも
躊躇なく発火布の指を鳴らすだろう。」
「お前の弟を殺したのもその信念からだ。詫びるつもりはない。」
ロイの中に入れていた指が、ぐっと奥まで突き刺した。
ロイはうっと呻き声を上げたが、構わず話を続けた。
「私は…この国のあり方を変えたい…」
「…それは俺も同じだ。軍の支配からこの国を解放させる、その信念でテロを続けていた。」
やり方は違っていても、その思いは同じ。
全てはこの国を行く末を思っての事。
「この刑務所は最低だ。人間としての権利すらも損なわれている。」
「それが軍のやり方だろうが。刑務所は軍の本質をよく表しているぜ。」
軍の利益だけを考える今の政権。
ここの看守達も同じ。自分達の権力を誇示する為だけに囚人達を蔑んでいる。
「…私がここに入れられたのは、アイザック・ボーグが私に無線コードと称した座標と、暗号文を教えたからだ。」
「ほぉ…赤い牙に魅入られたって事か。これは大総統閣下が執拗に尋問する訳だ。」
「月毎にアジトの場所が変わるそうだ。月が変わるまであと3日…」
それまでにこのコードを軍に提供しなければ、自分は用無しと見なされ、殺される。
いや、あの方は私を殺しはしない。きっと傍において、一生飼い殺しにするだろう。
それは信念を持った私にとって、死、以上の苦しみを与えるという事を知っているから…
「コード、さっさと吐いちまえばいいじゃねぇか。」
「部下が関わっている…話す訳にはいかない…」
「部下なんか見捨てて、コードの情報を提供すれば、あんたの株が上がるんじゃねぇの?」
ロイは拳を握り締め、肩を震わせ首を振った。
「部下を見捨てたら、私が今までやってきた事の全てが否定される。」
信念を持って、あらゆる事を耐えてきた。
時には汚い事をして今のこの地位を築いてきた。
身体を開き、屈辱に耐え、上を目指すそのチャンスを伺って来た。
私がここまで来れたのは、私一人の力ではない。
私を下から支えてくれた仲間の力があってこそ、今の私があるんだ。
ハボックが「赤い牙」と手を組んだのなら、私はその彼の行動を信じよう。
故に、このコードの情報は命に代えても教える訳にはいかない。
「私はここを出る…」
「脱獄する気か?無理に決まっているだろう?」
「部下が必ず助けに来る。私はそれを待つ。」
銃殺刑と言うのは、囮である事は間違いない。
ハボックやホークアイ中尉がそれを承知でここを襲撃するに違いない。
「部下がそんな危険を犯してまで上官のあんたを助けに来るのか?」
それ程あんたらは信頼で結ばれているのか?
あんたを見捨ててアイザックをリーダーとして新しい組織に属するんじゃないか?
ロイはその言葉に小さく微笑むと、振り返ってクワンの眼をじっと見つめた。
「もしそうなったのなら、私は部下にとってそれだけの男だったと言うわけだ。」
見捨てられるような私が上に立っても、この国のあり方は変わらない。
そうなったら…潔く運命を受け入れよう。
「そんな事を俺に話してどうする…」
「部下が突入して来た時、お前たちで更にこの中を混乱状態にして欲しい。」
軍の眼をあちこちに向け、混乱に乗じて脱出を図る。
「この刑務所の中で、お前がリーダー格らしいからな。」
妖艶に微笑むその表情に、クワンは思わず苦笑した。
たまんねぇな…全く…
「俺が看守にちくるとは思わねぇのか?」
「私はお前と言う人間を見越して打ち明けた。もし裏切られたのなら、私の見る目が無かっただけだ。」
クワンはロイの肩を掴みあげると、バンと壁に押し付ける。
顎を掴んでその唇を塞ぐと、片足を上げさせ一気に中に進入してきた。
「はあっあああ」
「いいぜ…その要求、飲んでやる。俺もあんたが無事にここから逃げられるのかどうか見てみたくなった。」
いや、あの大総統に正面から喧嘩を売るあんたに脱帽だ。
ロイの腰を掴んで持ち上げると、そのまま下に降ろし、ロイ自らの重みで陰茎を最奥まで咥え込んでいく。
ロイはクワンの首に腕を回し、その痛みと快楽に悶え乱れていった。
「あっあっああ!」
「これはあんたに協力する報酬、等価交換だ。あんた錬金術師だろ?どうして錬金術で脱出しないのか
不思議だったが…」
この刑務所のあちこちに描かれていた錬成陣…
「うぅああ…」
ズンと腰を突き上げる度に、ロイのぬれた髪が揺れ、汗と水飛沫が飛び散っていく。
苦痛に歪むその表情は男の欲望を引き出す媚薬。
ロイの首筋に唇を落とし、クワンはロイの陰茎をぎゅっと掴みあげた。
「ふっああ…」
「あれ…この刑務所の何処にいても、何かを錬成すればその錬成反応に反応してこの刑務所全体が錬成陣と化す、
ってやつだな。」
一箇所でもその錬成陣が反応すれば、連鎖的に全ての錬成陣が反応してしまうだろう。
どうしてそれを?と言う表情で見つめるロイに、クワンは子供のように笑って言った。
「俺も少しかじった事、あるからな。錬金術。」
あんたが錬成して壁に穴を開けたりしたら、あんたは逃げられたかもしれないが残された俺達は錬成の犠牲になって、
死んでいただろう。
「あんだけの事をされたんだから、俺達を見捨てて逃げちまえば良かったんだ。」
「はっん…それ…をしたら、私もここの看守達と同じになってしまうから…」
凶悪な犯罪を犯した奴らでも人間である事には変わらない。
自分の都合だけで彼らを屑同様に扱えば、いずれ私も同じ扱いをされるだろう。
人の命は、どんな人間でもみな同じ重さなのだから…
「んっあああ!!」
「くっ、いい締め付け。あんたはホンといい名器だぜ。」
これなら俺の協力ではお釣りがくる。
ズッズッと淫猥な音がシャワー室に響き渡り、ロイの甘い喘ぎ声がクワンを包み込んでいく。
同時にロイの陰茎も上下に擦り合わせ、その快楽を引き出させる。
クワンの肩を掴むロイの力が増していき、小刻みに体が痙攣していく。
「あぁ、そろそろ限界だ。」
折角綺麗にしたんだから、中に出すのはやめておくよ。
そう耳元で囁くと、ロイの腰を一気に上げてそのままズンを下ろした。
その動きに比例して、ロイの陰茎がすりあわされると、ロイは大きく仰け反ってクワンの手の中で尽き果てた。
ビクビクと震えるロイの肩を抱き寄せ、クワンが己を差し引いた。
「つっああ…」
「悪いが、俺もイキてぇ。あんたの口で頼むぜ。」
既に脈打っていつでもイキそうなくらい膨張しているクワン自身を、ロイはそっと手を添え口に含んだ。
舌を巧みに使い、開放を促していく。
クワンは苦笑交じりで微笑むと、ロイの後頭部を掴んでグングンと前後に動かした。
苦しさと男臭い匂いでむせ返りそうになるがロイは奉仕を止めず、袋にも手を添え、クワンを快楽へと導いていった。
「んっ…出る…全部飲み干してくれよ…」
一滴残らず。それが俺への報酬だ。
ドクンと大きく脈打つと、クワンはロイの咥内に己の精を注ぎ込んだ。
ロイは喉を鳴らしながらそれを全て飲み干していく。
ずるっとクワンが陰茎を引き抜くと、ロイはがっくりと肩を落とし、荒い息を吐く。
大丈夫か?と傍に寄ろうとした時…
「マスタング!何時まで入ってる!閣下がお呼びだ、すぐに来い!」
ロイの体がビクンと震えている。
拳を握り締め、唇を噛み締め、ロイはクワンの手も借りずにすっと立ち上がった。
心配そうに見つめるクワンに一瞬視線を移すと、小さく微笑んで看守の方へと歩いていった。
To be continues.