牙が赤く染まる時  17



        ロイが眼を覚ました時、そこは暗黒の中だった。


        ここは…?私は一体どうなって…
        そうだ!軍は?追手は?大総統閣下は?


        ロイは起き上がろうと身体を動かすが、何かに拘束されているのか身動きが取れなかった。
        腕を動かそうとしても、頭の上で縛られているらしく、動かす事が出来ない。

        足は何もされていないようで、ロイは膝を折ってベッドから身体をずらそうと試みる


        「大佐…お静かに…」
        「!?その声はホークアイ中尉!一体これはどういう訳だ!?」
        早く外してくれ!


        声のする方に顔を向け、外すよう命令する。
        だがホークアイ中尉はロイの傍に座ると、ばたつく足にそっと触れた。
        
        その手の感触に、自分が服を着てない事に気がつく。


        「ホ、ホークアイ…」
        「クスッ、ご安心を。私も大佐の姿は見えません。」
        膝にそっと力を込め、そのまま静かに足を揃えさせる。

        「何がどうなっているんだ…追手はどうした。閣下は…」
        「撤退は無事終了。今はあの別荘から更に南の荒地でキャンプを張っています。」
        「赤い牙の新アジトには行かないのか?」
        「まずあなたの治療が先だと。」


        治療…?何の…?

        そう言いかけた時、ホークアイ中尉の背後から誰かが入ってきた。

        「誰だ!」
        「私です。大佐。」
        その声はアイザック?!


        ゆっくり近づいてくる気配に、ロイの身体が無意識に緊張する。

        「どうです?ホークアイ中尉。」
        「あなたの仰る通りです。私には何の反応も示しませんでした。」
        「ふむ…やはり男にだけ反応するって訳ですね。」

        何の話をしているんだ…?
        ロイが戸惑いの表情を見せていると、ホークアイ中尉がロイの頬にそっと手を添えた。


        「大佐…私達はあなたを信じてます。だから早く克服を…」
        「ホークアイ中尉?」
        「後は宜しくお願いします、アイザックさん。」
 
        ホークアイがそう話すと、ガタンと椅子から立ち上がる音がして、すぐ傍にいた気配が遠ざかっていった。
        そして残る気配は一つ…

        「あ、アイザック…」
        「なんですか?大佐。」
        親しみやすい口調で語りかけながら、ホークアイ中尉が座っていた場所へと気配を移す。

        すぐ傍にいる、と感じるだけで、鼓動が早くなる。

        「手を…外してくれ。」
        「あなたは今、重大な病気に犯されています。」
        顔のすぐ傍に手がかざされたのを感じる。
        それが首筋、胸へと移動していった。

        「病…気…?」
        「そうです。それを克服しないと今後の戦局にも影響してきます。」        
        かざした手は、ロイの下腹部で動きを止める。

        
        「うあ…っ!」
        「今…あなたは恐怖に震えてませんか…?」


        アイザックの手がロイの陰茎を優しく撫で、そのままきゅっと握り締めた。
        ビクッと身体を震わせ、ロイは四肢を緊張させる。
        漆黒の瞳は恐怖で見開き、逃れようと両手をガシャガシャと動かした。


        「い、やだ!離せ!」
        「あなたは触れられることに恐怖を感じる身体になってしまったんです。」
        それも男にだけ。ホークアイ中尉が触れても恐怖は感じなかったでしょ?

        きゅっ、きゅっと上下に扱くと、ロイの陰茎は徐々に硬さを増していった。
        と、同時にロイの顔がみるみる青ざめていく。

        あの刑務所での悪夢が蘇って来る…
        終わる事のなかった凌辱。一瞬たりとも休む事等出来なかった3日間。

         
        犯されながら殺されるのでは、と言う恐怖に耐え続けた。
        いっその事すべてを話してしまえ、と言う衝動に何度も駆られた。
        極限の緊張感はロイの精神に多大な影響を与えてしまっていた。


        そしてそれから逃れる為の自己催眠。
        
        「その自己催眠があなたの潜在意識を前面に押し出してしまったんです。」
        首筋にキスを落とすアイザックに、ロイは声を上げる事も出来ないほど緊張している。
        右手の動きも休む事無く、ロイの陰茎を弄ぶ。

        「あなたがその恐怖を克服しないと、我々には死、あるのみ。」
        「ふああ…」
        皆、あなたを信じて…ここまで着いて来たんですよ。失望させないで下さい…

        ハッハッ、と荒い息をするその唇を、アイザックは静かに塞いでいく。
        逃げる事も出来ずロイは舌を強く吸われ、ぴちゃぴちゃと絡ませられた。

        右手の動きは絶える事無く、袋も揉み解され刺激を与えられていく。
        すでに硬く反り立った先からは、トロトロと液体も流し始めている。

        
        「んっ…ああ…アイザ…ック…」
        「恐いですか…?それとも気持ちいいですか?」
        素直に感じればいいんですよ、大佐。
      
        それがあなたを救う術になる…


        あっあ!と悲鳴に似た喘ぎ声をあげ、ロイは頂点へと向かっていた。

        「いっああ…止め…んっ」
        あと一擦りでイク!と言うその時…


        アイザクは手を止め、身体を覆っていた気配もすっと消えてしまった。

        「うあっ…?」
        「止めろ、と命令されましたから。」
        そう優しい口調で答えると、そのまま気配は遠ざかっていく。

        「ア、イザック…!」
        「では、失礼します。」

        ぱさっと布が擦れる音。
        それがここはテントの中だという事を示していた。


        一人残されたロイは、両手を拘束されたまま身動きできずにもがいていた。
        あと一息で開放される、と言う時に手を止められ、もどかしい感覚が体中を支配する。
        触れられていた恐怖と、イきたい、と言う欲望とが交差する。


        両手を拘束されていてはどうする事も出来ず、身体がジンジンと疼きだしていく。

        


        ぱさっ…
        遠くで布が擦れる音…誰かが入ってくる気配…


        近づくその気配に、ロイは恐怖を感じながらも、次第に欲望の方が支配していった。


        「誰…だ…」
        誰でもいい…この疼きを何とかして欲しい…


        両手の拳を握り締め、すぐ横にまで迫った気配に意識を集中させる。


        冷たい鉄の感触が、頬をそっと撫でていく。



        「…エド…か…?」
        「ん…心配だから様子を見に来た。」
        まだ触れられると恐い…?俺、傍にいてもいい…?


        人肌が触れると恐いだろうから、機械鎧の方であんたに触れるから…



        優しく撫でるその感触が以外に気持ちよく、ロイは静かに眼を閉じた。 

        頬から首筋に、肩から胸へ。

        そっと触れるだけの指がさらりと流れていく。



        ピンと強張ったロイの陰茎にその指が到達した時、エドはそっとロイの唇に触れていた。   

        さらりと流れるように触れる絹の感触。
        それがエドの髪だと気が付くのに時間はかからなかった。



        「エド…して…くれ…」
        「大佐…?」
        「…抱いて…くれ…エド…」

        ガシャンと動かない腕をエドに向け、身体をピタッと密着させる。


        ロイはいまや、恐怖よりもこの疼きを解消する事に意識を集中させていた。
        そして…エドならいいと…自ら納得し、そして懇願したのだ。



        抱いてくれ…と。



        「俺でいいの…?本当に?」
        「お前なら…いい。だから…」

        その先を言う前に、エドにより唇を塞がれる。
        眼を閉じ、エドの求めに応じ舌を絡ませるロイに、エドはキスを交わしながら目で微笑んでいた。


        暗闇の中…

        それは純粋な笑顔ではない事をロイは見えてはいなかった。 






        テントの入り口で成り行きを聞いていたアイザックは、満足げに微笑みながらその場を離れる。
        すぐ近くの木に寄りかかっているハボックに近づいていった。

        「アイザックさん。首尾は?」
        「予定通りです。大佐は自ら進んでエドワードさんを求めました。」
        凌辱でもなく、強姦でもなく。
        自ら進んでエドワードさんを求めた。


        それが潜在意識の中に植え込まれた恐怖を克服する荒療治。


        「そ、すか…」

        複雑な表情を見せるハボックに、アイザックが問いかけた。

        「そう言えば…大佐が催眠術から覚めるキーワード、あなたは知っていたようですね。」
        「あぁ、アレ…ね…」

        「腹が減った。何か買って来い…そう大佐は言いました。そして…」
        「俺がこう答えた。『ハイハイ。近くに美味しいドーナッツがありますから買ってきます。』ってね。」

        咥えていたタバコをす〜っと吸い込み、ゆっくりと煙を吐き出す。

        「何か意味があるんですか?」
        「俺と大佐が初めて一緒の朝を迎えた時の会話です。」
       
        悲しげな瞳で見つめるハボックに、アイザックが首を傾げた。
        一緒に迎えた朝での会話…?だったら…

        
        「大佐とあなたは恋人同士だったのですか?」
        ストレートな質問に、ハボックはただ笑うだけしか出来なかった。
        恋人…?俺と大佐が…?

        「あの日…俺は殆ど強姦同様にあの人を抱いたんです。」
        一緒に皆で酒飲んで…泥酔した俺を大佐が送り届けてくれて…

        ベッドまで運んでくれた時、俺の中で何かが弾け飛んだ。

        「それからはもう殆ど覚えてません。ただ一言、あの人の声が今でも俺の頭の中に響いている。」


        
        止めろ!ハボック!と…



        「朝起きた時、俺は何て事をしてしまったんだ、って自己嫌悪に陥りました。でも…」
        「大佐が眼を覚ました時、あの台詞を言ったんですね。」
        ハボックはこくんと頷き、短くなったタバコを地面につけて火を消した。

        「あの人は何事もなかった様に朝を迎え、そして自分の家に帰って行きました。」
        次の日も今までと何ら変わりない日常を過ごす。
        
       
        「俺を責める事も、受け入れる事もなく、全てを何もなかった頃に戻してしまった。」
        受け入れてくれたのなら、今頃は恋人同士となっていただろう。
        責められていたら、俺は軍を辞めていたかもしれない。


        あの人は…そのどちらも否、と判断したのか…


        「でも大佐はキーワードにあの言葉を選びました。」
        「はは…罪な人です。俺の気持ちなんて考えているんだか…」

        何故大佐はあの言葉をキーワードに選んだのだろう。
        俺が関わっていたから…?俺ならキーワードを解けると思ったから…?




        「…エドワードさんの次はあなたの力が必要です、ハボック少尉。」
        「それこそ、俺なんかでいいんですかね…」
        

        再びタバコを吸おうとしたハボックを制し、それをひょいと奪い取る。
        徐に咥えると、ポケットからマッチを取り出し火を点けた。


        ふぅ〜と煙を吐くと、いつもの穏やかな表情ではなく黒い笑いを浮かべハボックに返す。
        


        「それこそここの部隊の男全員にさせてもいいんですよ。」
        そうすれば恐怖なんて感じる暇もないくらい、快楽を求め続けるでしょうね。

        あまりの言葉に、ハボックも震えながらタバコを受取った。
        「冗談に聞こえないっすよ、アイザックさん…」
        「では、エドワードさんとあなたで終わらせる様にして下さい。」

        大総統閣下の軍はすぐそこまで迫っています。我々には時間がない。
        長となる人があれでは、我々は死、あるのみ。

        
        冷たく言い放つアイザックに、ハボックは流石にむっとする。
        その気配にアイザックはすぐに気が付き、鋭い視線で逆にハボックを見据えた。


        「我々は遊んでいる訳ではないんです。命がけで使命を果たす。」
        「判ってますって!大佐は必ず元に戻して見せる!」

        意気込むハボックに、アイザックは冷ややかな視線を向ける。



        「あなた方の絆をとくと拝見致しましょう。」


        そして、いつもの優雅な仕草で一礼し、自分のテントへと戻っていった。




        To be continues.

     




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