牙が赤く染まる時  19



        「アイザックさん!大変です。大総統閣下の軍が…」
        「あぁ、やっと動きましたか。」

        ホークアイのメモを受取ると、アイザックはにっこり微笑んで余裕の表情を見せた。

        「どうします?大佐はまだ…」
        「そうですね、ちょっと様子を見てきましょうか。」

        ハボック少尉が加わってからもう2時間が経つ。
        それでもし変わっていなかったら今度は誰をよこそうか。


        ヒューズ中佐は拒否をした。
        妻子ある身だし、そういう行為は結婚と同時に卒業したんだ、と。


        いや、中佐はよく理解している。
        大佐の病気を治すには、深い愛情が必要なんだと言う事。
        中途半端な愛情では返って病状を悪化させるだけ。


        だがそれはじっくりと時間をかけて治す場合。
        今は時間がない。とにかく立ち直ってくれなければ…


        アイザックはエドトロイとハボックがいるテントの前に立った。
        中から物音は聞こえてこない。当然、アノ声も無しだった。

        「大佐…?エドワードさん?ハボック少尉…」

        声をかけると、中からエドの声が響いてきた。
        「アイザックか?」
        「はい、そうです。大佐は…」
        「状況が動いたんだな。今行く。」

        がさっと言う音と共に、エドワードは上半身裸の状態でテントから顔を出してきた。

        「大総統の軍が動いたか。」
        「ええ。こちらに向かっています。」
        「案外早かったな。もう少し待ってくれるかと思ったのに。」
        「それだけ大佐を取り戻したいのでしょう。大佐の具合は如何です?」

        そうアイザックが訊ねると、エドは小さく溜め息をつきながらテントの入り口を左手で開ける。


        ベッドの上で、ハボックに抱き抱えられて眠るロイが眼に映る。
        優しく髪を撫でるハボックに、アイザックがそっと近づいていった。

        身体中に紅い跡を残すロイ。
        古いもの、新しいもの、今付けられたばかりのもの。

        顔中に殴られた痣がまだ残っている。拷問の酷さを物語っていた。
        だがその表情は穏やかで、安心しきってハボックの胸の中で眠っている。


        「少尉…これは…」
        「少なくとも、俺と大将への警戒心は払拭しましたけどね。」
        後は目覚めて、あんたを見て怯えなければ完了、ですかね。

        小さく微笑み、ハボックはロイの額にキスを落とす。

        その感触に、ロイが静かに瞳を開けた。


        「お早うございます、大佐。気分は?」
        「…最悪だ…この淫乱。」
        そう悪態つきながらも、ロイははボックの首に腕を回し、その唇を自ら塞ぐ。
        長いディープキスの後、背後の人の気配にようやく気づいて背中をビクッと震わせた。

        「…アイザック…か…」
        「はい。ご気分は如何ですか…?」


        ロイはアイザックに震えながら手を伸ばし、その肩に触れる。
        アイザックは動かず、その一挙一動を見つめていた。

        小刻みに震えながら、何とか肩に触れる事が出来たロイは、ほっとした表情でその腕を引っ込める。
        
        
        「何とか…耐えられそうですか?」
        「耐えなければ…死、あるのみ。そう言ったのはお前だ。」

        アイザックの視線を避けるようにロイは立ち上がると、傍に置いてあった軍服に身を包み込む。
        青い勝負服に袖を通し、戦闘意欲を高めていく。

        アイザックが様子を見に来たと言う事は、大総統閣下の軍が動いたと言うことか…


        「すぐに作戦会議を…」
        「兵士達は準備をしております。まずはあなたの声を聞かせてやって下さい。」
        テントの前に皆揃っています。さぁ。


        アイザックはすっとロイの腕を掴むと、そのまま入り口の方へと引きずっていく。
        ハボックとエドは不意の事で思わず立ちすくんでしまっていた。

        「ま、待ってください!アイザックさん!大佐はまだ…」
        「アイザック!待て!まだ早い!」
        「待ってられません。荒療治といったでしょう?こんな状態のままでは大総統と戦うのは無理です。」


        二人が止めようとする前に、アイザックはテントのカーテンをバッと開け、ロイを外へ突き飛ばした。


        百人近くの人の視線が一斉にロイに注がれる。


        「うっ…ああ…」

        足がガクガクと震え、後ろに後ずさるロイを捕えると、耳元でそっと囁いた。



        「さぁ…あなたの意気込みを語ってください。そして兵士達に戦う意欲を与えて下さい。」

        だがロイは首を横に振って、声も出ずに体を強張らせてしまっていた。
  
        「だ…めだ…私…は…」
        「ふぅ…仕方ありませんね。毒をもって毒を制す。宜しいですか?大佐。」

        アイザックの声のトーンが低くなると同時に、掴んだ腕に力が込められていく。


        
        そしていきなり群衆の中にロイを突き飛ばすと、兵士達に一声命令した。




        「犯せ。」



        その声に兵士達は一斉に反応し、数十本の腕がロイの軍服を見る見るうちに引き裂いた。


        「やぁあああ!」
        「大佐!!」「止めろ!アイザック!止めさせろ!」
        だがアイザックは聞き入れようとはせず、逆に助けようとするエドを右手で制してしまった。

        「アイザック!」
        「これは治療ですよ、エドワードさん。」

        大佐がこの試練に耐えられれば、治療は成功。駄目なら我々は大佐を諦め、この作戦そのものを捨て去ります。

 

        群衆の中心で、ロイは悲鳴をあげながら男達に組み敷かれていく。
        助けを求めて中を彷徨っていた両手は押さえつけられ、白い身体にはまるでヒルの様な赤い舌に覆われていく。

        全裸にされ、ロイ自身も否応無しに扱かれて、無意識の内に先走りの液を流していった。

        「ふっあ…」
        悲鳴をあげようにも舌を求めて男たちが群がり、その咥内を犯していく。
        
        全身を愛撫され、恐怖と快楽でロイの身体は震えっぱなしだった。


        「ひっああああ!!」
        ガクガクと身体が大きく震え、ロイの身体を貫いた事が外からでも判る。
        全身に付けられた紅い跡を辿る様に、男達は執拗な愛撫を繰り返していった。


        うつ伏せにされ、背後から置く深くまで貫かれる。
        顎を上げられ、その咥内にいきり起った陰茎を押し込まれる。
        身体の下に潜り込まれ、ロイの陰茎に舌を這い、その快楽を助長させる。
        両脇から腕が伸び、胸の突起を指で弄ばれる。


        全てはあの刑務所内で起きた強姦と同じ行為。
        

        自分の意思は無視され、止まる事のない屈辱と快楽に攻め立てられていく。


        多くの眼が自分を見つめ、この痴態を喜んでいる。
        誰一人助けようとする者はいない… 


        私は…所詮この程度の人間なのだろうか…
        それならばいっその事、このまま快楽の中で行き続けてしまおうか…

        誰も人間扱いをしてくれないのなら、大総統閣下の元、狗として生きてしまおうか…
        そうすれば…この恐怖から逃れられるかもしれない…

     


        抵抗する動きが鈍っていくロイに、アイザックが失望の眼差しで見つめていた。
        その隣で、エドが助け出そうと身を乗り出している。

        「エドワードさん…大佐はもう治りません。」
        「そんな事はない!あの人はそんなに弱い人間じゃない!」
        制止しようとするアイザックを振り切って、エドが助けに入ろうとしたその時…
        



        ガガーン!



        一発の銃声が鳴り響き、全ての人間の動きが止まった。



        その音の方向には、タバコを吹かしながら、拳銃を空に向けて撃ったハボックが立っていた。


        「ハボック少尉…?」
        「全く…冗談じゃねーっすよ…」

        ゆっくりと群集をかき分け、その中心で蠢く白い身体に近づいていく。
        仰向けに倒れ、正常位で貫かれているロイの顔をぬっと覗き込んだ。

        「ハ…ボ…」
        「…なんて顔してんですか…あんた…」

        貫いていた男が、構わずグッと前に進む。
        その勢いでロイの身体は反り返り、ビクビクと振るわせて白濁液を放出させた。

        腹の上に飛び散った液を、ハボックは指で救い上げ、ロイの頬に擦り付ける
        その表情は怒っている様にも、悲しそうにも見える…

        ズズッと己を引き抜き、男がロイから離れると、すぐに次の兵士がロイの両足を抱え込もうとした。
        ロイは逃げようとも、抵抗しようともしない。

        されるがままに、その漆黒の瞳は光を失っていく…




        「退け…これは俺のものだ…」


        カチャッと銃口を男に向け、凄まじい威圧感で睨みつける。
        男も怯まず、ハボックに不満をぶつけた。

        「だがこれは治療の一環だとアイザックさんが…」
        「俺は同じ事は言わない。」

        引き金を引かれ、狙いは完璧に心臓につけている。
        この距離なら一ミリとも狂わず、命の源を貫くだろう。


        男は後ずさりながらロイから離れていく。
        周りに群がっていた兵士達も、自然と足が後方へと向いていた。


        ハボックの足元でうずくまる様に倒れこむロイ。
        だがハボックはロイにすら手を差し伸べようともしない。

        「ハボ…」
        「何て顔してるんですか!あんたは!」

        ガシッとロイの髪を掴むと、自分の方へと無理やり引き寄せる。
        痛みで顔が歪もうが構わず、ハボックは自分の目線に持ってこさせた。

        漆黒の瞳には未だ光は灯されず…
 
        青い瞳をただ映し出すだけ。


        「あんた…こんな所で何をしてるんですか…」

        「あんたは、あんたには遥かなる高みに目標があるんでしょうが!」
        「こんな所で堕ちてどうするんですか!」

        

        「こんな所で…俺達を捨てないで下さいよ…」


        そのままハボックはロイをきつく抱き寄せた。
        肩が震えている…泣いているのか…

        虚ろな表情だったロイは、ハボックに身を委ねながら静かに眼を閉じる。


        だらりとしていたその両腕は、ハボックの大きな背中を抱きしめた。



        「…私が…あの湖の別荘で気を失ってからどれくらいになる…」
        「…丸1日。」
        「大総統閣下の軍は今どれくらいの所に?」
        「あと4時間ほどでこちらと衝突します、大佐。」

        アイザックがゆっくりと近づいてきた。
        だがロイは震える事無く、アイザックの方に振り向いた。

        「準備をするには充分な時間ではないが、間に合わない時間でもない。」
        「大佐…」


        「すぐに陣形を取ろう。この荒地の地形を利用するんだ。」
        「ヒューズを呼べ!軍の情報を知りたい。」
        「アイザックは部隊を編成。それぞれの特徴を私に報告しろ。」
        「ホークアイ中尉に武器の選定をさせろ。狙撃隊を編成するんだ。」
        「ハボック少尉!」
        「は、はい!大佐!俺は何を…」


        ロイははボックの顔をぐっと掴むと、にっこりと笑いながら一言命令した。


        「腹が減った。何か食わせろ。」


        その言葉にハボックは一瞬呆気にとられながら、すぐにクスクス笑い出してロイの額に頭をくっつけた。


        「はいはい。美味しいドーナツはありませんがね。何か見繕ってきます。」
        「早くしろ。腹が減っては戦は出来んと言うからな。」
        
        ポンと胸を叩くと、ロイはアイザックの方へを眼を向けた。

        「エド、居るな…」


        名前を呼ばれ、エドはビクッとなりながらも「うん」と答える。

        「お前は最前線に出てもらうぞ。人間兵器は上手く使わんとな。」
         
        静かに微笑み、小さく頷く。
        大佐だ…いつもの…あの偉そうで…でも何故だかそれに従ってしまう…


        帰ってきたんだ…俺の大佐が…



        「すぐにかかれ!時間はないぞ!」
        アイザックの一声に、周りにいた兵士達は一斉に動き出す。
        ばたばたと走り回り、武器を用意し、怒号が飛び交う。


        ホークアイ中尉がコートをロイの背後からかけ、そして一歩下がって敬礼をかざした。


        「お帰りなさい!大佐…」
        「お帰りなさい…」

        ブレダやファルマン、フュリーも周りに集まり、エドとアル、ヒューズもいつの間にか傍に集まってきていた。


        「お帰りなさい…大佐…」


        誰もがその言葉を待っていた…
        



        ロイはコートに袖を通し、ハボックに支えられながらゆっくり立ち上がると、皆に向かって敬礼をかざし答える。




        ただいま…と…




        だが、ブラッドレイの軍はすぐそこまで迫っていた…


        

        To be continues.

     




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