牙が赤く染まる時  22



        セントラルに戻ると、ロイはすぐに中央病院に搬送され、そのまま入院となった。


        左肩の傷は、弾が貫通していてかなりの重症。また、身体中に受けた拷問の傷もかなり重く、
        医者はロイの精神力に感嘆していた。


        「良くここまで立っていられましたね。」
        「それほど酷かったのか?気がつかなかった。」

        その答えに医者の背後からクスクスと笑う声がした。


        「大佐は夢中になると周りのことや自分の限界も気がつかなくなりますからね。」
       
        穏やかな表情で微笑みかけるホークアイ中尉に、ロイも苦笑気味に微笑み返す。


        
        全ての真相が知らされ、ロイはただ驚きと怒りと…そして部下への感謝の気持ちに包まれた。




        「まず、俺の所に最初の命令が下されました。」
    
        病室内だというのに、タバコを吹かしソファーにデン、と座るハボック。
        ことの始まりをまるで傍観者だったように語り始めた。


        「アイザックさん…いえ、ボーグ中佐が俺の所に来て、大佐の査定と監査に協力しろって言ってきましてね。」
        「アイザック・ボーグは偽名ではないのか?」
        「ええ、そうです。作戦名です。査定と監査の時に使うコードネームみたいなものです。」
        本名は、こういう任務の為明かす事は出来ません、ご了承を…

        穏やかな表情は相変わらず、だが軍人の規律さを身体からかもし出していた。


        「部下の、大佐への信頼と忠誠も監査対象になりますからね。ハボック少尉がまず命令に従うか審査をします。」
        「大佐には内密に、が前提です。大佐への信頼と忠誠があるのならこの監査をパスさせたい、
                  と思うかどうか調べました。」
        「で、まずはパスしたって訳だ。」

        苦笑しながらハボックを見つめると、ハボックはぱちんとウィンクしながら親指を立てた。


        「ええ、見事に。私をテロリスト「赤い牙」の幹部と紹介し、あなたに会わせました。」
        「俺としては大佐の為って言うより、面白そうだったから、って理由の方が強いんっスけど。」
        「それでもあなたは私の警告を受け入れたではありませんか。」

        アイザックのその言葉にハボックは少し顔を赤らめた。


        「警告とは…?」
        「この査定及び監査は命がけです。すべて本物としてこちらも行動します。」
        「査定及び監査に協力する場合、命の保障は出来ない。大佐も、そして協力する部下の皆も。そう警告しました。」

        テロリストとして、軍はあなた達を本気で追います。大佐があなた達を売り、軍側に付く場合もあります。
        その時は大佐の監査の不合格は勿論、あなたたち全員をテロリストとして逮捕、または処刑します。


        それでも協力しますか?

        私はそう警告しました。


        「ハボック少尉の答えは間髪いれずにYesでした。その後のホークアイ中尉を初めとする直属の部下達も、
         全て迷わずYesと答えましたよ。」
        あなたは良い部下に恵まれていましたね。


        優雅に微笑む笑顔に、ロイも満足げに頷いた。

        だから私も信じたんだ。彼らがただ単にテロリストと手を結ぶ筈がないと。
        何かしら理由があると。そして私はそれを確かめ、そして行動するべきだと。


        ロイの答えに、ハボックもホークアイも小さく頷いた。

        互いの意思は繋がっていて、その思いは一つ。


        後はそれに従い、行動する。
      
        「大佐がグラン准将に連行された時、中佐がハボック少尉の手紙を私の所に持ってきました。」
        そこにはこの一件が査定と監査であり、その監査官は眼の前にいる人だと。
        大佐の為を思うならその人の指示に従ってくれと…


        但しこれは命がけ。大佐も自分らももしかしたら死ぬかもしれない。
        それでも俺は大佐を信じ、この作戦に協力します。

        だから中尉もこの人と共に湖の館に来てほしい…と。


        「私の取るべき行動は一つ。作戦に協力し、大佐を見事合格させる、それだけでした。」
        
        直立不動の姿勢を崩さず、淡々と語るホークアイに、ロイは小さく「ありがとう」と声を掛ける。


        「部下達のあなたへの忠誠と信頼はよく判りました。後はあなた自身の監査でした。」


        理不尽な扱いを受け、銃殺刑の恐怖におびえ、一時たりとも休む事の出来ない状況下に置く。
        そんな中、あなたは部下を信頼し、耐え抜く事が出来るだろうか。

        「大佐殿は閣下の容赦ない拷問にも耐え、決してコードを漏らしませんでした。」
        「だが、それは閣下に対する反逆と取れないか?」
        「いえ、監査基準ではそうではないのです。」

        もし、ロイが部下を裏切りコードを話していたら、部下に対する信頼は無しと見られ、降格処分となる。
        拷問に負け白状していたら、敵の捕虜になった時軍の機密を漏らしてしまう危険性ありと見なされ、やはり降格処分に。


        「あなたには身に覚えのない罪を着せていました。」
        「お蔭でいわれのない屈辱を受けたよ。」
        「ですが、それに屈せずあなたは己が納得するまでは頑として閣下の命を拒みました。」

        万が一クーデターが起き、閣下が追われる立場になってしまった時。
        恐らく多くの兵士達は長いものに巻かれ、新体制に屈するでしょう。

        それが良きものならまだいい。
        だが、武力独裁体制をとる最悪なものだったら。

        
        「閣下は大佐殿のそういう状況下での素質をも見てみたかったとの事です。」
        己が納得しない者に、大佐殿は屈するかどうか…


        「随分と持ち上げられたものだ…」

        独裁体制をとる最悪なもの…?
        今がまさにそうじゃないか…

        もしクーデターが起きたらそれがどんなものであれ、私は喜んで協力するさ。
        私は今、納得してあなたに屈していると思っているのか?


        荒地での攻防はまさに閣下の命を狙っていた。
        あわよくば…自分の夢を果たそうと。

 
        だがロイは、その言葉を胸の奥に仕舞い、アイザックの言葉に静かに微笑むだけに止めた。
        

        自分の国家錬金術師としての査定と、将校としての監査は良く判った。だが…


        「鋼がこの作戦に参加していたのがどうも納得できないのだが?」

        あれは確かに表面上は私の部下だが…
        鋼のが私を上官と思って行動した事は一度たりともない。


        何故今回の作戦に鋼のも加わっていたのか?


        
        「それは閣下がエドワードさんに挑戦状を送りつけましてね。」
        君の可愛い大佐を預かっている。殺されたくなければ取りに来い…と。

        エドワードさんが見事に引っかかりました。
      

        クスッと笑いながら先程から全く話に加わろうとしないエドに眼を向けた。


        病室の隅っこで憮然とした表情で座っているエドに、ロイも苦笑気味に見つめ返す。


        「で、刑務所からの奪還か。それも監査対象だったのか?」
        「勿論です。難攻不落、しかも大総統閣下か関与している刑務所に突入するんです。」
        上官を見捨て、逃げ出すかもしれない。
        全てを告白し、投降するかもしれない。

        そのどちらかでも、あなたは部下に全く信頼されていないと見なされ、降格処分でした。


        「でもエドワードさんを始め、あなたの部下達はあなたを決して見捨てなかった。」
        命の危険に晒されても、全力であなたを奪い返す。

        全て芝居だと判っていても、我らは全力で立ち向かうし、命も狙う。
        捕えれば反逆者として裁判無しで即銃殺刑。


        それらの警告を全て承知で、彼らはあなたを奪いに刑務所へと突入したんです。


        「監査内容としては、司令官が敵側に捕らえられた時、司令官なしで作戦が立てられるか、またそれを的確に実行し、
         そして無事司令官を奪還できるか。それを監査しました。」
        「あなた達は見事にそれを成し遂げ、閣下のお膝元であるセントラルから見事大佐殿を奪い返しました。」

        閣下が称賛しておられました。『見事…』と…
        


        ハボックとホークアイのほうを見て、ロイは再び満面の笑みを浮かべ、そして隅っこにいるエドに声をかけた。



        「鋼の…そんな所に居ないでこちらに来い。」
        「チェッ…何か大総統と大佐に乗せられた様でむかつく。」

        大総統からの手紙をアイザックから受け取った時、後先考えずに大総統府に行こうとした。
        事の全てを聞かされ、俺が断われば大佐が拙い立場になると理解した。

        「俺に選択の余地なんてなかった。」
        愛しい人の為にやるしかなかった。

        何よりも、大総統の手紙の文句が気に入らなかった。


        「兄さん、ずっと機嫌悪かったモンね…」
        刑務所にいいれて拷問だ!?殺されたくなければ取りに来い?

        上等だ!待ってろこんちくしょう!そんなおいしい事、あんた一人で楽しむなんて!


        最後の言葉に、ロイの微笑が消え、代りにエドワードが満面の笑みになる。

        「見たかったなぁ〜大佐が苦しむ所。今度は俺、あんたの部下じゃなくて大総統の手先になろう。」
        そしてあんたの顔が歪むのをワイン片手に一晩中眺める。

        誘うように潤んだ瞳で見つめるまで、その綱を緩めない。


        荒野であんたを抱けたから良しとするけどな。

        
        エドの悪魔のような微笑に、大総統と手を組まなかった事が不幸中の幸いだったと胸を撫で下ろす。
        

        「今回はエドワードさんの国家錬金術の査定も兼ねていましたから。」
        それと、大佐殿が見つけた錬金術師。

        軍にとって役立つものかどうか見定める必要もあるでしょう。

        そして奪還した後の行動。
        大佐殿の窮地に部下の皆さんはどうするのか。

        行動の一つ一つをつぶさに見つめ、監査対象としてチェックする。

        対人恐怖症になってしまったあの時、大佐殿はどう動くか。
        部下達はどう動くか。


        「最終的にあの荒地での攻防に持っていかなければいけなかった私の苦労も労って下さいませんか?」

        クスッと笑いながら金色の髪をさらっりとなびかせ、アイザックはエドの隣に立ち、ロイを見下ろした。
 
        「あなたが我々の組織、「赤い牙」を完全に切り離し、独自に閣下の兵と戦うと決めた時、私は正直焦りました。」
        ある程度の兵力を与え、どれだけ閣下の軍に耐え切れるか。
        そこから、指揮官としての素質を計るつもりでした。

        だがあなたは僅かな部下を率いて、あの大軍と互角に戦った。


        最後は軍人らしく、部下を庇い、全ての責任を背負ったまま自らの命を絶とうとした。


        「全く。あんたの馬鹿で純粋さに呆れたね。」
        そう言いながら、エドは漆黒の髪に指を絡ませ、包帯がまかれているその額にキスを落とす。
        その仕草が心地よいのか、ロイは何も語らず静かに眼を閉じた。        


        「…ヒューズはこの事を最初から知っていたのか?」
        「いや、中佐はやむを得ず引っ張り出した。」
        本当なら巻き込みたくなかった。

        あんたの親友なんて…俺にとって厄介者である以外何でもない。

        「あんたの刑務所の場所がどうしても掴めなくて。仕方なく中佐の力を借りた。」
        「査定と監査だって事を継げたのは、大佐が湖の屋敷で目覚めて、その後荒地に移動する間だよ。」
        そうか…と小さく呟きながらロイは暫く眼を伏せる。
        

        暫しの沈黙の後、ロイは眼を開け、険しい表情でアイザックを見つめた。


        「上層部は何処まで知っているんだ?」
        「ごく一部です。」
        「グラン准将やハクロ少将、東方司令部の将軍、グラハム中将はご存知だったのか?」
        「いいえ。大総統閣下と…他側近中の側近の方々数人だけでした。」
        「赤い牙の兵士達はお前の部下か?」
        「そうです。全て極秘任務に付く私の部下です。」
        
        エドやハボックも口を挟む事が出来ないほど、二人のやりとりが続いていく。


        「この監査内容はお前が考えたのか?」
        「そうです。私が提言し、閣下が了承しました。」
        「閣下は何て?」
        「少し考え、良かろうとただ一言。」
        「暗号文もお前が考えたのか?」
        「はい。ですが閣下はご存知ありません。作戦を本物に見せるためコード番号も閣下にはお知らせしませんでした。」
        「赤い牙の兵士達は、お前に忠実なのか?」
        「はい。『軍』の使命に忠実です、大佐殿。」

        ロイの質問に的確に、率直に答えるアイザック。
        ロイはその眼をじっと見つめ…そしてふっと微笑んだ。


        「アイザック・ボーグは偽名なんだな。」
        「ええ。コードネームです。」

        最後の質問を終えると、ロイはベッドに静かに沈み、そして再び眼を閉じた。


        「で、私は合格したのかね?」
        
        その質問に、エドもハボックも喉をゴクリと鳴らして答えを待った。

        ここまでして不合格なんてやってられねーぜ?
        不合格だったら降格…では合格だったら…?


        「結果は閣下より直接お聞き下さい。」
        アイザックは優しく微笑むと、静かに一礼する。

        今は身体を治し、一日も早く退院する事を考えて下さい。


        優雅に身を翻し、アイザックは病室を後にする。



        ロイはその後姿を見送ると、ホークアイを傍に呼び寄せた。


        「なんでしょう、大佐…」
        「ヒューズを大至急呼んでくれ…そして人払いだ。」

        ただならぬ表情に、ホークアイも何かを察知したのか、黙って頷き同じく病室を後にした。



        「大佐…?」「どうしたんっすか?」

        エドとハボックが不思議そうな表情で見つめている。
        今のアイザックとの会話で、ロイは何かを悟ったのか…



        「アイザックと言う男…中々の喰わせ者だな。」
        「?何の話だ?ただ、軍に忠実な奴じゃないか。」
        「鋼のはそう思ったか。」
        きょとんとするエドの頭を優しく撫で、ハボックに眼を向ける。


        ハボックはタバコを吹かしたまま、静かに微笑んでいた。



        「さすが大佐…何か気がつきましたね。」
        「お前もか…ハボック…」
        「そりゃぁ。長年あんたの部下やってれば何となくね。」

        ふぅ〜っとけむりを吐き出し、ゆっくりとロイの居るベッドへと足を向けた。
        エドの真横に立つと、すっと屈んでその青い瞳にロイを映し出す。


        「で、どうするんです?」
        このまま奴の思惑通りに行くんですか?
        それとも、監査を受け入れ、軍の狗に成り下がりますか?


        そのどちらでも修羅の道に変わりなはい。


        この監査対象として閣下に魅入られた時点で、もう全ては決まっていた。




        「大総統府に…監査結果を聞きに行く。」


        そこが最後の試練。そして全てが決まる。


        「ハボック…私の傍を離れるな…」
        「大佐…?」
        「無断で私の元から離れるな…いつ何時でも私の元に集え。」

        「そして私の力となってくれ…」


        漆黒の瞳が揺ぎ無い力を込め、そのまま吸い込んでしまうかの様にハボックの青い瞳を映し出す。
        その額に手を置き、ハボックは小さく「Yes,sir」と答えた。

        少し不機嫌気味に俯くエドに、ロイは手を伸ばしてぐっと自分の懐に引き寄せた。


        「!?大佐?」
        「エド…私はお前に傍に居るよう強要する事は出来ない…」
        「お前にはお前の目指す目的がある。その為にお前は軍の狗となり、茨の道を自ら選んだ。」

        黙って見つめるエドに、ロイは額を合わせて眼を閉じた。


        「だから…何処に居ても私を思っていてくれ…私もお前が何処に居ようともお前を思っているから…」

        さっきまで青い瞳を映していた漆黒の瞳は、今は金色の瞳を映し出す。


        「私にとって、二人とも同じ様に必要だ…こんな答え方じゃ駄目か…?」
        今、どちらを選べと言われても多分出来ないだろう。

        それでも私を思い、私の為について来てくれるか…


        答える代りに、互いが身を乗り出しハボックはロイの額に、エドは頬にキスを落とす。
        ハボックはそのまま鼻筋を通り、ロイの唇にそれを重ね、エドは首筋に落としていく。



        病院服が肌蹴ていき、包帯だらけの身体が現れた。

        「私は今入院中で、安静にしてろと言われたばかりなのだが…」
        「じゃ、誘うなよ。そんな潤んだ瞳でさ。」
        「大丈夫、優しくしますから。二人が必要なんでしょ?」

        ホークアイ中尉に大至急ヒューズを呼ぶよう命令したんだぞ?
        それまでに終わらせますって。


        アルを見張りに外へ出させて、エドはひょいとベッドの上に身を乗り上げ、ロイのズボンを優しく脱がせていく。
        傷に触らないよう、静かに、丁寧に。
        既に形を成している陰茎にそっと唇に触れると、その先端の液を拭って秘部へと誘導させる。

        大佐が痛がらないように…
        
        既に流れている自らの液と、ロイの液とを使い充分湿らせ、丹念に解していった。
        そして己を取り出し、ゆっくりと、身体に負担がかからない様に繋がっていく。


        「大佐はマゾだから、これじゃ満足しないかもな。」
        「はっあ…ああ…エド…」

        でもないか…
        クスッと笑いながら、ロイの最奥をグンと突き上げる。
        ビクンと身体が反応すると、途端に顔が苦痛に変わる。

        SEXなんて出来る身体ではない。
        それでもロイは拒むどころか、エドの腰に脚を絡めて、奥へ奥へと誘い込んでいった。
        

        ハボックもその上に乗り、ロイの首をぐっとこちらに向かせた。
        肩に負担がかからないよう、成るべく自ら身を乗り出し、猛々しい己を押し込んでいく。

        首が動くだけでも肩に響く。
        ハボックが後頭部を支えていても、舌を動かし奉仕するのはロイにとって辛い行為だ。

        だが吐き出す事無く、ロイは気持ち良さそうにハボックのモノをしゃぶり続けた。



        



        愛してるよ…大佐…
        愛してます…大佐…
   
        二人の言葉に、ロイは心地よい感覚に落ちていく。



        
        まるで壊れやすいガラスを扱うかのように、二人はロイを抱いていった。                        



        To be continues.

     




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