牙が赤く染まる時 24
東方司令部に戻ったロイは、まず将軍に合い、自分の減刑に訪れてくれた事への礼を告げた。
「ありがとうございました!将軍。こんな私の為に閣下と対峙して下さったそうで…」
「なぁに。お前さんが居ないとわしが楽できんからな。」
傷のない方の腕をポン、と叩くと、将軍は小さく溜め息をつき椅子に腰掛けた。
「将軍…?」
「いや…君にはすまないと思っている…わしに力がないばっかりに…」
「何を仰います。私は感謝しております。将軍閣下に返ってご心配をお掛け致しました。」
にこやかな笑顔を浮かべ、静かに一礼してロイは自分の執務室に向かった。
背後でグラハム中将が何か叫んだようだったが、ロイは早く自分のイスに座り落ち着きたいと足を速める。
「あ、大佐!お帰りなさい!心配していたんですよ!」
「大変だったそうで。大丈夫ですか?」
「ああ、すまない。まずは部屋に戻って一息入れたいのでね。」
廊下ですれ違う下士官に、笑顔で応えながら、部署のドアの前に立つ。
いつもの様に部屋に入る。
いつもの様に部下が出迎える。
その空気に安堵感を覚えると、ロイは足早に奥の自分の部屋へと向かった。
「大佐…」
「大佐!実は…」
「やっと帰ったよ。まずは自分の机に座って落ち着きたいね。」
ホークアイ中尉やハボックが何やら心配そうに声をかけたが、ロイはそれを振り切るように
執務室のドアに手をかけた。
カチャ…とドアを開け、部屋の中に滑り込む。
「やぁ…遅かったね…マスタング大佐。」
自分が座る筈のイスに、最も会いたくない人物がすでに腰を下ろしていた。
「か…っか…」
ロイの身体が凍りつく。
何故?ここに。
「ゆっくりしていけと言う私の言葉を振り切りさっさと東方司令部に戻るから、わざわざ私が出向いてやったのだ。」
ゆっくりと椅子から立ち上がり、ドアの前で立ち尽くすロイの方へと向かっていく。
本能的にドアを開けようとするロイに、ブラッドレイは小さく微笑みながらその手を掴んだ。
「構わんよ…このドアを開け、部下に助けを請うといい。」
ギリッと力を込めると、ロイの顔が必然的に歪んでいく。
「閣…下…」
「ああ、君は見られた方が感じるんだったね。あの刑務所での公開尋問は中々興奮していたな。」
目の前まで吐息が近づき、ロイは思わず顔を逸らした。
顔を横に向けたので、白い首筋がブラッドレイの目の前に広がっていく。
ぺろりと舌で舐められ、ロイは握っていたドアノブから手を離した。
冷たく濡れた感触が、首筋を這い回る。
顔をしかめてそれに耐えていると、ブラッドレイがクスクス笑いながら、ロイの身体から離れていった。
「ハハハ、その顔!素敵だよマスタング大佐。私はそれが見たいが為にあの監査を了承した様なものだ。」
高らかに笑いながら、ブラッドレイはロイの座るべき椅子にどっしりと腰を下ろした。
愚かだった…
自分の椅子に座れば逃げ切れると思った自分が愚かで仕様がない。
「…ご用件は何でしょうか…」
ようは、何しにこんな所まで来た!と言う意味。
「君にちょっと聞きたい事があってね。」
肘を机の上に乗せ、腕を組み、鋭い視線でロイを見据える。
ロイはドアから少し離れて、ブラッドレイと真正面に向かい合った。
「監査が終わってすぐに君に聞こうと思ったのに、君は入院もせずさっさと東方司令部に戻ると言うではないか。」
「申し訳ありません。ですが突然の監査だった為、仕事が溜まっておりまして。」
あんた達の下らない遊びに付き合わされたお蔭で、やるべき仕事が溜まっているんだ。
そう言い放ちたいのをぐっと我慢する。
「何をお聞きしたいのですか…?」
「監査結果の報告を終えた直後、アイザックが消えた。」
その言葉にロイは一瞬顔色を変え、すぐに冷静を保つ。
「アイザック中佐が…ですか?」
「アイザック・ボーグは偽名だがね。彼は実に素晴らしい監査官として今まで働いてくれたのだが…」
隻眼の瞳がロイの身体を貫いていく。
ロイはその視線から眼を外す事は出来なくなっていた。
「君は知っていたのかね…?アイザックがテロリストだったと言う事を。」
「…いいえ…それは監査の為の偽りの組織ではないのですか…?」
こんな答えであなたは満足してくれるのだろうか…
「いや…知っていた筈だ…と言うより、気が付いていた筈だ、と言った方が良いか…」
すっと立ち上がり、ゆっくりとロイの方に向かっていく。
ロイの身体は硬直し、迫り来る悪魔から逃れる事は出来なかった。
「アイザックは何処だ…」
「存じません…」
「何かしらお前に置いて言った筈だ…それは何だ…」
「何も…監査結果を終えてから私は彼に会っておりません。」
「コード番号は何だ…キーワードを貰った筈だ…」
「存じません…」
ロイの真正面に立ち、その漆黒の瞳を覗き込む。
ロイは視線をそらす事無く、真っ直ぐブラッドレイの隻眼を見続けた。
「フッ…マスタングよ…何か勘違いをしているな…」
「は…?」
「もはやこれは監査などではない。」
その一言と共に、ブラッドレイはロイの怪我をしている方の肩を掴み、床にねじ伏せた。
肩を思いっきり床に押し付けられ、ロイは思わず悲鳴をあげ苦しがった。
だが扉の向こうから部下達が来る気配はない…
「助けを待っているのか…?愚かな者よ。私が許さない限り、誰も入らないように命じてある。」
どんなに貴様が声を上げ、助けを求めても、誰一人来るものはいないぞ…
もう一度ロイの身体を掴み、今度は机に押し付けるように立たせる。
肩をギリギリと押さえつけられ、堪らずロイは声をあげる。
「閣…下…」
「それともあのドアを開けさせようか?親友の眼の前ではしたが部下の眼の前と言うのはまだ
味あわせていなかったな。」
カチャとベルトのバックルを外すと、ブラッドレイの大きな手がロイの中へと滑り込む。
恐怖と羞恥心で縮こまっている陰茎を、ブラッドレイは優しく揉み解していった。
その手つきは絶妙で、心とは裏腹にそれは確実に快楽を生み出していた。
だんだん頑なっていくロイ自身に、ブラッドレイは微笑みながら耳元で囁く。
「アイザックのコードは何処だ…」
「くっ…し、りません…」
「あやつに義理立てしているのか?あやつはお前が思っている以上に冷徹な奴だぞ?」
不要と判断したら、迷わずお前を見捨てるだろう。
「何処の誰とも判らぬ奴に、お前の将来が閉ざされても良いのか?」
きゅっきゅっと陰茎を擦りあげ、その刺激に反応しているのか、ロイの息が段々荒くなっていく。
しっかりと強度と太さを帯びた陰茎の先からは、とろりと先走りが流れ出る。
それを円滑剤に、更に動きを早めロイを限界まで攻め立てる。
「マスタング…コード番号は何だ…言わぬなら私にも考えがあるぞ…」
ぎゅっと握り締め、そしてその力を強めていく。
そのまま力を入れられれば、引きちぎられるのではないだろうか…
その恐怖に、ロイは身体を動かして逃亡を図る。
だが、がっしりと背後から圧し掛かられ、身動き一つ取れなかった。
あまりの痛みにロイの額に汗が流れ出す。
拳を握り締め、痛みに耐えていると、ブラッドレイがもう一度耳元で囁いた。
「これが最後だ。コード番号を言え。」
先程とは打って変った低い声。
これはこの男が全ての許容範囲を越えている事を示していた。
もう…知らないでは済まされない。
「23…」
「23…それから…?」
口調は優しげだが、手の力は緩めず、押さえていた腕を解きズボンを器用に脱がせていく。
双丘の谷間を撫でながら後孔に達すると、そこを湿らせもせずに指を挿入させた。
「ひっああっ!」
「23の次は何だ…」
「うっ…T、44…」
ぐりぐりと奥へと侵入させ、湿り気のない肉壁は容赦なく擦れ、強い刺激を中から与え続けた。
奥で指を曲げ中をかき回すと、ロイの両足の力ががくんと抜けた。
その拍子に陰茎が引っ張られ、ロイは思わず悲鳴をあげてしまう。
「大佐!?」
ドアの向こうでは、ハボックを始めとするロイの部下達が洩れ聞こえる悲鳴と衝撃音に顔をしかめていた。
ガタンという大きな音の後に聞こえる上官の悲鳴。
だが誰一人あのドアの向こうに入る事は出来ない。
「大佐…」
「ハボック少尉…落ち着きなさい。」
「でも中尉!これじゃあんまりだ…」
「私達は何も出来ない。ただ大佐を信じるしかない。」
もしコードを最後まで言わないで反逆罪に問われるなら、前のように奪い返せばいい。
「その時はアイザック中佐は大佐がそこまで庇う人物。共に手を結んでも構わないでしょう。」
でも、コード番号を言ってしまうのなら…
「大佐はまだ軍に頭を垂れるべき、と判断した。ならば私達は最高権力者に従うしかない。」
だから今は耐えて待ちましょう。
あの人の判断を…
ホークアイ中尉は無表情のまま書類に眼を通す。
ハボックも不貞腐れながらも席に付き、タバコを吹かし始めた。
本来ならこの部屋は禁煙なのだが…今回だけはホークアイも眼を瞑った。
ドアの向こうの攻防を待つには、タバコの力も借りないと耐えられない。
「…E86…7L…2L…です…」
「ふむ。キーワードは?」
指は3本まで増やされ、中でバラバラに動き肉壁を擦りあわす。
陰茎を握った手は力を緩めず、後ろの刺激だけでロイは絶頂に向かわされていた。
「あっあ…んん…」
「イきたいか…?だがまだ駄目だ。キーワードはなんだ?」
「はっあ…キーワード…」
耳元に息を吹きかけられ、ロイはブルッと身震いする。
下腹部の痛みはもう限界。後孔からの刺激はとうに頂点を超えている。
段々思考が鈍り、ロイは息も絶え絶えに言葉を告げていく。
「し…漆黒の…闇…」
「それから?」
「闇…から来たる者…」
くいっと人差し指を曲げ、前立腺のポイントをつつっと中から撫でる。
続いて中指を同じ様に擦り合わせる。
その微妙な刺激が中の肉壁を疼かせ、ロイは更に強い刺激を求めてブラッドレイの指を締め付ける。
ズズッと一度指先まで出し、またグンと置くまで突き入れる。
ビクンと身体を震わせ、その愛撫に心も奪われていく。
「うっあ……」
「まだあるだろう…キーワードの続きを。」
優しげに語り掛け、だが陰茎への刺激と後孔への愛撫の手は緩めない。
ハッハッと息を吐き、ロイの眼から涙が零れだす。
その雫を、ブラッドレイは背後から唇で拭い取る。
「言いなさい、マスタング…」
「あ…んっ、紅き龍を纏い…救世主となる…」
闇より来たりし者、紅き龍を纏い救世主になる…?アイザックめ…
またこの者を取り込むつもりだったのか…
だがこやつはまだ私の元に居る事を選んだようだ…ふふ…
掴んでいた手を緩め、中の指も一気に引き抜く。
「ひっ!」と声をあげ、ロイはあっけなく果ててしまった。
白い液がロイの執務室の机を汚していく。
そのままずるずると机の下に倒れこんでしまった。
ブラッドレイはロイの肩を優しく抱き、ゆっくりと立たせ労いの言葉をかけた。
「よく言った。マスタング。良い選択だ。」
「お前を准将にしなかったのはアイザックをおびき寄せる為だったが、上手く功を制した。」
ではご褒美をあげようか。
その言葉にロイの表情が強張り、とっさに逃げようとした身体をブラッドレイは再びねじ伏せた。
ジジジと言う音と共に熱い塊が押し付けられる。
腰を一気に引き寄せられ、その異物は中を割って進入してきた。
「うっあああ!!」
挿入の痛みに耐えかね背中を反らし、悲鳴をあげて逃げようとする。
だが繋がってしまった身体は容易に離れず、赤黒い凶器はロイの奥深くを支配していった。
根元まで押し込むと、ブラッドレイは掌でロイの陰茎を優しく包み込み、軽く刺激を与え始める。
だらりと萎えていた筈の陰茎は、すぐにググッと頭を持ち上げる。
「存分に味わうがいい。お前の忠誠心に私が精魂込めて応えてやろう。」
ロイの腰を掴み、ブラッドレイは自慢の凶器を挿出する。
一端先端まで抜き、勢いをつけて最奥へと突き上げる。
机にしがみ付くにも、肩の傷が力を奪い、ロイはブラッドレイの動きに合わせるかのように身体を揺らせるしかなかった。
「はぅ、んん!」
「構わん、声をあげよ。その可憐な喘ぎ声を自慢の部下に聞かせてやるといい。」
嫌だと首を振るが、ブラッドレイはロイの声をあげさせんが為に更にリズムよく出し入れを繰り返していく。
太腿に足を入れ、持ち上げるように挿入すると、入る角度が変わりより一層の快楽をかもし出す。
その度に、出したくない筈の喘ぎ声が、唇からあられもなく漏れ出していく。
まるで女の様に喘ぐロイを、ブラッドレイはさも楽しげに犯し続けた。
「ふっ!」
「ひあああ!!!」
二つの声が同時に発せられ、ブラッドレイはロイの中に欲望を注ぎこみ、ロイは再び自分の机を己で汚した。
ズルリと棒が抜かれ、ロイはバサリと床に倒れこんだ。
今度はブラッドレイは起こそうともせず、身なりを整え足早にドアへと近づいていった。
ガチャッとドアノブを捻り、隣に続く部屋へと顔を出す。
一瞬時が止まり…
そしてホークアイ中尉がさっと立ち上がって敬礼をかざした。
それに続き、ブレダ、ファルマン、フュリーが立ち上がって敬礼をする。
そしてハボックが明らかに不機嫌な表情で、咥えタバコで敬礼をかざした。
ブラッドレイはその全ての行動をみ終わると、満面の笑みを浮かべて右手を挙げた。
「話はすんだ。私はセントラルに帰るとしよう。」
「では列車の手配を。」
「なに、構わん。それより君達の上司を介抱してあげなさい。傷が開いてしまったようだ。
まだ入院していなければいけないものを、無理をするからだ。」
にこやかにそう告げると、きっと睨みつけているハボックに微笑みかけ、部屋を後にしていった。
「大佐!」
「大佐!しっかり…」
部屋のドアを開け中に入り、ハボックは一瞬目を見張る。
机の前で寄りかかるように倒れているロイ。下腹部は何も着けてなく、陵辱の後はくっきり残されていた。
いつも上を目指し、この国への思いを語り、果たすべく夢を見続けた机は、それを打ち砕くかの様に無残に汚されていた。
「大佐…」
「…っ、ハボ…ク…」
薄らと眼を開け、目の前の男を確認すると、その太い腕をガシッと掴み自分に引き寄せた。
「大佐、今医務室へ…」
「急げ!すぐにアイザックに知らせるんだ。危険が…」
「大佐!?」
「早く!コード番号が示す座標の場所に知らせろ!軍が来ると。」
そう言うと、肩の傷みに気がついたのか顔をしかめ、苦しそうに蹲る。
「大佐…でもコード番号言ったんっすよね…それはあんたは軍に居ると判断したんじゃ…」
「そうだ…私はまだ軍に残ってやらなければならない事がある。まだあの独裁者に頭を垂れる必要がある。」
だから話した。アイザックが私に託したコード番号を。
それが何を意味するかもすべて承知で。
「だがアイザックも今失うわけには行かない。間に合うなら出来る限りの事をする。だから…」
肩の部分が黒く染まっていく。傷が開き出血をしているのか…
顔色もだんだん青ざめていき、今にも気を失いそうな表情だった。
「早く!言って知らせてくれ!逃げろと。そして今暫く地下に潜れと。」
私に接触はするなと。少なくとも今はまだ時期尚早だ。
血の気が失われて行く身体とは裏腹に、ハボックを掴む手の力は強くなっていく。
「判りました。コード番号は?」
「23T…44E86…7L…2L…漆黒の闇より来たりし者、紅き龍を纏い救世主になる…」
「了解。すぐに調べて向かいます。兎に角医務室へ…」
その言葉を聞くと、安心したのかすっと力が抜け、ロイは気を失った。
ハボックは上着を脱ぎロイの身体に掛けると、額にキスをしてロイを抱きかかえた。
「少尉…」
「ホークアイ中尉、すみません、この番号の座標を調べて下さい。俺はこの人を医務室へ運びます。」
「判ったわ。すぐに調べるわ。大佐をお願い…」
ハボックはコード番号をホークアイに伝えると、駆け足で医務室へと向かっていった。
To be continues.