緑色の恋心 7
「ちわーっす!大佐〜起きてますか?」
玄関の方から聞こえてくる聞き慣れた声に、私もキメラも反応する。
「こっちだ。何か用か?」
「何か用かは無いでしょう?せっかく朝食を…」
そう言いながらハボックがキッチンに入ってきた。
袋を提げ、きょとんとしている。
「何を見ている。」
「…いえ…あんた、何してるんですか?」
「何って…見て判らんか?朝食を作っているんだが。」
「…つか、それなんですか?」
ハボックは私の横で甲斐甲斐しく朝食の準備を手伝っている蔦を指差した。
蔦は上手にパンを切り、それを皿に並べてテーブルに置いていた。
私は、蔦が下ごしらえしたハムと溶き卵をフライパンで焼いている途中だった。
すっと蔦が私の手に絡みつく。
「ああ、もう火から下ろしていいんだな。」
そう言って私は火を消し、蔦が用意した皿にそれを乗せる。
蔦はそれを持ち、テーブルに並べていく。
「お前も食べるか?」
「いや、遠慮します…」
そうか、と言いながら私は蔦が引いて待っている椅子に腰掛ける。
蔦が入れてくれたコーヒーを口に含み、朝食を開始した。
「美味しいよ。火加減は私がやらないと駄目なんだが、下ごしらえや味付けは絶品だ。」
「家事上手なキメラっすか…」
「ああ。それに甲斐甲斐しく世話をしてくれる。便利な奴だよ。」
昨日の夜、キメラにイかされて気を失った後、夕飯の支度や風呂の準備、寝床の準備など一切を
キメラの蔦がやってくれた。
それはどれも完璧で、私は舌を巻くほどだ。
鋼のだったら絶対やらないだろうな。
そう苦笑しながらも、蔦の行為に甘んじてそれを受け取った。
「博士にそう仕込まれただけですよ。」
「多分な。それでも何故か私を主と認め、世話をしてくれる。中々嬉しいものだ。」
半熟のスクランブルエッグをパンに乗せ、それを頬張る。
ハボックは呆れ顔で報告書を取り出した。
「グラン准将の動きですが。」
「何か進展があったのか?」
「どうも博士を捕らえると言うよりも研究試料を手に入れる方が重要らしいです。」
「成る程。罪を犯したから捕まえるのではなく、その錬金術の技術が欲しくて捕まえるわけだ。」
「そのようっすね。大佐の方は何か判ったんですか?」
ハボックの質問に、私は少し顔を曇らせる。
「まぁな。博士の日記は何とか解読できそうだよ。
「博士の研究って一体…」
「究極の治療薬らしい…」
私はナイフとフォークをテーブルに置き、メモをポケットから取り出した。
「博士は植物における自然治癒能力を研究していた。」
「植物は枝一本になってもそこから根を出し再生する。」
「それを人間の治療薬に応用できないか研究していたようだ。」
人間にもわずかながら自然治癒能力はある。
植物から出来るその薬を投与すれば、自然治癒能力が高まり、たちどころに傷を自らの力で治すという。
それがもし完成したら、軍にとって是非とも手に入れたい代物だ。
「それで…あのキメラとの関係は…」
「そこまではまだ解明されていないんだ。だが、その治療薬を作る材料が…」
「人間の体液…らしいんだ。」
体液…血液や唾液、そして…
「精液。これが一番の材料らしい。」
「せ…いえきって…」
これらがどれくらい必要なのかまだわからない。
だが、この研究所にやって来た浮浪者達は、恐らくその材料提供の為に血を抜かれたり精を絞られたりしたのだろう。
これが致死量に値するなら…ここに来たきり行方不明になる理由が付く。
「人体を使っての練成。例え体液とはいえそれが人の命に関わるのなら軍としても放って置けまい。」
そして…鋼のはそれに巻き込まれた。
もしかしたら博士は体液だけじゃ飽き足らず、鋼の身体すべてを使って錬成したのかもしれない。
そして生まれたのがあのキメラなのか…
確かに蔦を切ってもすぐに再生していた。
何より人間の言葉を辛うじて理解する。
そして私に囁くたった一つの言葉…
「博士を探すんだ。グラン准将よりも先に。」
そして鋼のを元に戻す方法を考える。
「判りました。大佐はどうします?この事准将に報告しますか?」
「いや…恐らく准将はもう知っているだろう。だから早急に捕らえるよう指令が出たんだ。」
「だから…こんな結果じゃ准将は満足しない。」
だから早く何かを見つけなければ。
キメラの秘密を見つけなければ。
博士の居所が判る様なものを見つけなければ。
食べ終わったと思ったのか、蔦が皿をすっと持ち上げる。
「ああ、ありがとう。後は頼むよ。」
優しく微笑みながら、私はまたキメラのいる机に向かう。
何故だかどうしてもあのキメラの傍に居たかった。
エドが…不安にならない様…常に傍に居たかった。
「鋼の。少し日光浴でもするか?」
そう言って私はキメラの幹に触れる。
蔦がすっと伸びてきて、私の身体にそっと巻きついた。
まるで抱きしめあうように触れ合い、私は幹の根元を持ち上げてみた。
それは全く動かない。
それ程重いのかと根元を見ると、根が床にびっしりと食い込み、それをカバーするかのように
底に穴の開いた植木鉢が置かれていた。
「ああ、そうか…だから君はここから動けないのか。」
蔦が動くのだから、根も動いて移動可能なのかと思ったが。
しかも床に食い込むように根が張っているんじゃ、家ごと壊さないと君は運び出せないな。
キメラは葉をゆさゆさと動かし、何かを訴えるように蔦が私に絡みつく。
安心しろ…お前が動けないのなら、私がここにいる。
常のお前の傍にいる。鋼の。
葉に触れ、そっと口付けをすると、背後からハボックが私の腕を掴んで引き寄せた。
「何を!?」
「大佐!あんたはどうかしてますよ!これはキメラなんです。人間じゃないんです。」
「判っている…」
「そんな化け物に恋をしてどうするんですか!」
「恋…?」
恋…?これが…?
私はこのキメラに恋をしているとでも言うのか…?
「これは化け物ではない…鋼の…だ…」
「これは大将なんかじゃない!例えエドが人体練成されたとしても、これはもう大将なんかじゃない!」
「頭を冷やしてください!大佐!あんたはこんなキメラの為に今まで培ってきた地位や名誉や信念を捨てる気なんですか!?」
この国のあり方を変えると決意したその信念。
今までどんな困難も皆で乗り切ってきたじゃないですか!
あんたを信じてついてきた仲間すべてをここで捨てる気なんですか…
こんなキメラの為だけに…
私は何も言い返せなかった。
この国を救いたい。その信念は今も変わる事はない。
着いて来てくれた部下を今でも信じているし、ありがたいと思っている。
「お前にも感謝している…ハボック。」
私はハボックの頬に手を添え、触れるような口付けをする。
そのまま腕を伸ばし、ハボックを私から遠ざける。
「それ以上に…私は大切な物がある事がわかったんだ…」
ハボックに背を向け、私はキメラに近づきその葉に唇を落とす。
蔦は私を抱きしめ、たった一つの言葉を繰り返し私の中に響かせた。
たいさ…たいさ…
「判りません!何で人間の俺たちより、こんなキメラの方をとるんすか!」
「キメラのテクニックはそんなにすごいんすか?あんたをそんな腑抜けにさせる程善くして貰ったんですか!?」
ものすごい剣幕で私を背後から抱きしめ、そのままキメラから引き剥がした。
そして机に押し倒され、ハボックは馬乗りに私に圧し掛かる。
「止めないか…私はその気はない。」
「キメラと俺とどっちがいいか比べてみましょうか?」
あんな化け物に俺が負けるはずがないっすよ。
勝ち誇ったように笑うハボックに、私は小さくため息をつく。
「ハボック…無駄だよ。私はもう心に決めた。」
私はキメラと共に生きていく。
必ず元に戻す。万が一出来ないと分かったら、生涯傍にいる。
ハボック…お前とキメラのどちらがいいか比べろと言ったな。
「比べるまでもない。これの方が断然いいぞ。」
私の横に伸びてきた数本の蔦を手に取り、私はそれに頬擦りをする。
私は右手でハボックを避け、自らシャツを脱いでキメラの方に近づいた。
蔦が数本伸びてきて、私の肌に触れていく。
もう何度となく愛撫をされイかされている。
だから蔦も私の弱点が判るのだろう。確実にポイントに絡みつき、攻め立てていく。
「はっあ…」
すぐに喘ぎ声を上げ、私はキメラの傍に横たわった。
蔦がするっとズボンの中に進入し、私の陰茎に絡みつく。
びくんと身体を震わせ、絡みつく蔦に腕を伸ばす。
蔦は私の手首を掴み、それを拘束させる。
両手を開かれ、また両足首も開かせられ、蔦は器用にズボンを剥ぎ取っていく。
露になった私の陰茎を、無数の蔦が絡み、そして擦り上げていく。
「うっはぁああ!」
陰茎だけではなく、身体中に這いずり回る蔦からの刺激で、私は簡単にイってしまった。
空ろな瞳でハボックを見つめると、ハボックは唇を噛み締め私を見つめ返していた。
「大佐…あんた…」
「ハボック…よく見ているんだ。」
私は…このキメラに恋をしている。
だから身体を預け、その快楽を受け入れる。
それは苦痛でもない。そして無理やりでもない。
私は私の意志でキメラに抱かれているんだ。
「鋼の…愛してるよ。」
どんな姿になっても愛してるよ。心から愛してるよ。
潤んだ瞳で蔦を握りしめる。
同じ様に蔦も絡め、私の愛に応えてくれる。
無数の蔦が私の身体を持ち上げ、四つん這いにさせて両足を大きく開かせる。
数本の蔦が後孔を押し広げ、その中を愛撫する。
その刺激は絶妙で、私は恥じらいもなく腰を揺らして蔦を誘う。
その間も蔦は私の身体中を這いずり、愛撫を欠かさない。
大勢のエドの手が私を愛撫しているようだ。
蔦は互いが絡み合い、そして太さも硬さも絶妙な蔦の陰茎を創り出す。
それが私の後孔に触れた時、私は至福の表情で迎え入れる。
「ひっあああ!」
ぐいっと押し込まれる質感に、私は構わず声を上げその快楽を表現する。
中を擦る刺激に、身体を震わせ奥へと誘い込む。
恍惚としたその顔に、蔦が一本絡みつき、私の唇に触れてくる。
それはまるでキスを強請るように、樹液を絡め湿らせていく。
「ふっああ…」
半開きの口の中に蔦が侵入し、私の舌に絡みつく。
貪り食う様に絡ませ合うと、他の蔦も進入してきた。
「ふあ…」
咥内で絡み合い、少し細めの陰茎が出来上がる。
それが出し入れを繰り返し、私は口の中も犯されていく。
甘い樹液が咥内に充満する。
「ううっ…」
後ろからの刺激と、咥内の刺激が私の理性をどんどん狂わせていく。
「ふっぐんん!!」
びくんと大きく痙攣すると、蔦は一斉に私の中に樹液を放出させた。
同時に私の陰茎を激しく擦り上げ、また後孔の陰茎も激しく挿抽を繰り返し私を高みへと導いていく。
ああ…エド…君は最高だよ…
甲高い喘ぎ語を発しながら、私は絶頂に達する。
そのままぐったりと倒れこむと、蔦は優しく私の頬を撫でていく。
「…判ったか…ハボック…」
私は今最高に幸せなんだと言う事を。
気だるい身体を起こし、私はキメラに近づいていく。
蔦が私を抱き寄せ、私も幹に身体を着ける。
熱い抱擁を交わしているんだ。判るか…?ハボック…
「…どうすれば…」
「どうすればあんたを正気に戻せるんだ!」
「私は正気だよ。」
「いや!あんたはおかしくなってるんですよ!こんなキメラを鋼の大将だなんて思って!」
それに犯され、あまつさえ愛してるだなんて!
ハボックが私を強く抱き締める。
だが私はその腕を振り解き、ふらふらと歩き出す。
「大佐っ!」
「ああ、シャワーの準備をしてくれるのか。お間は本当に気が利くな。」
汚れた身体を洗うべく、私は風呂場に向かいタオルを取り出す。
蔦が一足先にそこにいて、熱いお湯を出して待っていた。
私がお湯に身体を当てると、蔦が絡み付いて私の身体を撫でていく。
樹液を洗い流してくれているのかもしれないが、それがまた返って私に刺激を与えていく。
「こら、止めないか。」
くすっと笑いながら、私は蔦を頬に添えて軽く口付ける。
蔦は調子に乗り、数本増やして私の身体を弄り始めた。
こらこら、これではまた汚れてしまうぞ。
そう苦笑しながらも私は蔦に身体を委ねていく。
ガンッ!とハボックが風呂場の壁を叩いた。
「ハボック、まだ視姦する気か?」
「大佐!いい加減に…」
「博士を探せ。彼を准将に渡してはならない。」
正確には…軍に渡してはならない。
絡みつく蔦を受け入れながら、私は真っ直ぐにハボックを見つめる。
そうだ。渡してはならない。
究極の治療薬を軍に渡したらどうなるか。
たちどころに治る薬。それは止め処もなく繰り返される戦闘を意味する。
怪我をしても直ぐ治り、そしてまた戦場へと行かされる
戦争の拡大。軍事費の肥大。戦争孤児の拡大。
そしてこの国の崩壊。
「ハボック。私は私の信念をまだ捨てたわけではない。」
博士を先に見つけ、このキメラを元に戻し、そして軍から完全に隠す。
こんな都合のいい事が出来るとは思わんが、希望は0ではない。
「行け、ハボック。時間はない。」
「…全く、あんたって人は。」
「Yes,sir!」と苦笑交じりで敬礼すると、ハボックは研究所を後にした。
熱いお湯に当てられながら、私は小さくため息をつく。
蔦が心配したのか、弄るのを止め、私の頬をそっと撫でた。
「ああ…大丈夫だ…きっと上手くいく。」
そう信じるしかない。
蔦に触れると、私の気持ちが伝わったのか、再び絡み付いて撫で回し始める。
「んっああ…」
水を浴び元気になったのか、蔦は益々威勢よく弄りだす。
迫り来る快楽に身を沈め、私は三度目の精を放出させた。
To be continues.