下弦の月と恥辱の夜 2

駅のすぐ側に大きな公園がある。
近藤達は近道をする為に公園を横切る事にした。


明かりも少なく、人通りも勿論ない。
一人で通るにはあまりにも危険な公園だ。

「昼間はここ、結構人で賑わうんだがな。」
「今でも結構人いますぜ?見えませんか?近藤さん。」

くすくす笑いながら振り向く沖田に、近藤は少し驚きながら辺りを見回した。


両脇の草むらから、微かに聞こえてくる喘ぎ声。
じっと目を凝らすと、暗闇の中でうごめく人影が見えてきた。

「なっ!」
「さっき近藤さんが言ってたじゃないですかィ。こういう夜は…」
「人が性に乱れるんだ。」

別に慣れてる、と言う感じで土方はタバコに火をつける。
夜回りや夜勤の時、公園内でも男女のトラブルはよくある事。
半裸状態で喧嘩をしている男女カップルを止めに入った事もあった。

平然と歩いていく2人に、近藤は益々溜息が増えていく。


と、その時、明らかに喘ぎ声とは違う悲鳴のような叫び声が草むらから響いてきた。


「土方さん!」
「おぅ、今のは違うな。」

きょとんとしている近藤を尻目に、沖田と土方は声がした草むらへ無造作に飛び込んで行った。

木々をかき分け進んでいくと、二つの人影が目に入ってきた。
一つは下半身を丸出しにしている男。
もう一つは剥ぎ取られそうな着物の衿を必死で抑えている黒髪の女性。
男の手が今まさにその衿の中に入ろうとしていた。

「いやぁ!止めて離して!」
「止めてって言うのはいいって事なんだろう?」

興奮しきった男が優しさも何もなく女の胸を鷲掴みに掴みあげる。
女の悲鳴が辺りに響くが、構わず着物を剥ぎ取ろうと手をかけた。


「はい、そこまで。」

背後からいきなり聞こえた声に、まず男がびっくりして振り向いた。
次いで女が目を見開いたまま沖田の顔を凝視する。

「た、助けてください!」
悲鳴を上げながら助けを求める女の口を男が手で塞ぎ、女の体が沖田に見えるよう抱きなおした。


「何だ、一緒に犯りたいのか?小僧。いいぜ。上の口を犯らせてやらぁ。」
一つに結んだ女の髪を掻き上げながら、首筋に唇を這わせていく。
空いている左手で女の太股を撫でる仕草はあまりにも淫猥な光景だった。
押さえられた口から微かに漏れる喘ぎ声は、男の性欲を刺激していく。

普通の男なら、この男の提案にすんなりと従っただろう。
だが、ここにいる3人は、少なくとも沖田はこの情景では何も感じない。


「あ〜〜悪いな。俺はここにいる土方さんでしか勃たねぇンだ。」
ニコニコと笑顔を絶やさず、隣にいる男を指差す。
なっ!と言う表情で、顔を真っ赤にしながら沖田を睨みつけると、土方は腰の刀を抜き取った。

「手ぇ離せ。警察だ。」
「し、真撰組だ!観念しろ…」

近藤だけが目のやり場に困り、声が少しうわづっていた。
沖田がそっと目を向けると、近藤の顔がほのかに赤い。
男女の痴態を生で見たからか…?

違うな…?近藤さんはそんな事で動揺するような人ではない。
では何に興奮してる?


「し、真撰組!?何でそんな奴らがこんなとこに!」
「偶然通りかかったのが運の尽きだ。大人しくお縄を頂戴しろ。」
真撰組の名を聞いただけで腰砕けになった男は、拘束していた腕を離し女を解放した。

女履物の衿を押さえながら、3人の方へと泣きながら走ってきた。
一番大柄で、一番優しそうな近藤の所に抱きつき、そのまま胸の中で泣き崩れた。

「お、おい、大丈夫か!?」
「ええっ、ぐすっ…」
上から見下ろすように女に声をかけた時、近藤の動機は最高潮に達していた。

着物の衿がはだけ、首筋にはらりと垂れる黒髪。
ほんのり赤く高潮したその白い肌。

ごくりと唾を飲み込み今度は眼を閉じながら羽織っていた羽織を脱いで女にかけた。

「今地元の警察呼ぶから…」
「こっちはもう取り押さえましたぜ?近藤さん。」
「とりあえず警察来るまでここで待つか。」

携帯電話で警察を呼ぶ手配を済ませた土方は、何も動揺する事無く再びタバコに火をつける。
沖田も平然としていて、縛り上げた男を言葉で蔑み責めていた。

「落ち着いたかい?もう大丈夫だから…」
「あ、ありがとうございます…」
潤んだ瞳で見つめられ、近藤は恥らいながら俯いた。


やはり何か変だ…
お妙さんと言う人がいる近藤さんが、こんな状況でこの女に一目惚れする筈もないし。

少し首をかしげながら、沖田はその女性をじっと見つめた。



「ああ、成る程ね。」
「ン?何がだ?」
「あ、いえ別に。ふ〜〜ん、そうなんだ近藤さん。」

くすくす笑う沖田に、土方も首をかしげながらもいつもの事とタバコの煙を吐き出した。


暫くして連絡を受けた大江戸警察の警官が来て、男を婦女暴行の現行犯で連行。
女を保護させ、事情を話し、「後は任せた」と現場を後にした。


いつになく無口な近藤に、土方は別に気にも止めずに後に続く。
沖田は近藤の横にすっと移動し、後ろの土方に聞こえないように囁いた。


「さっきの女…土方さんに雰囲気似てましたね…」

いきなりのその言葉に、近藤は激しく動揺し息を飲み込み咽てしまった。

「ごほっ!ごほっ!!!」
「どうした〜近藤さん。風邪か?」
「い、いや何でもない。ちょっと咽ただけだ。」

胸に手を当て、落ち着かせようとしている近藤の側で、沖田はその黒い笑みを絶やさない。
そうか。女の痴態で興奮したのではなく、土方さんに似てたからか。

土方さんの痴態を見ていたように錯覚したのか。


「近藤さん。今なら2人で押さえ込めますぜィ?」
悪魔の囁きは近藤の理性をもう少しで吹き飛ばしそうだった。


「ば、馬鹿言うな!そんな事出来るわけねぇ!」
声を荒げて怒る近藤に、沖田は笑いながら土方の方へと逃げていく。
土方は、沖田がまた何か近藤をからかったのだと思い、こつんと沖田の頭を小突く。

「いてぇ!何しやがるんでぃ!」
「いい加減にしろ、総悟。悪ふざけも度が過ぎると…」
「どうするんで?お仕置きですかィ?痕や俺の部屋に来ますか?土方さん。」

ぺろりと舌なめずりする沖田に土方はもう一回頭を小突いた。


「馬鹿な事言ってるんじゃねぇ。ほら、もう駅だぞ。」

公園の木々が開け、目の前に繁華街のネオンが広がっていく。
ちぇっと舌打ちする沖田に、近藤はほっと胸を撫で下ろす。


このままもうちょっと暗がりで喘ぎ声の聞こえてくる公園にいたら、俺の理性は耐えられなかったな…


近藤の動揺と沖田の目論みなど知るはずもない土方は、一人クールに駅へと向かって行った。




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