下弦の月と恥辱の夜 3
「L O V E お通ちゃん!」
「…新八もうコンサートは終わったんだ。少し興奮を抑えろよ。」
「今日と言う日付が変わるまで僕はこの興奮を抑える事は出来ません!」
ハァハァと息の荒い新八に、銀時は小さくため息をつきながら少し距離を置いて歩いていた。
ちょっとだけ顔見知りになったアイドルのコンサートに、銀時、新八、神楽の三人が
以前解決した事件のお礼と言う事で無料招待されていた。
勿論、アリーナ席、最前列だ。
ファンクラブの隊長でもある新八は、その知らせを聞いて以来ずっと興奮しっぱなしだった。
そしてその当日は、血管が切れるのではないかと思われるほど叫び続けていた。
だが興味のない銀時と神楽にとっては退屈な時間に過ぎなかった。
人として、アイドルとして嫌いではないが、コンサートの最前列で熱狂する輩と一緒に
楽しめるほどではない。
「銀ちゃん…私眠くなってきたアルよ…」
「俺もだ。でもこの殺気立った中で寝てみろ。終わった頃には俺達きっと暗殺されてるぞ。」
「こんな歌よりも、私、カト健のほうがよかったアル。」
「俺は家で結野アナのTV見てた方がよかったぜ。」
飛び上がって興奮しきっている新八を横に、銀時と神楽はその睡魔を必死で堪えながら、
苦痛の4時間を過ごした。
「僕はこれからファンクラブの集会があります。銀さんはどうしますか?一緒に来ます?」
「冗談じゃねぇ!これ以上お前の趣味につき合わされて堪るか!」
「私も嫌アル。もう眠いアル。」
神楽は目を擦りながら銀時の着物の袖を掴み、その身体の向こうにさっと隠れた。
これ以上苦痛の時間を過ごすのは一秒だって我慢できない。
「しょうがないなぁ。お通ちゃんの良さを理解できない凡人が。」
「凡人で上等だ。じゃ、俺達は先に帰るぞ。」
コンサート会場の出口で新八と別れ、銀時と神楽はそのまま駅へと向かっていった。
駅までの道は繁華街でもあり、明るく賑やかだ。
「銀ちゃん、月出てないね。」
「今日は新月じゃない筈だ。多分もう少し時間が経たないと出て来ないんだろう。」
数日前半月だった。だから今夜はもう少し月は痩せてるだろうな。
空を見上げるが、周りのネオンで星などは見えなかった。
別に月を見て風情に浸るほど自分は詩人ではない。
だがこういう、月明かりの少ない夜は何かと事件が起き易い。
神楽が居るから早めに帰らないとな…
そう思いながら、思わずふっと笑いが浮かぶ。
宇宙最強を誇る「夜兎」の一族の娘に何を心配してる?
へたすりゃ襲ってきた不審者を逆にぼこぼこにしかねない。
それでも。
「お前は女の子だからな。」
「は?今更何を言ってる?この豊かな胸の膨らみが見えないのか?」
「はいはい。爆乳だよ、神楽。」
くすくす笑いながら駅へと急ぐ。
コンサート帰りのファンがごった返す中、何とか切符を買ってホームへと階段を上がっていく。
「人がいっぱい居る。俺から離れるなよ。」
「うん。でももし離れたら?」
「そしたら『かぶき町』で降りて駅の改札で待ってろ。必ずそこに行くから。」
「判ったアル。」
小さく微笑むと、神楽は再び銀時の袖をぎゅっと掴む。
神楽の肩を抱きながら、ホームに滑り込むように電車が入ってくるのを見つめていた。
そのすぐ後。
近藤達3人が、前に銀時が居る事に気づかずに立っていた。
「すげぇ人だな。」
「何か近くの公民館でアイドルのコンサートがあったそうですぜ。」
「もう一本遅らせるか?これじゃ身動き取れそうにないぞ。」
「そうだな。別に時間に追われてるわけじゃないし、いざとなれば車呼べばいいんだし。」
ホームでそう話している時、電車が入ってきた為に乗客たちがざわめき始めた。
ドアが開くと、我先に乗り込もうと押し合っていく。
その流れに近藤たちも巻き込まれ、一本遅らせようとしていたがそのまま押し込まれるように
電車内に乗せられていった。
「ありゃ、乗っちまったぜ。」
「仕方ないな。かぶき町で降りれるかな…」
「ま、楽しい満員電車体験と行きましょうぜ?」
「この窮屈な空間のどこが楽しいんだ!総悟!」
「ほら、身体が密着するでしょう?手がどこに当たっていても身動きは取れない…」
土方の真後ろに立っている沖田はぴったりと身体を密着させ、その腕は土方の太股に添えられていた。
「なっ!止めろ!こんな所で!何考えてるんだ!」
「大きな声出すと回りに聞こえますぜィ?土方さん。」
着物の上から触れられる感触に、土方の身体が身震いする。
その絶妙な触れ具合の良さは、屯所での密かな行為で承認済みだ。
外側の太股から徐々に内股へと指が移動していく。
回りは全く知らない一般の男たち。
悟られないように俯き、声を殺して耐えていた。
いつものあいつの悪い癖だ。
適当に触って満足したら止めるだろう。
唇を噛み締め、沖田が繰り広げている愛撫に感じないよう意識をどこかに向けるために
土方は辺りを見回した。
そういや近藤さんはどこに…この混雑ではぐれたか?
まぁ、子供じゃないから一人になっても大丈夫だと思うが…
意識が他に向いている事に気が付いた沖田は、いきなり着物の中に手を滑り込ませ、だらりと垂れている肉棒を掴みあげた。
「いっあ…」
「何よそに意識向けてるんでぇ。集中しろよ、土方さん。」
「馬鹿やろう!お前もいい加減に…」
「おーい!土方!総悟!大丈夫か!」
ごった返す車内を無理やりかき分け、近藤が二人の側まで近づいてきた。
「いてぇな!」「何だよ!動くなよ!」という苦情の声など一切無視して。
助かった…流石の総悟も近藤さんの目の前じゃ、悪戯なんて出来ないだろう。
案の定、沖田の手の動きはぴたっと止まり、下着の中からすっと居なくなった。
ほっとした表情で土方は近藤の顔を見つめていた。
「ン?どうした?トシ。顔が赤いぞ?」
「いや、別に、人の多さに酔ったのかもしれないな。」
くすっと笑いながら近藤の右肩に額を乗せ、ふぅとため息をつく。
沖田に与えられ続けた刺激は未だほんのりと股間でくすぶっている。
深呼吸をし、意識を別のところに持っていけばじきに収まるだろう。
いきなり肩に額を乗せられた近藤は、首筋から覗く白い肌に心臓がどきりと鳴り出した。
な、ななんでいきなり!?
って、トシ、公園で見た女性より綺麗な肌してるんじゃねーか…
やっ、胸に息を吹きかけるな!あ…髪、いい香りがする…
やばっ!何か股間が熱く…
「どうしやした?近藤さん。土方さんに欲情したんですかィ?」
土方の背後からすっと顔を出し、悪魔の微笑で沖田は近藤に声をかけた。
その台詞に、二人は一瞬我を失い、言葉すら出なかった。
その隙に沖田は近藤の腕を掴み、そのまま土方の着物の中に滑り込ませた。
半勃ち状態だった土方自身を、沖田の手を添えながらぎゅっと握らせる。
「んっあ!何を!」
「そそそ総悟!!?」
「いやぁね。近藤さんが来るまで土方さんに痴漢してたんでさぁ。」
「でも途中で近藤さんが来ちゃって、中断しちゃいましてね。」
沖田は呆然としている近藤に笑いかけながら、開いている手を土方の着物の袂に差し入れた。
「ひっんん!」
「ほら、胸触っただけでこんな声を出すほど土方さんも欲情してるんでさぁ。」
沖田は胸の突起を摘んだり転がしたりして刺激を与え始めた。
半勃ち状態だった土方自身は、みるみる大きく、太さを増していく。
近藤は何故か手を離せず、その感触を自身の掌で直に感じ取っていた。
「や…めろ!総悟…」
「今止めたら辛いのはあんたの方でしょうが。我慢せずに近藤さんに懇願しなせぇ。」
耳元でそう囁かれ、土方は目を潤ませながら近藤を見つめ返した。
「近…藤さん…止め…」
「ごめん!トシ!俺!!」
大きな背中で、他の乗客から隠すように近藤は土方を抱き寄せ、その唇を塞いだ。
差し込まれた舌を感じ、土方は全てを諦めたように目を閉じていった。
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