瀬人様総受け物語12〜古代編〜
















…ト…

…セト…



「セト殿!!」

大きな声で揺り起こされ、俺ははっと目を開けた。

何だ…?もう朝か…?



「…?どうかなされましたか?セト殿。」

見慣れない男が俺の目の前にいる…

いや…どこかで…会った事が…?

「…貴様…誰だ…?ここは!?」

「何を言っておいでです?セト殿…」

きょとんとした表情で俺を見下ろしている。

こいつ…どこかで…

「さ、起きてください。ファラオがもう長い間お待ちかねですぞ。」

俺の腕をぐっと引き、立ち上がらせる。

訳も判らずその力に沿う様に俺は立ち上がり、辺りを見回した。



俺の寝室は消え、辺りは眩い太陽の下。

地面は草で覆われ、すぐ側には冷たく気持ち良さそうな池がある。



何より驚いたのは、遠くに見える神殿の様な建物だった。あれは…

「古代エジプトの神殿の造りじゃないか…?」

「古代…?あれは先月あなたの為にファラオが完成させた神殿ですよ?」

馬鹿な!?今は21世紀でここは日本のはずだ!

一体どうなっているんだ…また、バーチャルの世界にでも取り込まれたのか!?

「とにかくお召し変えを。そんな格好ではファラオに失礼ですよ。」

クスと笑いながら、男は身を翻し、俺の前を歩き出す。

俺の背後に兵士らしき男が3人立つ。まるで逃げないよう見張っている様だ。

兵士に急かされ、俺は男の後を追う様に歩かされる。

「…お前…名前は…?」

「は?私の名前を忘れてしまったのですか?本当に今日のセト殿はどうかしている。」

「余計なものはすべて忘れる性質なのでな。」

「…クス…あなたらしいですね。」

男は立ち止まり、俺の方を振り向いてこう言った。



「私はマハード。黒き魔術師の精霊を持つ神官です。」



ああ…そうか…思い出した…

こいつはブラックマジシャンに似ているんだ…











神殿らしき建物に連れて行かれ、そこの奥の部屋に案内される。

あたり一面に湯気が立ち込める。ここは…

「湯殿です、セト殿。さ、ここで身を清めて下さい。」

「何故いきなり風呂に入らなければならないんだ!」

「ファラオにお会いするのですよ?その様に穢れた身体では無礼に当たります。」

マハードと名乗った男は淡々と話していく。

有無を言わさず、控えていた召使らしき男達が、俺のパジャマ服を剥いで行った。

「止めろ!俺はファラオとかいう奴に会うつもりはない!」

「今更…もう覚悟は決めたのかと思っておりましたが?」

ざぶんと湯殿に入れられ、そのまま頭までお湯に浸される。

屈強な男に頭を押さえつけられ、逃げる事など出来なかった。

もう少しで息が切れる、というところでお湯から引きずり出される。

なんて乱暴なんだ…

「あなたが素直に従ってくれないからですよ…」

優しく微笑みながら、マハードは目配せをして侍女に服を持って来させた。



「さ、これをお付け下さい、セト殿。」

黄金の装飾品と…古代人が着る様な衣装。

紫のマントを付けられ俺はマハードの目の前に連れてこられた。



「宜しい。中々お似合いですよ、セト殿。」

優しく微笑んでいる様に見えたが…

その笑顔に感情は込められていない様に感じた…











半強制的に俺は大広間らしき所に連れてこられた。

中央の金色に光る王座に誰かが座っている。

ファラオ…と呼ばれる奴だろうか。



「偉大なるファラオ。お召しによりセトを連れて参りました。」

「おお!待ちかねたぞ!セト!」

背中を押され、一歩前に歩かせられる。

兵士に肩を押され、跪く格好にさせられる。



「やっと我が意に従う気になったか。セト。」

「何の事だ!俺は…」



顔を上げてそう言おうとした瞬間に、兵士に後頭部を押さえ込まれそのまま這い蹲る。

こいつら…一体…



「ファラオの意志に背く事など出来ません。そうでしょう?セト殿。」

冷たい表情で俺を睨み、ファラオとか言う奴に深々と頭を下げるマハード。

こいつは俺に何か恨みでもあるのか!?



「では、すぐにでも我を受け入れさせようかのう。」

「ご随意に…」

パチンと指を鳴らし、ファラオは玉座の後ろへと消えていく。

と同時に兵士が俺の両腕を掴みあげ、無理やり立たせて引きずっていった。

「は、離せ!!俺は!」

「諦めなさい。セト殿。ファラオに魅入られた者は逃げる事など出来ない。」

「マハード!!」

「それが運命なのですよ、セト…」

ふっと小さく笑うと、マハードは身を翻し広間から立ち去っていった。



冗談じゃない!運命なんかに縛られてたまるものか!













引きずられる様に俺もファラオの後に続いて玉座の後ろに歩かされる。



カーテンを通り過ぎると、そこは広い空間があり、薄緑色のカーテンがその空間を彩っていた。

部屋の中央に…大きなベッド…ここは!?

「余の遊び部屋じゃ。」

部屋の隅の方で奴が召使に黄金の飾りを取り外させていた。

にやりと笑うその表情!剛三郎にそっくりだ。

欲望と権力しか持たない下種な人間。

俺の周りにはどうしてこういう奴が集まって来るんだ…



両隣に居た兵士が俺の腕を引っ張り、ベッドの上に押さえつける。

身動き出来ない様、うつ伏せに俺の手首を掴む。

背後から奴の気配。くそっ!動けない!

マントをめくり、俺の太ももを撫でている。

その手がだんだんつけ根の方へと向かっていった。



「あっん…」

思わず出してしまった声は奴を喜ばせただろう。

耳元に聞こえてくる息遣いが荒くなったのがよく判る。

「セト。やっと余の物に…」

下腹部の服が全部めくられる。

すぐ目の前に二人の兵士が居て、しかも部屋には召使の女も居る!



そんな中で俺を犯そうと言うのか!?













ボワッン!



ファラオとか言う男が俺の内股に手を入れ様とした時、突然部屋の中で何かが破裂した。

そして部屋中に煙が充満し、辺りがまるで見えなくなる。

「何だ!この煙は!」

「ファラオをお守りしろ!」

「キャー!誰かぁ〜」

色んな声が交差してる。

今ならここを逃げ出せる!

俺の両手を押さえつけていた兵士も今はファラオの側にいるらしい。

俺はベッドから降り、床を這う様に薄明かりの方へと進んでいった。



「違う!こっちだ!セト!こっちに来るんだ!」



俺の背後で聞きなれた声が響いている。



誰…だ…?まさかお前じゃないだろうな…













訳も分からず俺はそいつの後についていった。



「ここまで来れば安心だな…大丈夫か?セト…」

くるりと振り向いたそいつは、きょとんとした顔で俺を見つめていた。

勿論俺も呆然としていたが。



「お前…セトか…?」

「…お前こそ…遊戯か?」

「俺は遊戯じゃない。アテムだ。お前セトじゃないな。」

「…俺は海馬瀬人だ。お前の言うセトではない。」

遊戯に似た男…というより、遊戯その者だが、そいつが俺の頬をそっと触れる。

なんてこった。触れ方まであいつそっくりだ。



「セトと同じ肌の暖かさだ。でも違う。」

「お前はどこから来た?」

「俺は…未来から来た…ようだ。俺にもよく判らん。」

アテムは小さく笑って、俺の手を取り再び歩き出す。



「性格はどうも同じらしいな。セト、と呼んで良いか?」

「構わん。何と呼ばれようと俺は俺だからな。」

「まずは俺の部屋に。今の状況を説明しよう。」



何故父上がお前をあの部屋に連れていったのか。















「まずは落ち着くといい。」

そう言ってアテムは俺に飲み物を差し出した。

金の細工がしてある豪華なグラス。

どこかの博物館にこんな展示品があったな。



「どうした。飲まないのか?」

「まず、お前が飲め。」

「疑っているのか?お前らしいな。」

それはこの時代のセトの事を言っているのか?

それとも…遊戯が俺の事を言って笑っているのか…?



「ほら、飲むぞ。」

アテムが一口飲むと、それを再び俺に差し出した。

「安心しろ、何も入ってないから。」

そう優しく微笑み、俺も少し警戒心を解く。

さっきの騒動で実は喉がカラカラだった。

こくんと飲み干すと、俺は傍にあった椅子に腰掛けた。



「で、お前の話を聞こうか。」

「そうだな。実は…」

…!?何だ…?目の前がくらくらしてくる…



「貴様…やはりさっきの飲み物に…」

意識が遠くなる中、俺はアテムのほうに目を向ける。

すると、奴もばったりと倒れていた。

あいつも知らない間に何か入れられていたのか…?





「アテム様が…あなたを奪い返しに来ると思っておりました。」

先回りして飲み物に仕込んでおいたのですよ…



近づく男がそう俺に囁く。

この声…聞いた事がある…な…



「マハ……ド…」

そう呟き、俺は意識を失った。






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