永遠のはじまり −side Oscar− 7
抱きしめる力強い腕、背中を撫でる優しいぬくもりに、いつしかクラヴィスの身体の震えが止まって いた。 先程までの混沌としたオスカーの感情が影を潜め、感じるのは愛しさと労わり。 クラヴィスは、安堵したように全身の力を抜き、オスカーに身体を預ける。 彷徨っていた旅人が安住の地に巡り合ったような心地。 「おまえは、私などの何処がよいのか…」 吐息と共に呟きクラヴィスは、オスカーの背にゆっくりと腕を回した。 そっと身を預けてくれるのがたまらなく嬉しくて、その温もりを精一杯抱き締める。 腕の中で穏やかに息をつく、愛しい人。 「…あなたの全てが…」 その、優しさ。孤独。瞳。声。 髪の一筋さえも。 「なにものにも代え難く、俺の心を支配するのです」 クラヴィスは、オスカーに応えるように抱きしめた腕に力を込める。 私のすべてか… 以前ならば、一顧だにしなかったその言葉も心に染み渡る… どれだけ冷たくあしらおうとも、心のままに気持ちをぶつけて来たおまえ。 おまえの一言一言が心を揺さぶり、触れられる度に平静さを保てなくなっていく自分。 いつの間にか無意識に…惹かれていたのかもしれぬ。 だが、認めてしまえば自分が変わってしまう。 長い時間をかけて一人で生きていく術を身につけたのに…すべてが変わってしまう。 それ故、変化する自分を恐れたのだ。 クラヴィスは、肩に埋めていた顔を上げるとオスカーを真っ直ぐに見つめた。 「オスカー…おまえが愛したのは孤独な私なのであろう?おまえと共にいることで、私は変わってゆく だろう。それでも……愛せるのか?」 試すような台詞を言いながら、クラヴィスの瞳には不安な色が見え隠れする。 「この腕の中で変わられるのであれば、本望です」 クラヴィスの不安を払拭するように、力強く告げる。 何かが変わる予感に怯えて揺れる、痛々しい瞳。 開花する直前の、美しい花のように。 散らさぬように…守ってゆけたなら、どれほどまでに幸せだろう。 「…失くすことを、恐れないで…」 目尻にそっと唇を落とす。 「どんなあなたも、俺が守りますから」 「オスカー…」 おまえを信じてもよいのだな? もしもこの先…仮におまえが裏切ったとしても… 信じられず疑うよりも、信じて…泣くほうがよい。 今、おまえを選んだ事を後悔したくない。 おまえにすべてを委ねよう。おまえは…裏切らぬ…そう信じて…… クラヴィスは、背に回した腕を抜き取りオスカーの首に絡ませると、そっと引き寄せ耳元に囁いた。 「…愛している……」 ――愛している 何よりも、望んでいた言葉。 手に入れたかったもの。 込み上げる愛しさ、喜びに、泣きたくなった。 忘れない、この日を。この、瞬間を。 いつか、彼を失うことになったとしても。 切なさと共に、胸に深く刻み付ける。 「…ありがとうございます…」 たったひとりのあなたに出会い、想いを交わした、その奇跡に。 心からの感謝を込めて。 「…愛しています…誰よりも…あなただけを……」 この気持ちだけが、あなたに捧げられるすべて。 クラヴィスの潤んだ双眸を真っ直ぐに捕らえると、思いを込めてゆっくりと唇を合わせた。 クラヴィスの身体がビクリと震える。 少しの恐怖と多大な緊張に一瞬、身体が逃げを打ったが絡ませた腕に力を込めて、それに耐えた。 そして、クラヴィスは、応えるように軽く唇を開くとオスカーを受け入れた。 T o p |