膨らむ気持ちに、歯止めは利かないもので。
欲しいと思う気持ちは、日を追う毎に強くなってゆく。
俺の心は侵食されてゆく。
への想いに……。

もう、遠くから見かけているだけでは、物足りない。
彼女を手に入れたい。
なら、どうすればいいか。
答えは…一つだろ?

 

 

行動を起こそうと思った日。
がいつも休憩している時間に休憩室に行くつもりだった。
彼女に声をかけて、近づこうと思っていた。
しかし、生憎その日は会議が長引き、彼女が休憩している時間にその場所には行けなかった。
また、明日にでも…。
そう思って社長室で書類に目を通していたときの事だ。
内線電話が鳴り響く。
俺は受話器をとり、返答する。
それは、秘書からのもの。
清掃員がこちらに向かう予定だが、許可できるかどうかと問う内容だった。
別に、他人に見られて困るようなものは何も無い。
俺はそれに許可をだした。
いつもの通り、中年過ぎた女がやってきて、さりげなく俺に視線を向けながら、部屋を掃除してゆくのだろうなとそう思いながら。

しかし、そうではなかった。
程なくして、誰かが社長室のドアをノックする。
「清掃のものです、入室してもよろしいでしょうか?」
その声は若い女のものだった。
もしや……。
俺の脳裏に、浮かぶのは彼女の姿。
「入れ」と俺は言葉をつむぐ。
いつも通りの声を出せていただろうか……。
社長室のドアが開き、「失礼します…」と言いながら……彼女が……が……社長室へと入ってくる。
何たる偶然か。
まさか、彼女がこの部屋に来るとは、思っても見なかった。
それも、彼女に近づこうと決めたその日に。
狂喜してしまいそうだった。

いつも見かける通りの姿の
清掃員用の制服に身を包み、全く化粧気の無い実年齢より幼く見える顔。
肩までの長さの髪は首の後ろで束ねられている。
ふわりと、甘いミルクの香が…彼女の香が俺の鼻腔に届いてきた。

社長室へ入り、俺に視線を向けたは、驚いたように硬直。
俺は数度、とすれ違った事はある。
驚かれる理由が……。
ああ、そうか。
もしかしたら、は俺がこの会社の社長だとは知らなかったのかもしれない。
普通の社員と同じだと思っていたのかもな。
だから、俺がこの場に居て驚いている。
辻褄が合うな。
随分と間抜けな表情をしているな…。
おかしく思って思わず笑いがこみ上げる。
俺はひとしきり笑い終えて「間抜け面」と言った。
憎まれ口が第一声。
はどんな言葉を返してくるのだろうか。
俺はの言葉を待った。
彼女は一瞬ムッとしたような表情だったが、すぐにその表情を笑顔に変えた。
「スミマセン、あまりに素敵なお姿だったので、惚けてしまいました」
あきらかに、社交辞令。
笑顔も、作られたニセモノ。
俺が欲しかったものではないもの……。
「当然だな」と、そう言って返したものの、正直不機嫌な気分だった。
そんな俺の前で、は「すぐに終わらせますから…」と(ニセモノの)笑顔のままでそう言い、部屋の掃除を始める。
俺は黙ってその様子を見詰めた。

 

どうすれば、に近づけるのだろうか。
どうすれば、お前の本当の笑顔が見れる?
俺に、本当の笑顔を見せてくれるんだ?
……。
俺はお前が好きなんだ。
お前を愛してる。
だから、お前に近づきたい。
お前に…愛されたい。
こんなに偶然が重なって、近づく事が出来たのに、心は離れてる。
なぁ、
遠くからしか、あの笑顔を見ることは出来ないのか?
俺では、駄目なのか?
こんなにお前を愛しているのに。

愛してるんだ。

 

俺の心中など露程も知らないは、清掃を終えたようで、この部屋から出ようとした。
それを呼び止めると、は相変わらずニセモノの笑顔のままで振り向き俺に「なんでしょうか?」と問いかける。
明日も来るのかと問えば、今週一週間はここに来る予定だと言う。
そうか…。
なら、まだチャンスはある。
が、社長室から出てゆく。
ドアが閉まる直前、俺は言う。
「またな、
完全に閉まってしまったドア。
きっと、その向こうでは驚いている。
自分の名前を呼ばれた事に。
また、明日…。
明日、に会える。
が、この部屋に来る。
この時間は絶対にこの部屋に居よう。
に会うために。
に近づく為………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は必ずお前を手に入れてみせる。
………。







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