懐かれると、悪い気はしないもんで…。
レストランから出るとすぐ、はから自分のリュック…熊のぬいぐるみ形のやつ…を受け取り、俺がやった腕時計を大事そうに仕舞った。
は複雑そうな表情をしながら、その様子を見ている。
は、に手伝ってもらいながら、そのリュックを背負うと……何故か俺のもとへとやってきた。
………なんだ?
そう思って俺はを見下ろす。
するとは俺の隣に並び、その手を俺の手に伸ばして手を繋ごうとしている。
と俺とでは手の大きさが違いすぎて。
手を繋ぐといっても、俺の指だけで事足りてしまう。
小さな手だ。
ちっちぇえな…。
その感触を感じた俺の、素直な感想だった。
俺を見上げてにっこりと笑う。
懐かれると、悪い気はしないもんで。
俺もに微笑を返してやった。
そして、先へ進み始めたの歩調に合わせて歩いてやる。
が、焦ったような顔をしているな…。
俺が迷惑なんじゃないかと思ってんだろうな……。
嫌なら振り払ってるっての。
それから、園内を暫く歩いていたのだが、不意にが足を止めた。
なんだ?と思って俺も足を止める。
「おにぃたん、だっこ」と、が俺の膝にしがみついて来た。
「こ…こら、っ!」とが慌ててを叱る。
更に、「、ママが抱っこしてあげるからこっちにおいで」とを呼ぶ。
しかしは、「おにぃたんが いいにょ」と言い放ってのいう事を聞こうとしない。
別に抱いてやるくらいどうって事ねぇし…。
俺はを抱き上げる。
そうすれば、はご機嫌な様子で。
「おにぃたん あっち」と俺に行き先を指示する。
……この俺様に命令とはな……。
でも、悪い気はしねぇ。
子供にしか出来ねぇ事だぜ?
はに自分で歩くようにと叱った。
だが、はそれを嫌がり、俺の首にしがみつく。
その様子に、困った様子の。
自分の立場だなんだと気にしてるんだろうよ。
気にする必要なんて、これっぽっちもねぇってのに。
「別に、嫌だとは思ってねぇから、いちいち気にしてんなよ」
俺はにそう言ってやった。
するとは、「すみません、ありがとうございます。……でも、辛くなったらを下ろしてくださいね、歩かせますから」と言葉を返す。
ガキ一人抱いてるくらいで、この俺様が辛くなんかなるかよ……。
「辛くなったらな」と言葉は返すものの、が下りるというまで下ろす気なんて更々なかった。
しかし…その後、の発言には……戸惑ったつーか……なんつーか……。
かなり困ったな。
「ちゅぎにょは おにぃたんと にょう」といきなり言い出したんだよ、が……。
次に乗る乗り物の場所へと移動する途中の事だった。
俺は思わず顔を引き攣らせる。
冗談じゃねぇ…。
あんなもんに乗る気なんて更々ねぇぞ。
「、お兄さんは乗れないの。だから、ママと乗ろうね」
が俺の心中を察してそんな助け舟を出す。
「やら、おにぃたんとがいい」
はそう言って首を振る。
「ダメよ。我侭言ったらお兄さんが困るでしょ?どうしてそんな事いうの?」
がそう言い含めているのだけれど、は一向に意志を曲げない様子で。
「おにぃたん といっちょに にょよう?」と俺に向かって言い出す始末。
しかもな……。
小首をかしげて、上目遣いって……。
コラ、ガキのクセに何で男のツボ知ってんだよ!
いや、俺はロリコンじゃねぇから、落ちるなんてありえねぇけどよ…。
……一瞬可愛いとは思っちまったが、それは大人なら誰でも思うだろ?!
女だろうが男だろうが、子供のそう言う仕種には思うだろ?!
てぇ、そんな事より……。
流石に、あんな訳のわからねぇモノに乗りたくねぇぞ、俺は!
そんな事を考えている俺の目の前で、は「いやにょ……?」と悲しそうな表情をし、悲しそうな声で言う。
………。
何でそんな顔でそんな声出すんだよ………。
「………解った………」としか、返答返せねぇだろ……。
嫌だといったら、確実に泣き出しそうな気がするし……。
泣かれんのは流石に嫌だしな……。
俺が我慢すりゃいいだけだ…。
ああ、俺は大人なんだ。
子供の我侭くらい聞いてやるさ……。
「わぁい」とが俺の腕の中で笑う。
無邪気だよなぁ…ちくしょー……。
「す……スミマセン…、がご迷惑を……」とが俺を気にして言ってくる。
「……いい、気にするな」とは言葉を返したものの……。
多分 流石に俺の様子はにも感じ取れただろうな……。
その後、乗り物のVIPラウンジに到着し、乗り物へ向かう事になった。
も一緒にと言ったが、はどうも俺と二人だけで乗りたがり、結局、はラウンジに残る事に……。
俺は、腹をくくるしかなかった。
待ち時間が無いとは言っても、完全にゼロという訳では無いらしい。
まぁ、所要時間にして5、6分ってとこか…。
なんだか、訳の解らない形をした乗り物が目の前を通り過ぎてゆく。
こんなもんに乗ることの何が楽しいんだか、さっぱりわかんねぇよ。
途中で、一般客とも混ざって待つ事になったのだが…その時の事だ。
「あえに、にょゆにょおー」だとか「もうちゅぐねぇ…」だとか、言う。
わくわくと期待に胸を躍らせているのが一目でもわかる。
俺にもそんな時代があったんだろうか……。
正直、ぐらいの頃の記憶は皆無でよくわからねぇ。
辺りを見れば、と変わらない年頃の子供も、それよりも年上の子供も親に連れられてる姿を見かける。
親子連れだけじゃなくて、カップルやら友人同士であろう集団ってのも居る。
しかも、俺と歳の変わらない奴らっぽいのも居るし…。
「やだ、あの人かっこよくない?」
「えー、でも子供つれてるじゃん…」
「いいなぁ、あんなカッコいいお父さん。あたしの父さんもあんな風ならよかった」
「あ、それはそうだよねぇ。カッコいいお父さんなら、超自慢しちゃうよ」
「年取っても、カッコいいままっぽそうだよねぇ」
そんなひそひそ会話も聞えてくる。
くらいの子供つれてりゃ、やっぱ父親に見られるもんなんだな。
そんな事を思いながら、乗り物の乗り場へと進む道を歩いていた時だった。
「パパぁ、かたぐるま してぇ」
そんな風に父親に肩車をねだる声がする。
よりも少しくらい年上に見える子供…格好からして男だな…。
その子供の父親は、「いいぞ」と息子を肩車。
そう言う風景は、目新しいわけじゃない。
ごく当たり前の、父と子の姿。
ふと俺は、の顔を見やった。
一瞬の事だったような気がする。
の顔に羨望の表情が浮かんだのは。
すぐに、今まで同様の笑顔に戻っているのだけれど。
父親という存在が無い。
産まれた時から、ずっとには母親のしか居なくて。
羨まねぇ筈ねぇよな…。
他者にはある存在が自分には無い不自然さを、幼いながらに感じてるんだろ…。
どんなに子供でも、自分の置かれた状況ってのはちゃんと理解しているもんなんだと、誰からか聞いた気がする。―――鳳だったか?―――
俺に甘えてくるようになったのも、父親を求める願望からだったのかもしれない。
それから間もなく、スタッフに案内されて、乗り物に乗ることになる。
人形劇を繰り広げられる舞台の中を、乗り物に乗って進んでゆくものだった。
の顔は、そんな人形劇を面白そうに、楽しそうに見ている。
はしゃぐの顔を見詰めながら、俺は胸の奥に湧き出した不思議な感情に気付く。
それは、に対するものとは違うもの。
似たようなものではあるが、全く違うもの。
同じような言葉で示すものだけれど、全く違うものだ。
『愛しい』は、何も恋人にだけ使う言葉じゃない。
我が子に対してだって、使う言葉だ。
血の繋がりは無い子供だけれど…。
俺が父親になる事を目指したのは、に近づく為だった。
けれど、今は違う。
俺はこの子の父親になりたい。
の父親に。
という存在と同等に、という存在が、俺の中に強く印象付いた瞬間だった。
乗り物を乗り終えて、の待つラウンジへ戻る途中。
は、俺に抱きかかえられている。
乗り物から降りてすぐ、は「だっこ」と俺にねだってきた。
俺がすぐに抱き上げてやると、は嬉しそうに俺の首に簡単に折れてしまいそうな腕を回してくる。
そして、言った。
「ちゅぎにょも、いっちょに にょよう?」
その言葉に、俺はすぐさま頷いてやる。
こいつが望むなら、何度でも一緒に乗ってやっていい。
どんなにつまらないものでも、が楽しいというのなら付き合ってやるさ。
たった二十分ほどの事だったのに、この考え方の変わりようは…自分でも笑えてしまうな。
多分俺は、とことん甘い父親になるに違いない。
でも、そんなのも一興だろ?
そうこうしている内に、ラウンジに再び到着。
「スミマセンでした……」と頭を下げてくるに「いや、気にするな」と言葉を返してやる。
いい加減、この会話には飽きてくるんだけどよ……。
それに、こうやってと二人きりになった事で、随分と心境が変わったし……。
に気にされる方が、どうも心地悪くなっちまう。
大人の会話を気にも止めず、がまた次の乗り物には俺と乗るのだと話し始めた。
はまたなのかとゲンナリし、更にそれを止めさせようとする。
だが、は俺とがいい、と、さっき約束したのだ、と言って突っ撥ねた。
「次は何処に行くんだ、?」
「んちょねぇ…。もっかい にょりたいにょが あゆにょ」
「どれに乗りたいんだ?」
「いちばん ちゃいちょに にょったにょに にょいたいにょ」
「一番最初に乗ったのな」
そんな会話をと交わした後、俺はを抱いたままラウンジの出入り口へとすすむ。
しかし、は呆然としたままその場に立ち尽くしている。
に声を掛けられて、やっと気が付いたらしく、は慌てて俺達のもとへと駆け寄ってきた。
また、と二人で乗り物に乗った。
乗り物に乗るまでの微かな時間の間に、の羨望の混ざった表情を目にしてしまうのは、俺の勘が鋭いせいもあるのかもしれない。
だから俺は、そんなの頬にキスを与えた。
俺がの望む存在になってやる…。
そんな気持ちの意思表示。
それが通じたのかどうかは解らないけれど―――ただ単に、キスされたのが嬉しかったんだろう―――、はにっこりと笑って俺の頬にキスを返してくる。
キスって言うよりは、唇を押し付けるってだけのモンなんだが…。
母親のとより、娘のの方と先にキスを交わしてるなんて―――頬だが―――、おかしいよな。
乗り物を乗り終えた後、また、3人で園内を歩く。
は俺に抱かれたままの状態。
それが、にはどうも気に掛かることだったようで。
「…、いい加減に自分で歩きなさい」とに言う。
しかし、は「やら」と拒否。
「じゃあ、ママが抱っこしてあげるからこっちにおいで」
更にがそう言うのだが、「やらもん」と俺の首にしがみついてきた。
が、がっくりと肩を落とす。
「いちいち気にすんなって言ってんだろ」
俺はそう言ってを見やる。
「そうは言われましても……ご迷惑でしょう?」
困った様子を見せて言う。
「別に……。こういうのも悪くない」
俺がそう言ってやっても、その表情は冴えないもので。
いい加減、この表情には飽きたぜ……。
俺は、考え込んでいるの額に手を伸ばす。
ガキの頃、よく遊んだデコピンの状態で。
の奴、思案するのに夢中でそういう状態になっている事に気付いていない。
の額を、中指で軽く弾いてやると、が「いたっ」と言って俺を見る。
「しけた面してんなっての。俺は迷惑だとは思ってねぇ、こういうのも悪くないと思ってる。いい加減に納得しろよな」
俺がそう言っても、は納得、出来ないという表情で…。
「納得しろっつってんだろ。もう一発食らうか、アーン?」
そう言いながら、俺は再びデコピンの用意をの前でして見せる。
確実に、ガキっぽいと思われてんだろうが…。
まぁ、気にしない。
するとは、「わかりました…納得します……すればいいんでしょう?開き直って社長にはの父親役をやってもらいますよ!」と自棄になったように言い放った。
……コイツ……俺の事 社長って役職で呼びやがった…。
「お前…俺の事は名前で呼べって言ったよな」
そう言うと、はそれに気付いたようで、慌てたような表情になる。
コイツ……確実に頭の中じゃ俺の事『社長』って役職で呼んでたな。
でなきゃ、こんな発言なんてしねぇ。
「どうせお前の事だから、建前では名前で呼んでも頭の中じゃ『社長』のままだったんだろうよ」
俺がそう言ってやると、はぐうの音も出ない様子で。
やっぱりな……。
「なんだかエスパーみたい……」とがポツリと言う。
何でそんな発想になるんだろうな、この女。
天然決定だな…。
まぁ、そんなところも可愛いとは思うけどよ。
俺はフッと笑みを浮かべた。
「お前の心理は読みやすすぎなんだよ。考えてる事すぐに顔に出てるしな」
俺の言葉には小首をかしげる。
「私、そんなに考えてる事顔に出てますか?」
「ああ、丸解りだ。お前もそう思うだろ、なぁ?」
の言葉に俺は言葉を返し、更にに同意を求める。
は意味も解らず「うん」と頷いた。
…懐かしいな、樺地と居たときの事を思い出す。
まぁ、樺地の場合は意味は解っていても二つ返事だったが…。
「、意味が解って無いのに頷かないの!」
がムッとしたように言う。
「子供に当たるなよ」
そう俺が言うと、「う………」とは言葉を詰まらせる。
少し、苛めてやるか…?
「酷いママだなぁ」と俺はに向かって言った。
するとも「ひどいねぇ」と言葉を返してくる。
それを聞いたは、「もぉ!酷いのは私じゃなくて景吾さんとの方じゃないの!?二人で結託しちゃうし!」と言うと、むくれた顔をして俺を睨んでくる。
可愛い顔だな…なんて、俺が思ってるなんて、解ってねぇんだろうな。
「別に結託なんてしてねぇよ。ただ、と意見があっただけだし、なぁ?」
俺が再びそう言うと、は「うん」とまた頷いた。
すると「結託してるじゃない!」と、の声が大きくなる。
それを聞いてが、「あー、ママが おこったぁ」なんて言いだす。
ナイスタイミングだな、。
更にを苛めてやりやすくなったぜ?
「怖いな、逃げるぞ」と、俺はそう言って相変わらずを抱いたまま、軽く走るように歩調を速めてから離れる。
が俺の腕の中で「にげおー」笑いながら言う。
「こらぁ、逃げるなぁ!」と、が俺の後ろを追いかけてくるのが面白い。
ぷりぷりと怒っているの姿が可愛らしいと思った。
なぁ、この日をきっかけに、俺達の関係を深めていく事が出来るよな?
ここに来た時よりも、親子連れらしい雰囲気が、今 俺達を包んでいる。
だって感じてるだろ?
面と向かって誰かにそういわれた時は、は複雑そうな顔になるけれど…。
気にする事、ないんだぜ?
いずれ本当の家族になるんだ。
もも逃す気はない。
絶対に、逃さないからな…。
ぼんやりとしたイメージでしかなかった『結婚』の二文字が、はっきりと浮かび上がったのは、この時だったと思う。
そして、時間は過ぎて夜。
俺はとを家まで送り届けてやった。
前回は上がりこむ事をしなかったが、今回は眠ってしまったを抱いている事もあって、部屋の中へ上がりこんだ。
「狭くてスミマセン…」とが言うが、あまり気にはならない。
母子家庭だし、この位の広さで当たり前なんだろうよ。
が、の寝床の準備をしている間、ダイニングキッチンらしき部屋で待つ。
甘いミルクの香りが漂う部屋。
との匂いだな…。
様子から見て、ここはリビングとしても使っているのだろう。
のおもちゃやら絵本やらが、部屋に少しだけ散乱している。
今度、何か絵本でも買ってきてやろうか…。
そんな事を思案していた時だった。
「景吾さん、を寝かせますから……」
がそう話しかけてくる。
俺はを起こさないようにそっと、寝室らしき部屋へと入ってゆく。
畳の上に敷かれた小さな布団。
それに、そっとの体を横たえてやる。
一瞬だけ、が身じろいだが、眼を覚ます事はなかった。
すやすやと眠る幼子の愛らしい顔。
無意識だった。
の額にそっと口付けを落としたのは。
自然に体が動いたんだ。
そして、心の中でおやすみと呟いて、俺は立ち上がった。
それからすぐ、達のアパートから、自宅へ帰る事にした。
が車まで俺を見送ると付いてくる。
「今日は、本当にありがとうございました。随分とお世話になってしまって…」
車の近くまで来ると、がそう言葉をつむぐ。
「侘びだ…気にすんなっていったろ?」と俺は言葉を返す。
「それにしたって……おつりが出るくらいです…。今度、何かお礼をさせてください。私にできる事…になりますけど……」
更にそう言うに俺は「礼なんていらねぇよ」と言い返す。
しかし、は食い下がってくる。
「いえ、私の気がすまないんです。ですから、私にできる事があったらなんでも言ってください。といっても…たいした事が出来るわけじゃ…ないですけど……」
俺に詰め寄るようにが言う。
なら、俺に抱かれろとそういわれたなら、お前は素直に抱かれるのか…?
と…、何バカな事考えてんだよ、俺は……。
んな事したら、元の木阿弥になっちまうじゃねぇか。
「何かあったら…言う。それでいいだろ?」
俺は、そう言ってその場を誤魔化す。
「はい!そうしてください」
がそう言ってにっこりと笑った。
俺が見惚れたあの笑顔で。
……掻っ攫いてぇ……。
そんな俺の心理も知らず、は何かを思いついたような顔になる。
「あ…景吾さんの腕時計、のリュックに入れたまま……」
にそう言われて、昼間の事を思い出す。
「ああ、そういえばそうだったな」
とは言葉を返すものの、正直どうでもいい話題だった。
「それだけじゃないですよ、スーツのジャケットもこの前のの病院費用もお返ししなきゃ……。持ってきます!」
更にはそう言って踵を返してアパートに戻ろうとする。
「どうせ捨てるモンだから、返さなくていいっつったろ」
俺はの背中にそう言葉を掛けると、は振り返り「え、でも…」と言葉を濁す。
「腕時計はにやったモンだ、そのまま持たせとけ。それも、捨てるモンだからな。のおもちゃにしたほうがリサイクルでいいだろ?それと、金の事は気にするなよ。お前みたいに貧乏人じゃねぇんだ。はした金使ったってたいした事ねぇんだよ」
どうでもいい事を、何でコイツは気にするんだか……。
「そんな……景吾さん……」とは気にした様子ばかりで。
だから言ってやった。
「俺が気にすんなって言ってんだ、気にするんじゃねぇ、いいな」
俺はそう言い放つと、反論も聞かず車に乗り込んだ。
そしてすぐに車を発進させる。
バックミラー越しに、相変わらず戸惑ったような様子のが遠のいていった。
back/next |