朝から社長の車に乗せられて、つれてこられた先……。
それは、子供たちの夢の国、某巨大リゾート遊園地。

……なんで、こんな所につれてきたんですか…社長?

先に、私とをその出入り口近くで車から降ろし、社長は一人で車を駐車場へと運んだ。
暫くすれば、駐車場の向こうから社長が私たちの元へと戻ってくる。
「いくぞ」と社長に促され、私は黙ってそれに従った。
は、私に手を引かれて歩いているのだけれど、その足取りはかなり軽い。
こういう場所は、保育園の遠足でしかきた事が無い。
というか、この子の人生でここに来たのは2度目くらい。
去年の遠足で来たっきり。
もちろん、この場所の楽しさを覚えたはしきりにここへ来ることをせがむが、かなえてあげられない。
可愛い娘だけれど、最近は活発になり、物欲も出てきて色々と我侭もいい始めている時期。
こういう場所につれてくれば、使う体力は半端じゃないだろう。
誰か、一人くらい面倒を見てくれる人が居ないと、こういう場所に来ることなんて出来ないのだ。
友達は居るけれど、皆忙しそうで頼めないのが現状。
両親には…頼りたくない。
そんなこんながあるから、には我慢をさせていたのだ。
母子家庭は大変なんです。
話が反れた。
来たくてもこれなかった場所に、思いがけずくることが出来たは上機嫌。
今はスキップだが、もう、今にも走り出しそうな勢いだ。
あ、チケット買わなきゃいけなくない?
「あの、社長……」
私の言葉を聞いたとたん、「アーン?」というチンピラのような言葉とともに社長に睨まれた。
……なんで?
………あ……。
名前で呼べって言われてたんだっけ?
「えっと…、跡部…さん……」
私はそう言いなおすけど、社長はぷいと進行方向を向いてしまった。
………名前で呼んだじゃん………。
「………景吾さん?」
「なんだ?」
………下の名前で呼んだら、即答ですか!
つまり、名前ってのは苗字じゃなくて下の名前の方だったのね。
てか、何でそんな子供みたいな行動とるんですか…。
いい大人なのに……、もう……。
まぁ、いいや…。
「チケットは……」
「用意してある。お前は何も気にするな」
気にするなって…言われてもなぁ……。
「ママ…?」
あう、が不安そうな顔で私を見上げてる。
せっかくこんな所に来たのに、が不安になるような顔をしちゃだめね。
「あ、ん…なんでもないよ。、ずっとここに来たかったもんね、いっぱい遊ぼうね」
にっこり笑みを作って私はに言う。
するとは笑顔に戻って「うん」と元気に頷いた。

それにしたって、社長はなんでこんな事してくれるのかなぁ?
この前のの件があったからかなぁ…。
ちらりと、何時の間にやら隣を歩いている社長の横顔を盗み見るけど、表情から心中は読めない。
「しゃ……景吾さん」
私は彼の名を呼ぶと社長は私のほうに視線を向ける。
「どうして、私たちをここへ……?もしかして、この前が熱を出した事を気にしてらっしゃるのですか?」
そう言う私から、社長は視線を逸らす。
「あれは、私の不注意からきた事です。私が母親としての注意を怠っていたのが悪いんです…、だから……」
「気にするなって…言う方が無理だろ」
私の言葉を、社長が遮った。
「お前の不注意ってのもあったのかもしれねぇ…、でもあの日俺が呼び出してなけりゃ…携帯を素直に返してりゃ、ああならなかったかもしれねぇだろ」
更に言葉を続ける社長。
「だからコレは侘びだ。せっかく用意したんだから、無駄にはすんなよ?」
社長は再び私の方をむいて言うと、フッと微笑む。
その笑みがとっても優しいものに見えて、私は思わず顔を赤らめ、今度は私のほうが彼から顔を背けた。

そんな会話を交わしている内に、園内にはいる出入り口につく。
社長から渡されたチケットを使って、園内へ。
娘は、まだ3歳なので無料だ。
「で…何処行くんだ?」
園内に入ってすぐ、社長がそんな問いをかけてくる。
「あ……。、どれに乗りたいのかな?」
私はにパンフレットを見せながら彼女の希望を聞く。
「こえ!」
はパンフレットの一角、大人気アトラクションを小さな指先で指し示す。
うあ、まった待ち時間の多いものを……。
「でもこれ、いっぱい待たないと乗れないのよ?いいの?ちゃんと待てる?」
私がそう言うと、は「うん!」と満面の笑みで頷く。
あまり、時間待ちする奴には乗りたくないんだけどなぁ…。
それだけ社長を待たせる羽目になる訳だし……。
「決まったのか?」
社長がまた問いかけてくる。
「あ、はい…。これなんですけど…人気のアトラクションだから結構待ち時間長いんですよね……。いいですか?」
私は、今度は社長にパンフレットを見せながらアトラクションを指し示し、言った。
「ああ」と社長は言葉短に返事をする。
「じゃぁ…行きますね。、行こ…」
私はの手を引いてパンフレットを片手に歩き出す。
社長もその後をゆっくりとついてくる。

アトラクションのある場所に着けば、もう二時間待ちの看板。
ほらね…、長いんだよ、人気アトラクションだから。
、二時間待ちだよ?すっごく待たないとダメなのよ?」
もう一度、私はに問う。
でもは、「こえに にょゆにょ!」と言い張る。
はぁ…、ちょっと気が重いんだけどなぁ……。
すると、今まで私たちの後ろに居た社長が前に進み出ると、そのアトラクション担当らしいスタッフに声を掛けた。
……何してんだろう?
私は思わず小首をかしげる。
そんな私の許に、社長が再び戻ってきた。
「迎えが来るから暫くここに居ろ」
社長がそんな事を言う。
ますます頭の中に疑問符が増える。
「あの……、どういう事なんですか?」
「すぐに解る」
私の問いに社長はそうとしか答えてくれない。
「いかにゃいにょ?」
が私の手を引っ張ってそう聞いてくる。
「あ、ちょっとまっててね…」
私はを宥めるように言う。
早くアトラクションに乗りたいのだろう、はアトラクションのある方向ばかりを見ている。
すると、「お待たせしました」という声がして、スタッフらしい女性が私たちの許へ。
えーっと、なんなんでしょうかね?
疑問符だらけの思考回路。
でも、その疑問符はスタッフの女性に連れられて言った先できれいさっぱり消えていった。

………そうか…そういう事か……。
連れて行かれた先は、VIPしか通されないラウンジ。
接待などに使われるラウンジで、その場所の噂はとても有名なもの。
この遊園地のアトラクションすべてに設置されているらしい。
VIPの為に作られた場所。
この場所に通されれば、アトラクションへは好きな時に乗れる。
……さすが、跡部財閥の御曹司……、VIP待遇は当然って事ですか……。
「俺はここで待ってる。二人で行って来い」
社長はそう言うと、ラウンジに据え付けられているソファーに腰掛ける。
「あ……、はい……」
私はそう頷くと、スタッフの女性に視線を向けた。
「では、こちらへどうぞ」とスタッフの女性はにこやかに行く先を私たちに示しながら案内してくれる。
「どこいくにょ?」
アトラクション乗り場へと向かう道の途中でがそんな事を問うてくる。
が乗りたいのに乗りに行くのよ。待たなくてもいいんだって、よかったわね」
私はに微笑みかけながら言葉を返す。
「またにゃくても いいにょ?」
が再び問う言葉に、「うん」と私は返事を返した。
「あったぁ」とはぴょんと飛び上がる。
可愛らしい仕種をするを見て、思わずクスリと笑ってしまう。
案内してくれているスタッフの女性も丁度そんなを見ていたらしく、私と同じように笑っていた。

本来、二時間という時間を費やさなければならない人気アトラクションだというのに、私とはほんの十分程で乗る事が出来た。
こんな体験、滅多に出来ないわよね…。
いや、一生に一度在るか無いかだわ!
そんな体験なら、楽しまなきゃ損ね。
―――せっかく用意したんだから、無駄にはすんなよ?―――
さっきの社長の言葉を思い出す。
そうね、無駄にしたら、それこそ失礼よね。
私はそう考えて、今日は一日を娘と一緒に楽しむことにした。

待ち時間無しのショートカットのお陰で、の希望は簡単に叶えられて。
楽しそうに笑う娘の姿に、頬が緩む。
も以前来た時よりも今日のほうが楽しいだろう。
「あえに にょう!」「こえがいい!」と乗りたいアトラクションを指差してはそちらに私の手を引っ張ってゆく。
「そんなに急がなくても、なくならないから大丈夫よ」
私を急かすにそう言い聞かせるのだけれど、耳に入っては居ないようで、「はあく、はあく!」と急がせる。
社長はというと、私たちの後ろを黙ってついてきて、アトラクションの場所に着けばスタッフに声を掛けてVIP用ラウンジへの案内を頼んでくれて。
でも、社長自身はアトラクションに乗る事もなく、ラウンジで私たちがアトラクションを乗り終えるまで待ってる。
つまらなく…ないのかしら?
そう思って、「私たちだけ楽しんでてすみません」って言ったら、「その為に連れて来てんだから、つまらねぇ事言ってんじゃねえよ」って言い返された。
確かにそうなのかもしれないけど…気に…なっちゃうじゃない?
そうこう考えていた時だった。
「ママぁ、おにゃかちゅいた」
が私の手を引っ張ってそんな催促をする。
あ…。
気付けばお昼過ぎ。
「あ、ご飯の時間だねぇ」
何を食べに行こうかしら……。
お昼くらいは私が払った方がいいよね…。
こういうところの食事は馬鹿高いんだぁ…。
て、そんなケチってられないか、せっかくVIP待遇させてもらえてるし…。
そうこう考えてるところに、社長が口を開く。
はなにが食べたいんだ?」
その言葉には、「おこしゃまりゃんち!」と元気よく答える。
お子様ランチ、好きだもんね、…。
「そういうの、どこにあんだ?」
社長が私に聞いてくる。
「大抵のレストランにあると思いますけど…。すぐ近くにあるレストラン…そこでいいですか?」
私の言葉に、「かまわねぇよ」と社長は言葉を返してくれた。

入ったレストランは、結構シンプルな外装と内装の場所。
酷く混み合っていた訳ではなかったお陰で、席へはすぐに案内された。
木製の椅子に木製のテーブル。
は私の隣に子供用の椅子に座っていて、社長は私の目の前に座っている。
メニューを見て……ああ、憂鬱。
たっかいなぁ……。
ファミレスの倍はするよ…。
でも、仕方ないか。
、お子様ランチあったよ、これでいいね?」
お子様メニューの一つを指差してそう問うとは元気よく頷く。
私は…サンドイッチでいいや。
安いし、早く食べ終わるだろうし…。
「しゃ…景吾さんは、決まりました?」
私がそう問うと彼は「ああ」と返事をくれた。
私はウェイトレスさんを呼び注文をする。
社長は、ビーフシチューとパンを注文した。

程なくして、注文の品が運ばれてくる。
私はの首もとにハンカチを巻いて服を汚さないようにガード。
この時期の子は自分で食事を取れるがこぼす事が多い。
買ったばかりのワンピースだし、出来る事なら汚さずいたい…。
嬉しそうに目の前にあるお子様ランチを食べ始める
私も、目の前に並べられたサンドイッチに手を伸ばそうとした。
けれど、それは社長の手で遠ざけられて。
驚いていると、目の前に社長が頼んだビーフシチューを突き出された。
「そっちはお前が食え」と社長はそう言うと、サンドイッチを食べ始める。
「あの…でもこれは、景吾さんの…」という言葉は完全無視。
……仕方ない…勿体無いし、食べるか……。
結局、私はビーフシチューを食べる事になった。
急いで食べないとな……。

一番最初に食事を終えたのは、だった。
それもそうだ。
子供の胃袋に入る量なんて高が知れているもの。
食べ終わったら食べ終わったで、じっとしててくれればいいんだけど…。
そうもいかないのが子供だ。
食べ終わるとすぐそわそわし始めて、首に巻いていたハンカチを自分で取り去って椅子から降りてゆく。
「コラ、!じっと座ってなさい!」
私は慌てての腕を掴むが、は「やぁ」と嫌がってそれを振りほどこうとする。
「いい子にしてて。ママももうすぐご飯終わるから」
そう宥めるのだけれど、はいやいやと首を振る。
ああ、もう…。
だから、食事の早く終わるサンドイッチを頼んだのに…。
まぁ、しょうがないかぁ。
気が付けば、社長も食事を終えている。
終わってないのは私だけ…。
残すかな……。
この状況だと、全部食べ終えるのは無理っぽそうだし。
そう思案している時だった。
、こっちにこい」
そう社長がを呼んだ。
が社長に視線を向けると、彼の視線は私に。
の腕を離すように視線で訴えている。
私はの腕を解放した。
するとはテーブルの下をくぐって社長の所へ。
社長は自分の膝元までやってきたを抱き上げ、膝の上に座らせた。
「ママが食べ終わるまでいい子にしてろ」
の頭を撫でながら社長はいう。
構ってもらえるのが嬉しいのか、は「うん」と頷いて大人しく社長の膝の上に納まってしまった。
「す…すみません…」
私が言うと「いいからさっさと食えよ」と社長。
…そうですね……。
私は急いで目の前のビーフシチューを片付ける事にした。

急いで食事をしている私の目の前で、社長の膝の上のは彼がつけている腕時計に興味を示した。
あう……、どうしてそんな事になるのかな…。
「おにぃたん、こえなぁに?」
金の腕時計のベルト部分をこともあろうに掴んでそんな風に社長に問うている。
「こら、
私はを窘めるように言うけど彼女は何処吹く風だ。
腕時計をつけている人なんて、周りに居ないものだから余計に興味が惹かれたんだろう。
「腕時計ってんだよ」
社長はの目の前に時計の盤面を向けてそう答えを返す。
「うえどけい?」
可愛らしく小首をかしげながらその名前を口にする
そして、それをじっと見詰めている。
社長がフッと微笑む。
「時計くらいしってんだろ?」
社長にそう言われて、は「ちってゆお」と返事をする。
「でも、とけいは もっと おっきいお?」
……ちゃん、子供らしいボケを……。
の世界の時計は、壁にかけてあるような時計や目覚まし時計、時計台の時計だけなのだろう。
周りに腕時計をするような人間がいない事があるから余計にそれに拍車がかかっていて。
「こういう時計もあんだよ」
そう社長に言われて、は腕時計というものの存在を認識できたのだろう。
も こえ ちゅけたい」
そんなの台詞に、私は口に含んでいたビーフシチューを噴出しそうになった。
慌ててそれを飲み込んで「ダメよ、」と言おうとしたんだけど…。
「いいぜ」と社長はおもむろに自分のつけていた時計を外し、の腕にはめてやる。
子供の腕と大人の腕では大きさが違いすぎる訳だから、はめたというより引っ掛けたという感じだ。
重たい盤面が重力にしたがっての腕の下に垂れ下がっている。
には大きすぎるな」
社長がそう言って笑う。
「ほら、もういいでしょ?お兄さんに時計返しなさい」
腕に下がっている金の腕時計を興味深そうに見詰めているに私は言った。
ところがときたら…。
「やぁ」と言って時計を抱きしめてしまった。
どうやら、その腕時計を気に入ってしまったようなのだ。
「こら、人の物をとるのは悪い子のすることでしょ?返しなさい、!」
私はを窘めるけれど、「やらもん」という事を聞かない。
……そろそろ反抗期なのかしら……。
「あの、景吾さんもに時計を返すように言って下さい」
時計の持ち主本人に言われれば多少は違うだろうし。
ところが、社長ときたら……。
「そんなに気に入ったのか?」とにそんな言葉をかけた。
が「うん」と頷く。
「こえね、きらきらしてて、ほーちぇき ちゅいてて、きえいなにょ」
社長の時計を見ながら言うの目が輝いている。
女の子だから、綺麗なものが欲しいのはわかるけど…。
でも、流石にそれはやばいでしょ。
もう一度に時計を返すように言おうとした時だった。
「なら、にやるよ」
そんな耳を疑うような台詞が社長の口から飛び出す。
「ちょと…ダメですよ、そんなものを…」
素人目で見ても高級そうな腕時計。
何処の世の中に、そんなものを三歳児にあげる人がいるんですか?
「安もんだから気にすんな」
そう言う社長。
社長…安いの基準が違うんじゃないですか……?
「でも……」と私が更に言おうとしたけれど、「飯は、食い終わったのかよ?」と社長に別の話題を出されて遮られた。
ああ……もう………。
後でこっそり返そう……。
そう思って私は今は何も言わない事に。
「もう、ごちそうさまです」
私はそう言って席を立つ。
社長は膝に座っているを下ろしてから立ち上がる。
あ、会計…。
そう思ってテーブル隅においてあった伝票に手を伸ばした。
けれど、その伝票をすばやく社長が取り上げる。
「先にと外に出てろ」と言う社長。
「あ、ダメです。ここは私が……」
私は社長の手にある伝票に手を伸ばすけれど、それを奪う事は適わず。
「俺に恥かかす気かよ」とまで言われてしまうし……。
一体何の恥ですか?
そんな気持ちが顔に出ていたのだろう。
社長は更に言葉を重ねる。
「俺は女に金を払わせねぇ主義なんだよ」と…。

結局、お昼までご馳走される羽目に……。
ここまできたら、お詫びにしたってお釣り出さなきゃいけないくらいだよ。
弱ったなぁ……。
ああ、もう、どうしようか…この状況……。

私はおもいきり大きなため息を、心の中でだけ吐いた。









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