時間は、あっという間に過ぎた。
跡部家本家であるこの屋敷に、が到着したのは昼下がり。
跡部の母とお茶をしたり、跡部の写真をみていたりとそんな事をしている間に時間は夕刻近くになり、パーティーの用意をする時間に。
がパーティーに着るドレスは、とっくに屋敷に運び込まれているらしかった。
更に、跡部もこの屋敷に到着し、パーティの準備をし始めたと、沢木が伝えてくれた。
昼間の写真の件で、少々不安な心境に陥っていただったが、とりあえず、今の状況をこなしてしまわなければいけない。
沢木と相談したかったけれど、今は出来る筈もないのだし……。
一応、家に戻ったら相談したいことがあるとだけは、沢木に伝えてこれからの準備に専念することに。

準備するようにと、とても広いドレッサールームへと通された
そこに、聞いたとおりドレスが用意されていた。
淡い桃色の、どちらかと言えばシンプルなデザインのドレス。
唯一の救いは、そのドレスが膝丈のワンピースドレスである事だろう。
ドレスを着込み、長い髪を結い上げて薄桃色の薔薇のコサージュで飾る。
首元には、なんだか解らないがピンク色の宝石を中央に添えたチョーカー。
佩き慣れないパンプスも、薄桃色。
上から下まで薄桃色で仕上げられた。
更に、顔にメイクも施され、目の前の鏡にはいつもと違う自分の顔。
メイクなど、まともにした事がなかっただっただけに、顔に何かへばりついているようで正直気持ち悪かったのだが、仕方がない。
パーティーが終われば、さっさとメイクを落としてしまおう。
そんな事を考えていた。
支度は終わったが、パーティーの時間まですこし余裕がある。
すると丁度現れた清音に、ついてくるように促され、黙ってそれに従う。
がドレスアップしている間、沢木はドレッサールームの外で待機していた。
その沢木も、一緒に清音に引き連れられて、だいぶ慣れてきた豪奢な廊下を歩く事になった。

一方の跡部はと言うと。
今日、早めに会社の仕事を終え、跡部家本家である実家へ会社から直行した。
パーティー会場がそこでもあるし、自分の実家だ。
準備もそこで出来る。
婚約者である…も、先に行っているという話もあったので、そのまま直行でもいいと判断したのだ。
そして、屋敷へ到着した頃、彼女はもうとっくにパーティーの準備に入っており、跡部も促されてパーティーの準備を先にすることにした。
跡部の支度はそれ程時間もかからず終わったが、彼女のほうは違ったようだ。
女の支度が長いのは仕方がない事だと、そう思って納得すると、彼女の準備が終わるまで久しぶりに、幼い頃から慣れ親しんだこの屋敷の自室で待つことに。
暫くの後、清音が彼女の支度が整ったので、この部屋に通しても良いかと問われ、一も二もなく頷いた。

それから間もなく、再び清音が部屋へやってくる。
をつれて…。
沢木も一緒であった。
を部屋に案内した清音は、外で待機していますとそう言って部屋から出ていった。
沢木も、清音に促された事もあり、部屋から出てゆく。

ドレスアップした婚約者の姿は、いつもと印象が違う。
ドレスのせいだけではない。
きっちりと施されたメイクが、余計に印象を変えている。
全くメイクの施されていないいつもの顔でも美しい娘であったが、メイクを施せば更に美しく輝く。
磨けば光る玉とは成る程この事なのかもしれない。
「……何?」と、の顔が恥ずかしそうになる。
当然だ。
跡部が、彼女を穴が開くほど見詰めていたからだ。
「…馬子にも衣装って言いたいの?」
生意気にもそんな事を言ってくる
心なしか頬が膨れているような気がする。
「いや……よく似合ってんな、そのドレス。可愛いぜ」
跡部はそう言うと、彼女のもとへ近づく。
一方、の方はと言えば、可愛いなどと言われたものだから、顔を朱くして俯いてしまう。
「なに照れてんだよ、ホントの事言ってやったんだ、素直に喜んだらどうだ?」
口元に笑みを浮かべ、跡部はそう言うと、彼女の頤を掴んで顔を上向かせる。
その拍子に跡部との視線がぶつかり合う。
ますます恥ずかしくなって、は視線を逸らそうと首を動かすが、跡部に頤をつかまれたままなのでそれが出来ない。
跡部と視線を交えている事に耐え切れなかったは、目をきゅっとつぶってその視線から逃れるしか方法が見つからなかった。

のその行動は、跡部にとって別の物に見えた。
顔を朱くし、目だけではなく口もとまできゅっと結んでいるものだから、まるで、キスを強請られている様な……。
もちろん、にそんな気がない事は承知だったけれど。
今、この自分の目の前にあるのは据え膳も同然。
ならば食わねば男の恥である。
跡部はそのまま、ゆっくりと自身の顔をの顔へと近づけてゆく。
後もう少しで、唇が重なる。
そのくらい二人の距離を近づけた頃、跡部も瞼を閉じようとした。
が、それは叶わなかった。
その直前、ドアをノックする音が響いたからだ。
最悪なタイミングである。
せっかくの据え膳を食う事が出来ず、跡部は顔をしかめての顔から手を離し、距離をとった。
はといえば、目を閉じていたので何をされていたのかさっぱり解らず、先ほどの跡部の「可愛い」と言う発言に相変わらず照れた状態で。
顔を跡部に解放されたので、再び俯いてしまっていた。
ドアが開かれ部屋に入ってきたのは清音。
二人の様子を見て、怪訝そうな顔をして小首を傾げたが、すぐに気を取り直し「パーティーのお時間です」と言った。

跡部家本家の屋敷は、無駄に広いだけはある。
広々とした、ホテルにもありそうなパーティー専用ホールがあるのだから。
今夜のパーティーは立食パーティーであるらしい。
真っ白なテーブルクロスで包まれたテーブルの数々には、色とりどりの料理が並べられている。
正装に身を包んだ使用人たちが、飲み物や食器を乗せた盆を手に、パーティーの招待客たちの接待をしていた。
更に、BGMは生のバイオリニストたちによる演奏。
やる事が、派手で派手で仕方がないことこの上ない。
パーティーの冒頭で、跡部が代表となり、挨拶の言葉と乾杯の音頭を取る。
本来、それは跡部家の当主である跡部の父がやるべきものだった。
しかし、彼の父親は不在で変わりに跡部がその役を担ったのだ。

パーティーにやってきている人々の皆が豪奢なドレスや高そうなタキシード、スーツに身を包んでいる。
どれほどの資産家達がこのパーティーにやってきているのだろうか。
にはさっぱり解らなかった。
今、に出来る事は跡部の隣に立って次々挨拶に来る人々に頭を下げて愛想を振りまく事くらいだ。
もちろん、それを前もって教えていたのは沢木である。
が、跡部と共に暮らす前の事だけれど。
まぁ、愛想を振りまくのは接客業で慣れているので、それ程苦ではない。
状況も、が想像していた物とほぼ変わらなかったので、余計にスムーズに事が運んでいるようだと思う。
もちろん、緊張気味ではあるのだけれど、跡部の母親と対峙した時よりはましだった。
ちなみに、跡部の母は少し離れた場所で、やはり挨拶を受けているようだ。

「久しぶりだな、跡部。元気そうで何よりだ」
そんな風に声をかけてきた男性が居た。
見た感じ50代くらいの年齢に見える。
きっちりとした、やはり高そうなスーツに身を包み、首元にはきっと高級であるのだろうスカーフを巻いていた。
今まで、跡部に挨拶をしに着ていた人々と、彼は言葉遣いが全く違う。
何より、跡部の事を名の『景吾』…景吾様、景吾さん等の敬称がちゃんと付く…ではなく、『跡部』と呼んだのが、一番の違いだろう。
しかし、の疑問はすぐに打ち消される。
「榊先生、お久しぶりです」という、跡部の言葉で。
先生、というのだから、何か彼に世話になっていたのだろう。
「婚約したと言う話は聞いていたが…、彼女が?」
榊という名の男性が、を見て言う。
「はい、といいます」
跡部が榊に向かって頷いた。
さらにのほうに視線を向けて言葉を紡ぐ。
、こちらは榊太郎先生。俺の中学時代の恩師で、榊財閥のご当主でもある。ご挨拶しろ」
跡部に言われては慌てて頭を下げた。
「お初にお目にかかります、と申します」
そう言って、は下げていた頭をあげて榊に視線をむける。
「初めまして」と、榊はにこりと笑って言葉を返してくれた。
そして榊は、視線を跡部に戻す。
「お父上はどうされた?」
榊が跡部に問う。
「父は、仕事の予定がかみ合わず今日のパーティには出られないと……」
跡部が正直に答えると「そうか…」と頷く。
そしてさらに言葉を重ねる。
「では、お父上に会うことがあれば、榊がよろしく言っていたと伝えておいてくれ」
その言葉に跡部がはいと頷くと、榊は満足したようで「お母上にも挨拶をしてくる」と言ってその場から離れてゆく。

「……テニスの先生?」
去ってゆく榊の後姿を眺めながら、がポツリと言った。
しかし、その台詞に跡部は驚いた。
「違った?」とが跡部を見やる。
「いや……。お前の言うとおりだよ」
跡部は気を取り直して言葉を返す。
そして更に「何故解った?」とに問う。
「なんとなく…そうかなって思っただけ」
その言葉の通り、はなんとなく思っただけであった。
跡部は学生時代テニスをやっていた。
その頃の恩師だと言われたら、テニス部の顧問である可能性が高い。
だからそう言ったのだ。
何気なしに。
しかし、跡部にとっては驚くべき事で。
が…跡部にとってはだが…、跡部がテニスをしていた事を知っているとは思っていたけれど、恩師まで見抜くとは予想外で。
もしかしたら、案外勘の鋭い娘なのかもしれないと跡部は思った。
「あれ、でも……」
不意に、が小首を傾げて言う。
「どうした?」と跡部が問うと不思議そうな表情のまま言葉を紡ぐ。
「財閥のご当主なのに、中学教師をやってたの?」
成る程、その疑問は尤もだ。
「俺の通っていた学園の七不思議のひとつに数えられてたな、あの人が何で音楽教師やってたのかってのは」
つまりそれは、誰にも解らない謎だったのだ。
「……音楽教師でテニスの先生もしてたの?なんだか不思議……」
の正直な感想。
「今でも、非常勤講師やってるって話だな」
更に跡部が言う。
もしかしたら、金持ちの道楽なのかもしれない。
はそんな気がした。

それから暫くの後、挨拶ラッシュが過ぎた。
ふと、跡部はの手元を見る。
そこには、殆ど飲み干されてか空になったグラスが。
挨拶と挨拶の合間に、ちびちびと手元にあったグラスの中身を彼女が口にしていた事を思い出す。
ちなみに、跡部の手元のグラスにはまだ殆ど飲み物が残っている。
けれど、時間が経ちすぎていて本来の味は味わえないだろう。
「代わりの飲み物、要るか?」
そう跡部に問われて、驚いただったが、喉の渇きを感じていたので頷いた。
すると跡部は、近くに居た使用人に視線を向ける。
その視線に気付いた使用人が跡部の下へと駆けつける。
やってきた使用人は、手ぶらだったので「何か飲み物を二つもってこい」と跡部は指示を出す。
「あ、一つはノンアルコールで…」と、が慌てて付け足す。
使用人は「かしこまりました」とそう言うと、と、更に跡部の手元に会ったグラスを受け取って立ち去ってゆく。
「…なんで、ノンアルコールなんだよ」
使用人が立ち去った後、不満そうにを見て言う跡部。
「私、まだ未成年だもん。お酒はダメでしょ」
はそう言葉を返す。
「お前もう18だろ?酒くらい飲めよな」
の返答に、呆れたような声で跡部が言う。
「未成年者の飲酒は法律上禁止されてるでしょ」
は更に言い返す。
「……お堅いのな」
の言いように跡部はやれやれとため息。
そんな頃、先ほど飲み物を持ってくるようにと指示を受けていた使用人が戻ってきて、にはジュースを跡部にはシャンパンを手渡して去っていった。

手にした飲み物に口をつけている
跡部はその様子を見ていたが、ふと気が付いたように辺りを見回した。
その様子に気付いて、は跡部に不思議そうに視線を向ける。
「……お前の両親…、来てねえな……。招待はされていた筈だったんだが……」
跡部の言葉に、そういえば…とは辺りを見回した。
このパーティーに夫妻も出席するとは、沢木から聞いていたのだけれど……。
「お前もわからねぇのか?」
跡部にそう言われて、は正直に頷く。
するとそこへ、随分タイミングよく沢木が現れる。
「沢木、の両親はまだ来ていないのか?」
跡部がすぐさま沢木に問う。
「はい、それが…急な出張が入ったらしく、ご夫婦共々海外へ向かわれたそうで……」
どうやら沢木は、それを伝えにここに現れたらしい。
そして沢木は失礼しますと言って頭を下げ、今度は跡部の母の元へと向かった。
おそらく同じ事を彼女にも伝えるのだろう。

「冷たい親だな」と、跡部は沢木の背中に視線を向けながら言う。
「久しぶりに娘に会える機会だってのに、二人して仕事を優先しちまうんだからよ」
そんな跡部の言葉を聞いて、は思わず苦笑。
随分優しい物言いだと思ったのだ。
「仕事のほうが、大事なんでしょ。仕方がないことじゃないかな」
はそう言って、手に持っていたグラスのジュースを一口含む。
「……俺はそんな親にはならねぇ……」
跡部のそんな言葉に、は耳ざとく反応する。
「家族優先なの?」
が問うと「違う」と否定された。
「じゃ、何?」と言って跡部を見ながら小首を傾げる
「両立すんだよ」
なかなか可愛い仕種をするじゃないかと思いつつ、そんな心の言葉は置いといて跡部はそうきっぱりと言葉を紡いだ。
そんな跡部の台詞に、は思わず噴出してしまう。
「何がおかしい?」と、跡部の不機嫌そうな声が聞える。
「ほんとに出来るのかな?って思っただけ」
はそう悪戯っぽく答えてみせた。
「出来るに決まってんだろ。最高の夫を持った事を、後々感謝する事だろうよ」
の言葉が気に入らなかったのだろう。
跡部はフンと鼻を鳴らして、そう言い放つと手に持っていたグラスのシャンパンを口に含んだ。








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<あとがき>
きゃー;
コレも1話におさまんなかったぁぁぁぁ;;
書きたいエピソードを盛り込むたびに、話が長くなってゆく……。
プロットはもっと短いのに……。
しくしくしく……。
ちなみに、タイトルの<パーティーの心得>に、意味はありません;
思いついたのがコレだっただけですorz彡<スライディング土下座
元ネタ知ってる人は、意味が違い杉wwwww修正汁wwwwwwwwwww
て思うでしょうね…。

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