意識がだんだんと覚醒してくる。
眠りの淵から、遠ざかっている事を自覚した
鳥たちが鳴く声が聞えてくるけれど、それ以外の音はない。
雨は、降っていないのかもしれない。

はまどろみの中で昨日の散々だった一日を思い出す。
特に、パーティーの時。
まさかあんな時にまで悪戯してくるとは思わなかった。
あの、跡部景吾と言う男。
事もあろうか、喉が渇いて仕方がなかったに酒を飲ませたのだから。
騙されて居た事に気付かずに、一気に飲み干してしまったのも間抜けではあったとは思うが……。
色々な事があって、色々な事を聞いて、多少は彼の事を見直してきていた所だったのに……。
今日、会ったら真っ先に文句を言ってやる。
それにしても、腹から腰にかけて重たい何かが乗っているような感覚があるのは何故なのか。
色々と、頭の中で考えながらは瞼を開いた。

仰向けで眠っていたので、視界に入ったのは天蓋の天頂部。
しかしそれは、ここ一週間見てきたものとは違う。
それもそうか。
パーティー会場でもあり、跡部の実家でもある跡部家の本家の豪邸に、一晩泊まる予定だったのだ。
おそらく、その屋敷の部屋の一つだろう。
そう納得して、次は腹から腰にかけての重さが何のためなのか、それを解明しようとは考えた。
視線を、天井から自分の腹部へ移動させる。
そこにあったのは、腕。
丁度、の腹から腰にかけてまわされている。
それを見て、の思考が一瞬停止。
なにこれ?
その腕を自分の手で掴み上げ、腕の本体があるであろう方向に視線を巡らせてゆく。
そうすれば、自分の真横に眠っている男に行き着いた。
美しい寝姿を披露する、跡部景吾に。

目の前に、美しい男の寝顔なのだ、普通の女性なら役得だと思ったりするだろう。
しかし、はそうではない。
なぜ、この男と同じベッドに自分は眠っているのか。
訳が解らず、思考停止 後、パニック。

「んぎゃ〜〜〜〜っ!!!」
そんな叫び声を上げながら、は飛び起きて跡部と距離を開ける。
の叫びを聞いて、跡部が何事かと瞼を開く。
「んな、んな、んな、んな、んな、んな、んな……」
何でアンタが私と同じベッドに居るのよと言いたいのに、パニックのあまり言葉にならない。
「なんだ…、朝っぱらから騒々しいな……」
気だるそうにベッドから体を起こしながら、寝起きの擦れ声で言葉を紡ぐ跡部。
跡部は、辺りを見回し時計を探し出すと時間を確認する。
「……まだ起きるには早ぇじゃねぇか……」
呆れたようにを見て跡部は言う。
そして、大きなあくびを一つ。
「な…なんでアンタがここにっ…」
がやっとこ言葉を紡ぐ。
「ぁあ? ここは俺の寝室だぜ、居て当然だろ」
そんな跡部の返答に「へ?」とは言葉を返す。
「ここは俺の実家なんだぜ、俺の部屋や寝室があって当然だろうが」
間抜けな声を出したを相変わらず呆れた視線で見やりながら、跡部は言う。
は、跡部のその一言で成る程と納得を一旦はしたものの、もう一つ疑問を感じてその疑問を口にする。
「何で、私、アンタの寝室で寝てたの?」
跡部に酒を飲まされ、その後 意識を失って、何故ここで寝ているのか、さっぱり解らないのだ。
「運び込ませたからに決まってんだろ。ここにはお前の部屋はねぇし…」
何を当たり前なと言わんばかりに、跡部はそう言うとため息をつく。
「いや…だったら客間とかあるんじゃないの?こんな広い屋敷なのに、客間がないってありえないでしょ」
別にわざわざ彼の寝室に運び込む必要などないはずだ。
はそう思って言葉を紡ぐ。
「俺の寝室の方が手っ取り早かったんだよ。寝ちまったお前を運んできたのも俺の部屋だったしな」
そう言葉を返す跡部。
「なるほど……」とは納得したが、それでもなんとも腑に落ちない気分だ。
「で…だ……」
難しい顔をしているをよそに、跡部は言葉を紡ぐ。
「そんないい格好して、俺様に構って欲しいのか?アーン?」
跡部の視線が、の胸元、下腹部と言う順に巡ってゆく。
それに気付いては自分の体に視線を落とす。
誰が着せたのか、はバスローブを見に纏っていた。
それだけならいい。
バスローブをきっちりと着込んでいるのならば。
しかし、そうではない。
バスローブは胸元や太股の部分が大きく肌蹴ていて、ギリギリ、見られて困る部分が隠れている程度だったのだ。
「きゃっ…」
は小さく悲鳴を上げて、胸元とローブの裾を掻き合わせる。
「朝からそんな格好で誘われちゃ、無下には出来ねぇなぁ」
そんな事を言いながら、妖艶な笑みを浮かべてに近づいてくる跡部。
「んなっ」
が驚いて目を見開いているうちに、あっという間に、は跡部の腕の中に捉えられベッドの上に押し倒される。
跡部は、の上に馬乗りになる状態で、更に彼女の両手を自分の両手で封じる形で覆いかぶさった。
……コレに似たシチュエーションが、以前にもあったような気がする。
そんな事など気付ける筈もなく、はじりじりと迫り来る艶を帯びた笑みの跡部の顔を目の前に混乱状態だ。
うっとりとした表情で、瞼を閉じ、の唇に自分の唇を重ねようとする跡部。
「いやぁぁぁぁぁっ!!!!」
次の瞬間、はそんな悲鳴をあげて暴れだした。
手は、跡部によって封じられていたので両足をばたつかせて暴れた。
それが、跡部に不幸をもたらすことになる。

ばたつかせたの右足の膝に、衝撃が走った。
「ぐふっ」という跡部の情けない声が聞えたかと思うと、彼の体が崩れ落ちる。
丁度、押し倒されたままの状態のの真隣に、ベッドに体を沈ませる状態で。
肩を震わせ、とある一点を痛そうに両手で押さえながら蹲って。
は、一瞬何があったのか理解できなかった
が、すぐに状況を思い出す。
右足に走った衝撃、跡部の情けない声、ベッドの上でとある一点を痛そうに両手で押さえながら蹲っている。
彼が、両手で押さえている場所、それは彼の足の付け根の大事な部分。
男の象徴。
つまり、先ほど、暴れたの右足の膝が、跡部の大事な息子にクリーンヒットしてしまったのだ。
の上に跨っていたのが、敗因だろう。
「て…めっ……、よりに…よって、こんな……っ」
彼女の膝の一撃は、かなり重かったのだろう。
恨み言も、うまく口にすることが出来ない。
流石のも、コレは悪いとは思わざるおえない。
襲ってきた跡部に非があるとはいえ……息子に一撃はあまりに可哀想過ぎる。
何より、目の前で悶絶する跡部の姿を見ると、自業自得だとは言えなくなってしまった。
「……あ…ごめん…なさい…、大丈…夫?」
相変わらず蹲っている跡部の肩に遠慮がちに手を掛ける
「だ…い丈夫に…見えるかっ?」
後引く痛みに、眉をしかめながら跡部は言う。
その痛々しい声に、全く大丈夫ではない事が伺える。
「ど…しよ…。あ、誰か…清音さん…起きてるかな」
苦しそうな跡部にどう対処していいのか解らないは、人を呼ぼうと考えた。
それで、跡部に一番近しいのが清音だったので、清音の名が出たわけだ。
は体を反転させベッドから下りようとする。
しかし、それを跡部に引き止められた。
の腕を右手で掴む跡部。
もう反対側はまだ大事な場所に添えたまま。
「あ…なに?」
跡部のその行動の意味が解らず、は問う。
「誰も…呼ぶな…。こんな姿、誰にも見せられねぇ……」
そんな事を言う跡部。
彼としては、金的を食らって悶絶しているなさけない姿を他人に披露するなど、プライドが許さないのだ。
とはいえ、はまだまだつらそうな跡部の様子を見て困ってしまっていて。
「ね…、冷やしたりとか…しなくてもいいの?」
誰にもこの姿を見せられないのなら、今目の前で見てしまっている自分が手当てをしなければならないとは思った。
そしては、冷やした方が良いのでは…と思いついたというわけだ。
「いい…余計な事をするな……」
の言葉に、頭を振る跡部。
そんな反応をされると、はますます困ってしまう。
「暫く…ほっとけ……」
跡部はさらにそう言い、再び蹲る。
ほっとけと言われては、どうしようもないので、は仕方なく跡部の様子を伺う事だけに徹する事にした。

暫くすると、急所に食らった一撃のダメージから、回復し始めてくる。
思いのほか勢いよく、しかも膝の骨と皮だけの一番固い場所が、ジャストミートに急所に入ってくれたおかげで、回復するのに随分とかかったが。
どうにかこうにか、痛みから解放され始めた跡部は、体を起こす。
の顔を見れば、心配そうに跡部の様子を伺っていて。
悪いと思っているのだろうと、すぐに解った。
が、本はといえば、跡部が不埒な事をしたのが事の発端。
両思いの恋人ならば、そのまま行為へ及べるが、跡部とはそうではない。
跡部には感情があるが、のほうには全くないのだから。
恋愛対象として見られていないことに、寂しさを覚えつつも、これからそんな関係になってゆけば良い事だと跡部は自分自身を納得させた。
「…ごめんなさい…。もう、大丈夫?」
が心配そうに聞いてくる。
「ああ、大丈夫だ」と、そう跡部が返すと、はほっとしたように息を吐いた。
跡部は、そんなの頭にぽんと自分の掌を置く。
そんな彼の行動に、は訳が解らずきょとんとした顔で跡部を見やる。
「朝っぱらから、悪ふざけが過ぎたな。悪かった…」
を無理やり押し倒した事への、詫びだった。
それに気付いたは、そんな跡部の行動に唖然。
まさか、跡部が謝ってくるとは思わなかったのだ。
どう返事を返していいのか解らず、は頭に跡部の掌を乗せられたまま あたふた。
そんなの姿が可愛らしくて、跡部はフッと笑みを漏らす。
そして言った。
「可愛いな、お前」
優しい笑みを浮かべた跡部にそんな台詞を吐かれたはというと……。
あっという間に顔を朱く染めてしまった。
どう言葉を返して良いか解らず、俯いてしまう
そんなの様子を楽しそうに眺めやる跡部。

と、そんな時、ドアがノックされた。
「失礼します」と、ドアが開いてやってきたのは清音。
どうやら、起床時間になったようだ。
清音は、そのままベッド脇へとやってくると、掛かっている天蓋の一部分を、ベッドの柱にくくりつけて、中の様子を伺う。
「あら、すでにお目覚めでしたか。おはようございます、景吾様、様。昨晩はよく眠れましたか?」
ベッドの上の二人をみて、清音がにこりと笑っていう。
跡部は「ああ」と言葉を返すと、不意に視線を清音の腰元に居る『それ』に向けて嬉しそうに笑った。
しかし、の視線は清音と一緒にやってきた『それ』を見た途端、顔を蒼ざめさせて硬直。
様?」と、『それ』に釘付けになって動かなくなってしまったの様子を伺うように言う清音。
それは跡部も同じで、「どうした、?」と問う。
しかし、はその二人の言葉に反応しない。
肩をフルフルと震わせているだけ。

そして、は口を開く。
その口からは、「ひぃぃぃぃっ!」という、本日3度目の悲鳴が漏れるだけであった。










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<あとがき>
金蹴り食らって悶絶跡部様。
このエピソードが連載当初から凄く書きたかったんですよねぇ〜。
情けない跡部が大好きなカムイですのでw
さてさて、清音さんと一緒にやって来た『それ』
『それ』はヒロインちゃんが大の苦手とするものです。
私の友達もそうなんですよ。
『それ』を見た途端、彼氏の後ろに隠れます。
彼氏も、彼女が『それ』を苦手にしている事を知っているので、『それ』を目にした途端に彼女の視界に入らないようにしたりします。
彼氏の方は『それ』が好きなんですけど…。
ちなみに、私も『それ』が大好きですw




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