が跡部の許を去ってから、幾らかの時が過ぎた。

名前も素性も解らない娘を探すという事は、とても困難な事。
跡部は数人の探偵を雇い入れて愛しい少女を探していた。
唯一の手がかりは、という名の白血病の娘。
彼女の似顔絵も作りはしたが、それよりも一番 彼女に近い手がかりである筈だ。
病院関係を徹底的に洗わせれば、彼女を探し出すのも可能だと、跡部はそう思っていた。
けれど、彼女の手がかりはおろか、という少女の所在すらつかめていない。
成果のない探偵たちの報告に、跡部は次第に苛立ちを募らせていた。

「罰が、当たったんではありませんの?」
私室での事。
探偵たちからの何の実のない報告にイライラとしていた跡部に向けて、清音が放ったのがその一言だった。
清音のその言葉に、更に苛立つのだけれど、自分でもそう思えてしまって言い返す言葉が見つからない跡部は、ただ黙り込むだけ。
清音が跡部にそのような事を言ったのには理由がある。
実は清音は、跡部が彼の少女に対してどのような仕打ちをしたのか、知っているのだ。
跡部が彼女を無理やり手に入れた事実を……。

 

 

それは、清音が跡部の寝室のベッドメイクをしていた時に気づいてしまった事が発端だった。
彼のベッドのシーツに染み付いていた、出血の痕跡。
最初は、跡部のものかとぎょっとしたのだが、それにしては本人は元気だったし、居なくなった婚約者を探して出かけてしまったので、彼のものではなさそうだと判断できた。
では、誰のものなのか?
そう考えて、清音は彼の婚約者であるのものであると、その時はそう思ったのだ。
実は、彼女がではなく赤の他人であるとは、その時 清音は全く知らなかった。
とうとう二人は結ばれたのだと、そう思ったのだけれど、何故かその婚約者は忽然と姿を消し……。
何か事情があるのだろうと思った清音は、跡部の帰りを待ち、事実を問いただす事にしたのだ。

と結ばれたのか?と清音が跡部に問うた時、跡部は違うと答えた。
そして跡部によって、清音は自分が今までだと思っていた少女が、全く違う他人の空似の別人である事を知る。
跡部からその話を聞いても、清音は彼女の所業を咎める気分にはならなかった。
なぜなら、清音も彼女の人となりを知る人物であったからだ。
実は彼女は、跡部が仕事に出かけている間、使用人たちのこまごまとした雑用を手伝ったりしていた。
彼女は、読書でもなんでも、趣味に費やしていい筈の時間を、使用人の手伝いをすることで過ごしていたのだ。
跡部から注がれる愛に苦しんでいた時でも、彼女はずっとそうだった。
沢木がいい顔をしていなかったけれど、それでも彼女は清音だけではない色々な使用人たちの手伝いをしていたのだ。
使用人たちが咎められたら困るから、跡部には何も言わないようにと、彼女からそう言って……。
だから、屋敷の皆が彼女を好いていたし、清音もそうだった。
そのお陰で、清音は彼女がどれだけ気の優しい真っ直ぐな心根の少女であるのか、知っていたのだ。
他の屋敷の使用人たちもそうだろう。
彼女が金の為に替え玉を引き受けたという話を聞いても、清音は彼女を浅ましいともなんとも思わなかった。
理由があるに決まってる。
でなければ、あんな心根の良い子が、人を騙すという行為をするはずがない。
清音も、跡部と同じ事を感じたのだった。
と、そこで、清音は跡部に話を摩り替えられたことに気付く。
彼女と結ばれたのか?という問いに、答えてもらってはいない。
とはいえ、彼が話を逸らすようなマネをするという事は、何かやましい事があるという事でもある。
更に、彼女は家を出て行ってしまったようだし……。
愛し合って結ばれたのならば、跡部に黙って出てゆくなどありえないはずだ。
思ったとおりの事を、そのまま口にして跡部を問い詰めれば、観念したようで。
跡部は彼女を無理やり抱いた事を漏らした。

その話を聞いて、清音は激怒したのは当然の事で。
自分が幼い頃から育て上げた青年が、まさか、あのあどけない少女にそんなひどい事をしようとは……。
「俺がアイツにやった事が、どれだけ卑怯で残酷な事だったのかは、ちゃんとわかってるつもりだ。 でも、俺はどうしてもアイツを手に入れたかった…。言葉で何を言ってもアイツは俺の前から居なくなっちまうんじゃねぇかって……。 そう思ったら、いてもたってもいられなかったんだ……」
そう言った跡部の弁に、清音が更に怒りを強くしたのは言うまでもなく。
「中学生や高校生じゃあるまいに。 体をつなげればどうとでもなると、それだけで人が手に入ると…何故そんな幼稚な考え方になるんです? それで、景吾坊ちゃまの一方的な想いを押し付けられたあの子がどれだけ傷つくか、考えてもいらっしゃらなかったのですか? そんな事も解らないような人間に、坊ちゃまを教育した覚えは、清音にはございませんわよ?!」
清音は強い口調でそう言って跡部を叱り付ける。
跡部に対して、ここまで強く言えるのは、彼の両親、祖父母以外では清音だけ。
「……償う。ちゃんと、償う。アイツを探し出して、俺の一生を掛けて……」
怒りの形相で跡部を睨んでいる第二の母たる清音から、視線を逸らす事無く跡部はそう言葉を紡いだ。
無理やり抱いてでも、彼女を繋ぎとめようとした自分の浅ましさには、自分が一番わかってる。
それでも、目が覚めた時に彼女が隣に居たのなら、愛している事から抱いたのだと、離れて欲しくないから体を繋げたのだと、全てを話して彼女に自分の想いを理解してもらうつもりだった。
そして、彼女を何よりも大切にして、苦しい思いをさせてしまった事に対する償いをするつもりだったのだ。
けれど結局、彼女は姿を消してしまった。
跡部の想いも知らずに……。
彼の想いをその放つ言葉から感じ取った清音は、それ以上彼を詰る事はしなかった。

 

 

とはいえ、跡部が彼女に対して行った行為を、清音は早々簡単に許せるものでもなく……。
時々、ついつい跡部に小言を漏らしてしまうのだ。
罰が当たったのでは?という言葉も、その事から起因するものだった。
清音の小言に、跡部はムッとするものの、自分の行いから来ていることであるだけに何も言い返すことは出来ず、ムッツリと黙り込んでしまうのだ。
そして、心の中で彼女を想う。
募るのは、苛立ちだけではない。
彼女への愛しさ、恋しさも、日々が経つにつれて募ってゆく。

逢いたい。
触れたい。
抱きしめたい。
口付けたい。

毎夜、夢に見てしまうほどに。
彼女が愛しくて愛しくて、恋しくて恋しくてたまらない。
だから余計に、全く手がかりの見つからない今の状況は、跡部にとって辛いものだった。

 

跡部は、夕暮れの空を見上げて想う。
愛しい少女を……。
 

なぁ、今お前はどこに居るんだ?
同じ空の下で、どんな生活をしてる?
もしも、お前が苦しい思いをしてるなら、俺の所に来い。
もしも、お前が泣いているのなら、俺の所にに来い。
俺が守ってやるから。
どんな苦しい事からでも、どんな悲しいことからでも。
一生かけてお前だけを守り続けると誓う。
なぁ、俺はまだ、お前と暮らした家に居る。
お前が、いつでも戻ってきてもいいように。
この家は、俺とお前のために作られたものじゃないけれど。
お前と俺を繋ぐ家でもあるから……。
でも、お前が俺の所にやって来てくれたなら、新しく家を建てるつもりで居るんだ。
お前好みの外観の、お前好みの間取りの家。
その家で、二人で暮らしたいんだ。
一方的な想いだと、解ってはいるんだけどな。
でも、お前の傍に居たい。
お前に傍に居て欲しい。
俺はお前を愛してるから。
お前以外の女は、もう、愛せないから。
お前が傷ついているのなら、一生かけて償う。
二度とお前が傷つかないように守り通す。
そして、お前を一生 幸せにするから……。
だから、なぁ……。
俺の所に来い。
俺を選んで欲しいんだ。
俺はお前を探しながら、この家でお前が帰ってくるのをずっと待ってる……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

けれど、跡部の心の声は、少女にまだ届かない。
同じ空の下に居ても、二人の心は重ならない。
二人の想いも重ならない。
歯がゆくなる程に。

跡部の母のように、運命の神は何故これほどまでに意地悪なのだろうかと、そう思ってしまう程に……。









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<あとがき>
今回も、短め……orz
すいません、切ない跡部さん。
更に、清音さんに跡部は叱られまくり。
当たり前ですけど。
清音さんは育てのお母さんだから、跡部には幾らでも強く言えるんです。
なにせ、最強なのは清音さんですからwwww
清音さんは随分と影が薄かったんで、活躍させられて良かったw
はてさて、次の話はヒロインちゃんでござります。
新たなオリキャラ登場いたします。(端役ですけど)
……あ、沢木さん……ごめん、なんか活躍できなかったね;
それにしてもね、ぶっちゃけね、意地悪なのは運命の神じゃなくて神威だよねwww
………すいません(´Д⊂

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