とが会話を交わした、数日後の夜の事。

その日、宍戸は久々に学生時代からのテニス仲間との酒を楽しんでいた。
そこは、大学生時代に贔屓にしていたカクテルバー。
店の一角に陣取って久しぶりに旧友達と会話を交わしていた。
今日集まったのは、忍足侑士、向日岳人、滝萩之介、鳳長太郎、そして宍戸を含めた5人。
その他にも数人仲間は居るだが、仕事だなんだで来ていないようだ。
「そういえば、ここに居らん連中は最近何してるか…知っとる?」
近況報告のような会話が一通り終わった頃、ぽつりと言葉を漏らしたのは忍足だった。
その言葉に各々、知っていることを話し始める。
日吉若は相変わらず実家の古武術道場の師範をやっているだとか、樺地崇弘は何処ぞの田舎でアトリエを開いているだとか……。
そんな会話の中に、跡部の話もあった。
「そういえば、跡部…もうすぐ結婚じゃなかったか?」
ふと、そんな事を思い出して口にしたのは宍戸。
「ああ…そういえば……政略結婚でどうのって、話聞いたなぁ」
宍戸の言葉に頷いたのは向日だった。
するとそれを聞いた鳳が口を挟んでくる。
「その話、無くなったらしいですよ」
そんな鳳の話に、宍戸、忍足、向日は驚いた。
滝は知っているようで、「そうだね」と頷いている。
「なんでやの……? 婚約破棄になったん?」
驚きの顔のまま、忍足が鳳や滝に向けてそう問う。
すると鳳はこう言葉を返した。
「相手の家が昔 不正な取引をしていたらしくて…。全部時効だったそうですけど、とんでもないスキャンダルでしょう?だから、婚約破棄…って事になったらしいですよ」
鳳の話を聞いて、驚いていた3人はなるほどと納得。
「まぁ、跡部さんはもともと、この結婚を嫌がってたそうですし……良かったんじゃないかなって思います」
更にそんな言葉が鳳は付け加えると、「確かにな…」と宍戸達は頷いた。
と、そこで話を黙って聞いていた滝が口を挟む。
「……跡部の婚約者…実は替え玉だったんだってね」
そんなとんでもない事を言い出したものだから、滝以外の…鳳ですらも知らなかったようで、皆が再び驚いた顔になる。
「替え玉って……、そんな話どっから拾ってきたんだよ滝?」
向日は滝にそう問うと、滝はふ…っと笑みを作って一言。
「企業秘密」
すると向日は「なんだよそれ、信じられねぇよ」と拗ねてしまったようで。
「ゴメン、向日。 でも、事実らしいよ」
拗ねてしまった向日をなだめつつ、そんな事を言う滝。
「替え玉やなんて…とんでもない話やな…」
滝の話を聞いて忍足がポツリとそう漏らす。
「跡部の相手になるはずだったお嬢さんも結婚を嫌がってたみたいだよ。 で、逃げ出したて行方しれず……」
「で、替え玉使ったっちゅー訳か……」
そんな滝の言葉に、納得したように忍足は言う。
皆も納得したようになるほど…と頷いている。
だが、一人だけ頷いていない人物が居た。
一人俯き、何かを考え込んでいる人物が……。
「……どうしたんだよ、宍戸?」
そんな宍戸の様子を不思議に思って向日が声を掛ける。
すると、宍戸ははっとしたように肩を震わせて顔を上げた。
「何か、考え事ですか、宍戸さん?」
鳳も、宍戸の様子を気に掛けてそう問いかける。
すると宍戸は「いや…なんでもない……」といって誤魔化すだけ。
「何か、知ってる…って顔に見えるんだけど…?」
宍戸の顔をじっと見詰めて滝が言う。
「何にもしらねぇよ!」
思わず宍戸はそうムキになって言い返す。
「ムキになるとこが…怪しいなぁ……」
宍戸のその様子に、忍足も宍戸を見詰めて言葉を紡ぐ。
気が付けば、一同の視線が宍戸に向けられている。
ムキになってしまったのが、致命傷だったらしい。
もっと冷静に対処するべきだったと、今頃思っても後の祭りなのだ。
そんな宍戸が取れた行動といえばたった一つで…。
「なんにも怪しくなんかねぇよ。 俺、明日早いからもう帰るぜ。 金、置いとくから…足りなかったら電話してくれよ。……じゃな……」
そう言葉を一息に吐き残して席を立ち、彼らを残して店から去るだけ。
「何か…知ってるような様子でしたね」
宍戸が立ち去った後、鳳がぽつりと言った。
「とはいえ、追いかけて吐かせる…なんて事も出来ないし……。放っておこう。 何かあれば、自分から言ってくるだろうし」
鳳の言葉にそう言葉を返したのは滝で。
「せやな」だとか「だな」だとか、忍足と向日がうんうんと頷いた。

一方、店を出た宍戸はというと……。
人々が行き交う往来を一人早足で歩きながら、頭の中で考え続けていた。
 

幼い頃からの友人である跡部と、つい最近 以前以上に親密になり始めたとが、滝の言った『替え玉』という言葉で、繋がってしまう。
滝の話が事実であるなら……繋がってしまうのだ。
跡部の婚約者に成り済ましていたのはなのではないのか?と……。
まさか、そんな事…あるはずがない。
偶然が重なっただけだ…。
宍戸はそう思いたかったが、『替え玉』の話が偶然だけで重なるとは思えないのも事実で。
が言っていたではないか。
とある資産家の御曹司の婚約者に成り済ましたのだと。
『とある資産家』が跡部の家で、『御曹司』が跡部であったとしたならば……。
彼女の胎の子は跡部の子なのではと…そんな予想に行き着く。
まさか、そんな事が…と、宍戸は信じられない気持ちでいっぱいだ。
けれど、その話が本当の事であるならば、ならば自分が動かなければならない。
妊娠してしまったの為にも…。
跡部がに騙された事で怒りを感じているならば、にも事情があっての事だと説明してやる必要もあるだろう。
事情さえ説明すれば、跡部は寛大な男だし、を許さないとは言わない筈だ。
の胎の子だって、頭ごなしに堕ろせとも言わないだろう。
幼い頃からの付き合いで、宍戸は跡部の人となりを知っている。
だから、そう思えたのだ。
の事情を全て知った上ならば、跡部だって何かしら彼女を援助してくれる筈だと。
彼女は誰にも頼らず…と考えているようだけれど…。
しかし、やはり宍戸はを放置してはおけない。
幸い、跡部は資産家の跡取りで今現在でも社長職の高給取りだ。
と胎の子の金銭的な面倒くらい見られる。
子供が跡部の隠し子とされてしまうかもしれないが、孕ませた跡部にだって責任はあるのだし、そのくらいの醜聞には耐えてもらうしかないだろう。
その程度、跡部なら耐えられない筈もないだろうし……。

一通り、考え終えて宍戸はせわしなく動かしていた足を止めた。
気が付けば、皆と飲んでいたバーからかなり遠く離れた場所まで来ていたが、気にしない。
色々と考えたが、間違いだった…となっては困るし、宍戸は一旦 跡部に確認を取ろうと思い立った。
状況から考えると間違いである可能性のほうが低いが……。
先ずは、確認することから。
そう思って宍戸は、着ていたワイシャツの胸ポケットから、携帯電話を取り出した。
そして、携帯電話のメモリから探し出す『跡部景吾』の名。
宍戸は迷いなく、その電話番号で通話ボタンを押した。

どうか早く彼がこの電話に出てくれるようにと、そう祈りながら……。









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<あとがき>
やっと、やっとここまできました!
宍戸がこんなにも活躍してくれて…お母さんは嬉しいよ…(お母さんって誰さ?;)
まー、当初この役目はオリキャラの沢木にやらせるつもりだったんですけどね……。
宍戸のほうが適任って事で、宍戸にやらせましたw
物語は、そろそろクライマックスになる筈……。
うん…。
多分……。

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