「全く、なんて事を…」と、の為に宛がわれた私室に、沢木と二人きりになったとたん、は叱られた。
部屋に据え付けられているソファーに座ったを、沢木はその目の前に彼女を見下ろす形で立っている。
だから余計に威圧感が増す。
「……ご…ごめんなさい……。カチンとなって、つい……」
は慌てて沢木に謝る。
「おかげで、景吾様は貴方に酷く興味を持ってしまって……。おかしな事にならなければ良いですが……」
沢木は大きなため息と共にそう言葉を紡いだ。
「……すみません……。てっきり、逆ギレされて嫌われるかと思ってたんですけど……」
としても、あれほどすんなりと言葉を撤回された事に、戸惑いを覚えていた。
自分の妻になる女性に対して人形だなんだと発言したのだ、跡部景吾と言う男は顔はよくても性格は悪そうだと、は感じたのだが……。
「ともかく、正体がばれぬよう、細心の注意を払って景吾様と対面してください」
沢木にそう言われ、はしょぼんと肩を落として「はい」と返事を返した。
更に、「それと」と沢木が言葉を重ねる。
「もしも景吾様が貴方に恋愛感情をもたれることがあっても、貴方は決して恋愛感情を持ってはいけませんよ」
貴方はあくまで、お嬢様の代わりなのですから…と、沢木は言葉を紡ぐ。
「そんなの言われなくても解ってます」と、が沢木を見上げながら言うと「ならば、よろしい」と彼は頷く。
「もしも、貴方が彼に恋愛感情を持つような事があったら、例え正体がばれていなくとも失敗とみなし、契約はなかったことにします。いいですね?」
沢木にそう言われ、は慌てて「はい」と強く頷いた。
それからすぐ、沢木はこの屋敷についての説明を聞きに行くと、部屋から出て行ってしまい、
は部屋に一人取り残される。
一人用のプライベートルームであるというが、この広さはあまりに非常識ではないかと、は思う。
の座っているソファーは数人位で掛けられる大きさの物であるし、ミニシアターでも開けるのではないかと思うくらいの大きさのテレビもある。
壁には白い鹿の剥製や作者のわからない絵画。
大きな出窓にはやはり高級そうなカーテンが掛けられている。
冷たいフローリングで出来た床には、一目で解る高級なペルシャ絨毯まで敷かれていた。
更に、部屋の隅に2箇所のドア。
両開きの二枚ドアと、片開きの普通のドア。
気になったので、はソファーから立ち上がりその内の一つ、片開きのドアを開けてみた。
するとそこは、バスルームのようで。
洗面台、脱衣所、浴室、トイレとその中で全てが別々の部屋として作られていた。
やはり、それらを構成している家具や素材も全て高級そうな物ばかり。
にしても、プライベートルームにバスルームがあるとは……。
まぁ、確かにこの屋敷は広いので、いちいちトイレだ風呂だと、部屋から出て行ったりきたりするのは面倒だろうし、冬のお風呂は風邪をひいてしまうかも知れないから、この位はあって当たり前なのかもしれないと
は考えた。
そして
は、バスルームからもといた部屋に戻り、今度は両開きの二枚ドアの方へ。
ドアを開けてその向こうへと足を進める。
そこは、どうやらベッドルームであるらしい。
一人で眠るには大きすぎるのではないかと思うくらいの大きさの、所謂キングサイズと呼ばれる大きさのベッド。
しかも、天蓋付き。
ベッドルームを見回すと、またドアを見つけて
は思わず小首をかしげる。
興味を惹かれたので、そのドアを開けてみた。
すると、目の前に現れたのは沢山のクローゼット。
おそらく、そこは衣服を保管する部屋なのだろう。
は思わず面食らってしまう。
私室一つに、バスルームやベッドルームだけならまだしも、衣装ルームまであるとは……、一体この部屋でいくらのお金がつぎ込まれているのかと、
は思わず思案してしまった。
衣装ルームから一旦ベッドルームに戻ると、やはり目に入るのは大きな大きな天蓋つきのベッド。
も乙女の端くれ。
そのようなベッドに夢を馳せたりしている年頃でもある。
興味を持たないはずが無い。
は、ゆっくりとベッドに近づく。
そして、綺麗にメイクされたベッドの端にそっと手を置いてみる。
掌に、柔らかな布の感触。
更に力を入れて押してみると、程よく利いたスプリングがの手を押し戻してきた。
こんなベッドに眠る事が出来るのか…と考えると、少しだけ横になって見たいという誘惑がふつふつと沸いてくる。
今、沢木もいない、この部屋にはだけ。
ちょっと横になるくらい…そんな考えが頭に浮かび、はそっとベッドの上へと上る。
肌に気持ちいいシーツの感触、程よい硬さのスプリング。
枕はとても大きく柔らかそうだ。
は四つん這いの状態で、枕元まで近づく。
そして、枕にそっと頭を乗せて横になる。
手足だけに感じていた布の感触が体全体で感じられるようになった。
気持ちの良いベッドの感触を感じながら、は思う。
こんなベッドに妹のと一緒に眠れたならばどんなに良いだろうかと。
いや、何時か妹の病気が治り二人で暮らすようになったならば、こんなベッドが置けるような家に住めるように沢山働こう。
そして、こんなベッドを買って、二人で眠るのだ。
きっと、も嬉しいだろう。
何時か…必ず……。
一方、リビングにいた跡部であったが、
に扮したがリビングを出ていった後、跡部自身の私室へと戻る。
跡部がこの屋敷にやってきたのは、半月ほど前。
以前は跡部の本家の屋敷に暮らしていたのだが、夫婦の新居にと作られたこの屋敷に移り住む事となった。
屋敷の作りも申し分なく、住まうには何の問題もないと跡部は思っている。
私室の広さも、以前住まっていた屋敷の物とほぼ変わらず、多少の違いはあるものの家具配置も全て以前のまま。
プライベートルームの中央に配置されているソファーに座り、暫し趣味の読書に耽る。
この部屋には跡部以外誰もいない。
すると、ドアがノックする音が聞え、跡部の世話係である使用人の清音の声が聞えた。
入室を許可すると、ドアが開き年配の女性が部屋の中へと小さな足音を立てながら入ってくる。
「様が私室の方で落ち着かれたご様子ですが…、これからのご予定はいかがなさいましょう。
様の昼食は、ご自宅の方でお済ませになられたそうですので、アフタヌーンティをご一緒されますか?」
清音がソファーに座って本に目を落としている跡部に向かって言う。
「……そうだな。そうしてくれ」
跡部は清音に視線を向ける事無く言葉を返す。
「本日は生憎の雨模様ですので、リビングの方にお茶のご用意でよろしいですか?」
更にそんな問いを跡部に掛ける清音。
「かまわねぇ」と、跡部はその言葉にもそっけない返答を返す。
しかし清音は気にする事も無く、「かしこまりました」と頭を下げると、部屋から去ってゆく。
跡部はその様子を気にかける事もなく、本を読み耽るのだった。
それから、間もなくの後、再び清音が跡部の私室を訪れる。
アフタヌーンティの準備が出来たという。
跡部はリビングへ向かおうとし、私室から外へ出る。
が、ふと思いツいたように清音に問う。
「あの娘…はもうリビングにいるのか?」
跡部の問いに清音は「いいえ。今からわたくしがお呼びしようと思っていた所です」と答える。
の私室は、跡部の私室から少しはなれた場所にある。
それは、にあまりベタベタとされたくないと思った跡部がそうさせたものでっあったのだけれど……。
清音は先ず跡部にアフタヌーンティの準備を知らせ、その後に…なのだが…に知らせようと考えていたらしい。
どうやら、彼女の世話係である沢木と言う男が、現在この屋敷の仕来りやなんだといったものの説明を受けているので、不在であるらしく、清音が彼女を呼び出す役になったらしい。
「……先にリビングに行っていろ」と、跡部が清音に言う。
何故ですか?と言わんばかりの視線を跡部に向ける清音。
すると跡部は口の端を持ち上げてにやりと笑い、「可愛い花嫁さんのご機嫌伺いだよ」と言って、
の私室へと向かって歩き始める。
清音はそんな跡部の背中を見てクスリと笑うと、彼女も跡部に背を向けリビングへと続く廊下を歩いていった。
の私室へと到着すると、跡部はノックもなしにドアを開く。
この家の部屋のドアには、鍵が付いていない。
使用人が部屋を行き来する事の多いこの邸宅では、ドアに鍵をつける事が不便となるのでつけてはいないのだ。
ドアを開けた途端、視界に広がるのはプライベートルーム。
しかし、この部屋の何処にも跡部の花嫁となる娘の姿は無い。
跡部は思わず小首をかしげる。
バスルームにでも行っているのか、それともベッドルームにいるのか。
とりあえず跡部はベッドルームへと向かうことにした。
跡部の足は無駄足にはならなかったようで。
ベッドルームの中央に据えつけられたベッドの上に横たわる娘の姿。
布団はおろか、ブランケットすら掛けずに眠っている彼女の姿を見て、跡部は思わず苦笑。
そんなに眠かったのだろうか。
それにしても、初夏とはいえ雨が降り気温の低いこの時期に、この無防備さはどうだろう。
だからこそ、跡部は思わず苦笑してしまったのだ。
跡部は、そっと足音を立てないようにベッドへと近づいてゆく。
そして、ベッドサイドから、眠り姫の様子を伺う。
いまだ夢の中にいる彼女は、すやすやと寝息をたてている。
背中まで伸びた黒髪が白いシーツに流れるように散り、彼女が身動ぎをしたり寝相を変えたりするとその形を変えた。
薄い水色のワンピース。
その袖やスカートの裾から伸びる、しなやかで柔らかそうな四肢。
初対面の時も感じたが、彼女は美しい容姿をしているのだけれど、18歳だという割りに幾分か若く…いや、あどけなく見える。
眠っているとその傾向が強く現れ、まだまだ彼女は幼い少女のように跡部には思えた。
実際の所、は18歳ではなく、16歳。
高校で言えばまだ2年生位の年齢だ。
幼い少女のようなのではなく、幼い少女なのだ。
とはいえ、跡部がそのような事を知っている訳が無いのだけれど…。
ベッドですやすや眠るは、未だ眼を覚ます気配が無い。
ふと、そんな彼女を見て湧き上がってきた悪戯心。
26の大人だというのに、こういう性分はなかなか治らないらしい。
跡部は自分に対して対抗してくる存在を、男であろうと女であろうと好む傾向にある。
特に、そんな輩をからかってやったりする事が、大好きだった。
目の前に眠る少女は、跡部の一番好む人種に所属している。
だからこそ、悪戯をしてからかってやりたい。
跡部はにやりと笑みを浮かべると、そっとできるだけ音を立てないようにベッドの上へと上った。
キシキシと、跡部が彼女に近づくたびにベッドの軋む音がする。
しかし、相変わらず夢の中の。
跡部はゆっくりとの上に圧し掛かった。
体重を掛けないように片方の手を付いて体を浮かせ、もう片方の手で耳元にかかる彼女の髪の毛を書き上げて耳を露出させてやる。
指先で、一旦の耳をなぞる。
するとがぴくりと身じろぐ。
しかし、眼を覚ます気配は無い。
跡部はその様子に目を細めて笑むと、の後頭部に片手を髪の毛に差し込むように添えて、自分の顔を彼女の耳元へと近づける。
耳たぶに口付けしたり、唇で耳たぶを食んでみたり。
「ん…ぅ…」とが微かに鼻にかかったような吐息を吐く。
彼の行為に反応したのだろうか。
そんなの反応に気をよくした跡部は、ちろりと赤い舌を唇から覗かせ、耳たぶを軽く舐めてみる。
するとが「ぅん…」という悩ましげな吐息で反応した。
彼女の様子がますます気に入った跡部は、耳たぶだけではなく、耳全体をその唇で、舌先で愛撫を始める。
はぁ…と、が甘いと息まで吐くようになってきた。
そして、足をもぞもぞと動かす。
耳を舐めたり食んだり、耳穴に舌を差し込んだりと、そんな悪戯を施したまま、の後頭部に回していた片手を、今度は彼女のすらりとした足に伸ばした。
柔らかな脹脛を軽く撫でて、膝に触れ、今度は太股の裏に指先を這わせる。
するとはくすぐったそうにして、跡部の愛撫から逃れようと足を動かす。
しかし、逃れる事など出来なくて。
跡部はの足に触れるのを指先だけではなく掌全体で触れるようにした。
そして太股の裏から内股まで、ゆっくりと撫で上げるように手を這わせてゆく。
「ぁ…」というの甘い声。
相変わらず耳への愛撫はなされたまま。
だからこそ余計に、彼女は可愛らしく反応を返す。
跡部はゆっくりと、の内股にあった手を彼女の中心へと近づけてゆくのだった。
<コメント>
跡部景吾(26)がセクハラモードに入りました!
寝込みを襲うなんて…。
「シャッチョサン アナタ エッチ スケベネ」って、言われますよ。
フィリピン系あたりの人にさ。
つーか、ウチの跡部はセクハラ魔だね!
表連載でも、えっらいセクハラ魔を披露しとるしね。
うん、ウチのエロ代表は跡部だわ!
んでもって、ウチの忍足はエロでもヘンタイでもなくまとも……。
あれ、なんか私の中でのキャラ設定、おかしくない?! |