命の重さ 3
山々の隙間を抜ける、のどかな公道を2人の若い男が歩いていた。
一人は黒髪で、長めの髪を低い位置で一つに束ねている。
着物姿に少し大きな荷物を背負っており、その風体から
出稼ぎ奉公の青年とわかる。
もう一人は、細いがひょろりと背が高い男で、雨除けのカサを
目深にかぶった行商人だ。
「目的地は一緒なんだから、仲良く歩こ?」
「嫌です」
行商人の言葉を、青年がばっさり切って捨てる様はなんとも爽快だ。
「つれないねぇ。
でもそこがまたイイね、アンタ」
ギクリと身を震わせた青年は、町までの道程を早歩きで進んだ。
その後ろには、行商人が機嫌良さげに歩く。
街道を行き交う人々は、そんな二人を見るとはなしに視界におさめていた。
もちろん二人の正体はカカシとイルカだ。
衣倉に潜入するのがイルカ。
行商人として町で情報を集め、任務を実行するのがカカシ。
町に入ると、イルカは衣倉を目指した。
地図によれば、大通り沿いにある。
この町においての大通りとは、荷馬車3台が余裕で横に並べる幅だ。
当然人通りも多い。
しばらくして、「衣倉」と書かれた立派な看板を掲げた店を見つけ
イルカはつかず離れず後ろを歩くカカシに目配せした。
カカシはイルカだけにわかるように頷く。
「こんなとこまで着いてきたんですか!?」
イルカは目立ちすぎない程度に叫んだ。
「諦めの悪い男なもんで」
口元だけしか見えないカサ越しに、ニヤリと笑う行商人。
周りの者は、二人のやり取りを横目に通り過ぎる。
そして店先での騒ぎに、衣倉の店の者が様子を見に出てきた。
「お前たち、店の前で騒がないで貰おうか」
「あっ、も、申し訳ございません。
私は今日からそちらでお世話になる者です」
イルカは店の男に頭を下げた。
「へぇ。アンタこの店で働くんだ?
また会いに来るから」
カカシはそう言い残し、人混みにまぎれて消えた。
「お前さん、変な男に気に入られたみたいだな…。
まぁ、とりあえず入りな」
唖然とショックを隠しきれないイルカを、男は店の中にただした。
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