命の重さ 5
翌日からイルカは、仕事の合間に情報収集に務めた。
姿を消した者がいるという事が気にかかる。
カカシも引っかかりを覚えたその原因が、どこにあるのだろうか?
まずはそれを探ろうと、イルカは考えた。
染め付け師の男達の話では、記憶にある限りで7・8人は姿を
消しているという。
離れに住み込みで働く者で、一番古参の者が5年目。
4年弱ほどの期間で、8人もの人間が衣倉を逃亡するだろうか?
衣倉はそれほど酷い労働はしいていない。
店で年若い者に聞いた話でも、3人いるという。
古参の者から話を聞ければ、もう少し詳しくわかるかもしれない。
「海比古、ちょっと来なさい」
店の反物を片付けながら、思考をめぐらせていたイルカは
若旦那に呼ばれ、奥の部屋にとおされた。
そこは店の奥、若旦那の個人の部屋のようだ。
畳の上にテーブルを挟み、向かい合わせに座る。
「海比古、夕刻に母屋の東側の丘に行ってください。
あの子に会えるでしょう」
若旦那は淡々とイルカに言った。
細い目が印象的な、整った白い顔が人形のように表情もなく
実の息子を殺める為の手引きをする。
「はい、かしこまりました」
イルカは任務であればこそ、口の中に広がる苦いものを飲み込んだ。
ここはアカデミーではない。
任務だからこそ、子供でも殺める。
「頼みますよ。
それと、何やら探っているようですが、依頼と関係ない事を
されては困りますね」
若旦那の暗い紫の瞳が、冷たい光を放つ。
「任務に必要と判断した事なので、目をつむっていただきます。
我々は依頼主の情報を気軽に口外しませんのでご安心を」
イルカの情報如何で任務の達成は勿論、カカシの生存率も変わるのだ。
譲れないと、イルカは黒い瞳に力を込め見つめ返した。
しばらく、緊張を伴った静寂が続いた。
「譲歩しましょう。
用件は終わりです」
その言葉に、イルカは肩の力を抜いた。
「では失礼します」
イルカは再び店に戻ると、カカシに連絡をとるべく外にでた。
昨日の今日で気まずい気持ちもあるが、任務が優先と歩みを進めた。
イルカは作業場へ行く前に、茶屋に立ち寄った。
カカシとは事前に、ここで情報交換をする約束をしていたのだ。
潜んでいる忍犬が、今頃カカシに知らせてるはずだ。
イルカは茶をすすり、団子を頬張った。
「美味しそうだ〜ね。
俺にも一口」
イルカが持っている串から、団子がひとつ消える。
「…やっぱり甘いな」
小声でぼそりともらすのは、いつもどおりのカカシだった。
「また、あなたですか」
イルカは演技をしつつ、内心ほっとしていた。
「一緒にお茶するくらい、いいじゃないの」
イルカの隣に腰掛けると、カカシは磯部餅と茶を注文した。
「ここいらは物騒だから、一人歩きしない方がいいみたいだよ。
街のオバちゃんたちの話だと、よく神隠しがおこるんだって」
カカシは噂話をはじめた。
情報交換をするために。
「そうなんですか?
怖いですね」
イルカは、カカシのチャクラに反応するよう術を施した紙に、情報を書き記し
何気なくカカシの手に握らせた。
「怖いですよ。
だって衣倉の先代も、その奥さんも神隠しにあってるっていうからね」
カカシは心底心配だと、目で語った。
イルカも肝が冷えた。
「俺、一度やると決めた事はやりとおす性分なんです。
だから店は辞めませんから」
イルカは言い切った。
もしこの任務で命を落とすなら、カカシより自分であるべきだと
そう、イルカは思った。
里の為にも、自分の為にも。
「そういう頑固なとこ、好きだけどね。
今は憎たらしい」
カカシはイルカに、くれぐれも気をつけるよういい含めると
運ばれてきた磯辺焼きを噛み付くように頬張った。
カカシさん、食べ物にあたってる…。
イルカはカカシを横目に、自分の団子を食べ終わったところで茶屋を出た。
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