命の重さ 9
月明かりの中、ユウゲツは目を覚ました。
気を失ってから3刻ほどの時が経っていた。
「海比古さん…ずっとついててくれたんですか?」
ユウゲツはとても嬉しそうな顔をイルカに向けた。
「はい」
「海比古さん?
何故そんな悲しそうな顔をするんですか?」
ユウゲツは力を使って、まだ回復しきれていない重い身体にむち打つ。
だが動いたのは片腕だけだった。
ユウゲツの手が不自然な位置に持ち上がるのを、イルカは両手で包み込んだ。
「ユウゲツ君…あの人は…」
イルカの口からは、震える声が紡がれた。
「…多分、死んでいます。
でも僕は、後悔していません。
海比古さんを守れたから・・・」
ユウゲツは淡々と言い切った。
その表情に、子供らしさはなくなっていた。
「確かに、あの人は悪ふざけの過ぎる人でした。
でもユウゲツ君、人の命の重さは同じです。
・・・本当は、つらいのでしょう?
手にかけた人の重さが、心にのしかかっているのでしょう?」
イルカの言葉が、ユウゲツにしみこむ。
ユウゲツは静かに、涙を流した。
「僕の祖父は、僕より力を使いこなせる人でした。
戦乱の時代だったから、店や家族を守る為にいつの間にか身についたそうです」
ユウゲツはイルカと繋がる手の温もりに励まされ、話をつづけた。
「父には力はありません。
でも僕は……生まれてすぐに、母の右腕を奪いました。
それからは此処で、祖父母に育てられたんです。
この家には力を抑える工夫がされてるから、安心して過ごせました」
でもそんな中、見てしまったのだ。
ユウゲツの祖父が、力をつかい殺めるところを。
「祖父は優しくしてくれました。
でも人を殺める姿に、ショックを受けました。
・・・ある日、祖母が眠る様に亡くなって、祖父は
祖母を抱え込んで…消してしまったんです。
そして僕に笑いかけてから、自分も…消えてしまった……」
ユウゲツの手に、力が加わる。
イルカは取り残された者の痛みを感じた。
ユウゲツの祖父は、自分の世界の人間になったのだ。
ユウゲツを残して。
「僕はもう両手の指の数くらいには、人を消してしまいました…」
ユウゲツは苦しそうに涙を流し続けた。
イルカはただ、手を握り続けた。
やがてユウゲツが再び眠りにつくと、イルカは丘の家をあとにした。
「おかえり。イルカ先生」
自分の部屋に戻ると、すでにカカシがいた。
「カカシさん…」
イルカはカカシの隣に腰を下ろすと、その肩に額を押しつけた。
「イルカ先生…。
そういう時は腕の中においで」
カカシは体をずらして、イルカを包み込む様に抱きしめた。
カカシは本当はこんなにも優しい人なのだと、イルカは深く感じた。
「あんなに感情移入しちゃツライでしょ?
でも、こんなに可愛いイルカ先生が見れるのは、いいかも」
イルカの心が落ち着いたのがわかった様に、カカシは茶化した言動を始めた。
以前なら、またかと呆れたイルカだが、今は・・・。
「俺が可愛いなんて言うのは、カカシ先生くらいです」
イルカは満面の笑みを向けた。
「…そうですよ。
だから早く任務終わらせて、もっと可愛いイルカ先生を見せてね」
一瞬面食らった後、カカシもうっとりする笑顔で切り返した。
「では任務の話をしましょうか」
イルカとカカシは忍の顔に戻り、今後の作戦を話し合った。
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