タケシー大好きビジュ 8キンッ! 甲高い金属音が弾け飛び、直後、断末魔の絶叫が搾り出される。 ビジュの剣が敵兵を両断し、血しぶきが飛ぶ。すでに何人の敵を倒したかわからない。元々ビジュは敵との間合いによって、剣と数々の投具を使い分ける戦法を得意としていたが、もう携帯していた投具の全てが底を尽いてしまっていた。 戦闘が始まった直後こそ優勢だったものの、時間がたつに従って状況は不利になっていった。敵兵の数は減る気配がないのだ。後から後からと現れてくる。 「このままじゃすぐに援軍が来るぞ!」 仲間の一人が敵を切り捨てながら叫ぶ。 武術と召喚術の双方を会得したエリート戦士の部隊といえど、これほど敵が多い戦いでは、悲惨な結果を招いただけだった。 「仕方がねェ……このまま森まで退くぞ!」 すぐさま決断したビジュの叫びに、もはや五人しかいない部隊は戦いながら後退し始めた。 ほとんど遮蔽物のない平原から薄暗い森に後退した事で、追ってきた敵兵もさして時間もかからずに全滅させられた。 しかし、問題はそれで片づいた訳ではなかった。 「俺たちの本隊は――」 仲間のほとんどが全滅に近い状態。しかも指揮官をも失い、本隊との連絡が途絶えてしまったことが、ビジュたちの困惑に拍車を掛けていたのだ。 「なぜ敵部隊がこれほど多く布陣しているのだ?」 仲間の一人が銃を腰に掛けると、顎に手をやって考え深げに呟いた。 「いや、それよりもなぜ俺たちの部隊が一部隊だけ、こんなところに派遣されたのかも問題になるな」 剣を片手にしたもう一人が言う。ビジュは険しい顔で黙り込んでいる。 「どうする、ビジュ?」 もはや一人だけとなってしまった召喚兵がビジュに問いかけた。 「本隊を待つ」 ビジュははっきりと答えた。 「馬鹿馬鹿しい!」 吐き捨てて応じたのは最年長の兵士だった。 「わかっているはずだ!俺たちはただの捨てゴマだったんだ!! 囮だよ、敵を欺くための! ビジュ、それでもおまえは本隊を待つって言うのかよ!?」 そう硬い声で言うや、背を向けた。 「俺たちを使い捨ての道具としか見ない帝国にも軍にも何の未練もないっ!」 「待ちやがれッ!」 ビジュの叫びを振り払うように、男は歩き出していた。 「待っていても本隊は来ないぞっ!」 肩越しに叫ぶと、男はそのまま戦場を去っていった。 沈黙が四人に訪れる。 「そうだな……俺たちは見捨てられたんだ……」 召喚兵が呻くようにそう呟くと、誰もが言葉を口にすることはできなくなっていた。 長い沈黙を破ったのはビジュだった。 「……それでも……俺は残って戦うぜ」 「……ビジュ……」 ビジュの眼を見て三人は驚いた顔をした。 「理屈でもない。もう国のためなんかでもない。もちろん正義のためでもない。ただ残らねェとなって手前が思うから、残ることを選んだだけだ。誰のためにでもない、自分のために……」 三人がビジュを眼をみつめた。普段あまり真面目とは言えない、この男のこれほど真剣な眼を初めてみたのだ。 「……守りたいからな」 守るべき国から見放されているとしても、それでもビジュには守りたいものがあった。 「……そうか。ならば俺は止めん。何も言うことはない。」 切先についた血を払い飛ばし、仲間の一人がビジュを見つめる。 「……俺も残ろう」 そう笑みを浮べてはっきりと言う相手に、ビジュは驚きの表情を浮べた。 「お前はどうする?」 そう言って男はもう一人に目をやった。 一瞬目を伏せたその男は決まり悪そうな笑みを浮べた後、口を開いた。 「弾はもう残り少ない。……しっかりとサポートしてもらうぞ」 ため息をこぼしながら、男は再び銃を構えて、弾薬を込め始めた。 「俺はビジュと一緒だぜ」 ビジュの肩を叩いて召喚兵が問われるより先に答える。 苦笑いを浮べて、ビジュは仲間たちに問いかける。 「みんな……いいのかよ?」 「これが俺たちの選んだ道だ」 仲間の答えにビジュは黙って頷いた。 四人の意志は一つだった。 こんなはずではなかった――。 ビジュの頬のイレズミが痛んだ。 目の前のアティとベルフラウの行為をビジュは見続けていたが、ついに己の暗い欲望が満たされることはなかった。それどころか不快感が増していくだけだった。アティをより苦しめるための指示が、ベルフラウの思わぬ行動によって覆された。 アティの心に再び力強さが戻っていくのがビジュにはわかった。 「……ちっ!」 ビジュがアティに執拗に拘るのはそれにあった。初めてアティを船内で見かけたときから、その存在をビジュは確かに感じていた。自分でも気がつかぬ間に……。 だからこそ、あのときビジュは見ず知らずの他人であったアティに、思わず声を掛けてしまっていたのだ。 アティの心に秘められた力強い輝き――。 それが何であるのか、ビジュはわからない。 それは過去に無くしてしまった、忘れ去ってしまったものだった。故にアティの輝きはビジュの頬の古傷にどうしようもなく触れてくるのだ。 どうしても認められなかった。 何としてでもその心を粉々にしてやりたくなるのだ。 つづく 前へ | 目次 | 次へ |
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