4. 倖せないたみ


いつものように美術室で絵を描いていると、パタパタと廊下を走ってくる音がした。
勢いよくドアが開けられ、室内に少年が入ってくる。

「差し入れ持ってきたぜ!」

少年の手に握られているのは、学校の近くにあるコンビニの袋だった。
中にはジュースや菓子パン類が入っている。
放課後、遅くまで僕が美術室に残っていることを知った少年は、ちょくちょくこうやって差し入れとして食べ物を持ってくるようになっていた。
嬉しいのだけど、このままだと太ってしまいそうだ。
そう言って笑うと、少年に頭を小突かれてしまった。

「馬鹿、お前は逆に痩せすぎなんだよ。もっと食って、ぶくぶく太れ」
「それは嫌だよぉ〜」

中学三年生も後半を迎えており、この頃になると、僕たちはすっかり打ち解けていた。
そのくせ名前は知らないのだけれど。

「あ〜、直に受験だなぁ。志望校どこにした?」
「……専門学校に行こうと思ってるんだ」
「絵のか?」
「うん」

頷きながらも、キャンバスに着色をしていく。
油絵の具のため臭いがキツイが、少年は気にしないようだ。
美味しそうに菓子パンを頬張っている。

「君は、どこへ行くの……?」
「……ん、両親が仕事の都合で他県に行くもんでさ」

筆の動きを止める。
他県に両親が行く……?
じゃあ、それに彼も着いていってしまうのだろうか。
視線を向けると、彼は困ったように微笑んでいた。

「……まぁ、でも仕方ないよな。住み慣れた土地を離れるってのは寂しいけど、そこでも新しい友達が出来るだろうし」
「……そ、うだね。君ならきっと、早く馴染めるだろうね」

新しい友達という言葉に、胸がチクリと痛んだ。
そっか、そうだよね。
友達……か。

「どうかしたのか?」
「ううん、何でもない」

何だろう、胸がざわつく。
友達、友達、友達。
その中に、僕も含まれているのかな。



含まれて、しまっているのだろうか……。




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