3. 脱☆童貞宣言


今まで味わったことのない、大きな解放感だった。
普段自慰をしてもなかなか達することの出来ない俺が、こうも簡単にイカされることになるだなんて思わなかった。

「はぁ、は……祐介……」

吐息混じりに名前を呼ぶと、祐介がキスをしてくれた。
何度も角度を変えて口付けを交わしながら、彼は俺のことをぎゅっと強く抱きしめた。
祐介の逞しい腕に抱かれながら、疲れに重たくなった瞼を閉じる。
心地良い眠気に身を任そうとしたとき、祐介が囁いた。

「さ、ウォーミングアップはこれで終了だ。そろそろ次の段階に移らせてもらうぞ」
「え……?」

目をパチクリとさせながら祐介の顔を見る。
ウォーミングアップって?
次の段階って?
あれ、もしかしなくてもこれで終わる気は全然ない……!?

「まさかこのままお開きになるとでも思ってたわけ? そんなわけがないだろ。まだ本番してないし」
「えっ、だ……で、でも……!」

すっごく気持ち良くって、今のだけでもう十分なくらいなのに…。
それが、ウォーミングアップだったわけ!?
たかだかウォーミングアップであれだけ気持ち良かったということは、挿入なんてされたときには…。

「む、無理! 無理だよ祐介!」
「無理じゃないさ。ちゃんと解せば入るだろうし……」
「そうじゃなくって! い……今までのが祐介にとっての軽い準備運動みたいなものだったんでしょ? 俺、それだけでもいっぱいいっぱいなのに、これ以上気持ち良いことされたら、絶対変になっちゃうっ!」

必死に訴えると、祐介が優しげに微笑んでくれた。
そのくせ言うことは、悪魔みたいに意地悪なことだった。

「その変になった純を、俺は見てみたいんだけどな」
「ぜ、絶対嫌だ!」
「大丈夫、純が感じて変になっちゃっても、ちゃんと俺が見ててあげる。それで、後からそのときのことを詳しく教えてあげるから」

何も大丈夫じゃない……!
彼の下から逃げ出そうとするものの、手首を上から押さえつけられてしまうとどうしようもない。

「純、無駄な抵抗はしないほうがいい。気持ち良くしてあげるから……」
「だからそれが嫌なんだって……ぁっ」

祐介の指が内股を撫で、唇から吐息が漏れた。

「ゆ、ゆう……すけ」
「……純」

顔を見られながら改めて名前を呼ばれると、何だか気恥ずかしい。
祐介は俺の顔にキスの雨を降らせながら、指を後孔に触れさせた。
それから、ツプっと差し入れてきた。

「やっ、き……汚い!」
「汚くないよ。それより、さっき純が出したもので指を濡らしてあるから、痛くはないよね?」
「い、痛くないけど……でも……っ」

気持ち悪い……!



―――そう思うのが、普通なのだろうけど。



「あっ、や……祐介、指抜いて……!」
「なか、濡れてるな……指に吸い付いてくる」
「やあぁっ……!」

指が挿入されていくにつれて、指の数が増やされるにつれて、違和感だとか、そういったものとは違う感覚が芽生えたんだ。
俺は無意識のうちに祐介の背に腕を回し、彼の体にしがみついていた。
……何だろう、これ。
そんなところに指を入れられたりして絶対に気持ち悪いはずなのに、気持ち悪くない…。
そればかりか中がひくんひくんと蠢いて、彼の指を待ち望んでいるようにも思える。

「んっ、や……なに、これぇ……?」

三本の指を根元まで受け入れたところで、祐介が指を動かしだした。
中を掻き回すように、それぞれの指が動く。
先程の「濡れている」という彼の表現は正しかったようで、指が動くたびにクチュンと小さな音がした。

「あぁっ、あっ……ぁあん……!」

気持ち良くなるはずがないのに、体がどんどん白熱していくのが手に取るように分かる。
息が苦しくて何度も浅く短い呼吸を繰り返していると、彼の指先が、ある箇所を引っかいた。
その直後、全身にビリッと強い電気のような快感が走り抜けた。

「っあ、あああッ!?」

目を見開いて、祐介の背に思い切りしがみつく。
目の前が一瞬だけ白く点滅したかと思うと、腹部に生温かい滑りを感じた。
おそるおそる視線を下ろせば、腹の窪みに白濁の池が出来上がっていた。

「う、嘘……」
「純、お前……イッちゃったのか?」

これにはさすがに祐介も驚いたようだった。
確かに一度達したことで感じやすくなっているのは分かっていたものの、こんなにも呆気なく二度目の精を吐き出すことになるだなんて思ってもみなかった。
恥ずかしさがこみ上げてきて、顔が耳まで紅潮していく。

「……ふぇ……」

じんわりと、目尻に涙が浮かぶ。
後ろに指を入れられて感じるだけならまだしも、それだけで達しちゃうなんて…!
ぷるぷると体を震わせて羞恥に耐える俺を見て、祐介がくすっと笑った。

「な、な…何笑ってるんだよ!」
「いや、本当…可愛い反応するなって思って。純は感じやすいみたいだな。これは…愉しめそうだよ、すごく」

祐介は指を俺の中から引き抜くと、後孔に自身をあてがってきた。
その熱さに身を震わすと、頬を撫でてくれた。

「最初はちょっと痛むかもしれないけど、息……止めちゃ駄目だからな」
「え……ぁ……ッ!」

グッと、中に祐介が入り込んできた。
それは指とは全く違う熱と質量で、強烈な圧迫感を与えてきた。

「んっ、んぅ……!」

ちゃんと解したにも関わらず訪れた引き裂けそうな痛みに、眦から涙が零れた。
頬をポロポロと伝っていく涙の粒を、祐介は一度動きを止めると、唇で優しく吸い取ってくれた。

「やっぱり、狭いな……。初めてっていうだけはあるよ」

そう言って微笑む祐介もどことなく辛そうで、狭いと挿入する側もキツイのだということに気がついた。
痛みを感じてるのは、俺だけじゃないんだ……。
それなのに俺だけこうやって涙を流したりして……情けない。
俺は痛みに震える唇で、祐介の名前を呼んだ。
すると彼は、すぐに微笑み返してくれた。
辛くても決して俺への配慮を忘れないその優しさが、嬉しかった。

「ゆ……すけ……」
「純、もう少し我慢してくれよ」
「うん……あぁあッ!!」

頷くと、一気に祐介が押し入ってきた。
未開発の肉壁を、ギチギチと音を立てて祐介自身が開拓していく。
全てを突き入れたところで、彼の動きが止まった。

「はぁ、はっ……ぁ……終わった……?」
「ああ。よく、我慢出来たな」
「出来るよ。だって辛いの、俺だけじゃないから……」

微笑んで、祐介へと抱きつく。
先程までのしがみつくようなものとは違う、優しい抱擁だった。
祐介は驚いたのかしばらく目を大きく広げて固まっていたが、柔らかく微笑んで、抱きしめ返してくれた。
触れ合う肌が、温かくて気持ち良い…。

「……純、動くけど……」
「いいよ。動いて、祐介……?」

軽いキスを交わしながら、互いにゆっくりと腰を動かしていく。
中を、熱を孕んだ祐介自身が擦っていく。
それは痛みとは違う、強い快楽を含んだ行為だった。

「ぁ、あっ……ぁあっ……」
「可愛いよ、純……」
「ひぁっ、あっ……ゆう、すけぇ……ッ」

さっきまであんなにも痛かったのに、それはいつの間にか消え失せていた。
ただ、今はひたすらに気持ち良くって。

「んぁっ、あっ、祐介、祐介ぇ……っ!」

ガクガクと体を揺すられれば、俺にはもう、彼の名前を繰り返し呼ぶことくらいしか出来なかった。
閉じた瞼から、快楽によって溢れた涙が耳の横を伝い落ちていく。
痛みに萎縮していたはずの俺自身は、とっくに天井を向いて先端から白みがかった蜜を零していた。
祐介はそんな俺自身を掌で包み込み、優しく擦りながら、奥を突き上げてきた。

「ぁあっ、あッ……ゆっ……ぁあんっ!」
「純、本当に可愛いよ……」
「あぁっ、祐介……もっと、そこ……っ!」

ギリギリまで引き抜かれては奥まで突き入れられ、その度にシーツから腰を浮かす。
すると余計に祐介が奥に入り込んできて、さらに快感が強くなった。
気持ち良すぎて、もう、何が何だか分からない。
ただ、互いに快楽を貪るように腰を動かし続ける。

「ひぁっ、ああ……も……あああっ!」
「くっ…」

唇から零れ出る声が、次第に切羽詰ったものへと変わってくる。
体の熱が、最高潮に達したとき。

「純、いくぞ……ッ」
「あっ、んぁああッ!!」

容赦なく突き上げられ、視界が真っ白な光に包まれた。
ドピュッと勢いよく、三度目の精が吐き出される。
それとほぼ同時に、中に熱い液体が放たれた。
祐介も、達したのだ。

「あ……ぁ……」

白かったはずの世界が、少しずつ、色を失っていく。
暗転していく視界の中、耳元で祐介が囁いた。

「……純、また抱かせてもらえるか?」



その言葉に、無意識のうちに頷いてしまっている俺がいた。




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