5. 脱☆童貞宣言
勇気を振り絞って再び風俗店に行き、受付で祐介を指名した。
受付嬢の心境として、男が男を指名するのを見るのはどうなんだろうな。
少しだけ引きつったように見える女性従業員の笑顔を見つめながら、俺は苦笑した。
鍵を開けて、部屋の中へと入る。
初めて祐介と抱き合ったときに使った部屋と同じ部屋だった。
ベッドへと寝転んで、瞼を閉じる。
あのときの温もりは決して残っていないけれど、それでもこうしていると、彼の温もりが感じられるような気がした。
コンコン、とノックの音がした。
慌てて上半身を起こすと、ドアから祐介の顔が覗いた。
その顔はやっぱり、息を呑むほど綺麗に整ったものだった。
少し前に見たときと、何ら変わらない美しさ…。
同性として複雑な気持ちで見つめていると、祐介の表情が和らいだ。
それによって、彼がずっと強張った表情をしていたことに気がついた。
祐介は柔和な笑みを浮かべたまま俺へと近づいてきた。
ベッドの上で身体を硬くすると、それが伝わってしまったのか、彼が小さく吹き出した。
「わ、笑うなよ……っ」
「ごめん、ごめん。……久しぶりだな、純」
うわ、名前覚えててくれたんだ……。
それがやけに嬉しくて、思わず涙が出そうになった。
どんだけ感動しているんだろう、俺。
自分に呆れていると、ベッドに祐介が腰掛けた。
「さっき、純が来たって聞いて不安だったんだ。怒ってるんじゃないかって。でも……杞憂だったみたいで安心した」
……それで、硬い表情をしていたのか。
手を伸ばせばすぐにでも触れられる距離にある祐介の顔をじっと見つめる。
彼は笑みを浮かべたまま、スラリとした長く細い指で俺の頬を撫でた。
「……でも本当、来てくれて良かったよ。もう来てくれないかと思ってたから」
来てくれて……良かった?
祐介は俺に来て欲しかったのか……?
「どうして?」
「え?」
「どうして、来てくれて良かったなんだ……? 俺なんかに会いたかったのか? それって、常連客が増えたら売り上げが上がるからか……?」
質問してみたものの、祐介は曖昧に微笑むだけで答えてはくれなかった。
はぐらかされたことにムッとしていると、祐介が口付けをしてきた。
触れ合った唇は熱く、舌はそれを上回る程の熱を孕んでいた。
「んっ、ふ……っぁ」
話したいことや言わなければならないことはたくさんあるはずだった。
だというのに、キスひとつでそのこと全てがひどくどうでもよく感じられた。
甘い吐息とともに唇を離した頃には、俺は祐介に組み敷かれていた。
「続き……したっていいだろ?」
「ぁ……」
俺が答える前に、祐介の手が服の中に滑り込んできた。
ぞくりとした痺れに、シーツを握り締める。
この痺れが寒いのではなく快感によるものなのだということを、先日、嫌というほど実感させられていた。
だからこそ、怖かった。
肌を直に軽く撫でられただけで、こんなにも反応してしまうなんて。
「はっ……ぁ……」
いつの間にか尖っている乳首を摘まれ、そしてそのまま舌先で舐られて声が漏れた。
やけに甘く濡れた声だと自分でも分かった。
身体が、期待してしまっているんだ。
この後、どういった類のモノを与えられるのかを知っているから。
その証拠に、ズボンの前はテント張りになり、秘孔はひくひくと収縮していた。
自分のあまりの浅ましさに涙が零れた。
「……純、どうかしたのか?」
「だって……身体、変……になったから……ッ」
初めてのときには、これだけでこんなにはならなかったのに。
嫌で嫌で堪らなかったはずなのに。
「祐介の、せい……だ。あのとき、俺のこと抱いたから……」
だから、我慢出来なくなってしまったんだ。
こんな風に、もっと触ってほしいだとか、ましてや挿れてほしいだなんて思わなかったのに。
霞んだ視界のまま祐介を睨みつける。
彼は俺の髪を撫でていた手の動きを止めると、小さく微笑んだ。
「俺のせい……か。それ、すごく嬉しい言葉だよ」
「は……? ど、どこがっ。責められてるんだぞ……ッ」
「だって純の身体がますますエッチになっちゃったんだろ? 他の誰でもない、俺のせいで。それは純が他の人間に触れられていないってことだろうし……。それに純に影響を与えられたんだって考えると、やっぱり嬉しい」
批判的な視線を向ける俺とはあまりにも対照的な、穏やかな眼差しを彼は向けてきていた。
その眼差しに、体温が上昇する。
祐介は絶対に感覚が可笑しい。
そしてそんな彼に対して鼓動を早めている俺も……どこか可笑しいのだろう。
祐介はどこからどう見ても、男だというのに。
「純がどう考えているのかは分からないけど、感じることは変なことじゃないからな」
「……え?」
「男だって女だって、誰だって触れられたら感じる。生理現象とでもいうのかな。だからそれを否定する必要はない」
触れられて感じることが、生理現象。
男女関係なく起こること。
なら、男同士で感じてしまっても、それは可笑しいことじゃないのか…?
そうなってしまうのは、仕方がないことなのか?
「じゃあ、祐介に触ってほしいって思うのも……。心臓がドキドキするのも、全部生理現象なのか?」
「……今は、そう思っててくれればいいよ」
祐介は俺のことをぎゅっと抱きしめた。
洋服越しにでも感じる彼の温もりに、心も身体も温められていく。
「俺は全部の感覚を使って、純の全てを感じる。だから純も、素直に俺のことを感じてくれ…」
「全部の感覚を使って……祐介の、全てを?」
「そう。もちろん、恥ずかしがる必要はないからな」
頭の中で、彼の言葉を反芻する。
男同士だけど触れられて快楽を得てしまうことや、鼓動が早まるのは……決して可笑しいことなんかじゃない。
だから、あるがままを受け入れて、祐介の全てを感じればいい……。
「……分かった。じゃあ俺は、可笑しくないんだよな?」
「ああ。純は可笑しくなってなんかない。それが…普通なんだから」
そう考えると、何だか心が軽くなった気がした。
陰鬱だった気分が晴れていく。
……何も悩む必要はなかったんだ。
こうなってしまうことは誰でも起こりうることなんだから。