13. 義務と意思の狭間にて
「…ふぁ、あ…っ…あん…」
ビニールテープによって性器に取り付けられたローターが、ゆるやかな振動と共に甘い痺れを与えてくる。
確かに気持ち良いものの、この程度の刺激ではイクことは出来ない。
「はぁ…社長、許してぇ……」
三十分以上この状態で焦らされている僕は、社長に懇願した。
両足は枷で拘束されて開かれているため、みっともなく脚を広げて股間を晒す格好となっている。
社長は服を着たまま僕を見つめてくるので、裸で脚を広げていることが余計に恥ずかしく思える。
「んぁぁあ、社長…」
弱々しく呼ぶものの、社長が動いてくれる気配はない。
下半身は絶頂を求めて切なげにピクピクと動く。
先端からは絶え間なく透明な液が溢れていた。
「そんなに触ってほしい?」
その問いにコクリと頷く。
焦らされた僕の身体は社長を求めて仕方なかった。
「じゃあ、きちんとお願いするんだ」
「…あ、社長…お願い、しま…す。僕の、触って下さい…」
そう言って腰を揺らめかす僕に社長は笑って、それから腹にまで反り返っている性器を握った。
「あうんっ!」
温かく弾力のある手に包み込まれ、この上ない快感が身体に走る。
社長は軽く僕の性器を扱く。
焦らされた身体にその刺激は強くて、すぐに絶頂を迎えそうになる。
けれど果てるその直前に、社長は手を止めてしまった。
「あん…社長…?」
「まだイカせてあげない」
「え、何で…だって、さっき」
「僕は一言も、お願いしたらイカせてあげるだなんて言った覚えはないけど?」
そう言われて僕は唇を噛み締めた。
恥ずかしさを我慢して言ったのに、そんなのってない。
悔しさと恥ずかしさに社長を睨むように見ると、社長は僕を後に向かせて尻を叩いた。
「イッタァアッ!?」
乾いた音と共に尻に走る痛みに跳ね上がる。
「何、その反抗的な目は? 当然だろう、これはお仕置きなんだから。そう簡単にはイカせてはあげない」
そう言って社長は再び手を振り上げた。
「いやぁああっ!」
白い尻に赤く手のひらの跡がつく。
痛みに涙が出て、僕は嗚咽をかみ殺すことに必死だった。
「鞭で叩かれるよりかはマシだろう? それとも、鞭の方が良かったかな?」
「いや、いい! 手でいいです…ッ」
そう言った直後、バシィッと音が鳴った。
「あふぅ…っ」
ズキズキとした痛みが尻から伝わってくる。
だというのに取り付けられたローターからは甘い刺激が与えられるため、下半身は痛みに萎えることなく勃ち上がったままだ。
「ああ…でも、葵くんが嫌がることをした方が、お仕置きになるよね…?」
そう言って社長は僕から離れた。
嫌な予感がして、尻に力を込める。
途端に与えられた激痛に悶絶した。
「ッぁああ!!」
手のひらで叩かれるのとは全く違う、強烈な痛み。
何度も何度も鞭を振り下ろされ、その度に悲鳴を上げる。
「やめてぇぇっ」
「嫌がれば嫌がるほど、お仕置きのしがいがあるよね」
そう言って振り下ろされる鞭。
「いったぁあっ!!」
痛みにビクンッと身体を痙攣させる。
痛くて嫌でたまらなかったが、嫌がれば嫌がるほどお仕置きのしがいがあると言うのなら、嫌がっちゃ駄目だ…っ。
再び鞭が振り下ろされる。
「イタァァイッ!! あぁぁ、やめ…っ…やめないでぇっ。もっと、もっと虐めてぇ…っ!」
やめてと言いそうになり、言い直す。
嫌がったら相手の思うツボなのだ。
僕は腰を振って社長を誘った。
鞭を打たれて悦ぶフリをする僕を見て、社長は首を傾げた。
「…マゾなの、葵くんって?」
「ちが…っ、だって社長が…ひあんっ!」
容赦なく振り下ろされる鞭に再び声を上げて身体を跳ね上がらせる。
話が違う。
嫌がらなきゃお仕置きの意味はないんじゃないの…!?
バシッと一層大きな音が鳴る。
今まで以上の痛みが襲って、僕は目を見開いた。
「あああ、嫌だぁぁッ!!痛い、痛いよぉっ」
形振りかまわずに泣き叫ぶと、振り下ろされる鞭が止まった。
社長は床に鞭を置くと、僕の尻を撫でた。
「葵くんは、自分がどうしてこんなことをされているのか言える?」
「…ひぐっ、あ…僕、が…時間、守らなかったからぁ」
「そう。約束はきちんと守らないとね?」
「はい。守ります!…だか、らぁっ」
社長は泣きじゃくる僕を抱き起こすと、額にキスを落とした。
「葵くん、もう二度と身体を売るみたいなこと、しちゃダメだよ?」
優しげな社長の声に僕はコクコクと何度も頷いた。
「なら、許してあげる」
社長の言葉にほっとして、安堵から涙が出た。
「泣き顔も可愛いね…」
社長はそう言うと、リズミカルに僕の下半身を擦った。
「あ、ぅん…んっ! ぁあああッ」
焦らされていた僕はいとも容易く達してしまい、床と社長の手を濡らした。
僕は社長に抱きつきたくて仕方がなかったが、ネクタイで縛られているためにそれが出来ない。
「はぁ…はっ…社長、これ…解いてぇ」
「ああ、そうだね。今取ってあげるから」
社長は僕の足枷とネクタイを解いた。
僕は解かれたと同時に、社長の胸へと飛び込んだ。
社長の身体に腕を回し、キツク抱きしめる。
「ごめん、なさい…っ」
「もういいよ。ただ、約束はちゃんと守らなきゃダメだよ?」
「はい…社長」
社長は僕の顔を上げさせると唇を重ねた。
幾度も幾度も角度を変えて行われる情熱的なキスは、僕の身体と心を掻き乱していく。
男の人にキスをされているというのに、全く嫌じゃない。
それどころか気持ちよくて、自ら舌を絡ましてさえいる。
その事実に気がつき、今更ながら、僕は社長が好きなのだと気がついた。
唇から漏れてくる、クチュクチュという水音。
それに耳まで犯されながら、僕は必死で社長に抱きついていた。
社長を手放したくない。その一心だった。
「はぁ…ん、社長…」
「葵くん、どうしてほしい…?」
「社長の、ください…」
うっとりとしたように言うと、社長は僕の後孔に指を挿し入れた。
「あん…」
ぐちゅぐちゅと音を立てて掻き回されれば、快感に涙が溢れ出る。
「ここ、秋月社長に弄られたの?」
「弄られてない、です…」
「本当に?」
社長は確かめるように掻き回した。
その度にビクビクと反応してしまう。
「挿れられては、ないんだね…?」
「あ…ローターは…その」
社長は僕に張り付いているローターをピリピリと音を立てて外すと、後孔へと挿しいれてきた。
「ふ、ぁ…っ!」
一番感じる場所でローターはブルブルと振動する。
その甘い快楽に身を委ねていると、社長はローターを引き抜き始めた。
「あぅん…抜かないでぇ…っ」
社長はローターを出そうで出ないギリギリのところで止めると、僕の顔を覗き込んできた。
「秋月社長にも、こんな風にローターによがるところを見せたの?」
「ん…しら、ない…っ」
ゆっくりとローターの抽挿を繰り返され、僕はその度に腰をゆらゆらと動かす。
「許せないな。こんなに可愛いところを他人に見せるなんて…」
「ああぁ…ん、社長…」
ひどくもどかしくて、僕は社長を求めて腕を伸ばした。
「…欲しいのぉ」
甘えるように言うと、社長は苦笑した。
「誰にでもそんなこと言うの?」
「ちが…う…。社長、だけぇ…っ」
そう言って僕は社長にキスをした。
舌を差し入れるとすぐに社長は絡め返してくれた。
「ん、ふぅ…ぁ」
「…僕に対してだけ、葵くんはそんなに淫乱になっちゃうの?」
そう言いつつ後孔に当てがわれた熱が何か悟り、次に与えられるであろう快感に身体が悦びを上げる。
「社長…おねがぁいっ」
僕は目をギュッと閉じて社長に抱きついた。
熱い塊が、勢いよく挿入される。
僕は社長の腰に脚を絡めた。
「あぁ、あんんっ!」
頭を振りながら無我夢中で腰を振る。
激しく動けば動くほど水音は増し、身体だけでなく耳まで犯されていく。
「あああ、社長、社長…ッ」
あまりの快感に苦しささえ覚える。
僕は何度も社長を呼んだ。
「あん、ぁっ…好き…大好き、社長ッ」
無意識に社長に思いを告げ、僕は社長の身体に回している腕に力を込めた。
「…愛してるよ、葵くん…っ」
最奥を突かれ、僕は高く甘い声を上げた。
「ふぁあああんっ、あああ、も…っ…イクぅぅっ!」
孔がキュウッと窄まるのが自分でも分かった。
社長のものが、中で大きくなる。
「んぁあああ…あああっ!!」
甘い快楽の渦に落ちた僕は、そのまま白く染まっていく世界に身を委ねた。