2. 義務と意思の狭間にて
「じゃあ、まずズボンと下着を脱いで…」
社長室でズボンを脱ぐだなんて考えられない行為だ。
けれど社長の僕を見つめる瞳には有無を言わせぬ何かがあり、僕は渋々ベルトに手をかけた。
カシャンと音がして、ベルトが床に落ちる。
続いてズボンを床へと下ろし、そして手を止める。
下着にかけた手は震えていて、とてもではないが下ろすことは出来なかった。
社長の見つめてくる瞳が僕の羞恥心を余計に高めさせていく。
恥ずかしい。見ないでほしい。
嫌だ。脱ぎたくない…っ。
そんな思いが頭の中を駆け巡る。
そのままの状態で、時間が刻々と過ぎていく。
社長は椅子に座ったまま、じっとこちらを見ているだけだ。
せめて視線を外してくれたのなら、もっと脱ぎやすいのに。
「葵くん、早くしないと日が暮れちゃうよ?」
さすがに痺れを切らしたのか、社長は机に頬杖をついた。
それでも視線は僕に向けられたままだ。
僕は息を吐き出し、手を動かした。
吐き出した息はやけに震えており、体は熱帯びていた。
パサリと音がして完全に下げられた下着。
この状況下での唯一の救いは、上を着ているということか。
そのおかげで僕の下半身は社長に晒されることがないのだから。
「うん、じゃあ…さっそくだけど始めようか」
そう言って微笑む社長の顔は、どこか楽しそうに見えた。
僕を今まで社長が座っていた椅子に座らせると、社長はそっと脚に触れてきた。
社長の手の感触に、小さく体が跳ねる。
社長は「こんなことじゃ先が思いやられるよ?」と言って笑った。
それから僕の瞳をじっと見つめて、優しく囁くように言った。
「脚、開いて…」
けれど確実な、それは命令だった。
僕は迷った末、ゆっくりと脚を開いた。
こうなったら、もうやるしかないのだから。
僕が脚を開いた瞬間、社長が息を呑んだのが分かった。
社長だって、男のこんなところなど見たくないのだろう。
僕はキツク瞼を閉じた。
恥ずかしさに死にそうだった。消えてしまいたい。
しばらく経ったものの一向に社長が動く気配がないので、僕はおそるおそる閉じていた瞼を開いた。
途端、社長と目が合って心臓が跳ねた。
もしかして、ずっと顔を見られていた…!?
「…顔、真っ赤だね」
「あ、たりまえ…じゃないですかっ」
笑いながら言う社長を軽く睨むようにして見る。
失礼ではないのかとか、考えられるような状況ではなかった。
「そんなに恥ずかしい?」
「恥ずかしいに決まってます…。こんなとこ他人に見せるの、初めてですから」
僕の言葉に社長は目を丸くした。
「え、もしかして女の子を抱いたこともないの!?」
「っ……!」
確かに二十三歳にもなって童貞というのは恥ずかしい。
そう訊いてくるくらいだから、年の近い社長もとっくに童貞を卒業しているのだろう。
無言を肯定と取ったのか、社長は息を長く深く吐き出した。
「しゃ、社長?」
「これはますます優しくしないと駄目かな…。でも安心していいよ、葵くん。君も今日でHの体験者だ!」
…バイブを使っての初体験か…。
しかも社長室で男相手に。
社長の言葉に安心出来るわけがなく、かえって不安になってしまう。
そんな僕の頬を優しく撫でると、社長は微笑んだ。
その微笑みはやけに甘く切なく感じた。
「ちゃんと、気持ちよくしてあげるからね…」
「…お、お願い…します」
消え入りそうな声でそう言った。
大丈夫…耐えれる。
僕は唇を噛み締め、社長を見つめた。
社長はこちらを見ながら、恥ずかしさに縮こまっていた僕の性器を掴み、揉みだした。
「ん…っ、しゃ…ちょう!?」
他人に触られることなどなかった僕は、それだけの行為がひどく恐ろしく思えた。
嫌なはずなのに社長の指が動くたびに、自身が脈打って熱を帯びていくのが分かったから。
「ど、して…っ」
「バイブっていうのは、Hなことをし始めてすぐには挿入はしないと思うんだよね。ある程度体が火照ってから…濡れてからじゃないと、やっぱり痛いからさ。このバイブの性能をきちんと確かめるには、これを購入して使う人の体と限りなく近い状態にしないと駄目だと思うから」
社長はにっこりと微笑みながらも、僕を指で攻め立ててくる。
「だから葵くんには、一回イってもらうよ」
「あぁ…っ!?」
親指の腹で亀頭を強く擦られると、そこから甘い痺れが体全体へと伝わっていく。
「あ、はぁ…っ」
僕は目を閉じ、肘掛に体を預けた。
なんだか息苦しい。
けれど社長はそんな僕にお構いなしに指を動かす。
「すごいね、葵くん…もうこんなになってる」
社長の言葉におそるおそる瞼を開けて自分の下半身を見て、目を見張った。
僕のそこはいつのまにか大きく勃っており、先端からは透明な液がトロトロと溢れ出していた。
それを社長は指で掬い取ると、僕の顔の前に指を掲げた。
糸を引くそれは光を反射して白く光っており、僕の羞恥心を煽る。
「可愛いね…恥ずかしいんだ?」
「も…黙って下さい…ッ! 早く、続きして下さいよ…っ」
さっさと終わらしてほしい。
その思いで言うと、社長は目を丸くした。
「我慢できないほど感じちゃってるの?」
「ちが…ッ、あんっ!?」
下半身に湿った温かいものが触れる。
見れば、社長は僕の性器を舌で舐めていた。
裏筋を舌先でチロチロと舐められると、そこに血液が集中していくのが分かる。
「あ、ふぁ…」
手で扱かれるのとは全く違う粘膜の感触は、腰がとろけてしまいそうなほど刺激的だった。
唇から漏れる声は自分のものとは思えないほどに、甘くて甲高いものだった。
社長は次から次へと溢れてくる先走りの液をチュッと甘く吸った。
「ひぁっ!」
痺れるような鋭い快感に、体をビクンッと跳ねさした。
「…葵くんって敏感だね。声、可愛いよ」
「っ…!」
社長は僕の顔を眺めながら、舌を尖らして先端の窪みをクリクリと刺激する。
歯を食いしばって喘ぎを押さえながらその快感に耐えると、社長は「強情だね」と言って、僕の性器をスッポリと口に含んで強く吸った。
その搾られるような強い快感に、僕は仰け反って上を向いた。
ドクンッと大きく自身が脈打ったかと思うと、僕は社長の口内に白濁を吐き出してしまっていた。
「はぁ…は、社長…すみま、せん…っ」
社長の唇と僕の下半身を繋ぐ糸を見て、顔がカァッ熱くなった。
「いいんだよ、僕が君をイカせたわけだしね。さぁ、葵くん。後ろを向いてくれるかな」
「ん…」
体中の力が抜けた僕は椅子を支えにして後ろを向いた。
直後、ふぅっと尻の割れ目に息をかけられた。
「ぁ…っ!? しゃ、社長!?」
「いくよ、葵くん」
社長は僕の尻を掴むと、割れ目にそっと舌を這わせた。
「や…ッ」
唾液を馴染ませるように丹念に入り口を舐められ、僕は恥ずかしさに椅子に顔をうずめた。
「そんなとこ…舐めないで下さい…っ」
それでも社長は舐めるのをやめず、それどころか指を後孔につぷっと挿し入れてきた。
ゆっくりゆっくりと入ってくる、その異物感と排泄感に吐きそうだった。
「ゆっくり挿れてるから、痛くはないよね?」
「ぁ…んん、でも気持ち悪いですっ」
「じきに良くなるから…」
社長はそう言うと中に入れている指を曲げ、内部を刺激した。
圧迫感に耐えていると、社長の指がある一点に触れた。
その瞬間、体に電撃が走った。
「ああああっ!?」
「見つけた」
社長は何度も何度もそこを集中的にグリグリと擦るように指を動かす。
その度に、体の内側からゾクッと沸きあがるような快感に襲われる。
「やん…あ、だめ…! あぁっ!」
性器に直結するような快感に声を抑えられるはずもなく、僕は社長にされるがままに声を上げて腰を揺らした。
「気持ちいいんだね…葵くん」
「ふぁ、あぁ…ッ」
膝がガクガクと震える。
椅子がなければとっくに僕は倒れていただろう。
「そろそろいいかな」
社長はそう言うと僕の後孔から指を引き抜いた。
その入れ替わりに、冷たくて硬い何かが押し当てられる。
これは…。
「挿入するよ」
「ん…ッ、や、やぁああッ」
ズブッと中に入り込んでくるそれに、僕は頭を振った。
「嫌なの?」
社長はバイブを押し進める手を止め、僕に訊いてきた。
そんなこと、答えるまでもない。
嫌に決まっている。
「そうだね…初めてだものね。こんなものでされるなんて嫌だよね…」
社長の声が優しいものになったことに安堵感を覚える。
このまま、この話はなかったことになるのではないかと期待を抱く。
けれど社長がそんなことをするはずもなかった。
カチャカチャと音がする。
振り返ろうとした直後、後孔に熱いものを当てがわられた。
「ふぁっ!?」
あまりの熱さに驚き、僕は飛び跳ねてしまった。
「どうかした?」
「あ…熱い、です…!」
「…我慢してたからね。いくよ?」
先程よりも圧倒的に強い圧迫感と熱と痛み。
それらが襲い掛かってくる。
「んぅ、社長…っ」
「さすがにキツイね…」
社長の荒い息遣いが耳元で聞こえる。
初めてでバイブに貫かれることは避けれたが、その代わりに社長のもので貫かれることになってしまったことに戸惑いを覚える。
社長は僕なんかが相手でいいのだろうか…?
「痛いと思うけど、我慢してね」
「…ひっ、あああっ!?」
ズンッ、と勢いよく突き入れられ、僕はあまりの激痛に涙を流した。
「いぁ、痛い…ッ! いつぅ…っ」
「力を抜いて」
社長は僕の性器に手を伸ばすと、扱き始めた。
激痛と共に襲ってくるとろけそうな快感に、気が狂いそうだった。
僕は肘掛に強くしがみ付き、その感覚に耐える。
「はぁ…全部入ったよ、葵くん」
「んぁ…は、はぁっ」
社長は僕の息が整うのを待ち、それからゆっくりと引き抜いた。
たまらない排泄感と痛みに、思わず目を閉じる。
「痛い?」
「あ…へ、いきです…っ」
「そう。なら、動くからね…」
社長はぎりぎりまで引き抜いた自身で、腰を進めて僕の最奥を突いた。
途端にゾクッとするような快感に襲われ、僕は痛みとは違う感覚に声を上げた。
強烈な痛みの中に混じる、甘く痺れるようなこの快感。
それらに涙を流しながら、僕は無意識に腰を揺らす。
「あぁん! っぁ、はぁ…ッ」
社長は僕の性器を扱きながら、一番感じる場所を何度もクイックイッと突く。
打ち付けられる度に意識が吹き飛びそうになり、自身が痛いくらいに張り詰めていく。
「あああぁ、も、僕…っ」
「そろそろ限界、かな…」
社長はそう呟くと、一層強く、最奥を穿つように突いた。
「あぁ―――ッ!!」
頭の中に白い光が弾け、僕は床に勢いよく快感の証を放った。