4. 義務と意思の狭間にて


「ん…?」

目を開けると、見慣れない天井が目に入った。
ゆっくりと起き上がると、ベッドの上にいるのだと分かった。
部屋を見回す。
あるものは机と椅子とベッドに本棚とタンスだけで、あとは何もない質素な部屋だった。
けれど過ごしやすそうな部屋であるのは確かだ。

「あ、起きたんだ?」

ドアから社長がひょっこりと顔を出した。
それで、ここが社長の家なのだと悟った。

「あの、僕…」
「あれから気絶しちゃったんだよ。あのまま君を社長室で寝かしておくわけにはいかないから、僕の家に連れてきたんだ」
「…すみません。あの、仕事は?」
「時間見てみたら?」

社長はそう言って壁時計を指した。
言われた通りに時刻を確かめる。
十時半…会社はもうとっくに終了している時刻だった。

「会社はもう終わっているから、仕事の方は安心していいよ。あ…ご飯作ったんだけど、食べるかな?」
「作ってくださったのですか? あの…ありがとうございます」
「いえいえ。もとはといえば、僕が悪いんだしね。さ、おいでよ」

社長は微笑むと部屋を出て行った。
その後を追って、僕も部屋を出た。






「今日はありがとうね。無理なお願いしちゃって」

社長は僕を真っ直ぐに見つめながら言った。
僕はそんな社長に、首をゆるゆると横に振ってみせた。

「気になさらないで下さい。僕の体が少しでもお役に立てたのなら…」
「性能は十分すぎるほど確かめれたよ。協力感謝する。ありがとう」

改めてそう言われ、ドキッとした。

「さぁっ、冷めないうちに料理食べて?」
「はい」

僕は頷くと、社長の用意してくれた料理を食べ始めた。
社長は僕の顔をじっと見つめていたが、しばらくするとテレビを付けた。
僕から視線が外されたことにホッとする。
見つめられていると社長室での出来事を思い出してしまうのだ。
意識した途端に火照り始めた体を冷ますように、僕は冷たいウーロン茶を飲んだ。
社長とあんなことをするだなんて思ってもみなかった。
淫らなところを見られてしまったのだと思うと、この上なく恥ずかしい。
けれど仕事なのだから、これも割り切らなければならないのだろう。
社長のテレビを見つめる横顔を眺める。
綺麗な横顔だと思う。
ずっと見つめていると注がれている視線に気がついたのか、社長がこちらを向いた。
ばっちり合ってしまった目に驚いて、さっと逸らす。

「何か用かな?」
「なんでもありません」


動揺を気づかれまいと、僕は極めて冷静に言った。




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