6. 義務と意思の狭間にて
社長室に再びお呼びがかかった。
もしかして…また?
あの日、社長室で行われた情事を思い出す。
それだけで体が熱帯びていくのが分かる。
緊張しているのか、震える手でドアノブに触れた。
やけに冷たく感じるのは僕の手が熱を持っているからなのか。
僕はゆっくりと社長室へのドアを開けた。
「やぁ、葵くん」
窓を見ていた社長は僕へと振り返った。
向けられた視線に鼓動が早まる。
「今回、また新しく製品を作ることになったんだ。…協力、してもらえるかな」
社長の声に、視線に、体が疼くのが分かった。
この疼きをどうにかしたい。
その一心で、僕は頷いた。
ビシィッ、と乾いた音が広い社長室に響く。
続けざまに振り下ろされる鞭に、すでに数本のミミズ腫れがある尻がビクンッと揺れる。
あまりの痛みに尻の皮が破れたのではないのかと錯覚しそうになる。
「ああ、いやあぁ…っ」
ソファーの背もたれにしがみつきながら、僕は痛みに涙を流した。
再び、乾いた音と共に激痛が尻に走る。
「っ、も…許してぇッ」
わけもなく社長に許しを請う。
やめてほしかった。
それでも鞭の音が止むことはない。
「ひっ、ふあぁッ!!」
しゃっくりを上げて泣き出すと、さすがに社長も鞭を振る腕を止めた。
「葵くん、そんなに痛かった…?」
「痛い…痛いです…っ」
痛みに慣れていない僕がこんな激痛に耐えられるはずもなく、僕はボロボロと涙を流した。
「君をこんなに泣かせるだなんて、この鞭のお仕置きの効果は抜群だね…」
社長はそう言うと床に鞭を投げ捨てた。
それから僕を引き寄せると優しく髪を撫でた。
僕は社長の首に縋るように腕をまわした。
「ごめんね、痛かったよね」
社長の手が赤く色づく尻を撫でる。
さんざん痛めつけられたそこは、少し触れられるだけで激痛を走らせる。
「あ…ふぅ…ッ」
「ごめんね、葵くん」
社長は何度も耳元で謝り、僕が泣き止んで落ち着くまでずっと頭を撫で続けてくれた。
落ち着きを取り戻した僕は、社長の首にまわしていた腕を放した。
「…すみません、社長」
「いや、いいんだ。急にSM商品を君に試す僕が悪いんだから。でも、もう落ち着いたよね…?」
僕は社長の言葉にコクリと頷いた。
社長は安心したように微笑むと立ち上がり、僕から離れた。
「社長…?」
「ちょっと待ってね…」
引き出しを開けて取り出される、手錠と足枷。
僕はそれらを見て息を呑んだ。
社長はいつも通りの笑顔を浮かべながら僕へと近づいてきた。
もちろん、手には拘束具が握られている。
「あの、社長…っ」
戸惑う僕を他所に、社長は拘束具を僕の手足に取り付けていく。
手は背中の後で枷を付けられ、足枷は足を開いた状態ではめられ、痛みによって萎縮していた下半身が丸見えになる。
「可愛い…縮こまってる」
社長は笑うと、そっと僕のそこに手を触れさせた。
「んぅっ!」
社長の大きな手で包み込まれると、萎縮していた下半身は僕の意思に関係なく勃ち始める。
それに気がついて顔を赤くした僕を見て、社長はますます嬉しそうに笑った。
表情はどこまでも優しく楽しそうだというのに、社長の指は的確に感じるポイントを刺激してくる。
「あ、ふぁ…っ!」
先端を強く摘まれれば、全身に痺れるような快感が波となって伝わる。
社長はしばらく僕の性器を弄ったかと思うと、不意に手を止めた。
「…?」
快感にぼーっとする頭で社長を見つめる。
社長は胸ポケットから黒い布を取り出した。
「それ、は…?」
「目隠し、だよ」
社長は優しげに微笑んで言った。
―――目隠し。
唾を飲みこむと、ごくりと喉元が鳴るのが分かった。
「手枷に足枷、鞭ときたらやっぱりこれでしょう?」
「せ、セットなんですか…?」
「そうだよ」
社長はそう言うと、僕の瞼に布を宛がった。
それから頭の後ろで結ばれる。
途端に訪れる、闇。
怖い。
次に何をされるのかが分からない。
もしかして、また鞭で叩かれたりするのだろうか…。
不安に思っていると、社長は僕の頬に手を添えた。
「安心して。鞭で叩いたりだとか、痛いことはしないから」
そう言って社長は僕を再び優しく抱きしめた。
闇に閉ざされた世界で唯一感じることが出来るのは、社長の体温のみだ。
けれどそれは温かくて心地よかった。
「気持ちよくしてあげるから」
不意に、胸の先端が生暖かい空気に包まれた。
それからキツク吸い上げられるような感覚に僕は声を上げた。
「あ、ぅん!」
胸の突起を指先でこねくりまわされ、息が上がってくるのが分かる。
「抵抗していいからね。今回はHしてるときに抵抗されても枷が外れないかを調べるんだから」
そうは言うものの、枷を付けられたこの状態でろくな抵抗など出来るはずもなかった。
社長は僕の体をゆっくりと愛撫していく。
胸からお腹、横腹、太ももへと下げられていく手のひら。
なかなか思うところに触れてくれないことが焦れったくて、僕は知らず知らず腰を揺らめかした。
「社長…っ」
「どこ、触って欲しい…?」
「っ……」
そんなことが言えるわけがなく、黙り込んでいると社長は後孔を指先で突付いてきた。
「はぁん!?」
入り口付近をふにふにと刺激さて、もの欲しそうにひくひくと縮小するのを感じる。
「言ったらもっと気持ちよくしてあげるよ?」
その言葉に、言うまいとしていた意思が揺らいだ。
もっと、気持ちよくしてもらえる。
僕は…もっともっと、気持ちよくなりたい。
「っ……欲しい、です」
恥ずかしさを我慢して言うと、社長がくすりと笑うのが分かった。
「何を?」
当然のように聞き返してくる社長を恨めしげに思いながらも、僕は何が欲しいのか言うことにした。
「……社長が、欲しいです」
そう言った直後、熱いものが中に挿ってきた。
「んぁあああッ!!」
ゆっくりと社長が腰を動かし始める。
社長はぎりぎりまで抜いてはぐぃっと突き込み、押し入っては勢いよく抜く、そんな抽挿を繰り返す。
内壁の一部分に社長の熱いものが触れるたびに、僕は甘い声を上げた。
与えられる刺激が強烈で、思わず顎を突き上げ首筋に力が入る。
「ふぁああ、ああんっ」
社長にしがみつきたくなったが、手枷をされている今はそれが出来ない。
甘い刺激を絶え間なく与えられ、開かれた唇の端から唾液が顎へと伝っていくのが分かる。
「あうん、しゃちょぉ…ッ」
「すごい…締め付けだね。前回よりも感度が上がってるみたいだ…」
奥が何度も痙攣し、締め付ける。
それによって中にある社長の存在をより深く感じるはめとなった。
腰を動かすたびにぐちゅぐちゅと卑猥な音が鳴り響く。
「あっ…も…だめ…っ……イっちゃ…」
「一緒に、イこう…っ」
社長が最奥を叩きつけるように突いた。
「んぁ、ぁああああッ!!」
頭の中が、白く白く染まっていく。
僕は社長が中で一層大きくなったのを感じながら、力なくソファーへと倒れこんだ。