6. 今の俺も、お前が好きだ・・!
本当に、春姫は呆れるくらい馬鹿だった。
記憶を失くしていても、愛せるのかだって?
「……当たり前だろ」
そんな当然のことを質問してくるなんて、腹立たしいにも程がある。
俺は春姫の体をぎゅっと強く抱きしめた。
確かに、俺のことが忘れられているのだと知ったときはひどく衝撃を受けたさ。
今まで二人で築いてきたものが、全てなかったことにされていたのだから。
でも、それでも……今、俺は腕の中にいる春姫を愛しいと思える。
たとえ記憶がなかったとしても、春姫の反応はそれほど変わったものではなかったし、何より、俺に向けてくる視線や微笑が、変わらず温かいものだったから。
思い出を共有出来ていなくっても、俺の大好きな春姫のままだったから。
そりゃ、寂しくないといえば嘘になるけど。
それでも、俺にとって大事なのは傍に春姫がいて微笑みかけてくれることであって。
思い出がなかったことになってしまったのなら、また、作ればいいのだし。
だから、一緒に過ごすことで少しずつ心の距離を縮めていって。
記憶を失う前以上に、愛し合っていきたい。
そんな想いが春姫に伝わっていなかったのだと思うと、何だか悔しい。
どうしたら、この馬鹿な恋人に分かってやらせることが出来るのだろうか。
俺は胸中で短く息を吐くと、春姫と唇を重ね合わせた。
いつも以上に、深く、濃厚なキスをしてやる。
春姫の体が、俺が舌を動かすたびにぴくんと震えるのが分かった。
「……か、やまさん……?」
「俺は、記憶を失う前のお前も、今のお前も、全部ひっくるめて……春姫が好きだ」
「……本当に?」
「当然だろ。嘘ついてどうする」
俺は春姫の首筋にキスを落としながら、彼の太ももを優しく撫でた。
「か、栢山さん……っ!?」
驚いたように春姫は目を見開いた。
そんな春姫を見ながら、彼自身を掌で包み込む。
「ぁっ、ん……!?」
もう一度、抱かせてほしかった。
春姫には俺の想いが、さっきのセックスじゃ伝わらなかったみたいだから。
今度こそ、分からせてやる。
どれだけ俺が春姫のことを愛しているのかを。
ゆっくりと手を上下に動かすと、春姫は身じろいで熱っぽい吐息を唇から漏らした。
手の中で、春姫自身が次第に熱帯び、形を変えていく。
「……栢山さん、俺……」
「言っとくけど!」
俺は春姫の声を遮るように言った。
春姫は驚いたように口をつぐんで、俺の顔を見つめてきた。
頬は赤く、肩で息をしている。
俺はそんな春姫の頬を指でそっと撫でた。
「今からは、俺との記憶を思い出させるために抱くんじゃない。今のお前が大切だから、抱くんだ。それを間違えるなよ」
春姫は小さく息を呑んだかと思うと、抱きついてきた。
胸の中に飛び込んできた小さな体を抱きしめ返すと、彼は幸せそうに微笑んだ。
俺のことを何よりも安心させてくれる、大切な微笑みだ。
「春姫……好きだよ」
さっきこの言葉を言ったときは辛そうに顔を曇らせた春姫だったけれど、今度は、ニッコリと笑い返してくれた。
「今の俺も、お前が好きだ……!」