2. ずるい質問
パタパタと音を立てながら廊下を走る。
手には勉強道具が入った鞄を抱えているが、もうこれには本来の意味はない。
ただのカモフラージュだ。
だって、あれ以来僕と先生が自習室で勉強をすることはなくなったから。
することと言えば、もちろん……。
「せーんせっ」
扉を開けてひょっこりを顔を出すと、女子生徒が先生に勉強を教えてもらっていた。
仕方がないことなのだろうけど、自分以外が先生の傍にいると本当に嫌な気持ちになる。
他の人間がいる限り、僕の相手を先生がしてくれることはないだろう。
出来るわけがないんだ。
立ち去ろうかと思ったときだった。
先生の目が、こちらへと向けられたのだ。
「……すみません。これからやらなければならない仕事があるんです」
「あっ、わかりました。それじゃあ、水野先生。また明日」
女子生徒は先生の言葉に残念そうに、けれど笑顔を見せると自習室を出た。
彼女が出て行ってから入っていいものか悩んでいると、先生が扉から顔を出した。
「何をしている?」
「仕事、残ってるんですか……?」
「そんなもの、嘘に決まっているだろう。早く入れ」
「……! はいっ」
僕のために追い払ってくれたんだ。
そう考えると嬉しくって、僕はニコニコと微笑みながら室内に入った。
「んっ、ぁ……」
もう慣れてしまった行為だけれど、こうして他人の熱が入ってくるときにはやっぱり身体が強張ってしまう。
僕は先生の背中に腕をまわすと、ぎゅっと抱きついた。
「先生のは、いつも思うけど……熱いね」
「それはお前の中もだろう?」
僅かに目を細めた先生は、僕のことを突き上げてきた。
中を擦られる快感に声を上げながら、先生にキスを求める。
するとすぐに先生は唇を寄せてくれた。
それが嬉しくって、何度もねだるように唇を合わせた。
脳まで蕩けてしまいそうな程の甘い口付けに、快楽の度合いが高まっていく。
「ふぁっ……あ、ぁ……っ!」
声を聞かれるのは恥ずかしいけれど、先生は僕の声を聞きたがるから、無理に抑えようとはしない。
「湊……」
「あっ、ひあぁ……いいよぉっ、せんせ……ふぇ……っ!!」
背中が机に擦れるが、それが気にならないほどに気持ちいい。
動くたびに聞こえてくる湿音は鼓膜を通して甘くなる。
身体に与えられる刺激はすべて快楽へと摩り替わり、互いの腰の動きが早くなる。
それで、限界が近いことを知る。
「せんせっ、せんせぇ……あっ……ああああっ!」
「……っ」
先生の突き上げに、僕は思い切り仰け反った。
僕と先生の間に精が放たれ、腹部に生温かい滑りを感じる。
そして、最奥を満たす愛しい人の熱も。
「はぁっ、はぁ……せんせぇ、頭痛いよぉ」
「頭…?」
怪訝そうに目を向けられる。
仰け反った際に、後頭部を思い切り机にぶつけてしまったのだ。
「いつも思うんです……けどぉっ……あんっ、もうちょっと……いい場所、ないですかぁ?」
先生のものが引き抜かれる感覚にゾクゾクと震えながら、僕は質問をした。
机の上でするのはやっぱり痛いんだ。
出来れば保健室にあるようなベッドを使いたかった。
「そう言われてもな。本来ここは勉強する場所なんだ。都合よくヤれるわけがない」
「んぅ……」
「そんなに不満なら、もうセックスは止めるか?」
「嫌ですよっ、そんなのぉ」
むくれて頬をふくらます。
どうして先生は、そうやって意地の悪いことばかり言ってくるんだろう。
今更先生との行為を止められるはずがないのに。
もう以前とは違うんだ。
先生を求めて仕方がない。
心だけじゃなく、身体も。
帰る身支度を整えて、僕は鞄を手に扉の前に立った。
いつものように先生に「さようなら」と告げようとすると、何かを顔の前に突き出された。
ツルリとした卵型のソレに、僕は首を傾げた。
すると先生は、ソレを僕の唇に押し当ててきた。
「……え? やっ、なに……これぇ」
唇に触れる得体の知れないものに、嫌悪感を露に顔を逸らす。
先生はそんな僕を見ながら、小さく口元に笑みを浮かべた。
相変わらずゾクッとするような、そんな笑み。
「ローターだ。明日は一日、これを入れたまま授業を受けるように」
何を言われたのか分からなくて呆然とする。
いや、脳がただ理解することを拒んでいるのかもしれない。
僕は数度瞬きをすると、ローターを見た。
これを入れたまま授業を受ける……?
冗談じゃない、そう思った。
けれどそれはきっと、すっごく……気持ちいいんだろう。
「遠隔操作で動かしたり出来る品物だからな。愉しめると思うぞ」
授業中。
みんなが真剣に問題を解いてるときに、後ろをローターで先生に弄られる…。
考えるだけで、身体中が熱くなる。
「まさか、逆らうわけではあるまい?」
「……どうしても……入れないと、駄目ですか?」
「当然だ」
頷く先生からローターを受け取り、鞄の中にしまいこむ。
「放課後になったら、俺が取ってやる」
「っ……はい」
そのときのことを考えると、じわりと下着に蜜が染み込んだのがわかった。
身体がどんどん、いやらしくなっていく。
それも先生のせいで。
そう考えるとますますエッチな気分になってしまって、僕は俯きがちに、家に帰るために歩き出した。
「待て」
「え……?」
先生の声に振り帰ると、ぐいっと胸倉を掴まれて、背伸びをさせられた。
突然のことに戸惑っていると、先生の顔が近づいてきた。
「せん……んっ、ふ……っ」
そのまま深く口付けをされて、僕は先生の服にしがみついた。
先生とのキスは毎回のことながら腰砕けになりそうなほどに濃厚で、こうでもしていないと倒れてしまいかねなかったんだ。
「はぁっ……せん、せぇ……?」
「ローターを入れたまま我慢することが出来たら、ご褒美としてもっと熱くさせてやる……」
「ぁ……はぁい……っ」
ご褒美という甘美な響きに、僕は頷くとニッコリと微笑んだ。
もっともっと、先生に気持ちよくしてもらえるんだ……。
鼓動がとくんとくんと高鳴っていて、僕はすごく幸せな気持ちになっていた。