4. そんな顔しないで
「今日はね、ハンバーグ作ってきたんだよ。藤堂くん、好きだよね? この前美味しそうに食べてた」
「そうか……?」
確かにハンバーグは美味しいから好きだ。
けれどこうやって改めて言われると、どこか恥ずかしさがある。
だってなんか、子供っぽくないか……?
神妙な表情のまま、伊織の作ってきてくれた弁当の具を食べる。
伊織が作ってくれるものはバランスがとれていて、なにより味付けが好みだった。
「いいお嫁さんになれそうだな」
「えへへ。藤堂くんに似合うような人になれたら嬉しいな」
皮肉を込めていったのだが、どうやら伊織には効かないらしい。
俺だったらそんなこと言われたら絶対怒るんだが……本当に、よく分からないやつだ。
ただひとつ分かるのは、こいつが本気で俺のことを好きだということ。
俺の言葉ひとつで一喜一憂するのが、日に日に強く感じられるようになっていた。
俺のどこがいいのかが、全く不明だ。
「そういえば僕……藤堂くんの家族こと、あんまり知らないんだよね。兄弟とか、いるの?」
「ああ。弟が一人。……両親はいない」
「え……」
伊織の瞳が揺らぐのが分かった。
親がいないと聞くと、大抵の奴はこういう反応をする。
この話題に触れたことを後悔し、申し訳なさそうな顔をするんだ。
そして、謝ってくる。
ムカツク。
別に両親がいないことを、俺は悲しく思ったりなんてしてないのに。
「じゃあ、弟さんが大切なんだね」
予想外の言葉に、俺は伊織の顔を凝視した。
伊織はそんな俺を不思議そうに見返してくる。
屈託のないその表情は、俺が孤児であることを特に気にしたりしていないようだった。
「……ああ。大事、だよ。すごく」
「そっか。実は僕はね、弟がほしかったんだ。本当は生まれてくるはずだったんだけど……死産しちゃってさ」
「そう、だったのか」
「うん。だから羨ましいな、兄弟がいるのって」
寂しそうに微笑む伊織の頭を撫でてやる。
伊織は俺の行動にビックリしたらしく、目を瞬かせた。
俺だって自分の行動に驚いていた。
だって同い年の男子生徒だぞ?
こんな風に頭を撫でたい、だなんて思うことは普通ないだろ。
でも俺は、伊織が寂しそうに笑っていることがどうしても我慢出来なかったんだ。
伊織は気恥ずかしそうに微笑んで、頬を赤らめた。
温かい笑顔だと、そう思った。
こうやって一緒にいればいるほど、コイツを傷つけたいと願う桐原の気持ちが理解出来なくなる。
恨まれるようなことをする人間じゃないだろ、伊織は。
「藤堂くん。そろそろ……手、離してくれないかなぁ」
「あっ、わ……悪い」
慌てて手を引くと、伊織はどこか名残惜しそうな顔を見せた。
そんな顔をしないで欲しいと思う。
そんな顔をされたら、もっと…もっと、撫でてやりたいって思ってしまうじゃないか。