6. 変わらない眼差し


夏休みの後半。
進藤は親戚の家へと家族で行ってしまい、水瀬と接する機会は何もなかった。
そのことを互いが残念がっていることに気づかないうちに、長期休暇が終わって学校へと登校することになった。
夏休みを終えた進藤は、親戚の家で夏の日差しに焼けたのか、健康的な褐色の肌になっていた。
といっても濃く色づいているわけではない。
程よく焼けた進藤はよりいっそう身体が引き締まって見え、逞しく感じられた。
もともと体格が良く整った顔立ちをしている進藤のいつもとは違う雰囲気に、学校の生徒は思わず頬を朱に染めてしまうほどだった。
そしてその反応をする者には、女子だけでなく男子も含まれていた。






「おはよぅ……」

水瀬は登校して教室に入ると、若干緊張気味の上ずった声で進藤に挨拶をした。
振り返った進藤の、いつも以上に逞しさを感じる立ち姿に水瀬は息を呑んだ。
それから、ほぅ……っと熱っぽい吐息をついた。

「な、何だか……雰囲気変わった、ね……」
「そうかぁ? まあ、焼けたからな。……ああ、だからさっきからみんなしてチラチラと見てくんのか」

進藤は向けられている視線に少しだけ顔を顰めた。
そんな進藤にくすりと笑みを零して、水瀬は進藤の瞳を見つめた。
進藤へと周囲が向ける視線に嫉妬しなかったわけではないのだけれど、それでも水瀬は笑顔を浮かべていた。
久しぶりに出会う進藤に、喜びを感じないはずがないのだ。
そしてそれは進藤も同じだった。
久しぶりに見る水瀬……受験生といえど薄っすらとでも周りの生徒が日焼けしているにも関わらず、白く滑らかな肌を保っているその姿に胸を高鳴らせないはずもなかった。
進藤はクラスメイトの視線から逃れるように、水瀬の手を引いて廊下へと出た。

「な、水瀬。冬休みにさ、温泉旅行に行かないか?」
「え……」

思ってもいない進藤の誘いに、水瀬は目を瞬かせた。

「えぇっと、でも……勉強……」
「やっぱり、無理か?」

顔を曇らせる進藤。
高校生活を終えれば水瀬と進藤がともに過ごす時間は本当に少なくなる。
だからその前に出来るだけ思い出を作っておきたい、というのが進藤の切実な願いだった。
もちろんそれは水瀬にもあてはまることではあった。
自分の想いを告げたとき、進藤は自分から離れていくのだろうという考えがあったからだ。
けれども、やはり大学受験に向けて勉強をしないわけにはいかない。
水瀬は困ったように眉尻を下げた。

「そりゃ無理、だよな。……悪いな、水瀬」

胸中でため息をついて、けれども進藤は落胆を隠すように笑って見せた。
そのまま立ち去ろうとする進藤の制服の裾を思わず水瀬は掴んで引き止めていた。
振り返った進藤に、しどろもどろになりつつも水瀬は言った。

「あ……えっと、旅行先でも勉強は、出来る……よね?」
「え、そりゃ……道具さえあればな」
「……なら、親に聞いてみるね。それでOKがでたのなら行くことにする」
「無理する必要ねぇんだぞ?」
「うん、分かってる。でも、僕も進藤と旅行に行きたいもん……。それに、進藤に勉強を教えてもらえるよね……?」

願わくば物理の指導をしてもらいたい水瀬は、進藤に乞うような視線を向けた。
そんな水瀬の頭を乱暴に進藤は撫でてやる。

「もちろん、OKだぜ。物理は得意だからな、任せとけ!」
「……うんっ」



水瀬は乱れてしまった髪の毛を手で直しながら、心底嬉しそうに微笑んだ。




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