16. 恋心至上命令


馬鹿じゃないのか、と一蹴出来たのならどれほど良かっただろう。
口をパクパクさせながら須永の浴衣を引っ張ると、言いたいことが伝わったのだろう、彼は若干目を細めた。

「照れるなよ」

全然伝わっていなかった!
軽いショック状態になった僕の首筋に、須永はチャンスとばかりに顔を埋めてくる。
髪の毛の感触と、唇の感触が、妙に生々しい。

「っ……照れて、なんていません。というかそれ以前に、貴方のこと、好きじゃありません!」
「んな顔真っ赤にしておきながら、よくそんな嘘がつけるよな。まあ、身体に訊くから関係ねぇけど」
「な……!?」

目を見開く僕を満足そうに見ながら、須永は僕の浴衣を肌蹴させた。
ひんやりとした外気に晒され、素肌に鳥肌が立つ。
それなのにどうしようもなく身体が熱く感じられるのは、須永が欲望に濡れた瞳で僕を見てくるからだろう。

「どっ……して、こんな……?」

骨ばった、それでいてしなやかな手に太ももを愛撫され、漏れそうになる声を必死に噛み殺す。
須永は僕の質問に答えることなく、鎖骨に噛みついてきた。
チクリとした痛みに眉を寄せるが、すぐに舌で優しく舐められて、甘い痺れが身体に広がっていく。

「っ……待って下さい」
「止めろ、じゃねぇんだ?」

揶揄するような口調に、カッと頬に血が上った。
同じ制止の言葉のはずなのに、『待て』と『止めろ』では含まれている意味が大分違うように感じられたからだ。
これでは本当に、彼の言う通り僕が嫌がっていないみたいではないか。

「っ、の……!」
「お? 何だよ、今更抵抗か?」

胸板を両手で押し返すと、須永が愉しそうに目を細める。
彼の下で足掻けば足掻くほど、ヤル気を増幅させてしまっているような気がしてならない。

「俺、泉のそういうところ……気に入ってるぜ」
「そんなこと言ったって、ダメなんですから! これ以上この行為を続けることは、許しませんよっ」

甘い声での囁きに揺らいだ気持ちを何とか強く持ち直すと、僕は須永の髪を引っ掴んだ。
強めに引っ張ったはずなのに、須永は表情一つ変えずに、僕の鎖骨から胸へと舌を這わせていく。

「すっ、な……がさ……!」
「別に俺は許可なんて要らねぇよ。直に、お前の方から求めてくるだろうしな」
「そんなことあるわけ……っ、んぅ……!」

夜気のせいなのか尖っていた胸の飾りに舌が絡められ、堪らず声を上げてしまう。
それに気を良くしたのか、須永は執拗にそこを攻め立ててきた。
舐られ、噛まれ、吸い上げられ、自分の息がどんどん荒くなっていくのが分かる。

「っ、はぁ……なん……ぁっ」
「ここ、攻められるの好きなのか?」
「っ……ぁ、やぁ……」

唾液でぬるぬるになったそこを、指先できゅんと摘まれ、離される。
じれったい刺激に身を捩ると腕に草が当たり、ここが外だということを思い出した。
人気がないとは言え、こんな所で、一体何をしているのか。
信じられない思いで一杯になるのに、同時に身体の熱が上昇していく。

「っ……こん、な……!」

異常な状況なのに。
それに、興奮してしまう自分がいる。
きっとそれは、須永にも伝わってしまっているはずだ。

「前にしたときよりも、感度、上がってんじゃねぇの?」
「しらなっ……い、です」
「だったら、分かるまで教えてやるよ。それにもう、ココ、辛いんだろ?」

下着越しにあそこを握られて、ビクリと身体が跳ねる。
須永の言う通り、熱を持って膨らんでいるそれは、触られることを待ち望んでいた。
無意識のうちに、須永の手に押し付けるように腰を浮かせてしまう。

「ちゃんと気持ち良くしてやるから、そんなに急かすなよ。このままじゃ下着、濡れちまうだろ?」
「はっ……ぁ、ん……」

焦らすように、下着がゆっくりと脚から引き抜かれていく。
肌に布が擦れるその感覚さえも、今は苦しい程に気持ちが良かった。
須永は剥ぎ取った僕の下着を草の上に放ると、いきなり太ももを掴み、開脚させてきた。

「ちょっ、や…いやぁあ!?」
「星とか、ここから見える川原とかより、よっぽど良い眺めだな」

唐突な恥ずかしすぎる出来事に思考が追いつかなくて一杯一杯な僕に須永は笑いかけると、あろうことかそこに顔を埋めてきた。
指で敏感な先端を突付かれ、舌で根元からねっとりと舐め上げられる。
こんなことをされるとは思ってもみなかった僕は、気が遠くなりそうな快楽に涙を滲ませた。

「あっ……っあぁっ、はぁっ」
「泉……」

熱っぽい囁きが耳に届いた、その直後だった。
須永の舌が、もっと奥の秘められた箇所に伸ばされたのは。

「っ、ぁあ!? そこ、は……っ」
「ん……ちゃんと、解してやるからな」

からかうように、舌先で入り口の周りを突付かれた。
須永を受け入れたことのあるそこは、再び深く貫かれることを期待して、ひくんと反応を示す。

「いやらしい身体になったもんだな? 本当、俺好みだぜ」
「んぅっ、ぁ! やっ…あ、ああっ」

縮小を繰り返すそこに、須永が指を挿入してきた。
待ち望んでいた内部への刺激に、意識が飛んでしまいそうになる。
蠢く指はまるで中に生き物が入っているかのようで、ゆるく開かれた僕の唇から唾液が零れ落ちた。

「ふ、ぁあ……ひっ、あっ、あ……!」
「指に吸い付いてくるぜ。ここよりも、もっと奥、疼くんじゃねぇか? 俺が欲しいなら、素直にそう口に出してみろよ」
「や、だぁっ……」

口で否定をするものの、身体がどうしようもない程に須永を求めているのは事実だった。
あまりの切なさに、息が詰まる。
もっともっと、触れて欲しい。
この前のように、有無を言わさぬ強さで押さえつけられ、犯されたい。

「んっ……須永、さん……」
「そんな風にもの欲しそうな顔されるとな……。本当なら、いつまで持つのか見てたいところなんだが」

涙に霞む視界の中で、須永が小さく苦笑した。
ぬるりと指が引き抜かれ、その代りに、熱を持ったものが秘孔に触れる。
それが何なのか認識する前に、一息に奥まで突き入れられた。

「ぁっ、ああっ…あ……っ!?」
「おっと、危ねぇな」

衝撃に熱を溢れさせようとする僕の根元を、須永はぎゅっと押さえ込んだ。
射精を塞き止められたことに、声にならない声を上げてしまう。
睨みつけると、須永は唇を軽く尖らせた。

「んな早くイかれちまったら、俺が楽しめねぇだろうが」
「そっ、な……んっ、んぁあ!」

腰を揺すり立てられ、須永への文句が喘ぎ声に変換させられる。
慌てて口元を手で覆うと、調子に乗ったらしい彼がぐっと奥を穿ってきた。
内壁を擦り上げられて射精が促されるのに、僕のあそこは指に締め付けられたままだ。

「っ…ぁんっ、ぁ……っ、須永さぁん……!」
「可愛い声で名前、呼んでくれるじゃねぇか。こいつはご期待にお応えしないわけにはいかねぇよな?」
「はっ……うぅ、っ……!」

暴力的なまでの突き上げに、頭と身体がどんどん白熱していく。
須永の腹部と擦れあう反り返った僕自身からは、透明な先走りが迸っていた。
縋るように須永の背中に腕をまわしたが、彼は決して僕のもの押さえている指の力を緩めてはくれない。

「やぁっ……もっ…」
「イかせて欲しいか? だったら、俺に請えよ」

ふるふると力なく顔を横に振る。
いくらなんでも、そこまで落ちぶれてはいない。
例え、彼の腰に脚を絡め、快楽を貪るために自ら腰を振っていたのだとしても。

「本当、強情だな? とっくに身体は俺に支配されてるってのに。まあ、俺はこの方が愉しいからいいけどよ」

須永は言葉通り嬉しそうに笑うと、顔を近づけてきた。
通った鼻筋だとか、汗ばんで湿った髪だとか、そこから覗く熱っぽい瞳だとか。
視界全てが須永で埋め尽くされるのに、聖さんにキスされかかったときのような嫌悪感はない。

「泉。嫌なら、俺も突き飛ばせよな……?」
「わ、分かって……ます……」

それなのに動くことが出来ない辺り、僕はきっとどうかしている。
至近距離にある須永の顔に鼓動を高鳴らせていると、辺りがぱっと明るく照らされた。
遅れて、撃たれたような凄まじい音が胸に響き渡ってくる。

「え……?」
「あ、嘘。マジかよ……っ」

澄んだ夜空には、色鮮やかな花火がキラキラと輝いていた。
次々と打ち上げられていく様子を呆気にとられて眺めていた僕と須永は、ふと視線を合わて、噴出してしまう。
このタイミングでこれはないだろう。

「ちぇっ、雰囲気ぶち壊し。まあ、気にしてもしょうがないな。動くぞ」
「えっ、あっ……やぁん!」

すっかり気の抜けていた僕は、須永に穿たれて背を仰け反らせた。

「ふ、不意打ちです……っ」
「いつまでも俺じゃなくて花火なんて見てるからだ」
「ぁっ、あ……!」

再開された突き上げに怯む僕の頬に、須永は口付けをしてきた。
額や瞼、鼻先、顔のいたる所にキスをされた後、愛おしむように唇を重ねられる。
ただでさえ達しそうだったのにそんなことをされては、堪ったものではない。
限界だ。身体も、心も。

「はっ、ん…ぁっ、も……おねがっ……」
「何が、お願いなんだ?」
「っ……ぁ、うっ…。い、かせて……」

小さな、蚊の鳴くような声だったと思う。
けれど聞き逃すことのなかった須永は、ふっと微笑み、僕を戒めていた指を離した。

「やっと素直になったな」
「やぁあ……っ!?」

追い詰められていた僕は亀頭を強く擦られたことで容易く絶頂を迎え、数度に渡ってそこから精液を吐き出した。
なかなか止まらないそれは、僕たちの身体と浴衣を汚していく。
途方もない脱力感にぐったりしていると、下から突き上げられてしまった。

「あぁっ…須永さ……っ」
「勝手に休むんじゃねぇよ。俺はまだ終わってねぇんだぞ?」
「やっ、そ……あぁん!」

確かに中にある須永のものは、まだ硬度を保ったままだ。
だからと言って、こうも息つく間もなく攻めなくたっていいではないか――そんな文句を口にしたところで、無意味なのだろうけれど。
僕は達したばかりで敏感になっている肌に舌を這わしてくる須永を見ながら、熱の篭った息を吐き出した。




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